遺伝性果糖不耐症(果糖をうまく処理できない体質)
概要
遺伝性果糖不耐症(いでんせいかとうふたいしょう)は、果物やお菓子などに含まれる「果糖」を体の中でうまく処理できない生まれつきの体質です。体の中では、果糖を分解する「アルドラーゼB」という酵素(体の中で化学反応を助けるたんぱく質)が働いています。この酵素が生まれつき十分に働かないため、果糖が体にたまってしまい、気分が悪くなったり、血糖が下がったり、肝臓に負担がかかったりします。果糖だけでなく、砂糖(ショ糖)や、一部の甘味料(ソルビトール)も体の中で果糖に変わります。つまり、甘いものや果物をとったあとに具合が悪くなる体質、というイメージです。ただし、同じ食べ物をとっても症状が出ない人も多く、症状の出方には個人差があります。
重要な事実
- 生まれつきの体質(遺伝)で、両親から受け継ぐことがあります。うつる病気ではありません。
- 治療の中心は「果糖・ショ糖・ソルビトールをできるだけ避ける食事」です。特別な薬で治す病気ではありません。
- きちんと食事に気をつければ、多くの人はふだんどおりの生活を続けられます。
とても珍しい病気で、欧米の報告では数万人に1人程度といわれています。日本では報告がさらに少なく、実際には気づかれていない人もいると考えられています。珍しいからこそ、診断までに時間がかかることがあります。
生まれつきの体質なので、赤ちゃんのころから起こりえます。母乳やミルクには果糖がほとんど入っていないため、離乳食で果物やジュース、砂糖が入った食品を始めたころに初めて症状が出ることが多いです。大人になって、食後の強いおなかの不快感や肝臓の検査の異常から見つかることもあります。男女差はありません。
症状
- 意识(いしき)がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い
- けいれんが起きた、体が硬直して震える
- 呼吸が苦しそう、息が浅い、顔色が青白い
- ぐったりして立てない、会話ができない
- ⚠嘔吐が何度も続き、水分がとれない
- ⚠尿がほとんど出ない、口の中が乾いて脱水のようだ
- ⚠皮膚や目の白い部分が黄色くなってきた
- ⚠血が混じった嘔吐や便が出た
- ⚠低血糖の症状(冷や汗・ふるえ・ぼんやり)が食事でよくならない
一般的な症状
- 果物・ジュース・砂糖入りのお菓子などをとってから30分〜数時間後に、吐き気や嘔吐(おうと)が起こる
- おなかの痛み、おなかの張り、下痢
- 血糖が下がることによる症状:冷や汗、手のふるえ、力が入らない、ぼんやりする、強い空腹感
- 食欲がなくなる、気分が悪くて食べられない
- だるさ、頭痛
子供の症状
- 授乳のあとや、果物・ジュースを始めたころから繰り返し吐く
- 体重が増えにくい、身長が伸びにくい(成長の遅れ)
- ぐったりして元気がない、眠りがち
- 皮膚や目の白い部分が黄色くなる(黄疸=おうだん)
- おなかが張る、肝臓がはれていると言われる
- 低血糖によるけいれんや意识(いしき)がぼんやりする episodes が起こることがある
高齢者の症状
- 大人になってから、食後の強いおなかの痛みや吐き気が繰り返す
- 甘いものや果物を自然と避けるようになり、本人も理由に気づいていないことがある
- 健康診断の肝機能検査で異常を指摘される
- 虫歯がとても少ない、甘いものを極端に好まない、といった特徴が手がかりになることがある
- 長年かけて肝臓への負担が蓄積し、検査で見つかることもある
原因
主な原因
- 「ALDOB」という遺伝子(体の設計図のひとつ)の変化により、果糖を分解する酵素「アルドラーゼB」が十分に働かないこと
- 両親から1つずつ変化した遺伝子を受け継ぐ「常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)」という遺伝のしかたをします
- 果糖・ショ糖(砂糖)・ソルビトール(一部の甘味料)をとると、分解されない中間物質が体にたまり、肝臓や腎臓に負担をかける
- 食事や生活習慣でこの体質になるわけではありません。うつる病気でもありません
リスク要因
- 家族の中に、果物や甘いものをとったあとに具合が悪くなる人がいる
- 両親が保因者(遺伝子の変化を1つ持っているが症状がない人)である
- 血のつながりの近い親族どうしの結婚がある家系(ただし、多くは偶然によるものです)
- 赤ちゃんで、離乳食開始後に繰り返す嘔吐や体重増加不良がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 果物・ジュース・甘いものをとったあとに、嘔吐が繰り返して水分がとれないとき
- ぐったりしている、反応がいつもと違う、けいれんがあったとき
- 皮膚や目の白い部分が黄色くなったとき
- 尿が極端に少ない、強く乾いているように見えるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 食後におなかの痛みや吐き気、下痢が何度も繰り返す
- 甘いものや果物を食べると決まって具合が悪くなる自覚がある
- お子さんの体重や身長の増えが気になる
- 健康診断で肝機能の異常を指摘された
- 家族に同じような体質の人がいて、自分や子どもも心配になった
診断
まず、どんな食べ物をとったあとに、どんな症状が、どのくらいの時間で出たかをくわしく聞きます。食事の記録がとても役に立ちます。そのうえで血液検査や遺伝子の検査を行い、必要であれば専門医のもとで確認の検査をします。自己判断で果糖をたくさんとって試すことは危険なことがあるので、絶対にやめてください。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:血糖値、肝機能の数値、電解質(体の塩分バランス)を確認
