男性の乳がん:知っておきたいことと、受けられる支え
概要
乳がんは女性だけの病気と思われがちですが、男性にも起こります。男性の胸にも、女性よりずっと少ないですが乳腺(にゅうせん:乳汁を作るための細い管や組織)が残っています。そこにできるがんが「男性乳がん」です。多くの場合、乳頭(にゅうとう:乳首)のすぐ近くにしこりとして現れます。決して珍しい病気ではありませんが、男性は「まさか自分が」と考えて受診が遅れやすいことが知られています。
重要な事実
- 男性の乳がんは、女性の乳がんに比べると頻度はかなり低いものの、年間で数百人単位で報告されています。
- しこりの多くは乳頭のすぐ近くにでき、痛みがないことが多いため、放置されやすい傾向があります。
- 早期に見つけて治療を始めれば、十分に治癒を目指せる病気です。気になる変化があれば、まずは医療機関に相談してください。
男性乳がんはまれな病気で、女性の乳がんに比べるとおよそ100分の1程度の頻度といわれています。ただし「まれだから私ではない」と決めつけず、胸の変化に気づいたら早めに相談することが大切です。
50〜60代以降の方に多いとされていますが、どの年齢でも起こる可能性があります。ご家族(女性・男性の両方)に乳がんや卵巣がんの方がいる場合、胸部に放射線治療を受けたことがある場合、肝臓の病気や肥満、アルコールの多い飲酒習慣がある場合などは、リスクがやや高くなると知られています。
症状
- 突然の激しい胸の痛みや息苦しさ、呼吸ができない感じがある(心臓や肺の緊急事態の可能性があります)
- 胸の腫れや傷から大量に出血し、圧迫しても止まらない
- 高熱とぐったりした様子、意識がもうろうとしている
- ⚠しこりに急な赤み・腫れ・熱感・強い痛みが加わった(炎症性乳がんや感染症の可能性があり、早めの診察が必要です)
- ⚠乳頭からの出血が続いている
- ⚠しこりがここ数週間で急に大きくなった、皮膚が破れてきた
- ⚠脇の下の腫れが急に強くなり、腕が動かしにくい
一般的な症状
- 乳頭のすぐ近くや乳輪の下の、硬いしこり(痛みがないことが多い)
- 乳頭からの分泌物(にゅうとうぶんぴつ:血が混じった液や透明な液)
- 乳頭や乳輪のただれ、赤み、かゆみ、くぼみ(へこみ)
- 胸の皮膚のひきつれ、しわ、オレンジの皮のような凹凸
- 脇の下のリンパ節(リンパせつ:免疫の働きをする小さな豆のような器官)の腫れや、わきの下の違和感
- 胸の片側だけの腫れや、左右の大きさの急な違い
子供の症状
- 子どもや10代前半で乳がんが見つかることは、非常にまれです。
- 思春期の男の子では、ホルモンの影響で片側または両側の胸が一時的にふくらむ「男性乳房腫大(だんせい・にゅうぼう・しゅだい)」がよく起こります。多くは数か月〜数年で落ち着く自然な変化で、がんでないことがほとんどです。
- ただし、硬いしこりが片側だけにあり、痛みが続く、乳頭から液が出るなどの場合は、小児科やかかりつけ医に相談してください。
高齢者の症状
- 年齢とともにリスクは上がるため、高齢の方こそ胸の変化に気を配りたいものです。
- 「年のせいだろう」「今さら病院へ」と考えて受診が遅れやすいので、ご家族や介護・看護に関わる方も、胸の変化に気づいたら本人に声をかけてあげてください。
- 心臓病や糖尿病などの持病がある方は、治療の進め方を主治医と相談しながら決めていけます。
原因
主な原因
- 乳腺の細胞の遺伝子(DNA)に変化が積み重なり、細胞が自分の意思とは関係なく増え続けることで起こります。
- 男性では、女性ホルモン(エストロゲン)に対して男性ホルモン(テストステロン)の割合が減ると、乳腺組織が刺激されやすくなると考えられています。
- 生まれつき持っている遺伝子の変化(BRCA1やBRCA2など)が関係することもあります。
リスク要因
- 年齢(50〜60代以降で増えていきます)
- 血縁者(女性・男性を問わず)に乳がん、卵巣がん、前立腺がんの方がいる、または遺伝子の変化が家族に見つかっている
