動悸(どうき)の多くは心配いらない — 知っておきたい基礎知識
概要
動悸とは、自分の心臓の鼓動が「ドキドキする」「脈が飛ぶ」「脈が速い」などと、普段は意識しない心臓の動きをはっきり感じることをいいます。心臓は1日に約10万回も脈打っていますが、ふだんはその音や動きを感じることはありません。走った後や緊張したとき、熱があるときなどに鼓動を感じるのは自然な反応です。動悸の多くは、心臓そのものの病気ではなく、体や心の状態の変化によって起こる、こわくない症状です。ただし、なかには治療が必要な不整脈(脈の乱れ)や心臓・甲状腺の病気が隠れていることもあるため、気になるときは早めに相談することが大切です。
重要な事実
- 動悸はとてもよくある症状で、健康な人にもふつうに起こります。
- 多くはストレス、睡眠不足、カフェイン、脱水、貧血などが原因で、命に関わるものではありません。
- 胸の痛み、息苦しさ、意識が遠のくといった症状が一緒にあるときは、すぐに救急車を呼んでください。
動悸は外来でよく相談される症状のひとつで、特別なものではありません。健康な人でも、階段を上ったとき、コーヒーを飲みすぎたとき、緊張する場面、寝る前に横になったときなどに感じることがあります。一度や二度の軽い動悸で、すぐに重い病気ということはまれです。
年齢や性別を問わず、どなたにも起こります。特に、ストレスの多い時期、睡眠不足が続いているとき、カフェインやアルコールを多くとるとき、妊娠中、貧血のある方、甲状腺(首のあたりにあるホルモンの器官)の働きが活発な方によくみられます。高齢になるほど脈の乱れが起こりやすくなるため、60歳を過ぎてから初めて動悸を感じた場合は一度受診がおすすめです。
症状
- 胸の痛みや胸が締めつけられる感じが一緒にある
- 息が苦しい、呼吸ができない感じがする
- 意識が遠のく、気を失った、もう少しで倒れそうになった
- 冷や汗がひどく出て、顔色が青白い
- 脈が非常に速く、しばらく止まらず、ふらつきや吐き気がある
- ⚠動悸が数時間以上続いている、または何度も繰り返す
- ⚠動悸と一緒にめまいや軽い息切れがある
- ⚠最近、脈が飛ぶ回数が増えてきた
- ⚠足のむくみや、階段で息が上がりやすくなった
- ⚠妊娠中で動悸を感じるようになった
一般的な症状
- 胸が「ドキドキ」「ドクンドクン」と強く打つ感じがする
- 脈が速くなり、走ったわけでもないのに鼓動が続く
- 一瞬脈が飛んだ、抜けたように感じる
- のどや胸の奥で拍動を感じる
- 夜、横になったときに鼓動が強く感じられる
- 脈が不規則に乱れているように感じる
子供の症状
- 「胸がドキドキする」「心臓が変」と子どもが言うことがあります
- 小さな子どもはうまく言葉にできず、急に泣く、落ち着かない、抱っこを嫌がるなどの形で表れることがあります
- 子どもの脈はもともと速く、呼吸に合わせて速くなったり遅くなったりするのは自然なことです
- 顔色が悪い、ぐったりしている、遊びを途中でやめてしまうときは早めに受診してください
高齢者の症状
- 脈の乱れ(不整脈)が起こりやすくなるため、初めての動悸は一度受診がすすめられます
- 動悸と一緒に息切れや疲れやすさを感じることが増えます
- 足のむくみ、夜に息苦しくて目が覚めるという症状は心臓からのサインのことがあります
- 持病の薬の影響で動悸が出ることもあるため、服用中の薬は医師・薬剤師に伝えてください
原因
主な原因
- 緊張、不安、ストレス、こわい思いをしたとき
- 睡眠不足や強い疲れ
- カフェイン(コーヒー・紅茶・緑茶・エナジードリンク)、アルコール、たばこ
- 発熱、脱水、激しい運動のあと
- 貧血(血液中の酸素を運ぶ成分が少ない状態)
- 甲状腺の働きが活発になる病気
- 脈の乱れ(不整脈)— 心臓の電気の流れが一時的に乱れるもの
- 高血圧や心臓の病気、睡眠時無呼吸(いびきと息の止まりを繰り返す状態)
- 妊娠に伴う体の変化
- 服用している薬の影響が考えられることもあります(自己判断で中止せず、医師か薬剤師に相談してください)
