片側巨脳症(へんそくきょのうしょう)— 生まれつき脳の片側が大きく育つ状態
概要
片側巨脳症は、生まれつき脳の左右のうち片方だけがもう片方より大きく、形も整っていない状態です。大きさだけでなく、脳の表面のしわ(脳回=のうかい)がうまく作られない「大脳皮質形成異常(だいのうひしつけいせいいじょう)」という変化を伴うことが多くあります。脳の神経細胞の並び方やつながり方が通常と違うため、けいれん(てんかん)や発達の遅れが起こりやすくなります。体の片側の手足が動かしにくいこともあります。脳の大きさがだんだん大きくなり続ける病気ではなく、生まれつきの「脳の作り方の違い」による状態です。
重要な事実
- 生まれつきの状態で、胎児期に脳が形づくられる過程で起こります。
- 非常にまれな状態で、正確な人数は把握されていません。
- 多くの場合、乳児期の早い時期にけいれんがきっかけで気づかれます。
- けいれんはお薬で抑えにくいことがあり、専門の医療チームによる長期的な支援が大切です。
- 脳がどんどん大きくなり続ける進行性の病気ではありません。
とてもまれな状態です。日本でも世界でも正確な患者数はわかっておらず、多くの小児科医が一生のうちに数例しか出会わないと言われるほどです。まれであることは、保護者の方が「自分たちのせいではないか」と悩む必要があるという意味ではありません。
生まれつきの状態のため、男の子にも女の子にも同じように起こります。特定の人種や地域に偏ることは知られていません。多くは乳幼児期に診断されますが、症状の程度は人によって大きく異なります。
症状
- けいれんが5分以上続いている
- けいれんが止まっても意識が戻らず、またけいれんが始まる
- 呼吸が苦しそう、唇や顔色が青白い・紫色に見える
- けいれんのときに頭を強く打った、けがをした、水に顔がつかった
- 呼びかけても反応がなく、意識がない状態が続く
- ⚠けいれんの回数が急に増えた、いつもより長くなった
- ⚠発作の形が変わった、新しい種類の発作が出た
- ⚠発熱を伴うけいれんが初めて起きた、またはいつもと違う様子がある
- ⚠ミルクや食事をあまりとらない、元気がない、ぐったりしている
- ⚠急に手足が動かしにくくなった、飲み込みづらくなった
一般的な症状
- 生後まもなく始まるけいれん(手足がピクピクする、体が急に硬くなる、一瞬ぼんやりするなど)
- けいれんが長く続いたり、短い発作を何度も繰り返したりする
- 首すわり、寝返り、おすわり、歩き始めなどの発達の遅れ
- 体の片側だけ手足が動かしにくい、使いにくい
- 頭の形や大きさの左右差、片側の手足が反対側より小さい
- ことばの遅れや、コミュニケーションの育ち方のゆっくりさ
- 食べること・飲み込むことが上手にできないことがある
子供の症状
- 生後数か月以内に、体を一瞬丸めるような発作や、手足をピンと伸ばす発作が出ることがある
- 発作のあとに泣く、眠る、ぐったりするなどのパターンが決まっていることがある
- 発達の節目(首すわり、おすわり、歩行、ことば)がゆっくり進む
- 視線が合いにくい、呼びかけへの反応が少ないなど、人とのかかわり方に特徴が出ることがある
- かんしゃくの強さや眠りの問題など、行動面の困りごとが生じることがある
高齢者の症状
- 大人になってから初めて見つかることはほとんどありません。小児期に診断を受けた方が大人になることはあります。
- 大人になってからの主な課題は、けいれんのコントロール、体の片側の動きにくさへの対応、日常生活の支援、就労や自立の支援などです。
- 長くけいれんを抑えるお薬を続けている場合は、骨の健康や歯ぐきのケアなども定期的に相談するとよいでしょう。
- 発作の回数が増えた、発作の形が変わったと感じたら、早めに主治医に伝えてください。
原因
主な原因
- 胎児期に脳が形づくられる過程で、神経細胞が増える・移動する・正しい場所に並ぶための遺伝子の働きに変化が生じることが関与していると考えられています。
- 体の細胞の一部にだけ遺伝子の変化が起きる「体細胞モザイク(たいさいぼうモザイク)」という仕組みが関係することがあります。
- 多くは両親から受け継いだものではなく、偶然生じた変化によるものです。
- 現時点では原因が特定できないことも少なくありません。
リスク要因
- はっきりした予防できる危険因子は知られていません。
