ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)
概要
ヒルシュスプルング病は、生まれつき腸の一部に「神経節細胞」という小さな神経の集まりがないために、腸がうまく動けなくなる病気です。腸は筋肉を波のように動かして(これを蠕動=ぜんどうといいます)食べ物や便を先へ送り出します。この動きを指令するのが神経節細胞です。それが生まれつき欠けている部分は縮んだままで、便がそこを通れず、手前の腸がどんどん膨らんでしまいます。多くは赤ちゃんの時期に見つかり、手術で治療できる病気です。
重要な事実
- 生まれつきの病気で、腸の一部に神経節細胞がないことが原因です。
- 生後24〜48時間たっても胎便(赤ちゃんの最初の便)が出ないことが、よくある最初のサインです。
- 根本的な治療は手術で、神経のない部分を取り除いて腸をつなぎ直します。多くのお子さんは手術後に元気に育ちます。
まれな病気で、おおよそ5000人に1人くらいの割合で生まれるといわれています。決して珍しくはありませんが、日常的に出会う病気でもありません。
ほとんどが赤ちゃんの時期に診断されます。男の子にやや多く見られます。ごく一部は大人になってから見つかることもありますが、その場合は症状が軽いことが多いです。ダウン症候群などほかの病気と一緒にみられることもあります。
症状
- おなかが激しく張って硬くなり、痛がって泣き止まない
- 緑色や黄色の嘔吐を繰り返し、水分もとれない
- ぐったりして元気がない、反応が弱い、顔色が悪い
- 発熱とおなかの張り、下痢が急に始まる(腸炎の可能性)
- 便に血が混じる、またはいきみ続けて苦しそう
- ⚠生後48時間を過ぎても胎便が出ない
- ⚠便秘が続き、おなかの張りが強い
- ⚠体重が増えない、ミルクの飲みが悪い
- ⚠浣腸をしても便が出ない、または出が悪い
一般的な症状
- 生後24〜48時間以内に胎便(黒っぽい粘りのある最初の便)が出ない
- おなかが大きく張る(腹部膨満)
- 胆汁(緑がかった黄色)が混じった嘔吐
- 便秘が続く、または便が出ても少量
- 食欲がなく、体重が増えにくい
子供の症状
- 慢性的な便秘で、下剤や浣腸を使わないと便が出にくい
- おなかが張って苦しそうにする
- 食欲が落ちる、体重が増えない、成長がゆっくりになる
- ヒルシュスプルング関連腸炎といって、発熱・下痢・おなかの張りが急に悪くなる状態を起こすことがある
- 便のにおいが強い、ガスがたまりやすい
高齢者の症状
- 大人になって初めて見つかる場合はとてもまれです
- 長年にわたる頑固な便秘として気づかれることがあります
- おなかの張りや、排便が出にくい状態が続く
- 小児期に軽い症状があったけれど見過ごされていた、というケースもあります
原因
主な原因
- 赤ちゃんがおなかの中で育つとき、腸の神経を作るもとになる細胞が、腸の壁まで正しく移動できないことが原因です。
- そのため腸の一部に神経節細胞がなくなり、その部分が動かなくなります。
- いくつかの遺伝子の変化が関係することが分かっていますが、多くの場合は親から子へ単純に受け継がれるものではありません。
リスク要因
- 家族にヒルシュスプルング病の人がいる
- 男の子であること
- ダウン症候群などの染色体や遺伝子の変化がある
- 神経のない部分が長い場合(症状がより強く出やすい)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 生後48時間たっても胎便が出ない
- おなかが強く張っていて、嘔吐を繰り返す
- 発熱とおなかの張り、元気のなさがある
- 水分がとれず、おしっこの量が減っている
定期受診を予約すべき場合:
- 便秘が長く続き、市販の方法では改善しない
- 便の量が少なく、おなかがいつも張っている気がする
- 体重の増えが悪い、食欲が乏しい
- 以前にヒルシュスプルング病と診断され、排便のことで気になることがある
診断
まず症状と体の診察から疑いを持ちます。そのうえで、腸の形や動きを調べる検査と、腸の組織を少しだけ取って調べる検査を組み合わせて確定します。どの検査も、赤ちゃんやお子さんの負担を少なくするように行われます。
行われる可能性のある検査
- 造影注腸検査:肛門から造影剤を入れて、腸の形や狭くなっている部分をレントゲンで見ます
- 直腸肛門内圧検査:肛門の筋肉がきちんと反応するかを風船のような器具で調べます
- 直腸粘膜生検:肛門に近い腸の粘膜をとても小さく採取し、神経節細胞があるかを顕微鏡で確認します(確定診断の中心となる検査です)
- 腹部レントゲンや血液検査:おなかの張りや体の状態を確認します
診察で予想されること
検査の前には、先生から目的と流れの説明があります。造影検査や内圧検査は短時間で終わることが多く、生検は少しだけ処置を伴います。結果が出るまでに数日かかることもあります。不安なことは遠慮なく医師や看護師に聞いてください。
