ヘモグロビン異常症(異常ヘモグロビン症)について
概要
血液の中の赤血球には「ヘモグロビン」という、酸素を体のすみずみまで運ぶたんぱく質があります。ヘモグロビン異常症は、このヘモグロビンを作る遺伝子の生まれつきの特徴によって、ヘモグロビンの量が足りなくなったり、形がうまく作れなくなったりする病気のグループです。代表的なものに「サラセミア」と「鎌状赤血球症(かまじょうせっけっきゅうしょう)」があります。多くはご両親から受け継ぐ遺伝の特徴によるもので、かぜのように人へうつることはありません。
重要な事実
- 生まれつきの遺伝子の特徴が原因の病気で、うつることはありません。
- 症状の重さにはとても幅があり、まったく症状のない「保因者(ほいんしゃ)」の方もたくさんいます。
- 軽い貧血から、強い疲れ・黄疸(おうだん:白目や皮膚が黄色っぽくなること)・痛みの発作まで、人によって症状はさまざまです。
- 定期的な診察と日常生活の工夫で、多くの方は自分らしい生活を続けています。
世界全体では、保因者(遺伝の特徴をもつが症状がない方)が数億人規模でいると言われています。マラリアが多いとされる地域(アフリカ、地中海沿岸、中東、南アジア、東南アジアなど)に多くみられます。日本ではサラセミアや鎌状赤血球症は比較的まれですが、外国にルーツのある方の中では決して珍しいものではありません。
生まれつきの体質なので、子どもから大人まで、男女どちらにも起こります。ご両親のどちらか、または両方から遺伝の特徴を受け継ぐことで、発症したり保因者になったりします。
症状
- 急に息が苦しい、呼吸ができない
- 胸を強く押さえるような痛みがある
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんがある
- 顔や唇が青白く、ぐったりして反応が弱い
- 高熱が続き、ぐったりしている(特に子ども)
- 急に手足が動かしにくい、言葉が出にくい、顔の片側がゆがむ(脳卒中のサイン)
- ⚠38度以上の発熱がある
- ⚠急な強い腹痛、手足の腫れや強い痛み
- ⚠黄疸が急に強くなった
- ⚠尿が極端に少ない、またはコーラ色の尿が出た
- ⚠だるさが急にひどくなり、日常生活が難しい
一般的な症状
- 疲れやすい、だるい、力が出ない(貧血による症状)
- 顔色が青白い、唇の色が薄い
- 動悸(どうき:心臓がどきどきする)や息切れ
- 黄疸(白目や皮膚が黄色っぽくなる)
- おなかの左側が張る(脾臓(ひぞう)という臓器が大きくなることがあります)
- 感染症(発熱やかぜ)にかかりやすい
- 身長や体重の増え方がゆっくりになる
子供の症状
- 母乳やミルクを飲む量が少ない、体重が増えにくい
- ぐったりしている、泣き方が弱い、反応がぼんやりしている
- 顔色が悪い、黄疸が続く
- 成長や発達の遅れが気になる
- 手足が腫れる、触ると痛がる(鎌状赤血球症の子どもの場合)
高齢者の症状
- 長年たまった鉄の影響で、肝臓や心臓に負担がかかることがある
- 骨が弱くなる(骨粗しょう症)
- だるさが続き、日常生活がつらい
- 足の傷や皮膚のトラブルが治りにくい
原因
主な原因
- ヘモグロビンを作る遺伝子(HBB遺伝子など)の生まれつきの変化
- ご両親から受け継ぐ遺伝の特徴(親から子へ受けつがれる体質)
- サラセミアでは、ヘモグロビンの部品(鎖)の量のバランスが崩れる
- 鎌状赤血球症では、ヘモグロビンが変形し、赤血球が鎌(かま)のような形になる
リスク要因
- 家族に同じ病気や保因者がいる
- アフリカ、地中海沿岸、中東、南アジア、東南アジアなどにルーツがある
- 両親が保因者である
- 血縁の近い方との結婚(近親婚)があると、リスクが高まることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱がある、または感染症が疑われる
- 急に強い痛みが出た、手足が腫れた
- 息苦しさが強い、動悸が止まらない
- 黄疸が急に強くなった、尿の色が濃くなった
- ぐったりして元気がない、反応がいつもと違う
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすい、顔色が悪い状態が続く
- 子どもの成長や体重の増え方が気になる
- 家族に同じ病気の人や保因者がいる
- 妊娠を考えている、または妊娠中である
- 海外にルーツがあり、貧血を指摘されたことがある
診断
まず問診と診察で、症状や家族歴、これまでの健康状態をうかがいます。そのうえで血液検査を行い、赤血球の大きさやヘモグロビンの量、形を調べます。必要に応じて、ヘモグロビンの種類を詳しく調べる検査や遺伝子の検査を行うこともあります。
行われる可能性のある検査
- 血算(けっさん:赤血球や白血球、血小板の数を調べる血液検査)
- 網状赤血球数(あみじょうせっけっきゅうすう:新しく作られた赤血球の数)