- 胸部に放射線治療を受けたことがある
- 肝臓の病気(肝硬変など)、肥満、アルコールを多く飲む習慣(エストロゲンが増えやすい状態になります)
- 精巣(睾丸)の病気やけが、手術で精巣を摘出したことがある
- クラインフェルター症候群などの染色体・ホルモンに関わる体質
- 長期間、女性ホルモンを含む薬を使っている(自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- しこりに急な赤み・腫れ・熱感・強い痛みがある
- 乳頭からの出血が続く
- 皮膚が破れて出血している、またはしこりが急に大きくなっている
定期受診を予約すべき場合:
- 胸に硬いしこりがある、または違和感が2週間以上続く
- 乳頭や乳輪がただれる、くぼむ、形が変わった
- 乳頭から液が出る
- 脇の下の腫れやしこりに気づいた
- ご家族に乳がんの方がいて、ご自身のリスクが気になる
診断
まず問診と、胸の視診・触診を行います。そのうえで、超音波(エコー)検査やマンモグラフィ(乳房のレントゲン写真)で詳しく調べます。しこりが確認された場合は、細い針で細胞や組織の一部を採取して顕微鏡で調べる「生検(せいけん)」を行い、がんなのか、どのタイプなのかを確定します。診断がついたら、必要に応じて広がりを確認する検査を追加します。
行われる可能性のある検査
- 問診・視診・触診
- 乳房超音波(エコー)検査
- マンモグラフィ(乳房のレントゲン撮影)
- 針生検・組織診(細胞や組織を採って調べる検査)
- ホルモン受容体やHER2(ハーツー)などの性質を調べる検査(治療の選び方に関わります)
- 転移がないかを確認するCT・MRI・骨の検査など(必要に応じて)
- 遺伝カウンセリングと遺伝子検査(ご家族の状況によって検討します)
診察で予想されること
検査は一度にすべて行うのではなく、順を追って進みます。結果が出るまでに数日から1〜2週間ほどかかることがあり、待つ時間は不安なものです。病院のがん相談支援センター(多くの病院に設けられている相談窓口)に、検査の意味や次に何が起きるかを聞いておくと安心です。疑問はメモにまとめて持参し、医師に遠慮なく尋ねてください。
治療
治療は、がんの大きさや広がり、性質、そして年齢や持病、生活の状況をふまえて組み立てられます。多くの場合、手術が中心になり、必要に応じて放射線療法や薬物療法を組み合わせます。治療の目的や副作用、生活への影響について、納得いくまで説明を受けたうえで決めていくことが大切です。
自宅でのセルフケア
- 治療の内容とスケジュールを手帳やスマートフォンに記録し、家族と共有しておく
- 体調の変化(痛み、発熱、傷の状態、気分の落ち込み)をメモして診察時に伝える
- 手術後は、医師や看護師、リハビリの専門家に教わった範囲で、肩や腕を無理なく動かす
- 十分な睡眠と休息をとり、疲れを感じたら早めに休む
- 治療中は感染予防のため、手洗い・うがいを心がけ、体調が悪い人との接触を控える
- 飲酒は控えめにし、喫煙があれば禁煙を検討する(禁煙外来も活用できます)
- 自分だけで抱え込まず、家族や友人、医療者に「助けてほしい」と伝える
医療治療
治療には大きく分けて、手術、放射線療法、そして薬物療法があります。薬物療法には、ホルモンの働きを抑える治療、細胞の増え方を抑える治療、がんの性質に合わせた分子標的薬、免疫の働きを利用する治療などがあり、がんで調べた性質によって選ばれます。どの治療も、効果と副作用のバランスを考えて医師が提案します。具体的な薬の種類や量については、必ず担当医や薬剤師の説明を受けてください。
手術が検討される場合
多くの場合、手术(しゅじゅつ:病巣を取り除く治療)が治療の中心になります。乳房の一部または全部を切除し、必要に応じて脇の下のリンパ節も調べます。がんの広がりによっては、手術の前に薬物療法を行って腫瘍を小さくしてから手術をすることもあります。手術の範囲や方法は、病状と生活の希望をふまえて医師と相談して決めます。
