高地肺水腫(こうちはいすいしゅ)— 高い山で息が苦しくなったら
概要
高地肺水腫は、標高の高い場所(おおよそ2500メートル以上)に登ったとき、肺の血管から水分がしみ出して肺の中に水がたまってしまう病気です。肺は酸素を取り込む器官なので、水がたまると酸素がうまく取り込めなくなり、息苦しさがどんどん強くなります。数時間から数日のうちに急に悪くなることがあり、命に関わる緊急の病気です。ただし、早く気づいて下山(標高を下げること)すれば、多くの場合は改善します。
重要な事実
- 高い場所に急に登ったときに起こりやすく、ふつうは登って1〜4日目に現れます
- 安静にしていても息苦しい、咳が続く、唇や爪が青っぽくなるなどが代表的なサインです
- 最も大切で効果的な対応は「標高を下げること」と「早めに医療の助けを求めること」です
高地に登る人の多くは発症しませんが、3000メートルを超えるような高い場所では一定の割合で起こります。登る高さ、上がる速さ、体質によって大きく変わります。
健康な若い人でも起こります。特に、普段は平地に住んでいて急に高い場所へ行った人、過去に高地で具合が悪くなったことがある人、かぜや気管支の病気がある人に起こりやすいとされています。子どもや高齢者も発症しますが、症状の出方が違うことがあります。
症状
- 安静にしていても息ができない、呼吸がとても苦しい
- 唇や顔が青紫色になっている
- ピンク色や泡状の痰が出る、血が混じった痰が出る
- 会話ができない、歩けない、意識がぼんやりしている
- 反応が鈍い、呼びかけに答えられない、けいれんがある
- ⚠高い場所で咳が続き、息苦しさが強くなってきている
- ⚠横になると息苦しい、夜眠れない
- ⚠頭痛や吐き気が強くなり、食欲がまったくない
- ⚠同じ標高にとどまっているのに、症状がどんどん悪くなる
一般的な症状
- 安静にしていても息苦しい、息が速い
- はじめは乾いた咳、だんだん痰がからむ咳になる
- 胸が締めつけられる感じ、胸の重苦しさ
- 体がだるい、力が入らない、歩くのがつらい
- 頭痛、食欲がない、気持ちが悪い
- 夜眠れない、横になると息苦しさが増す
- 唇や爪の色が青紫っぽくなる(チアノーゼ)
- ピンク色や泡のような痰が出る(血が混じることがある)
子供の症状
- 不機嫌で泣き続ける、あやしても落ち着かない
- 母乳やミルクを飲まない、食欲が落ちる
- 呼吸が速い、鼻の穴がふくらむ、肋骨の間がへこむ(陥没呼吸)
- 顔色が青白い、唇の色が悪い
- ぐったりして反応が鈍い、元気がない
高齢者の症状
- 息切れを「年のせい」「疲れのせい」と思い込みやすい
- 心臓や肺の持病の悪化と見分けがつきにくい
- はっきりした咳や痰が出ず、だるさや食欲低下だけで進むことがある
- 動悸やむくみなど、別の症状として現れることがある
原因
主な原因
- 高い場所では気圧が低く、空気中の酸素が薄くなること
- 酸素が足りない状態に体がうまく適応できず、肺の血管の圧が上がって水分がしみ出してしまうこと
- 短時間で一気に標高を上げること(体が慣れる前に高い場所へ行くこと)
- 高地で無理な運動をしたり、寒さに長時間さらされたりすること
リスク要因
- 標高を急に上げた(1日に大きく高度を上げた)
- 過去に高地肺水腫や高地脳浮腫(高い場所で起こる脳のむくみ)になったことがある
- 普段は平地に住んでいて、慣れていない
- かぜや気管支炎、肺炎など呼吸器の調子が悪い
- 心臓や肺に持病がある
- 高地で強い運動をした、十分に休まない
- 睡眠導入剤などの一部の薬は呼吸を抑えることがあるため、高地へ行く前に医師や薬剤師に相談することが大切です
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 高い場所で咳や息苦しさが出て、休んでも良くならないとき(まず標高を下げ、医療機関や山岳救助に連絡を)
- 頭痛や吐き気が強く、水分もとれないとき
- 症状が軽くても、同じ標高にとどまらず下山し、早めに医療機関を受診してください
定期受診を予約すべき場合:
- 高地へ行く前に、心臓や肺の持病があると言われたことがある方はかかりつけ医に相談しておく
- 過去に高地で具合が悪くなったことがある方は、次の旅行や登山の前に相談しておく
- 帰ってきてからも息苦しさや咳が続くときは、早めに受診する
診断
高地では、症状と「どれくらいの高さに、どれくらいの速さで上がったか」を聞いて判断されることが多いです。息苦しさ、咳、唇の色、体の酸素の量(パルスオキシメーターという指にはさむ機械で測ります)などを確かめます。平地の医療機関では、胸部レントゲンや血液検査などで他の病気(肺炎や心不全など)との区別を行います。