リスク要因
- 強いストレスや心配ごとが多い生活
- 睡眠不足、不規則な生活
- コーヒーやエナジードリンクの飲みすぎ
- お酒を多く飲む、たばこを吸う
- 貧血や甲状腺の病気がある
- 高血圧、糖尿病、心臓病の家族歴がある
- いびきがひどい、日中の眠気が強い(睡眠時無呼吸が疑われる)
- 妊娠中、または更年期の時期
- 60歳以上
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛み、息苦しさ、失神(気を失うこと)がある — この場合は救急車(119番)を呼んでください
- 動悸が長く続いて止まらない、または何度も繰り返す
- めまいやふらつきを伴う動悸がある
- 顔色が悪い、冷や汗が出る
定期受診を予約すべき場合:
- 動悸を感じる回数が増えてきた
- 動悸のせいで生活や睡眠が気になる
- 脈が飛ぶ感じがときどきある
- 疲れやすい、息切れしやすいと感じるようになった
- 健康診断で心電図や血圧の異常を指摘されたことがある
診断
まず医師が、どんなときに動悸を感じるか、どれくらい続くか、他に症状はないかを聞きます(問診)。そのうえで聴診(聴診器で心臓の音を聞くこと)を行い、心電図で心臓の電気の流れを調べます。動悸は「起きているその瞬間」にしか記録できないことが多いため、必要に応じて自宅で24時間心電図を装着する検査などが行われます。多くの場合、検査では異常が見つからず「心配いらない動悸」と確認できます。異常がないとわかること自体が、安心につながります。
行われる可能性のある検査
- 問診と聴診(症状の出方、生活習慣、服用中の薬の確認)
- 安静時心電図(心臓の電気の流れを記録する検査)
- 24時間ホルター心電図(小型の機械を1日つけて、動悸が出たときの脈を記録します)
- 血液検査(貧血、甲状腺の働き、電解質などを調べます)
- 心臓超音波検査(心臓の形や動きを画像で見る検査)
- 必要に応じて、運動負荷心電図や、携帯型の心電計を使う検査
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、短時間で終わります。結果が出るまでに数日から1〜2週間かかることもあります。検査で異常が見つからないことは珍しくなく、それは「心配のいらない動悸だった」という良い知らせです。一方で、貧血や甲状腺の病気など、治療できる原因が見つかることもあり、その場合はその原因に合わせた対応をします。
治療
多くの動悸は治療を必要としません。まずは原因になっている生活習慣(睡眠不足、カフェインのとりすぎ、疲れなど)を整えることで改善することが多いです。検査で貧血や甲状腺の病気、不整脈などが見つかった場合は、その状態に合わせた対応を医師と相談して進めます。どのような場合も、自己判断で市販薬を追加したり、処方されている薬をやめたりせず、医師や薬剤師に相談してください。
自宅でのセルフケア
- 動悸を感じたら、ゆっくり息を吐く深呼吸をして、座るか横になって休む
- カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンク)を減らしてみる
- お酒を控えめにする、たばこを減らす・やめる
- 毎日同じくらいの時間に寝て、睡眠をしっかりとる
- 脱水を防ぐため、こまめに水分をとる
- 動悸があったときの状況(時間、食事、飲み物、ストレス、睡眠)をメモしておくと受診時に役立つ
- こわいと感じたときは、無理に一人で抱え込まず、家族や友人に話す
医療治療
治療は「原因に合わせる」ことが基本です。貧血や甲状腺の病気など、別の病気が原因の場合はその治療を行います。脈の乱れ(不整脈)が見つかった場合は、種類や症状の強さに応じて、様子をみる・生活を整える・医師が必要と判断した場合に薬で脈を整える、といった選択肢が検討されます。薬が必要な場合も、医師があなたの状態に合わせて判断しますので、薬の名前や量についての心配は遠慮なく医師・薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
