中皮腫(ちゅうひしゅ)と診断された方へ ― 支援とサポートのご案内
概要
中皮腫(ちゅうひしゅ)は、体の内側をおおっているとても薄い膜「中皮(ちゅうひ)」にできる、まれながんの一種です。中皮は、肺を包む膜(胸膜)、おなかの内側を包む膜(腹膜)、心臓を包む膜(心膜)などにあります。いちばん多いのは肺を包む胸膜にできるタイプで、胸に水がたまったり、息がしにくくなったりすることがあります。中皮腫は、アスベスト(石綿)という、昔の建材や断熱材などに使われていた繊維を吸い込んだ経験と関係が深いと考えられています。ただし、アスベストを扱った記憶がない方でも診断されることがあり、その場合は原因がはっきりしないこともあります。
重要な事実
- 中皮腫は、胸膜・腹膜・心膜など、体の内側をおおう薄い膜にできるがんです。
- アスベスト(石綿)を吸い込んだ経験との関連が知られており、発症までに非常に長い年月(数十年)がかかることが多いのが特徴です。
- 日本では比較的まれな病気ですが、診断された方とご家族を支える制度や相談窓口があります。一人で抱え込まなくて大丈夫です。
中皮腫は、日本では比較的まれな病気で、患者さんの数は多くありません。同じ「がん」でも、よく聞く肺がんや胃がんと比べるとずっと少ない病気です。ただし、アスベストを多く扱う仕事に長くついていた方など、リスクの高い方では注意が必要とされています。
中皮腫と診断される方は、アスベストを扱う仕事(建築、造船、断熱材・配管の工事、解体作業など)に長くついていた経験のある方が多いとされています。家族の作業着についたアスベストを吸い込んだという例も報告されています。アスベストを吸ってから発症までに20〜40年以上かかることが多く、中高年以降で見つかることが多い病気です。まれに若い方や子どもに見つかることもありますが、非常に少ないです。
症状
- 息ができず、話すのも苦しいほどの強い息苦しさ
- 胸の激しい痛みが急に出て、冷や汗が出る
- 唇や指先が青白い、または青みがかっている
- 意識がもうろうとしている、反応がおかしい
- 突然の呼吸停止、または呼吸が非常に弱い
- ⚠息苦しさが急に悪化して、横になるとつらい
- ⚠38度以上の発熱が続く、または寒気をともなう発熱
- ⚠胸の痛みが強くなって、痛み止めでも楽にならない
- ⚠短期間に体重が大きく減った
- ⚠痰に血が混じる
一般的な症状
- 少し動いただけで息が切れる、息苦しい(胸に水がたまると強くなることがあります)
- 乾いた咳が長く続く
- 胸のあたりの痛み、肩や背中に広がる重い痛み
- 原因がはっきりしない体重の減少
- 食欲が落ちる、食べてもすぐにおなかがいっぱいに感じる
- 疲れやすい、だるさが続く
- おなかが張る、おなかに水がたまったような感じ(腹膜にできるタイプの場合)
- 微熱が続く、寝汗をかく
子供の症状
- 中皮腫は子どもには非常にまれです。子どもで見つかることはほとんどありません。
- もし子どもに長く続く息苦しさや胸の痛みがあるときは、中皮腫かどうかを心配するより先に、小児科で一度相談してみてください。
高齢者の症状
- 年齢のせいだと思っていた息切れが、実は胸に水がたまっていることがあります。
- 体力の低下や疲れやすさと混ざって、症状が出ても気づきにくいことがあります。
- 複数の持病の薬を飲んでいる場合は、症状の変化を主治医に伝え、薬の影響かどうかも相談すると安心です。
- もの忘れや聞こえの変化がある方は、ご家族と一緒に受診すると症状を伝えやすくなります。
原因
主な原因
- アスベスト(石綿)を吸い込んだ経験が、中皮腫のもっともよく知られた原因です。アスベストは昔、建物の断熱材、屋根材、配管のまきものなどに広く使われていました。
- アスベストを吸ってから症状が出るまで、20〜40年以上という長い年月がかかることが多いです。そのため「もう昔のことだから大丈夫」とは言い切れない面があります。
- アスベストを扱った記憶がはっきりしない方でも中皮腫と診断されることがあり、すべての例で原因が特定できるわけではありません。
- ごくまれに、遺伝的な要因や、はっきりしない原因で発症することもあると考えられています。
リスク要因
- アスベストを扱う仕事に長くついていた(建設、造船、断熱・配管工事、解体、自動車のブレーキ部品の交換など)
- アスベストを扱う作業場の近くで暮らしていた、または家族の作業着についたアスベストを吸い込んだ経験がある
- 古い建物の改修や解体の現場で、粉じんを吸い込む可能性があった
- 年齢(アスベストを吸ってから長い年月がたっている方ほど発症の例が多い)
- なお、喫煙は中皮腫との関連は弱いとされていますが、肺の健康全体のためには禁煙がすすめられます。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息苦しさが急に強くなった、横になると息ができない
