遺伝性血管性浮腫(HAE)
概要
遺伝性血管性浮腫(いでんせいけっかんせいふしゅ、HAE)は、体のあちこちが突然、数時間から数日かけて大きく腫れる発作を繰り返す病気です。腫れは顔や手足、おなかの中、そしてのどなどに起こります。アレルギーとは仕組みが違い、かゆみやじんましんは少ないのが特徴です。のどが腫れると息が通りにくくなることがあるため、そこだけは早めの対応が大切です。
重要な事実
- 遺伝子の変化によって起こる生まれつきの体質で、親から子へ受けつがれることが多い病気です。
- 腫れは数時間〜2〜3日ほど続き、自然にひいても、また繰り返すことがあります。
- アレルギーの薬(抗ヒスタミン薬やステロイド)が効きにくいのが特徴です。
- のどや舌が腫れたときは命に関わることがあるため、ためらわず救急(119)を呼んでください。
- 日本では指定難病に認定されており、専門医と相談しながら発作を防ぐ治療を続けられます。
とてもまれな病気です。海外のデータでは数万人に1人程度といわれ、日本でも患者さんは多くありません。そのため、腫れを繰り返していても別の病気と考えられてしまうことがあります。
生まれつきの体質によるため、男女どちらにも同じように起こります。子どものころから思春期ごろに腫れを繰り返し始めることが多いですが、大人になってから初めて気づく方もいます。家族の中に同じように腫れを繰り返す人がいることがよくあります。
症状
- のど、舌、首のあたりが腫れている
- 声がかすれる、声が出にくい、いつもと声が違う
- 息が苦しい、ゼーゼーする、呼吸が速い
- 飲み込みにくい、唾液が飲み込めない、よだれが出る
- 顔色が悪い、話すのがつらい、意識がぼんやりする
- ⚠今までに経験したことのない腫れが初めて出た
- ⚠強い腹痛やおう吐が続き、水分がとれない
- ⚠顔や手足の腫れで、仕事や学校、家事が難しい
- ⚠腫れがどんどん広がっている、またはいつもより長引いている
一般的な症状
- 顔(まぶた・くちびる)、手、足、陰部などの皮膚が、むくんだように大きく腫れる
- 腫れる前に、その部分がチクチクする、熱っぽい、かゆいなどの前ぶれを感じることがある
- おなかの中が腫れて、強い腹痛、吐き気、おう吐、下痢、おなかの張りが起こる
- のどや舌、首のあたりが腫れて、声がかすれる、飲み込みにくい、息が苦しいと感じる
- 発作の前にだるさや気分の変化を感じることがある
- 腫れは数時間かけて大きくなり、1〜3日ほどで少しずつ引いていく
子供の症状
- 思春期までは発作が軽かったり、ほとんど目立たなかったりすることがあります
- おなかの痛みが主な症状として現れ、胃腸の病気と間違われることがあります
- 泣きすぎたとき、転んだとき、歯の治療のあとなどに腫れが出やすいことがあります
- 家族に同じ病気の人がいる場合は、症状が出る前から小児科の先生に伝えておくと安心です
高齢者の症状
- 年齢を重ねてから症状の出方が変わることがあります
- 血圧の薬の一部(ACE阻害薬)や、女性ホルモンを含む薬が腫れのきっかけになることがあるため、服用中の薬は必ず医師に伝えてください
- 心臓や腎臓の病気によるむくみとの区別が必要になることがあります
- 持病の薬が増える時期は、かかりつけ医と発作の計画を話し合っておくと安心です
原因
主な原因
- 体の中で血管を守る「C1インヒビター」というたんぱく質が、生まれつき足りない、または十分に働かないことで起こります
- その原因となる遺伝子の変化を、親から子へ受けつぐことが多い病気です(常染色体優性といい、親がこの体質なら子に伝わる可能性があります)
- まれに、家族に同じ病気の人がいないのに遺伝子の変化が新しく起こる場合もあります
- C1インヒビターが足りないと、血管のすき間から水分がしみ出しやすくなり、皮膚や粘膜が大きく腫れます
リスク要因
- 家族に同じように腫れを繰り返す人がいる
- ストレス、疲れ、睡眠不足
- けが、転倒、手術、歯の治療などの体への刺激
- かぜや感染症
- 女性の場合、月経の周期
- 女性ホルモン(エストロゲン)を含む薬や、血圧の薬の一部(ACE阻害薬)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- のどや舌の腫れ、声のかすれ、息苦しさがある(ためらわず119番へ)
- 初めて経験する腫れが出た
- 強い腹痛やおう吐が続き、水分がとれない
- 腫れがいつもより急に広がっている
定期受診を予約すべき場合:
- 理由のわからない腫れを繰り返している
- 腫れに、かゆみやじんましんがほとんどない
- 家族に同じように腫れる人がいる
- すでに診断を受けていて、発作の頻度や生活への影響を相談したい
- 妊娠や出産、旅行、引っ越しなど、生活の変化を前に相談しておきたい
診断
腫れの出方(繰り返す、かゆみが少ない、アレルギーの薬が効かない、家族歴があるなど)を詳しく聞いたうえで、血液検査で確かめます。血液検査では、体の中のC1インヒビターの量や働き、関連する数値を調べます。必要に応じて遺伝子の検査を行うこともあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:C4という数値(C1インヒビターの働きを反映します)
- 血液検査:C1インヒビターの量
- 血液検査:C1インヒビターの働き(活性)
- 遺伝子検査(診断を確実にしたいときや、家族の検査のため)
- 腹部の超音波検査など(おなかの痛みの原因が他にないか確認するため)
- 家族の方の血液検査(症状が出ていなくても調べることがあります)
診察で予想されること