- 尿検査:尿の中の成分を調べる
- 遺伝子検査:ALDOB遺伝子の変化があるかを調べる(確定診断の助けになります)
- 食事記録(フードダイアリー):症状と食べ物の関係を整理
- 専門医のもとで行う負荷試験:果糖を少量とって反応を見る検査。危険を伴うことがあるため、必ず医療機関で行います
診察で予想されること
診断までは、問診と食事記録に加えて血液検査や遺伝子検査が必要になり、結果が出るまで数週間かかることがあります。小児科や消化器内科、場合によっては遺伝の専門医(臨床遺伝専門医)を紹介されることがあります。遺伝子検査を受ける前には、結果が家族にも関係することを含めて、説明と相談の時間が設けられます。
治療
遺伝性果糖不耐症は、体質そのものを変える治療はありません。治療の中心は、果糖・ショ糖(砂糖)・ソルビトールをできるだけ避ける食事療法です。これを続けることで、おなかの症状や低血糖、肝臓への負担をかなり防げます。症状が強いときは、医療機関で血糖を整えたり水分を補ったりする処置が必要になることがあります。
自宅でのセルフケア
- 食品の成分表示を読む習慣をつける(砂糖・果糖・果糖ぶどう糖液糖・ソルビトール・はちみつ・濃縮果汁などに注意)
- 果物、果汁ジュース、はちみつ、砂糖を多く使ったお菓子や飲み物を避ける
- 外食のときは、砂糖や果物を使っていないかを店の人に確認する
- 低血糖に備えて、医師や栄養士の指示に沿って砂糖以外の糖(ブドウ糖など)を携帯する
- 自分がこの体質であることを伝えるカードやメモを持ち歩く
- 体調が悪いときの食事は、かかりつけ医や栄養士に相談して決める
医療治療
症状が強いときは、医療機関で血糖値を整える処置や、失った水分・塩分を補う点滴が行われます。ふだんは、管理栄養士による食事指導が中心になります。成長期の子どもでは、身長・体重の伸びや肝機能を定期的に確認し、不足しがちな栄養(ビタミンなど)を補うことがあります。特定の薬の名前や量を自分で判断して使うことは避け、必ず医師・薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
手術で治る病気ではありません。治療はあくまで食事の管理と、症状が出たときの医療的なサポートが中心です。
この病気と共に生きる
毎日の食事で「何を避けるか」を覚えることが、いちばんの近道です。最初は成分表示を見るのが大変に感じますが、よく使う食品をリストにしておくとぐっと楽になります。家族や同居する人が同じ理解を持ってくれると、食事の準備も外出もずっと安心です。
生活習慣のアドバイス
- よく使う食品の「食べてよいもの・避けるもの」リストを冷蔵庫に貼っておく
- 学校や職場、保育園には、アレルギーと同じように事前に伝えておく
- 旅行や外食のときは、あらかじめお店やメニューを確認しておく
- 低血糖の初期サイン(冷や汗・ふるえ・ぼんやり)を自分と家族が知っておく
- 定期的な通院を続け、肝機能や成長の様子を確認する
食事と運動
食事は、果糖・ショ糖・ソルビトールを避けたうえで、ごはん・パン・めん類などのでんぷん、肉・魚・卵・大豆製品、野菜などをバランスよくとることが大切です。乳製品の多くは比較的問題になりにくいといわれますが、個人差があるので栄養士に相談してください。運動そのものは制限されませんが、食事の間隔が空きすぎると低血糖が起きやすくなることがあります。長時間の運動の前後は、医師や栄養士に相談したうえで補食を考えましょう。
精神的健康と心の健康
毎日の食事で気をつけることが多く、外食や行事のたびに不安になったり、まわりに説明するのが疲れたりすることがあります。これは自然な気持ちです。ひとりで抱え込まず、家族や医療者に話してみてください。気分の落ち込みが続くとき、眠れない日が続くとき、不安が強いときは、かかりつけ医や地域の保健相談窓口、専門の相談機関に早めに相談してください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわずに医療機関や緊急の相談窓口を頼ってください。
予防
生まれつきの遺伝的な体質なので、発症そのものを防ぐことはできません。ただし、早く気づいて食事を工夫すれば、症状や肝臓への負担を大きく減らせます。家族に同じ体質の人がいる場合は、妊娠前や出産前に医師や遺伝カウンセリングの担当者に相談しておくと安心です。
検診プログラム
日本では、この病気は一般的な新生児マススクリーニング(生まれたばかりの赤ちゃんに行う検査)には含まれていないことが多いです。家族歴がある場合などは、遺伝カウンセリングや保因者(症状のない遺伝子の持ち主)の検査について、医師に相談してみてください。
合併症
治療しない場合
- 低血糖が繰り返されることによる、けいれんや意识(いしき)障害
- 肝臓に負担がたまり続けることによる肝障害、まれに肝不全
- 成長期の子どもの身長・体重の伸びの遅れ
- 腎臓への負担(尿の異常や腎機能の低下)
- 骨の密度が下がる、栄養が偏るなどの二次的な影響
長期的な見通し
遺伝性果糖不耐症は、きちんと食事を管理すれば、症状をほとんど出さずに生活できることが多い病気です。子どものころに気づいて食事を整えることで、成長も取り戻せます。大人になって診断された場合も、食事を見直すことで体調が改善したという報告があります。珍しい病気で不安になるかもしれませんが、主治医・管理栄養士と一緒に自分に合った食事の形を作っていくことが、いちばんの近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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