立ちくらみと動悸が続くとき ― POTS(体位性頻脈症候群)を知る
概要
POTS(日本語では「体位性頻脈症候群(たいいせいひんみゃくしょうこうぐん)」)は、立ったときや座った姿勢から立ち上がったときに、心臓がいつもよりずっと速く打つようになり、めまい・ふらつき・強い疲れ・動悸(心臓の鼓動が強く感じられること)などが起こる状態です。英語の頭文字をとって「ポッツ」と呼ばれることもあります。重力で血液が下半身にたまりやすくなり、体がそれをうまく調整できないことで症状が出ると考えられています。命に関わる病気ではありませんが、学校や仕事、日常生活に大きな影響が出ることがあり、つらさを軽く見られがちな点も特徴です。
重要な事実
- 立った姿勢になってから10分以内に脈が異常に速くなり、めまいや疲れが続くのが典型的なパターンです。
- 採血や心電図などで他の病気(貧血・甲状腺の異常・心臓の病気など)を確認し、それらが否定されてから診断されます。
- 特効薬のような治療はなく、水分や塩分のとり方、立ち方の工夫、運動などの生活の調整と、医師による個別の対応を組み合わせて症状を軽くしていきます。
海外の調査では、若い女性を中心に少なくない頻度でみられると報告されています。日本でも認識が広がってきており、思春期の立ちくらみや不登校の背景の一つとして注目されることがあります。ただし、実際にPOTSと診断される人は、同じような症状を訴える人の中でも一部です。
症状
- 意識を失って倒れ、頭を打った、またはけがをした可能性がある
- 意識が戻らない、または呼びかけへの反応がおかしい
- けいれんが起きた
- 胸の強い痛み、締めつけられる感じが続く
- 突然の強い息苦しさ、呼吸ができない感じ
- 脈が非常に速く、冷汗や顔面蒼白を伴い、自分でコントロールできない
- ⚠失神(気を失うこと)を繰り返す、または初めて失神した
- ⚠転倒してけがをした、頭を軽く打った
- ⚠水分がとれない、尿の量が極端に減った(脱水のサイン)
- ⚠動悸が何十分も続き、横になっても楽にならない
- ⚠症状が急に悪化し、日常生活が送れなくなった
一般的な症状
- 立ち上がったとき、または立っている間に起こるめまい・ふらつき・目の前が暗くなる感じ
- 心臓がドキドキする、脈が速いと感じる(動悸)
- 少し動いただけで息が上がる、軽い運動でも息苦しい
- 立っていると具合が悪くなり、座るか横になると楽になる
- 強い疲れやすさ、朝起き上がるのがつらい
- 頭が重い、集中できない、考えがまとまりにくい(「頭にもやがかかった感じ」)
- 手足が冷たい、汗が異常に出る、顔色が悪くなる
- 食後や暑い場所、お風呂上がりに症状が悪化しやすい
- 吐き気、おなかの不快感、便秘や下痢
子供の症状
- 朝なかなか起きられない、学校に行こうとすると気分が悪くなる
- 長時間の朝礼や集会で立っていられず、保健室に行くことが増える
- 体育のあとや暑い日の部活動で強い疲れやふらつきが出る
- 「だるい」「頭が痛い」など、うまく言葉にしづらい不調を繰り返す
- 成長期に身長が急に伸びた時期と重なることがある
高齢者の症状
- 立ち上がった瞬間のふらつきや、転びそうになる感覚
- 理由がはっきりしない転倒の繰り返し
- 動悸や息切れを「年のせい」と感じて受診が遅れやすい
- 脱水や薬の影響、長期間の安静で症状が出やすくなることがある
- 疲れやすさや食欲低下として現れることがある
原因
主な原因
- 起立したときの血液の流れを調整する自律神経(自分の意思では動かせない体の調節の仕組み)の働きがうまくいかない
- 血液量が少なめ(脱水、極端な食事制限、献血のあとなど)で、立ったときに血圧を保ちにくい
- 感染症(かぜや胃腸炎など)のあとに症状が始まることがある
- 長期間の安静や入院で体を動かさない期間が続いたあと
- 心臓のポンプの働きではなく、血管や神経の調整の問題が中心と考えられている
- 妊娠中や月経周期に伴う体の変化
- はっきりした原因が一つに絞れないことも多い
リスク要因
- 10代後半から20代の女性
- 急に身長が伸びる思春期の成長期