行われる可能性のある検査
- 問診(登った高さ、上がる速さ、症状の出方、これまでの既往)
- 診察(呼吸の様子、肺の音、唇や爪の色、意識の状態)
- パルスオキシメーターで血中の酸素の量を測る
- 胸部レントゲン検査
- 血液検査
- 心電図や心臓の超音波検査(心臓の病気との区別のため)
診察で予想されること
検査で痛いことはほとんどありません。指にはさむ機械で酸素の量を測るのは数秒で終わります。高地にいる間は「下山が最優先」で、検査より先に安全な高さへ移動することが大切です。医師の指示に従ってください。
治療
高地肺水腫の治療で最も大切なのは、標高を下げることと、体に酸素を届けることです。軽い症状でも、下山して安静にすることで多くは改善します。症状が強いときは、酸素を吸入したり、医療機関で集中的に治療したりします。
自宅でのセルフケア
- とにかく標高を下げる(数百メートル下げるだけでも効果があることがあります)
- 安静にする。歩くときはゆっくり、荷物は人に持ってもらう
- 体を冷やさない、暖かくして休む
- 水分を少しずつとる(アルコールは控える)
- 症状が良くならない、悪くなる場合は、我慢せず救助を要請する
医療治療
医療機関では、酸素を吸入して体の酸素を補い、必要に応じて肺の血管の圧を下げる治療や、呼吸を助ける治療(人工呼吸器に近い装置を使うこともあります)が行われます。症状や酸素の量に合わせて、医師が総合的に判断します。治療の内容は体の状態によって変わるため、必ず医療者に確認してください。
手術が検討される場合
高地肺水腫に対して手術が必要になることは通常ありません。
この病気と共に生きる
回復したあとは、ふつうの生活に戻れます。ただし、高地肺水腫になったことがある人は再発しやすいとされているので、次に高い場所へ行くときは、余裕のある計画を立て、体調の変化に敏感になってください。
生活習慣のアドバイス
- 高い場所へは時間をかけて少しずつ上がる(体を高地に慣らす)
- 高地での飲酒は控える
- 睡眠を十分にとり、無理な運動をしない
- かぜをひいているときは、高い場所へ行くのを延期する
- 過去に高地で具合が悪くなったことがある場合は、出発前に医師に相談する
食事と運動
高地では食欲が落ちやすいので、食べやすいものを少しずつとり、水分もこまめに補いましょう。運動は余裕をもったペースで、息苦しさを感じたら立ち止まって休んでください。回復後は、ふつうの運動を少しずつ再開して問題ありません。
精神的健康と心の健康
高い山で息が苦しくなった経験は、強い不安や怖さとして残ることがあります。眠れない、思い出すと動悸がする、また登山が怖いと感じるときは、ひとりで抱え込まずに、かかりつけ医や地域の保健所、こころの相談窓口に話してみてください。つらい気持ちは珍しいことではありません。もし自分や身近な人が「消えたい」と感じているときは、すぐに地域の救急(119)や医療機関、相談窓口を頼ってください。
予防
完全に防ぐことは難しいですが、リスクを大きく下げることはできます。一番大切なのは、時間をかけてゆっくり高度を上げることです。目安として、2500メートルを超えたら1日の睡眠の高さは300〜500メートルまでにとどめ、疲れた日は高度を上げないようにしましょう。
ワクチン
高地肺水腫を防ぐワクチンはありません。ただし、かぜや肺炎などの感染症を予防しておくことは、高地での体調管理に役立ちます。ワクチンについてはかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
高地へ行く前に、心臓や肺の持病がないか確認しておくと安心です。健康診断の結果を持参したり、かかりつけ医に相談したりしましょう。過去に高地肺水腫になったことがある人は、出発前に必ず相談してください。
合併症
治療しない場合
- 酸素が取り込めなくなり、呼吸不全に進むことがある
- 意識がぼんやりする、混乱するなどの脳の症状(高地脳浮腫)を合併することがある
- 重症化すると命に関わることがある
- 回復に時間がかかり、旅行や登山の計画を中断する必要がある
長期的な見通し
高地肺水腫は、早く気づいて標高を下げ、必要な治療を受ければ、多くの方は数日のうちに良くなります。後遺症が残ることは多くありません。症状に気づいたら早めに行動することが、何よりの安心につながります。
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最終更新: 2026年10月24日
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