肝類洞閉塞症候群(VOD/SOS)— 肝臓の細い血管が詰まる病気
概要
肝類洞閉塞症候群(かんるいどうへいそくしょうこうぐん)は、肝臓の中にあるとても細い血管(類洞=るいどう、毛細血管のような血液の通り道)と、その先の小さな静脈が傷ついて詰まってしまう病気です。血液の流れが悪くなるので、肝臓がむくんで大きくなり、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸=おうだん)、体重が急に増える、おなかに水がたまる、といった症状が出ます。英語の略称でVOD(肝静脈閉塞症)やSOS(類洞閉塞症候群)と呼ばれることもあります。多くは、造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく:骨髄移植などの移植)を受けたあとの合併症として起こります。
重要な事実
- 肝臓の細い血管が傷ついて詰まり、血液の流れが悪くなる病気です。
- 多くは造血幹細胞移植のあと数週間以内に起こります。一般の人がかかることはとてもまれです。
- 毎日の体重測定とおなかの周囲の測定が、早期発見にとても役立ちます。
とてもまれな病気です。ふだん健康な人が突然かかることはほとんどありません。造血幹細胞移植を受けた人の一部(数%〜十数%程度)に起こると報告されています。
造血幹細胞移植(骨髄移植・臍帯血移植など)を受けた人、特に移植前の治療が強い人に多くみられます。子どもの移植後にも起こります。また、特定の抗がん剤治療や放射線治療を受けた人、ピロリジジンアルカロイドという成分を含む野草茶やサプリメントを長期間たくさん摂った人にも起こることがあります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い、けいれんがある
- 吐血する、コーヒーの残りかすのようなものを吐く、黒い便が出る
- 息が苦しい、呼吸が速い、話すのがつらい
- おなかが急に大きく張って、ひどく痛む
- 尿がほとんど出ない
- ⚠皮膚や白目が黄色くなった
- ⚠数日のうちに体重が急に増えた
- ⚠おなかが張って苦しい
- ⚠足のむくみが急に強くなった
- ⚠強いだるさで起きていられない
一般的な症状
- 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
- 2〜3日のうちに体重が急に増える(体に水がたまっているサイン)
- おなかが張る、おなかが大きくなる(腹水=ふくすい)
- 右上腹部の痛みや圧迫感、肝臓が大きいと言われる
- 尿の量が減る、足や手のむくみ
- だるさ、食欲がない、気分がすぐれない
- 皮膚のかゆみ
子供の症状
- 体重が急に増える、おなかが張って苦しそう
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 機嫌が悪い、元気がない、眠ってばかりいる
- 母乳やミルクを飲む量が減る、哺乳力が落ちる
- 尿の量が減る、おむつがいつもより軽い
高齢者の症状
- 強いだるさ、食欲低下、体重の変化
- 足のむくみ、息切れ
- 黄疸がはっきりしないまま、なんとなく元気がない
- もともとの持病(心臓・腎臓の病気など)があると、症状が重くなりやすい
原因
主な原因
- 造血幹細胞移植の前に行う強い抗がん剤治療や放射線治療で、肝臓の細い血管の内側が傷つくこと
- 特定の抗がん剤を含む治療(主治医から説明があります)
- ピロリジジンアルカロイドを含む植物(一部の野草茶・サプリメント)を長期間たくさん摂ること
- まれに、肝臓への放射線治療、免疫の病気、遺伝的な体質が関係すること
リスク要因
- 造血幹細胞移植を受けた(特に他人の細胞を使う同種移植)
- 移植前から肝臓の数値が悪い、肝炎の既往がある
- 移植前の治療が強い、複数の治療を重ねた
- 移植の前後に発熱や感染症(敗血症など)があった
- いくつかの薬を同時に使っている
- ピロリジジンアルカロイドを含む野草茶やサプリを摂っている
- 子ども、特に移植後の子ども
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 黄疸が出た、体重が急に増えた、おなかが張る、尿が減ったときは、その日のうちに医療機関へ連絡してください。
- 移植後は、少しでも「いつもと違う」と感じたら、我慢せずにすぐ移植チームに伝えてください。
定期受診を予約すべき場合:
- 移植後は決められた日に必ず通院し、血液検査を受けてください。
- 体重・おなかの周囲・尿の量・飲んだ水分量を記録し、受診時に見せてください。
- 新しい薬、サプリメント、健康食品、野草茶を始める前は、必ず主治医か薬剤師に相談してください。
診断
診察と、症状の組み合わせ(黄疸・体重増加・おなかの張りなど)で疑います。血液検査と超音波検査(エコー)で肝臓の血流やむくみを確認し、必要に応じて画像検査を追加します。移植後は、国際的な診断の目安(基準)に沿って評価することが多く、日本の厚生労働省の研究班による診断の手引きが参考にされることもあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(肝臓の数値、胆のうの数値、血小板、凝固=血液の固まり具合、腎臓の数値)
- 腹部超音波検査(ドプラ法で肝臓の血流を見る)
- 腹部CT検査やMRI検査(必要に応じて)
- 毎日の体重・腹囲・尿量・水分出納の記録