- 関節がとても柔らかい体質(体がよく曲がる)
- 慢性的な疲労や睡眠不足、極端なダイエット
- 脱水を起こしやすい生活(水分をあまりとらない、暑い環境、長時間の立ち仕事)
- 感染症のあと、または手術・けがのあとの長い安静
- 強いストレスや不安が続いている時期
- 家族に同じような症状の人がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 気を失った、または倒れてけがをした
- 胸の痛みや強い息苦しさがある
- 動悸が長時間続いて止まらない
- 水分がとれず、尿が出ない、ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 立ちくらみや動悸が数週間以上続いている
- 症状のせいで学校や仕事を休むことが増えた
- 横になると楽になる不調が繰り返し起こる
- 朝起きられない日が続き、生活のリズムが崩れている
- 自分で工夫してもよくならず、不安が強くなっている
診断
診断は、症状の出方(どんな姿勢で、いつ、どれくらい続くか)を詳しく聞くことから始まります。そのうえで、立ったときの脈と血圧の変化を実際に測り、貧血・甲状腺の異常・心臓の病気など、似た症状を起こす他の原因がないかを確認します。はっきりした原因が他にないことを確かめたうえで、POTSと判断されます。診察室では「異常なし」と言われて終わってしまうこともあるため、症状の記録を持参すると伝わりやすくなります。
行われる可能性のある検査
- 問診と症状日記の確認(いつ、どの姿勢で、何分続いたか)
- 座位と立位での脈拍・血圧の測定(起立試験)
- 心電図、必要に応じて24時間心電図(ホルター心電図)
- 血液検査(貧血、甲状腺の働き、脱水、血糖など)
- 必要な場合の心臓超音波検査
- 傾斜台試験(台に寝たまま体を起こして反応をみる検査。設備のある医療機関で行う)
- 妊娠の可能性がある場合の確認
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、短時間で終わります。脈を測るために何度も立ち座りをしてもらうことがあります。診断がつくまでに時間がかかることもありますが、それは「問題がない」 rather than 「怠けている」わけではありません。症状の記録や、日常生活で困っていることを具体的に伝えることが、診断の近道になります。
治療
POTSの治療は、症状を完全になくすことよりも、日常生活の困りごとを減らして、学校や仕事、好きなことを続けられるようにすることを目標にします。中心になるのは生活の調整で、必要に応じて医師が体の状態に合わせた対応を組み合わせます。人によって合う方法は違うため、試しながら自分に合ったやり方を見つけていくことが大切です。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとる(1日の量は医師や管理栄養士に相談しながら決める)
- 立ち上がるときはゆっくり、できれば何かにつかまりながら
- 長時間立ち続けず、脚を動かす、つま先立ちを繰り返す、腰かけられる場所を探すなどの工夫をする
- ベッドの頭側を少し高くして寝る
- 弾性ストッキング(着圧ソックス)を活用する(締めつけが強すぎないものを、医師に相談して選ぶ)
- 暑い場所、長い入浴、サウナは症状を悪化させやすいので注意する
- 食事は一度にたくさん食べず、少量を回数多く分けてとる
- 睡眠のリズムを整え、急に長時間横にならないようにする
- 症状が出たときの対処(座る、脚を動かす、水分をとる)をあらかじめ決めておく
医療治療
医療機関では、まず生活の調整を土台にして、症状の出方に合わせた対応が検討されます。体の水分と塩分のバランスを整える指導、血圧や脈の調整を助ける種類の薬、下肢の血流を助ける圧迫療法、段階的に体を慣らしていく運動プログラムなどが用いられることがあります。薬は人によって効果も副作用も異なるため、必ず医師の判断のもとで使います。特定の薬の名前や量を自分で決めたり、人から聞いた薬を試したりしないでください。
手術が検討される場合