- 家族の中に同じ状態の方がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けることで不安を整理できます。
- 妊娠中の過ごし方が原因とされることはほとんどありません。ご家族がご自分を責める必要はないということを、ぜひ知っておいてください。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 初めてのけいれんがあったとき(特に生後まもない赤ちゃんの場合)
- けいれんの回数や長さが増してきたとき
- けいれんのあと、意識や動きの戻りが遅いと感じたとき
- 発熱とけいれんが同時に起きたとき
- 手足の動きにくさが新しく出てきた、強くなったと感じたとき
定期受診を予約すべき場合:
- 発達の進み方(首すわり、おすわり、歩行、ことば)が気になるとき
- 頭の形や大きさの左右差が気になるとき
- けいれんを抑えるお薬を続けていて、副作用や飲みにくさが気になるとき
- 保育園・幼稚園・学校生活での支援の相談をしたいとき
- ご家族が疲れている、休息の取り方を相談したいと感じたとき
診断
まず問診と診察で、けいれんの様子、発達の経過、体の動きの左右差などをていねいに確認します。そのうえで、脳の形を詳しく見る画像検査(MRI)と、脳の電気的な活動を調べる脳波検査を組み合わせて診断します。必要に応じて遺伝子の検査を行うこともあります。確定診断は、小児神経(しょうにしんけい)の専門医がいる病院で行われることが多いです。
行われる可能性のある検査
- 頭部MRI(脳の形や左右差、表面のしわの様子を詳しく見る検査)
- 脳波検査(脳の電気的な活動を調べ、けいれんの出方を確認する検査)
- 血液検査(体調や他の原因を確認するため)
- 遺伝子検査(原因を調べるために行うことがあります。結果が出るまで時間がかかることがあります)
- 発達検査(お子さんの育ちの特徴を把握し、支援の計画に活かすため)
- 目の検査や聴力の検査(視野や聞こえの問題がないか確認するため)
診察で予想されること
診断まではいくつかの検査を組み合わせるため、数週間から数か月かかることがあります。検査のたびに結果を説明してもらい、わからないことは遠慮なく質問してください。必要であれば、別の専門施設の意見を聞く「セカンドオピニオン」を求めることもできます。診断は、お子さんに合った支援を始めるための出発点です。
治療
片側巨脳症そのものを完全に治す治療は、今のところありません。治療の中心は、けいれんをできるだけ減らして脳への負担を軽くすること、発達を支えること、生活の安全を守ること、そしてご家族を支えることです。小児神経科、脳外科、リハビリ、看護、心理、栄養などのチームで、長い目でかかわっていきます。
自宅でのセルフケア
- けいれんの記録をつける(起きた時刻、続いた長さ、体のどの部分がどう動いたか、前後の様子、動画が撮れると役立つことがあります)
- お薬は自己判断で中断・減量せず、主治医の指示どおりに続ける
- 入浴中は目を離さない、浴槽のふたをする、階段や高い場所に柵をつけるなど、発作時のけがを防ぐ環境を整える
- 十分な睡眠を確保する(睡眠不足は発作の引き金になりやすいため)
- 発熱や体調不良のときは早めに医療機関に連絡する
- リハビリで教わった動きや関わりを、日常の中で無理のない範囲で続ける
- ご家族自身が休息をとる時間を意識してつくる
医療治療
けいれんを抑えるお薬を、お子さんの発作のタイプや体調に合わせて調整します。お薬は複数を組み合わせることもありますが、片側巨脳症のけいれんはお薬だけでは十分に抑えにくいことがあります。その場合は、食事の内容を工夫する治療法(けとん食)が検討されることがあります。あわせて、体を動かすリハビリ、手先を使うリハビリ、ことばやコミュニケーションのリハビリ、食べる・飲み込む練習などを行います。発達支援や療育のサービス、学校との連携も治療の一部と考えてよいでしょう。具体的なお薬の種類や量については、必ず主治医の説明を受けてください。
手術が検討される場合
お薬ではけいれんが十分に抑えられず、発達や日常生活に大きな影響が出ている場合に、てんかん外科の手術が検討されます。異常のある側の脳のネットワークを切り離す手術(大脳半球離断術など)が行われることがあり、けいれんが大きく減る例も報告されています。一方で、手術にはリスクや術後のリハビリが必要で、向き不向きもあります。手術をするかどうか、いつ行うかは、てんかん外科の経験豊富な専門チームが、検査の結果とご家族の希望を合わせて総合的に判断します。
