レスリング疱疹(ハープス・グラディアトルム)
概要
レスリング疱疹(ハープス・グラディアトルム)は、単純ヘルペスウイルスというウイルスが皮膚に感染しておこる病気です。名前のとおり、レスリングや柔道など、肌と肌が強くぶつかり合うスポーツの選手のあいだで広がりやすいのが特徴です。感染すると、皮膚に赤みや小さな水ぶくれがあらわれ、チクチクする痛みやかゆみをともなうことがあります。ウイルスは肌の直接的な接触や、マット・タオル・ユニフォームなど共有したものを通してうつります。決して「不潔だからなる病気」ではなく、接触の多いスポーツでは誰にでも起こりうる感染症です。
重要な事実
- 肌と肌の接触、またはウイルスがついたタオル・マット・衣類などを介してうつります。
- 水ぶくれの中の液体にはウイルスが多く含まれ、つぶすと他の部位や他の人に広がりやすくなります。
- 多くの場合は数週間で自然に治りますが、症状が消えたあともウイルスは体の中に残り、疲れやストレスで再びあらわれることがあります。
コンタクトスポーツ(肌が直接ふれ合うスポーツ)の選手のあいだでは、決してめずらしい病気ではありません。海外のレスリング選手の調査でも一定の割合で見つかることが報告されています。日本でも、レスリング・柔道・ラグビー・総合格闘技などの現場で注意が必要な感染症として知られています。
レスリング、柔道、ラグビー、アメフト、総合格闘技など、肌の接触が多いスポーツをする人に多くみられます。選手だけでなく、コーチや家族など、患部に直接ふれる機会のある人にもうつる可能性があります。子どもの選手では症状が広がりやすく、周囲の大人が気づいてあげることが大切です。
症状
- 意識がもうろうとしている、返事がおかしい、けいれんが起きた
- はげしい頭痛と首の硬さが同時にあり、吐き気をともなう
- 高熱が続き、ぐったりして水分もとれない
- 赤みが急速に広がり、皮膚が熱く腫れ上がって痛みが強い(細菌感染が重くなった可能性)
- ⚠目や目のまわりに水ぶくれができた、目が痛い、光がまぶしい、見えにくい
- ⚠顔や首に広がっている、または水ぶくれがどんどん増えている
- ⚠初めての症状で、痛みや発熱が強い
- ⚠乳児や、免疫の働きが弱い人(治療中の病気がある人など)に症状が出た
一般的な症状
- 皮膚の赤みと、その上にできる小さな水ぶくれ(水疱)
- できはじめのチクチクする感じ、痛み、かゆみ
- 水ぶくれが破れて、ただれたりかさぶたになったりする
- 患部の近くのリンパ節が腫れて、押すと痛む
- 発熱、だるさ、頭痛など、かぜに似た全身の症状
子供の症状
- 機嫌が悪い、ボーッとしているなど、様子がいつもと違う
- 患部をかきむしってしまい、とびひのように広がることがある
- 口のまわりや顔にできると、食事や飲みものを嫌がることがある
- 発熱やだるさで、練習や学校を休みたがる
高齢者の症状
- 治るまでに時間がかかることがある
- 免疫の働きが弱まっていると、症状が広い範囲に及ぶことがある
- 帯状疱疹(たいじょうほうしん)との区別が必要になることがある
- もともとの持病がある場合は、体調の変化に注意が必要
原因
主な原因
- 単純ヘルペスウイルス(口のまわりにできる「口唇ヘルペス」と同じ仲間のウイルス)による感染
- 患部と肌が直接ふれ合うこと(組み合い、タックル、密着した練習など)
- ウイルスがついたマット、タオル、ユニフォーム、水筒、ヘッドギアなどの共用
- 水ぶくれが破れた液にふれること
リスク要因
- レスリングや柔道など、肌の接触が多いスポーツをしている
- 皮膚に傷や擦り傷がある(ウイルスが入りやすい)
- タオルや衣服、練習用具を仲間と共用している
- 睡眠不足・疲労・強いストレスで体の抵抗力が落ちている
- 免疫の働きが弱くなる治療を受けている、または病気がある
- 症状が出ている人と同じマットや更衣室を使った
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 目や目のまわりに症状がある、目が痛い、見えにくい(眼科を早めに受診してください)
- 顔や首に広がっている、水ぶくれがどんどん増えている
- 高熱、はげしい痛み、患部が熱く腫れて痛む
- 生後6か月未満の赤ちゃんに症状が出た
- 免疫の働きが弱い人に症状が出た
定期受診を予約すべき場合:
- 皮膚に赤みや水ぶくれが出て、チクチクする痛みがある
- かぜのような症状と一緒に、皮膚の症状が出てきた
- 以前にも同じような症状が出たことがあり、今回はじめて受診する
- 試合や大会に出る前に、皮膚の症状が気になる
診断
医師はまず、症状の出かた、スポーツの種類、周囲に同じ症状の人がいないかなどを聞きながら、皮膚の様子を診察します。見た目だけでは、とびひ(細菌感染)や帯状疱疹、アレルギーによる湿疹と区別がつきにくいことがあります。そのため、必要に応じて水ぶくれの液を採取して検査することがあります。
行われる可能性のある検査
- 診察(皮膚の状態、症状の経過、スポーツ歴の聞き取り)
- 水ぶくれの液を綿棒で採取して調べるウイルス検査(ウイルスの遺伝子を調べる検査や培養検査)
- 血液検査(ウイルスに対する体の反応を調べる、他の病気との区別のため)
- 細菌感染が疑われる場合の皮膚の検査