- 肝生検(肝臓の一部を採る検査)— 出血の危険があるため、必要なときだけ行われます
診察で予想されること
診断は、症状・検査・これまでの治療歴を合わせて総合的に判断します。はっきりした検査が一つあるわけではないので、毎日の体重やおなかの変化を記録して伝えることがとても大切です。担当医から、重症度(軽い・中くらい・重い)と、それに合わせた治療の方向性について説明があります。
治療
治療の中心は「早期に見つけること」と「体を支えること(支持療法)」です。原因になっている治療を続けるかどうかは、主治医が移植チームと相談して決めます。体の水分と塩分のバランスを整え、痛みや腹水(おなかの水)をコントロールしながら、肝臓が回復するのを助けます。重症の場合は集中治療が必要になることがあります。
自宅でのセルフケア
- 毎日同じ時間・同じ条件で体重を測って記録する
- おなかの周囲(腹囲)を測って記録する
- 飲んだ水分量と尿の量をメモする
- 医師から指示された水分・塩分の量を守る
- 処方された薬を自己判断でやめたり減らしたりしない
- サプリメント・健康食品・野草茶は、必ず主治医か薬剤師に相談してから
- 手洗い・うがいをしっかり行い、感染症を防ぐ
- 体調の変化(だるさ、かゆみ、食欲、眠り)をメモして受診時に伝える
医療治療
治療には、血管のつまりを和らげることを目指す治療、肝臓を守るための点滴や内服、体の水分バランスを整える治療、腹水や胸の水をやわらげる処置などがあります。重症度に応じて、集中治療室での管理、腎臓の働きを助ける治療、感染症の治療などが組み合わされます。どの治療が適切かは、年齢・移植の種類・肝臓や腎臓の状態によって変わるため、担当医が個別に判断します。具体的な薬の名前や量は、ここではお伝えしません。主治医・薬剤師にご確認ください。
手術が検討される場合
通常は手術は不要です。ごくまれに、肝臓の働きが大きく落ちて他の治療で改善しない場合に、肝移植を専門施設で検討することがあります。
この病気と共に生きる
移植後の一定期間は、体重・腹囲・尿量の記録が生活の一部になります。記録は「監視」ではなく「自分の体を知るための道具」と考えてください。だるさがあるときは無理をせず、こまめに休みましょう。発熱や体調の変化があれば、遠慮せずにすぐ移植チームへ連絡してください。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に休み、睡眠を十分にとる
- 人混みを避け、手洗い・うがい・マスクで感染予防を心がける
- たばこは吸わない。お酒は主治医の指示に従う
- 新しい薬・サプリ・野草茶は、必ず医療者に確認してから使う
- 体調を記録するノートやアプリを活用する
- 家族や友人に、記録の手伝いや通院の付き添いを頼る
食事と運動
食事は、医師や管理栄養士の指示に合わせて塩分と水分を調整します。たんぱく質は適量をとり、極端な食事制限は避けてください。運動は、体調が安定しているときに、散歩など軽いものを無理のない範囲で行います。だるさや息切れがあるときは中止し、主治医に相談してください。
精神的健康と心の健康
移植後の生活は不安が大きく、「また何か起きたらどうしよう」という気持ちは自然なものです。体重を毎日測ることに疲れる日があっても、それはあなたの弱さではありません。気持ちの落ち込みが続くとき、眠れないとき、不安で日常生活がつらいときは、担当医・看護師・緩和ケアや心のケアの担当者に話してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちが出てきたときは、ためらわずに医療者に伝えるか、地域の救急・相談窓口に連絡してください。
予防
ふだん健康な人が気をつける形での予防はあまりありません。移植を受ける人は、移植前の肝臓の状態を確認し、治療の内容を調整すること、そして移植後は毎日の体重・腹囲・尿量の記録で早期発見に努めることが大切です。また、ピロリジジンアルカロイドを含む野草茶やサプリメントを長期間たくさん摂ることは避けてください(厚生労働省も注意を呼びかけています)。
ワクチン
この病気そのものを防ぐワクチンはありません。ただし移植の前後は感染症にかかりやすいため、接種できるワクチンについて主治医と相談しておくと安心です。
検診プログラム
移植を受ける人は、移植前後の定期的な血液検査・体重測定・超音波検査などで、肝臓の状態を継続して確認します。これが早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 肝臓の働きが大きく落ちる(肝不全)
- おなかや胸に水がたまり、息苦しくなる
- 腎臓の働きが悪くなる
- 血液が固まりにくくなり、出血しやすくなる
- 感染症にかかりやすくなる
- 重症の場合、複数の臓器の働きが同時に落ちることがある
長期的な見通し
軽い場合は、数日から数週間で少しずつ改善していくことが少なくありません。重症度によって経過は変わりますが、早期に気づいて対応することで結果が良くなることが知られており、治療法の研究も進んでいます。毎日の記録と早めの相談が、あなたの回復を助ける力になります。
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最終更新: 2026年10月24日
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