心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)
概要
心臓には血液の流れを一方向に保つための「弁(べん)」が4つあります。弁はドアのようなもので、開いて血液を送り出し、閉じて逆流を防いでいます。心臓弁膜症は、この弁が硬く狭くなって血液が通りにくくなる(狭窄:きょうさく)、またはきちんと閉まらず血液が逆流してしまう(閉鎖不全・逆流)状態を指します。弁の働きが悪くなると、心臓は余分に頑張らなければならず、息切れや疲れやすさなどの症状が少しずつ現れてきます。
重要な事実
- 弁の異常は「狭くなる(狭窄)」と「閉まらない(逆流)」の大きく2つのタイプがあり、どの弁かによって症状の出方が変わります。
- 初期は無症状のことが多く、健康診断の聴診で「心雑音(しんざつおん)」を指摘されて見つかることもよくあります。
- 加齢とともに増える病気で、高齢化が進む日本では患者数が増えていると考えられています。
まれな病気ではなく、特に高齢者ではよくみられます。心臓の弁が加齢によって硬く厚くなるタイプは年齢とともに増え、日本でも高齢化に伴って患者数が増えているといわれています。生まれつき弁の形に特徴がある方も一定数います。
最も多いのは高齢の方です。ほかに、生まれつき弁の形や数に特徴がある方(先天異常)、リウマチ熱という感染症の後遗症がある方、心臓の感染症(感染性心内膜炎)を経験した方、胸部への放射線治療を受けた方などで起こることがあります。高血圧や慢性腎臓病(腎臓の働きが長期間低下した状態)がある方も注意が必要です。
症状
- 突然の激しい胸の痛みや、胸を締めつけられるような強い痛み
- 意識を失う、呼びかけに反応が乏しい
- 会話ができないほど苦しい息切れ、顔色が青白い、冷や汗がでる
- ⚠安静にしていても息苦しい、横になれない
- ⚠足のむくみが急に強くなった、体重が数日で急に増えた
- ⚠強い動悸が続いて収まらない
- ⚠発熱が続く(心臓の感染症の可能性があります)
- ⚠失神した、または危うく倒れそうになった
一般的な症状
- 坂道や階段で息が切れる、以前より疲れやすい
- 動悸(どうき):心臓の鼓動が速く、または強く感じる
- 胸の圧迫感や軽い痛み
- めまい、ふらつき、立ちくらみ
- 足のすねや足首のむくみ
- 横になると息苦しくなり、枕を高くしないと眠りにくい
- 夜中に息苦しさで目が覚める
子供の症状
- 生まれつきの弁膜症では、まったく症状がないことも多いです
- 哺乳(母乳やミルクを飲むこと)が弱い、飲みながら休みたがる
- 体重が増えにくい、成長がゆっくりに感じる
- 遊ぶとすぐ息が切れる、疲れやすい
- 唇や爪の色が青っぽく見える(チアノーゼ)
- 汗を多くかく、顔色が悪い
高齢者の症状
- 「年のせい」と思いがちなだるさや息切れが、実は弁の異常によることがあります
- 食欲低下や体重減少として現れることがあります
- 歩いているときの息切れ、買い物などの外出がおっくうになる
- 一瞬意識が遠のく、転倒する(失神)
- 足のむくみ、夜間の頻尿、横になると苦しい
原因
主な原因
- 加齢による変化:弁が厚く硬くなり、石灰化(カルシウムが沈着すること)して狭くなる
- 生まれつきの弁の形の特徴(大動脈弁が2枚しかない「二尖弁」など)
- リウマチ熱という、のどの細菌感染のあとに起こる炎症の後遗症
- 心臓の感染症(感染性心内膜炎)による弁の損傷
- 心臓が全体的に大きくなることで弁の輪が広がり、閉まりが悪くなる
- 胸部への放射線治療の影響
リスク要因
- 高齢であること
- 高血圧、脂質異常症(コレステロールが高い状態)、糖尿病
- 慢性腎臓病
- リウマチ熱にかかったことがある
- 心臓弁膜症の家族歴
- 歯や歯ぐきの病気を放置している(心臓の感染症のリスクになります)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 安静にしていても息苦しい、夜眠れないほどの息苦しさ
- 足のむくみが急に悪化した、短い期間で体重が大きく増えた
- 意識が遠のいた、失神した
- 胸の痛みが続く
- 発熱が続き、だるさが強い
定期受診を予約すべき場合:
- 階段や坂道で以前より息が切れるようになった
- 動悸や胸の不快感がときどきある
- 健康診断や検診で「心雑音がある」と言われた
- 足がむくみやすい、夕方になると靴がきつい
- 疲れやすくなった、だるさが続く
診断
まず問診と診察を行い、聴診器で心臓の音を聞いて心雑音(血液の流れが乱れるときに聞こえる音)を確認します。確定に近づける中心となるのは心エコー検査(超音波で心臓を映す検査)で、弁の形・開き具合・逆流の程度、心臓の働きを詳しく調べられます。
行われる可能性のある検査
- 心エコー検査(胸に超音波を当てて、弁と心臓の動きを見る)
- 心電図(不整脈や心臓の電気の流れを調べる)
- 胸部レントゲン(心臓の大きさや肺の状態を見る)
- 血液検査(心臓への負担を示す指標や貧血などを調べる)
- 運動負荷試験(歩く・動くなどの負荷で症状や心臓の反応を見る)
- 心臓カテーテル検査(管を入れて心臓の中の圧や冠動脈を調べる)
- 胸部CT検査(弁の石灰化や血管の状態を詳しく見る)
診察で予想されること