治療
根本的な治療は手術です。神経節細胞のない部分を取り除き、正常な腸と肛門をつなぎ直します。手術の時期や方法は、赤ちゃんの状態や神経のない部分の長さによって変わります。手術後も排便の様子を見ていくことが大切です。
自宅でのセルフケア
- 排便の回数や便の硬さ、おなかの張りを記録しておくと、診察のときに役立ちます
- 浣腸や坐薬、下剤などは、必ず主治医の指示に従って使ってください。自己判断で量や回数を変えないようにしましょう
- 水分をしっかりとり、離乳食や食事では食物繊維を少しずつ取り入れます
- 発熱、おなかの張り、嘔吐、元気のなさなど、いつもと違うサインがあれば早めに受診してください
- 術後の肛門周囲のケアは、医師や看護師に教わった方法でやさしく行います
医療治療
手術までの間や、状態を安定させるために、腸の内容物をやさしく出してあげる処置(浣腸など)や、腸を休ませるための点滴が行われることがあります。腸炎を合併しているときは、その治療が優先されます。使うお薬や処置の内容は、担当の医師から説明がありますので、分からないことはその場で確認しましょう。
手術が検討される場合
ヒルシュスプルング病では、手術が基本の治療になります。赤ちゃんの体重が増えて体力がついた頃に行うことが多いですが、腸炎を起こしているときや全身状態がよくないときは、まず状態を整えてから、あるいは一時的におなかの外に腸を出す処置(人工肛門)を先に行うことがあります。手術の方法や時期は、神経のない部分の長さや赤ちゃんの状態に合わせて決められます。
この病気と共に生きる
手術後は多くのお子さんが普通の生活を送れるようになります。一方で、排便の回数が多かったり、逆に便秘がちだったりと、便のコントロールに時間がかかることがあります。これは珍しいことではなく、成長とともに落ち着いていくことが多いです。定期的な外来通院を続け、気になることをその都度相談していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 排便の記録をつけ、通院時に見せられるようにしておく
- 食事は決まった時間に、水分と食物繊維をバランスよく
- トイレに行く時間を決めて、無理のないトイレ習慣をつくる
- 学校や保育園とは、トイレのことを含めて事前に相談しておくと安心です
- 発熱やおなかの張りなど、腸炎のサインを家族で共有しておく
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありませんが、水分をしっかりとり、野菜や果物、豆類などの食物繊維を少しずつ取り入れると便の通りがよくなります。激しい運動を避ける必要はなく、走ったり遊んだりして体を動かすことは、腸の動きにもよい影響があります。食事や運動について迷ったときは、主治医や管理栄養士に相談してください。
精神的健康と心の健康
通院や手術、トイレのことをめぐって、お子さんもご家族も不安や疲れを感じることがあります。便秘や失禁が続くと、恥ずかしさや自己嫌悪につながることもあります。これは特別なことではなく、サポートを受けながら乗り越えていけるものです。つらい気持ちが続くときは、医療者に話してみてください。気持ちがとても追い詰められていると感じたら、地域の保健所や医療機関の相談窓口、日本国内の相談ダイヤル(下記)を頼ってください。
予防
ヒルシュスプルング病は、赤ちゃんがおなかの中で育つ過程で起こる生まれつきの病気で、生活習慣や食事で防ぐことはできません。家族に同じ病気の人がいる場合は、妊娠前や妊娠中に医師や遺伝カウンセリングの専門家に相談しておくと安心です。
検診プログラム
全国一律の新生児スクリーニング検査の対象ではありません。そのかわり、生まれた直後に胎便が出ない、おなかが張るといったサインを見逃さないことが早期発見につながります。気になる症状があれば、早めに小児科で相談してください。
合併症
治療しない場合
- ヒルシュスプルング関連腸炎:腸に便がたまり炎症を起こし、発熱・下痢・おなかの張りが急に出ます。命に関わることがあるため、早急な受診が必要です
- 腸が破れる(穿孔)や腹膜炎など、重い状態になることがあります
- 栄養がとれず、体重が増えない、成長が遅れる
- 脱水や電解質のバランスの乱れ
- 慢性的な便秘や腹部の不快感が続く
長期的な見通し
ヒルシュスプルング病は、正しく診断して手術で治療すれば、多くのお子さんが元気に育ち、ふつうの生活を送れるようになります。排便のコントロールに時間がかかることはありますが、成長とともに改善していくことが多く、定期的なフォローで支えていけます。心配なことがあれば、いつでも主治医に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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