- 胸の痛みが強く、治まらない
- 高い熱が続く、または寒気をともなう発熱がある
- 体重が短期間に大きく減っている
- 痰に血が混じった
定期受診を予約すべき場合:
- 乾いた咳が2〜3週間以上続いている
- 少し歩いただけで息が切れるようになった、以前より息切れが強くなった
- 胸や背中に、原因のわからない違和感や痛みが続いている
- 食欲が落ちた、食べられる量が減った
- 疲れやすさが続き、日常生活に支障が出ている
診断
中皮腫かどうかを調べるには、まず症状とこれまでの病史(アスベストを扱った経験があるかを含む)を医師に伝えます。そのうえで、胸やおなかの画像検査を行い、必要に応じて胸にたまった水を調べたり、組織の一部を採って詳しく調べたりします。一度の検査ですべてが決まるわけではなく、いくつかの検査を組み合わせて、時間をかけて判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診:これまでの仕事の内容、アスベストを扱った可能性、症状がいつから続いているかを伝えます。
- 胸部レントゲン検査:胸の全体の様子を見ます。
- CT検査やMRI検査:胸膜や肺、おなかの状態をより詳しく見ます。
- 胸水検査:胸にたまった水を細い針で抜いて調べます。細胞の種類や性質を確認します。
- 組織検査(生検):胸膜や腹膜のごく一部を採って、顕微鏡で詳しく調べます。診断の確定に重要な検査です。
- 血液検査:体の状態や炎症の程度を確認します。
- 呼吸機能検査:肺がどのくらい働いているかを調べます。
診察で予想されること
検査は一度にまとめて行うのではなく、何回かに分けて行うことが多く、結果がわかるまでに数日から数週間かかることがあります。待っている間は不安なものです。検査の内容や予定、結果をいつ・どのように聞けるのかを、担当医や看護師に前もって確認しておくと気持ちの準備ができます。わからないことは遠慮なく質問してください。家族や信頼できる人に一緒に聞いてもらうのも助けになります。
治療
中皮腫の治療は、がんの種類や広がり、年齢、体力、そして何より患者さん本人がどう過ごしたいかをもとに、専門の医療チームと相談しながら決めていきます。中皮腫は治すことが難しい病気ですが、息苦しさや痛みをやわらげる治療や、生活の質を保つための支援が進歩しています。「治す」だけでなく「その人らしく過ごす」ことを目標にした治療も、大切な選択肢のひとつです。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(肺の負担を減らし、呼吸を楽にする助けになります)。
- 息苦しさを感じる活動は無理をせず、こまめに休憩をとる。
- 部屋の空気を清潔に保ち、乾燥しすぎないようにする。
- 睡眠を十分にとれるよう、生活リズムを整える。
- 食事は一度にたくさん食べず、少量を何回かに分けてとる。
- 体調や症状の変化を簡単なメモに残し、受診のときに医師に見せる。
- 痛みや息苦しさを我慢せず、早めに医療者に伝える。
- インフルエンザや肺炎などの感染症を防ぐため、手洗い・うがいを心がけ、予防接種について医師に相談する。
医療治療
治療にはいくつかの方法があり、組み合わせて行うこともあります。手術(病変を取り除く方法)、放射線をあてる治療、薬を使う治療(がんの増え方を抑えるもの)などがあり、胸にたまった水を抜いて息苦しさを楽にする処置も行われます。また、痛みや息苦しさ、不安などをやわらげる緩和ケアは、治療の早い段階から活用できる大切な支援です。どの方法が合うかは、病状や体力、生活の希望によって変わるため、専門の医療チームとよく相談して決めてください。具体的な薬の名前や量については、必ず担当医や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、がんが広がっている範囲や年齢、体力、肺や心臓の状態などから、手術を受けることで利益が期待できると判断された場合です。中皮腫は手術だけで治すことが難しいことも多く、ほかの治療と組み合わせて行われることがあります。手術が向いているかどうかは専門の医療機関で詳しく評価する必要があるため、まずは担当医に相談し、必要に応じて専門施設を紹介してもらいましょう。
この病気と共に生きる
中皮腫とともに過ごす毎日では、体調に波があることを前提に、その日の状態に合わせて予定を立てるのが助けになります。息苦しさがあるときは、少し高い枕を使う、ゆったりした服を選ぶ、動作の合間に息継ぎをするなど、ちょっとした工夫で楽になることがあります。家族や周りの人に「今日はここまでなら大丈夫」と伝えておくと、無理のない生活がしやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 予定を詰め込みすぎず、休む時間を先に確保する。