血液検査の結果が出るまでに数日から数週間かかることがあります。診断がついたら、専門医と一緒に「発作が起きたときどうするか」という行動計画を作ります。発作の記録(いつ、どこが、どれくらい腫れたか)をつけておくと、診断にも治療の相談にも役立ちます。
治療
治療の目的は3つあります。ひとつは発作が起きたときに早く腫れをしずめること、もうひとつは発作を繰り返さないように予防すること、そして腫れを引き起こすきっかけをできるだけ避けることです。症状の出方には個人差が大きいため、専門医と相談しながら自分に合った方法を選んでいきます。
自宅でのセルフケア
- 発作の記録をつける(日時、腫れた場所、きっかけに心当たりがあるか、どれくらい続いたか)
- 睡眠と休養をとり、ストレスをためすぎないようにする
- のどが腫れたときの動き方を家族や職場・学校の人と共有しておく
- 外出時や旅行時には、緊急時の連絡先や診断がわかるものを携帯する
- 服用中の薬(特に血圧の薬や女性ホルモンを含む薬)は、自己判断でやめずに医師に相談する
- 歯の治療や手術、出産など体に負担がかかる予定があるときは、早めに医師に伝える
医療治療
発作が起きたときの治療と、発作を防ぐための治療があります。発作時の治療では、足りなくなっているC1インヒビターというたんぱく質を補ったり、腫れを引き起こす体内の物質の働きをブロックしたりする方法が用いられます。発作を繰り返す方には、日ごろから発作を予防する治療を続けることがあります。歯の治療や手術の前など、発作が起きやすい場面では短期間の予防を行うこともあります。どの方法が合うかは、発作の頻度や生活スタイルによって変わるため、専門医と相談して決めてください。
手術が検討される場合
手術や歯の治療、出産などは発作のきっかけになることがあります。予定が決まった時点で担当医と専門医に伝え、必要に応じて事前の予防的な対応を相談しておくと安心です。
この病気と共に生きる
発作は突然やってくるため、「もし腫れたらどうするか」をあらかじめ決めておくことが生活の安心につながります。緊急時の連絡先、かかりつけ医の情報、のどが腫れたときはすぐ救急を呼ぶという約束を、家族や身近な人と共有しておきましょう。学校や職場には、必要な範囲で病気のことを伝えておくと対応がスムーズになります。
生活習慣のアドバイス
- 発作のきっかけになりやすいこと(疲れ、睡眠不足、けが、感染症など)を記録して傾向を知る
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
- 体調がすぐれないときは無理をせず早めに休む
- 女性ホルモンを含む薬や一部の血圧の薬を使う前に、必ず医師に病気のことを伝える
- 海外や遠方への旅行では、出発前に主治医と相談し、緊急時の備えを確認する
- 医療者に伝わりやすいよう、診断名を書いたカードやアプリを活用する
食事と運動
遺伝性血管性浮腫に特別な食事制限はないことが多く、バランスのよい食事を楽しんで問題ありません。運動も大切ですが、ぶつけたり転んだりしやすい激しい運動のあとに腫れが出た経験がある場合は、内容を工夫したり、あらかじめ医師に相談したりしましょう。水分をこまめにとることも体調管理に役立ちます。
精神的健康と心の健康
「いつ腫れるかわからない」という不安は、とても自然な気持ちです。発作への恐怖から外出を控えたくなったり、学校や仕事に集中しづらくなったりすることがあります。つらい気持ちが続くときは、ひとりで抱え込まずに医師や看護師、家族、そして相談窓口に話してください。気持ちを話すこと自体が、安心につながります。もし自分を傷つけたいと考えてしまうようなことがあれば、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。
予防
生まれつきの体質が原因のため、病気そのものを防ぐことはできません。ただし、発作が起きるきっかけを避けること、予防的な治療を続けること、のどが腫れたときにすぐ対応できるように準備しておくことで、発作の影響を大きく減らせます。家族に患者さんがいる場合は、症状がない方も検査を受けられることがあり、早めの診断につながります。希望があれば遺伝カウンセリングも相談できます。
ワクチン
この病気に特効のワクチンはありません。インフルエンザや肺炎などの一般的な予防接種は、多くの場合受けることができますが、体調や治療の内容によって判断が変わるため、接種前に医師に相談してください。
検診プログラム
家族に遺伝性血管性浮腫の方がいる場合は、症状が出ていなくても血液検査で調べられることがあります。日本では指定難病として、診断基準に基づく認定の仕組みがあります。詳しくは主治医や地域の難病相談窓口にご相談ください。
合併症
治療しない場合
- のどや舌が腫れると、息の通り道が狭くなり、窒息につながることがあります
- おなかの発作が胃腸の病気と間違われ、不要な検査や手術を受けてしまうことがあります
- おう吐や腹痛で水分がとれず、脱水になることがあります
- 腫れを繰り返すことで、学校や仕事を休む日が増え、生活の質が下がることがあります
- 不安や緊張が続き、外出や人との交流を控えてしまうことがあります
長期的な見通し
遺伝性血管性浮腫は、正しく診断され、発作への備えと予防の治療を続けることで、多くの方がふだんと変わらない生活を送れるようになっています。のどが腫れたときのサインを家族と共有し、早めに助けを求めることが何より大切です。診断がついたこと自体が、安心への第一歩になります。
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最終更新: 2026年11月3日
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