この病気と共に生きる
日々の生活では、発作への備えと、お子さんの「できること」を少しずつ増やしていくことの両方を大切にします。発作の記録を続けることで、主治医が治療を調整しやすくなります。保育園・幼稚園・学校とは、発作時の対応や連絡方法をあらかじめ共有しておくと安心です。きょうだいへの説明や、家族みんなで過ごす時間を意識してつくることも、長く暮らしていくうえで助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠と起床のリズムをできるだけ整える
- 発作時のけがを防ぐため、家庭内の環境を見直す(入浴、階段、自転車、水遊びなど)
- 保育園・学校・福祉サービスと情報を共有し、個別の支援計画をつくる
- ご家族で役割を分担し、定期的に休息日をとる
- 自治体の障害福祉サービスや医療的ケアの相談窓口を早めに調べておく
- 同じ立場の家族とつながる場を探してみる(地域の家族会など)
食事と運動
特に決まった食事制限があるわけではありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動が基本です。飲み込みが心配な場合は、食べ物の形やとろみを工夫し、栄養の専門職に相談してください。けいれんを抑えるための食事療法(けとん食)を行う場合は、自己判断では始めず、必ず医師・管理栄養士の指導のもとで行います。運動は、リハビリの一環として、体の状態に合わせて楽しみながら続けるのがよいでしょう。暑さや疲れ、水分不足は発作の引き金になることがあるため、こまめな休憩と水分補給を心がけてください。
精神的健康と心の健康
診断を受けたとき、また発作が続くとき、ご家族は大きな不安や疲れ、ときに怒りや悲しみを感じるのが自然です。それは弱さではなく、大切な人を思う気持ちの表れです。眠れない、涙が止まらない、何も楽しめない、といった状態が続くときは、かかりつけ医や自治体のこころの相談窓口、専門の心理職に早めに話してください。ご家族が元気であることが、お子さんへの一番の支援になります。つらい気持ちを一人で抱え込まないでください。
予防
片側巨脳症を確実に防ぐ方法は、今のところ知られていません。妊娠中の過ごし方が原因とされることはほとんどなく、ご家族がご自分を責める必要はありません。家族内に同じ状態の方がいる場合などは、妊娠前後に遺伝カウンセリングを受けることで、不安を整理し見通しを持ちやすくなります。
ワクチン
ワクチンは片側巨脳症を防ぐものではありませんが、感染症による発熱は発作の引き金になることがあるため、定期接種は主治医と相談しながら計画的に進めるとよいでしょう。接種後は発熱に注意し、様子の変化があれば早めに相談してください。
検診プログラム
通常の妊娠健診で必ず見つかるとは限りません。胎児の超音波検査で脳の左右差に気づかれることはありますが、多くは出生後に診断されます。きょうだいへの検査が通常必要とされることはありません。
合併症
治療しない場合
- けいれんが長く続いたり繰り返したりすることで、脳に負担がかかり、発達に影響することがあります
- 発達の遅れや、ことば・コミュニケーションの育ちのゆっくりさ
- 体の片側の手足の動きにくさ(片麻痺)
- 視野の一部が見えにくいなどの目の問題
- 食べること・飲み込むことの困難や、栄養の問題
- けいれんが止まらない状態(てんかん重積)による緊急の危険
- 発作による転倒・けが・入浴中の事故などのリスク
長期的な見通し
片側巨脳症の経過は人によって大きく異なり、一概に「こうなる」とは言えません。けいれんがうまくコントロールできるようになると、発達や生活の質が大きく向上する例があります。手術で発作が目に見えて減る方もいます。医療や支援の仕組みは少しずつ進歩しており、早い段階で専門チームとつながり、リハビリや療育を続けることが力になります。先のことを心配しすぎず、その時々で必要な支援を選びながら、一歩ずつ進んでいくことができます。
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最終更新: 2026年10月24日
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