心エコー検査は痛みがなく、ゼリーを塗った装置を胸に当てるだけです。通常20〜30分ほどで終わり、体への負担はほとんどありません。検査結果はその場または後日説明されます。診断の経過や検査の順番は施設によって異なるため、不明な点は医師や看護師に遠慮なく尋ねてください。
治療
治療は、症状の強さ、弁の異常の程度、心臓の働き、年齢や生活背景をふまえて決められます。症状が軽く心臓の機能が保たれている場合は、定期的な通院と検査で経過を見ます。症状がある場合や心臓への負担が強い場合は、症状を和らげるお薬と、必要に応じて弁を修復・交換する治療(手術やカテーテル治療)を組み合わせます。
自宅でのセルフケア
- 塩分を控えめにし、むくみや血圧の上昇を防ぐ
- 毎日同じ条件で体重を測り、急な増加に気づけるようにする
- 禁煙する(受動喫煙も避ける)
- 歯みがきと定期的な歯科受診を欠かさない(心臓の感染症予防につながります)
- 処方された薬は自己判断で中断せず、飲み忘れがないようにする
- 息切れ・むくみ・動悸などの症状をメモしておき、診察時に伝える
- 風邪や感染症にかかったときは早めに医療機関へ相談する
医療治療
弁そのものを薬で根本的に治す治療はありません。薬物療法は、心臓の負担を減らし、息切れやむくみなどの症状をやわらげる目的で行われます。血圧を管理する薬、体内の水分バランスを整える薬、心臓の働きを助ける薬などが、病状に応じて医師によって選ばれます。どの薬が必要か、飲み方や注意点は、必ず処方した医師や薬剤師の説明に従ってください。
手術が検討される場合
弁の狭窄や逆流が強く、息切れなどの症状がはっきりしている場合や、心臓の機能が低下してきている場合には、弁を修復する、または新しい弁に置き換える治療が検討されます。最近は、体への負担が少ないカテーテル治療(足の付け根などの血管から管を入れて行う方法)の選択肢もあり、高齢の方でも検討されることがあります。どの方法が合うかは、心臓の専門医とよく相談して決めていきます。
この病気と共に生きる
弁膜症と診断されても、多くの方はふだんの生活を続けながら通院しています。体調の変化に早く気づけるよう、体重・血圧・症状を簡単に記録する習慣が役立ちます。無理をしすぎず、疲れを感じたら休むなど、自分のペースを大切にしてください。
生活習慣のアドバイス
- 十分な睡眠と休息をとり、過労を避ける
- 主治医と相談しながら、無理のない範囲で体を動かす
- 飲酒はほどほどにし、医師に確認する
- 入浴は長湯を避け、のぼせや急な温度変化に注意する
- 旅行や遠出の前には、主治医に相談しておく
- 感染症予防のため、手洗い・うがいを習慣にする
食事と運動
食事は塩分を控えめにし、野菜や魚、良質なたんぱく質をバランスよくとることが基本です。むくみがあるときは水分や塩分について医師や管理栄養士に相談してください。運動は、散歩など軽いものを主治医の指示の範囲で続けるのがおすすめです。息切れや胸の痛みが出たら中止し、医療機関に相談してください。
精神的健康と心の健康
「心臓の病気」と言われると不安になったり、将来のことを心配したりするのは自然なことです。息切れなどの症状があると外出を控えがちになり、気分が落ち込むこともあります。不安や落ち込みが強いとき、眠れない日が続くときは、一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域の相談窓口、専門の医療機関に相談してください。気持ちのつらさが強い場合や、自分を傷つけたい気持ちがわいた場合は、ためらわずに救急(119)や医療機関に連絡してください。
予防
加齢による弁の変化を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らせる部分はあります。のどの細菌感染から起こるリウマチ熱をきちんと治療すること、歯や歯ぐきの健康を保って心臓の感染症を防ぐこと、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を管理すること、禁煙することが大切です。
ワクチン
心臓に病気がある方は、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種が勧められることがあります。接種の時期や必要性は、かかりつけ医に相談して決めてください。
検診プログラム
健康診断の聴診で心雑音を指摘されたら、心エコー検査を受けることが早期発見につながります。動脈硬化が進みやすい方や高齢の方は、息切れや疲れやすさを「年のせい」と決めつけず、健診や診察のときに伝えるようにしましょう。
合併症
治療しない場合
- 心不全(心臓が血液を十分に送り出せなくなる状態)
- 不整脈、特に心房細動(心臓のリズムが乱れる状態)
- 心臓の感染症(感染性心内膜炎)
- 肺の血圧が上がる状態(肺高血圧)
- 失神や突然の意識消失
- 場合によっては命にかかわる状態につながることもある
長期的な見通し
心臓弁膜症は、早期に見つけて定期的に経過を見守り、必要になったタイミングで適切な治療を受けることで、多くの方が長く安定した生活を送れます。症状を感じたら早めに相談することが、将来の安心につながります。ひとりで心配せず、医療者と一緒に方針を決めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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