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに数日かかることがあります。診断がつくまでのあいだは、患部を清潔に保ち、タオルや衣服を家族や仲間と共用しないようにしてください。結果が出る前に症状が軽くなることもありますが、自己判断で「もう治った」と決めずに、医師の指示に従いましょう。
治療
レスリング疱疹は、多くの場合、体の免疫の働きによって自然に治っていきます。治療の目的は、症状を早く軽くすること、つらい痛みをやわらげること、そして他の人や自分の別の部位に広げないことです。症状が出てから早い時期に治療を始めると効果的といわれているため、気づいたら早めに受診することが大切です。
自宅でのセルフケア
- 患部を石けんでやさしく洗い、清潔で乾いた状態を保つ
- 水ぶくれは絶対につぶさない、かかない(ウイルスが広がります)
- タオル、衣類、寝具、水筒、ヘッドギアなどは家族や仲間と共用しない
- 症状が消えるまでは、練習や試合、プール、サウナを休む
- 患部をガーゼなどで覆い、触れないようにする
- 睡眠と休息を十分にとり、体の抵抗力を保つ
- 痛みや発熱がつらいときは、薬剤師や医師に相談する
医療治療
医師の判断で、ウイルスの増殖を抑えるタイプの薬(抗ウイルス薬)が使われることがあります。症状が出てから早い段階で使い始めると、水ぶくれが増えるのを抑えたり、治るまでの期間を短くしたりできると考えられています。痛みや発熱が強いときは、症状をやわらげるための対応が行われます。皮膚の細菌感染を合併している場合は、そちらへの対応も必要になります。具体的な薬の種類や使い方は、医師の診察を受けたうえで決まります。自己判断で薬を使ったり、以前に処方された薬を残しておいて使ったりすることは避けてください。
手術が検討される場合
レスリング疱疹はウイルスによる皮膚の感染症で、通常は手術が必要になる病気ではありません。ただし、細菌感染が重くなって膿がたまった場合など、まれに外科的な処置が必要になることがあります。その判断は医師が行います。
この病気と共に生きる
症状が出ているあいだは、患部を清潔に保ち、覆って、他の人にうつさないようにすることが一番大切です。練習や試合を休むのはつらいかもしれませんが、それは自分と仲間を守るための大事な期間です。症状が落ち着いてきたら、医師に「いつから練習に戻ってよいか」を確認しましょう。自己判断で早く戻ると、再発や仲間への感染につながることがあります。
生活習慣のアドバイス
- 練習着やタオルは毎回洗濯し、清潔なものを使う
- マットや器具の清掃・消毒に協力する
- 患部を触ったあとは必ず手を洗う
- 症状があるあいだは、共同のシャワーやサウナを避ける
- 睡眠をしっかりとり、無理な減量や過度な疲労を避ける
- 体調がすぐれないときは練習を休む勇気を持つ
食事と運動
特別な食事制限は必要ありません。バランスのよい食事と十分な水分、そしてしっかりとした睡眠が、体の抵抗力を保つ助けになります。症状が強いあいだは激しい運動を控え、散歩など軽い活動にとどめましょう。治ったあとは、少しずつ元のトレーニングに戻していけば大丈夫です。復帰のタイミングについては、医師やトレーナーに相談してください。
精神的健康と心の健康
「自分が仲間にうつしてしまったらどうしよう」「試合に出られない」「また再発するのでは」といった不安や、落ち込みを感じる人は少なくありません。感染症は誰にでも起こることで、あなたの責任ではありません。不安が強いときや気持ちが沈みがちなときは、ひとりで抱えこまず、コーチや家族、医療機関に話してみてください。つらい気持ちが長く続く場合は、地域の相談窓口や心の健康の相談先を利用することも大切です。緊急を要すると感じたら、迷わず119番に連絡してください。
予防
完全に防ぐことは難しいですが、日常生活とスポーツ現場での工夫で、広がりを大きく減らすことができます。症状がある人が練習を休むこと、そしてマットや用具を清潔に保つことの二つが特に大切です。
ワクチン
現在、レスリング疱疹(単純ヘルペスウイルスによる皮膚感染)を防ぐワクチンは、日本では実用化されていません。ワクチンの状況は研究が進む可能性があるため、最新の情報はかかりつけ医や自治体の案内で確認してください。
合併症
治療しない場合
- 水ぶくれが体の広い範囲に広がる
- 細菌の二次感染を起こし、とびひのように膿んだり、跡が残ったりする
- 目に感染して角膜炎を起こし、視力に影響することがある
- アトピー性皮膚炎など皮膚の弱い人では、症状が重症化することがある
- まれですが、ウイルスが脳に及んで髄膜炎や脳炎を起こすことがある
- 新生児や免疫の弱い人にうつると、重い病気になることがある
長期的な見通し
多くは1〜3週間ほどで自然に落ち着き、日常生活に戻れます。症状が消えたあともウイルスは体内に残り、疲れやストレスをきっかけに再び症状が出ることがありますが、2回目以降は軽いことが多いといわれています。早めに受診し、症状があるあいだは無理をせず休むことが、早い回復への近道です。不安なことは、遠慮せず医師にたずねてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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