この病気と共に生きる
治療中や治療後は、体調に波があるのが自然です。調子のよい日と悪い日を往復しながら、少しずつ日常を取り戻していくイメージで構いません。仕事や家事は、周囲に具体的に頼ることが負担を減らします。手術後の肩や腕の動きにくさ、リンパ浮腫(リンパえふしゅ:腕や胸のむくみ)には、早めにリハビリや医療者に相談することで対処できます。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、日常の買い物や散歩など体を動かす習慣を続ける
- 治療の予定と休息を両立できるよう、予定を詰め込みすぎない
- 傷あとや皮膚のケアは、医療者に教わった方法を守る
- 治療中は日焼けを避け、皮膚を刺激する製品は慎重に使う
- 気分転換の時間を意識してつくる(音楽、読書、園芸など、負担の少ないこと)
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありませんが、主食・主菜・副菜をそろえたバランスのよい食事を、無理なく続けることが勧められます。治療で食欲が落ちるときは、少量を回数多く、食べやすいものを選ぶとよいでしょう。運動は、散歩や軽いストレッチなど、話をしながらできる程度の強さから始め、体調に合わせて少しずつ増やしていきます。食事や運動の具体的な進め方は、医師や管理栄養士、理学療法士に相談してください。
精神的健康と心の健康
「男性なのに乳がんと言われるはずがない」「人に知られたくない」と感じる方は少なくありません。不安、怒り、落ち込み、先行きへの心配は、誰にでも自然に起こる気持ちです。眠れない日が続く、気持ちの落ち込みが2週間以上続く、日常生活がままならないといった場合は、医療者に相談してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちが浮かんだときは、ひとりで抱えず、地域の救急(119番)や医療機関、自治体の相談窓口にすぐ連絡してください。
予防
男性乳がんを確実に防ぐ方法は今のところ分かっていません。ただ、リスクを少し下げる生活の工夫はあります。適正体重を保つ、アルコールは控えめにする、禁煙する、肝臓の健康に気を配る、そして胸の変化に気づいたら早めに相談する、といったことです。ご家族に乳がんの方が多い場合は、リスクについて医師に相談し、必要なら遺伝カウンセリングを受けることを検討できます。
ワクチン
現在のところ、男性乳がんを予防するワクチンはありません。
検診プログラム
日本の国の指針では、症状のない男性に対する乳がん検診は定められていません。大切なのは「症状に気づいたら受診する」ことです。また、ご家族の乳がんの状況や遺伝子の変化によっては、医師と相談のうえで定期的な観察を検討する場合があります。自己判断で検診を希望する場合も、まずはかかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- しこりが大きくなり、皮膚が破れたり出血したりする
- 脇の下や胸のリンパ節に広がり、腕のむくみが出る
- 肺や骨、肝臓など、体のほかの部分に転移する(転移すると痛みや息苦しさなどが出ることがあります)
- 全身の疲れや体重減少など、体全体の調子が落ちる
長期的な見通し
男性乳がんは、しこりが乳頭のすぐ近くにできやすく、比較的早く気づける面があります。早期に見つけて治療を始めれば、治癒を十分に目指せる病気です。治療の選択肢は年々増えており、進行した場合でも、長く付き合いながら生活の質を保つ治療が可能になってきています。不安なときは、ひとりで抱えず、担当医やがん相談支援センターに何度でも相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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