POTSそのものを治す手術は一般的ではありません。ただし、症状に別の病気(心臓の不整脈など)が隠れている場合や、関節の柔らかさに関連する別の問題がある場合は、その病気に応じた専門的な対応が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
POTSと付き合うコツは「無理をしない工夫を先に用意しておくこと」です。朝はゆっくり起きる、電車では座れる位置に並ぶ、会議や授業では立たずに話せるよう相談する、といった小さな準備が大きな助けになります。症状が良い日と悪い日の波があるのも特徴なので、悪い日に自分を責めないことが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 症状と姿勢・食事・睡眠・気温を簡単なメモに記録し、悪化するパターンを知る
- 長時間の立ち仕事や混雑した暑い場所は、こまめに休憩をとる
- 急に激しい運動を始めず、少しずつ体を慣らしていく
- 学校や職場に、座る場所や休憩の配慮を早めに相談しておく
- 起床時に時間の余裕をとる(目覚ましを早めにかける、起き上がる前に脚を動かす)
- アルコールやカフェインのとりすぎ、極端な食事制限に注意する
食事と運動
食事は、水分をこまめにとり、塩分は医師の指示の範囲で適度にとることが基本です。一度にたくさん食べると食後に症状が出やすいので、少量を分けて食べましょう。運動は、下半身の筋肉を鍛えることと、無理のない範囲の有酸素運動を組み合わせると、血液を押し上げる力がつきやすいとされています。最初は座位や横向きでできる運動から始め、具合が悪くなったらすぐ中止して休むことが大切です。運動の始め方や量は、医師や理学療法士に相談して決めましょう。
精神的健康と心の健康
POTSの症状は外から見えにくく、「気持ちの問題でしょう」「甘えているのでは」と言われてしまうことがあります。そのことで自信を失ったり、不安や落ち込みが強くなったりするのは自然なことです。症状と気持ちは互いに影響し合うため、つらさを一人で抱え込まず、信頼できる人や医療者に話すことが回復の助けになります。気分の落ち込みが続く、眠れない、死にたいと感じるようなときは、早めに医療機関や相談窓口に連絡してください。
予防
POTSを確実に防ぐ方法はまだ分かっていません。ただし、脱水を避ける、長時間の立ちっぱなしを避ける、急に立ち上がらない、感染症やけがのあとは無理に体を戻さず徐々に動かす、といった工夫で、症状が悪化するのを減らせる可能性があります。思春期に急に身長が伸びる時期は、水分と睡眠を意識するとよいでしょう。
ワクチン
POTSに直接効くワクチンはありません。ただし、感染症の中には発症のきっかけになるものがあるため、季節性インフルエンザや新型コロナウイルスなどのワクチンについて、かかりつけ医と相談して決めることは一般的な健康管理の一部です。
検診プログラム
POTSそのものを早期に見つけるための集団検診はありません。立ちくらみや動悸が続く場合は、学校健診や職場健診の結果とあわせて、かかりつけ医に相談することが実用的な第一歩です。
合併症
治療しない場合
- 転倒やけがのリスクが高まる(特に失神を伴う場合)
- 学校や仕事を休む日が増え、学業やキャリアに影響が出る
- 体力が落ち、症状がさらに出やすくなる悪循環
- 不安や落ち込み、睡眠の問題が強まることがある
- 人に理解されにくいことで、孤立感を感じやすくなる
長期的な見通し
POTSは命に関わる病気ではなく、多くの人は生活の工夫と適切なサポートで症状を軽くしながら日常を続けられます。思春期に発症した場合は、成長とともに自然に落ち着いていくことも少なくありません。人によって経過はさまざまですが、あきらめずに自分に合った方法を少しずつ見つけていくことが、着実な改善につながります。
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最終更新: 2026年10月24日
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