手術が必要になるのはごく一部の方です。症状の強い不整脈で、薬での対応が難しい場合に、心臓の電気の流れを整えるカテーテル治療や、脈を保つための小さな機器を体内に埋め込む処置が検討されることがあります。多くは外来での検査・経過観察で済み、こうした処置に進むことはまれです。
この病気と共に生きる
動悸と上手につきあうコツは、「あわてないこと」と「記録すること」です。動悸が来たときは、まずゆっくり息を吐いて休み、数分で落ち着くかを見ます。落ち着いたら、そのときの状況を簡単にメモしておくと、自分の傾向がわかり、受診のときにも役立ちます。生活のリズムを整えることで、動悸を感じる回数が減る方も多くいます。
生活習慣のアドバイス
- 寝る時間と起きる時間をできるだけ一定にする
- 仕事や家事の合間に、短い休憩をこまめにとる
- カフェインやアルコールの量を見直す
- リラックスする時間を毎日少しでも作る(入浴、音楽、散歩など)
- 水分をこまめにとる
- 心配ごとは一人で抱えず、誰かに話す
食事と運動
食事は、決まった時間にバランスよくとることが基本です。コーヒーやエナジードリンク、お酒の量が多いと感じたら、少しずつ減らしてみましょう。塩分のとりすぎは血圧に影響するため、薄味を心がけるとよいです。運動は、ウォーキングなど軽めの有酸素運動を無理のない範囲で続けると、心臓にも体にも良い影響があります。ただし、運動中に動悸や息苦しさ、胸の痛みが出たときは、すぐに中止して休み、必要なら医療機関に相談してください。
精神的健康と心の健康
動悸は、不安や緊張と深い関係があります。動悸を感じると「心臓の病気かも」と不安になり、その不安がさらに鼓動を速くする、という悪循環が起こることがあります。これは珍しいことではなく、多くの方が経験します。検査で異常がないとわかると、気持ちがぐっと楽になる方も少なくありません。それでも不安が続く、眠れない、日常生活に支障があるという場合は、かかりつけ医や地域の保健相談の窓口、心の健康の専門家に相談してください。つらい気持ちを一人で抱え込む必要はありません。
予防
すべての動悸を防ぐことはできませんが、生活の工夫で減らせるものは多くあります。睡眠をしっかりとる、カフェインやアルコールを控えめにする、たばこをやめる、水分をこまめにとる、ストレスをためないようにする、といったことが役立ちます。貧血や甲状腺の病気、高血圧などが背景にある場合は、その治療を続けることも予防につながります。
検診プログラム
日本では、勤め先や自治体の健康診断(特定健診など)で血圧や血液検査、場合によっては心電図の検査が受けられます。動悸が気になるときは、この機会に相談してみましょう。高血圧や糖尿病、心臓病の家族歴がある方は、かかりつけ医に相談のうえ定期的なチェックを受けると安心です。
合併症
治療しない場合
- 多くの動悸は放っておいても問題になりませんが、心臓の病気や不整脈が隠れていた場合は、症状が進むことがあります
- 脈の乱れが続くと、息切れや疲れやすさが出ることがあります
- まれに、失神(気を失うこと)による転倒やけがの原因になることがあります
- 貧血や甲状腺の病気が気づかれずにいると、疲れやだるさが続くことがあります
長期的な見通し
動悸がある方の多くは、検査で問題が見つからず、安心して日常生活を送っています。たとえ異常が見つかっても、多くは生活の見直しや治療で症状をコントロールできます。動悸は「こわいもの」と決めつけず、自分の体の声として受けとめ、気になるときに相談する、という姿勢が大切です。あなたの不安に寄り添ってくれる医師や医療スタッフが必ずいますので、一人で抱え込まないでください。
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最終更新: 2026年10月24日
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