- 症状や体調を記録するノートをつけ、受診時に活用する。
- 家の中の動線を整え、息苦しさがあっても動きやすい環境にする。
- タバコの煙や強いにおい、ほこりを避ける。
- かぜや感染症が流行る時期は、人混みを避けるなどの工夫をする。
- 経済的な不安(治療費、仕事、介護など)は、早めに医療ソーシャルワーカーや自治体の相談窓口に相談する。
- アスベストとの関連が考えられる場合は、労災や救済制度についての相談窓口があることを知っておく。
食事と運動
食事は、体力を保ち、治療に耐える力を支える大切な要素です。食欲がないときは、一度にたくさん食べようとせず、少量を何回かに分けてとる、食べやすい温かいものを選ぶ、たんぱく質を少しずつ意識してとる、といった工夫が役立ちます。においで気分が悪くなるときは、冷たいものやにおいの少ないものを選ぶのもひとつの方法です。運動は、息苦しさの程度に合わせて、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。短い散歩や、椅子に座ってできる軽い運動などから始め、痛みや息苦しさが強い日は休むようにしてください。食事や運動の具体的な内容は、担当医や管理栄養士、リハビリの専門家に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
中皮腫と告げられたときの衝撃や、「なぜ自分が」という気持ち、将来への不安は、自然な反応です。気持ちが落ち込むこと、怒りを感じること、涙が出ることは、弱さではなく、大切な病気に向き合っている証拠でもあります。眠れない、食欲がない、何をしても楽しめないといった状態が2週間以上続くときは、医療者に伝えてください。話を聞いてもらうだけでも、心の負担は軽くなることがあります。つらさが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱え込まず、地域のこころの相談窓口や、いのちの電話などの相談サービスを頼ってください。緊急の場合は119番に連絡してください。
予防
中皮腫の多くはアスベストとの関連が知られているため、アスベストを吸い込まないことがもっとも大切な予防になります。日本では、アスベストは以前は建物の断熱材や屋根材などに広く使われていましたが、健康への影響がわかってからは、原則として新しく使われることはなくなりました。現在でも、古い建物の解体・改修の現場などでは、適切な防護と管理が行われています。ご自身で古い建材を壊したり、粉じんの出る作業をしたりするときは、専門業者に相談し、マスクなどの防護を徹底してください。喫煙は中皮腫との関連は弱いとされていますが、肺の健康全体のために禁煙をおすすめします。なお、すでにアスベストを吸った経験がある方でも、必ず中皮腫になるわけではありません。
ワクチン
中皮腫そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、インフルエンザや肺炎などの感染症は呼吸の状態を悪化させることがあるため、予防接種について担当医に相談してみてください。
検診プログラム
症状のない段階での中皮腫の決まった検診は、現在のところ確立されていません。アスベストを扱う仕事についていた経験がある方は、健康診断を定期的に受けることや、国や自治体の健康管理の制度、労災の相談窓口について、勤務先や自治体、かかりつけの医師に確認してみてください。気になる症状があるときは、検診を待たずに早めに受診することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 胸に水がたまり、肺がおされて息苦しさが強くなる
- 胸や背中の痛みが続き、日常生活がつらくなる
- 体重減少や体力の低下が進む
- 食べられる量が減り、栄養状態が悪くなる
- がんが近くの臓器に広がることがある
- 気持ちの落ち込みや不安が強くなり、生活の質が下がることがある
長期的な見通し
中皮腫は、現時点では治すことが難しい病気です。それでも、息苦しさや痛みをやわらげる治療、生活を支えるケア、そして患者さんとご家族を支える制度は、確実に広がっています。診断後の過ごし方は人それぞれで、治療を続けながら仕事や趣味を楽しんでいる方も多くいます。「余命」や「平均」といった言葉に心が揺れることもあるかもしれませんが、それはあくまで統計の話であり、一人ひとりの経過は異なります。治療の選択肢や支援の内容はこれからも進歩していきます。どうか一人で抱え込まず、医療チームや周りの人、相談窓口を頼ってください。
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最終更新: 2026年10月24日
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