- ヘモグロビン電気泳動(ヘモグロビンの種類を調べる検査)
- 鉄の状態をみる検査(フェリチン、鉄代謝など)
- 遺伝子検査
- 家族の方の検査
- 腹部超音波検査(脾臓や胆のうの状態をみる)
診察で予想されること
結果が出るまでに数日から数週間かかることがあります。保因者かどうかも検査でわかることがあり、妊娠前や妊娠中のご相談にも役立ちます。結果の説明は主治医から丁寧に受けられますので、わからないことは遠慮なく質問してください。
治療
ヘモグロビン異常症の治療は、症状の重さに合わせて組み立てていきます。症状が軽い場合は、定期的な血液検査で貧血や鉄の状態を見守ることが中心になります。症状が強い場合は、輸血や痛みの発作への対応など、医療機関での治療を組み合わせていきます。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとる(脱水は痛みの発作のきっかけになることがあります)
- バランスのよい食事を心がける
- 疲れをためない、十分な睡眠をとる
- 手洗い・うがいなどで感染症を予防する
- 禁煙する
- 暑さ・寒さを避け、体を冷やしすぎない
- 体調の変化を記録して、診察のときに伝える
医療治療
症状に応じて、輸血、不足しやすい栄養素の補充、痛みの発作の管理、感染症の治療と予防などが行われます。輸血を続けることで体内に鉄がたまりやすくなることがあるため、その状態に合わせた対応も行います。根本的な治療として造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)が検討される場合もあります。具体的な治療方針や薬の内容は、主治医があなたの状態に合わせて判断します。
手術が検討される場合
脾臓が大きくなりすぎて困るときの脾臓摘出、胆石(たんせき)の手術、造血幹細胞移植などが検討されることがあります。手術が必要かどうかは、主治医とよく相談して決めていきます。
この病気と共に生きる
規則正しい生活と水分補給を心がけ、体調の変化を記録しておくと診察のときに役立ちます。発熱や痛みなど、早めに受診したほうがよいサインを家族で共有しておくことも大切です。学校や職場には、必要な配慮についてあらかじめ伝えておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 十分な睡眠と休息をとる
- 手洗い・うがいを習慣にする
- 禁煙し、受動喫煙も避ける
- 無理のない範囲で体を動かす
- 旅行の前には主治医に相談する
- 妊娠を考えたら、早めに主治医や専門医に相談する
食事と運動
バランスのよい食事を基本にしましょう。サラセミアでは体内に鉄がたまりやすいことがあるため、鉄のサプリメントなどは自己判断で使わず、必ず医師や薬剤師に相談してください。運動は水分をとりながら、疲れすぎない範囲で行うのがおすすめです。
精神的健康と心の健康
慢性的な疲れや通院が続くと、気持ちが落ち込んだり、将来のことを心配したりすることがあります。それは自然なことです。ひとりで抱え込まず、家族や友人、医療者に話してみてください。つらい気持ちが続くときは、心理職や相談窓口を利用することもできます。
予防
生まれつきの遺伝の特徴が原因のため、完全に防ぐことは難しい病気です。ただし、妊娠を考えている段階で検査や遺伝カウンセリングを受けることで、保因者かどうかを知ることができます。うつる病気ではありませんので、人に移す心配はありません。
ワクチン
感染症にかかりやすいことがあるため、年齢に応じた予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌、B型肝炎など)を主治医と相談して受けておくと安心です。
検診プログラム
家族歴がある方や、リスクのある地域にルーツのある方は、血液検査を受けてみることを検討してください。妊娠前の検査も可能です。
合併症
治療しない場合
- 強い貧血が続き、日常生活がつらくなる
- 感染症にかかりやすくなり、重症化することがある
- 痛みの発作をくり返す
- 脾臓が大きくなり、おなかの張りや痛みが出る
- 胆石ができる
- 骨が弱くなる(骨粗しょう症)
- 成長や発達の遅れ
- 心臓や肝臓への負担
- 脳卒中のリスクが高まることがある(鎌状赤血球症の場合)
長期的な見通し
ヘモグロビン異常症は、症状の重さに大きな幅があります。多くの方は定期的な診察とセルフケアを続けながら、学校や仕事、家庭生活を送っています。医療は少しずつ進歩しており、希望を持ってよい病気です。自分のペースで、主治医と一緒に治療や暮らし方を考えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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