ホルモン受容体陽性乳がん(女性ホルモンの影響を受けやすい乳がん)
概要
乳がんは、乳房の中の乳腺(乳汁をつくる管や小葉)の細胞からできるがんです。その中でも「ホルモン受容体陽性乳がん」は、がん細胞の表面に女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を受け取る「受容体(じゅようたい)」という小さな窓口があるタイプの乳がんで、女性ホルモンの刺激を受けると成長しやすい特徴があります。ただし、この性質は治療を選ぶときの大切な手がかりになります。ホルモンの働きを抑える治療(内分泌療法)が効きやすいタイプだからです。
重要な事実
- 乳がん全体のおよそ7割前後がこのホルモン受容体陽性タイプといわれています。
- 治療方針は、がんの大きさや広がり(病期)、ホルモン受容体の有無、HER2という別のたんぱく質の状態などを組み合わせて決めます。
- ホルモン受容体陽性タイプは、ホルモンの働きを抑える治療が効きやすく、再発を防ぐための治療が長く続くことが多いのが特徴です。
乳がんは日本人女性で最も多いがんのひとつで、その中でもホルモン受容体陽性タイプは最もよくみられるタイプです。決してめずらしい病気ではありません。
主に女性に起こりますが、男性にもまれに起こります。40〜60代で見つかることが多いものの、20〜30代でも発症することがあり、年齢を問わず注意が必要です。
症状
- 突然の強い息苦しさ、胸の痛み、呼吸が苦しくて横になれない(肺や心臓の合併症、血栓などの可能性)
- 乳房の傷や腫瘍から止まらない大量の出血
- 治療中に高熱と寒気が同時に出る(発熱性好中球減少症など、命に関わることがあります)
- 意識がもうろうとする、けいれん、激しい頭痛が急に始まる
- ⚠乳房が急に赤く腫れて熱を持つ、痛みが強い(炎症性乳がんや乳腺炎の可能性)
- ⚠しこりが数週間で急に大きくなる
- ⚠乳房の皮膚が破れて汁や血が出る
- ⚠背中や腰の強い痛み、脚のしびれや力が入りにくい(骨への転移などを調べる必要があります)
- ⚠治療中の強い吐き気や下痢で水分がとれない
一般的な症状
- 乳房にしこり(硬い塊)が触れる。痛みはないことも多い
- 乳房の一部がへこむ、皮膚がひきつれる、オレンジの皮のような見た目になる
- 乳頭が内側に引き込まれる、乳頭や乳輪のただれ
- 乳頭から分泌物(特に血が混じったもの)が出る
- 左右の乳房の形や大きさが以前と違って見える
- わきの下のリンパ節が腫れてかたく触れる
- 早期には自覚症状がほとんどなく、検診で初めて見つかることも多い
子供の症状
- 小児・思春期に乳がんが起こることは非常にまれです
- 思春期の乳房のしこりは、多くはホルモンの変化による良性のものです
- それでも、しこりが大きくなる、痛みが続く、分泌物があるときは小児科や乳腺外来に相談してください
高齢者の症状
- 検診や別の検査のついでに見つかることがあります
- 進行がゆっくりな場合もありますが、高齢だからといって安心できるわけではありません
- 持病や体力、生活の希望をふまえて、治療の内容を相談しながら決めていきます
原因
主な原因
- 乳がんは、乳腺の細胞の遺伝子に少しずつ傷が積み重なって起こると考えられています。生まれつきの体質だけで決まるものではありません。
- 女性ホルモン(エストロゲン)に長くさらされることが、リスクに関係すると考えられています。
- ホルモン受容体陽性かどうかは、がん細胞の性質の違いであり、生活習慣のせいでそうなったというわけではありません。ご自身を責める必要はありません。
リスク要因
- 女性であること(男性より圧倒的に多い)
- 年齢が上がること(特に50代以降で増える)
- 初潮が早い、閉経が遅いなど、女性ホルモンにさらされる期間が長い
- 出産経験がない、または初めての出産が高齢になってから
- 閉経後の肥満、飲酒、喫煙
- 家族歴(近い親族に乳がん・卵巣がんの人がいる)、遺伝子の生まれつきの変異(BRCA1/BRCA2など)
- 以前に乳がんになったことがある、乳腺の一部に異型細胞が見つかったことがある
- 長期間のホルモン補充療法(閉経症状に対する治療)を受けたことがある
- 胸部への放射線治療を受けた経験がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 乳房のしこりが数週間で急に大きくなっている
- 乳房が赤く腫れて熱を持ち、痛みが強い
- 乳頭から血が出る、乳房の皮膚が破れて出血する
- 背中や腰の痛み、脚のしびれなど、乳房以外の気になる症状が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 乳房にしこりを感じる、または以前と違う感触がある
- 乳頭の分泌物、乳頭の引き込み、皮膚のくぼみに気づいた
- 自治体の乳がん検診の案内が届いた(40歳以上は2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されています)
- 家族に乳がんや卵巣がんの人が複数いる
診断
まず問診と乳房の診察(触診)を行い、マンモグラフィや超音波などの画像検査でしこりの様子を確認します。がんが疑われる場合は、細い針で細胞や組織を採取する検査(針生検)を行い、顕微鏡で確定診断します。同時に、そのがんがホルモン受容体を持っているかどうかを調べます。
行われる可能性のある検査
- 視触診(乳房の診察)と問診
- マンモグラフィ(乳房エックス線検査)
- 乳房超音波検査
- 針生検・組織診(細胞や組織を採って顕微鏡で調べる)
- ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)の検査
- HER2や増殖能(Ki-67)などの検査(治療選択のため)
- 必要に応じてCT・MRI・骨シンチグラフィ・PETなどの画像検査(広がりを調べる)
- 必要に応じて遺伝カウンセリングや遺伝子検査
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに1〜2週間ほどかかることがあります。結果は「病期(ステージ)」と「タイプ(ホルモン受容体やHER2の状態)」をあわせて説明されます。最初は言葉が多くて戸惑うかもしれません。大切な話はメモをとる、家族や信頼できる人に同席してもらう、質問を事前に紙に書いておく、といった工夫が役立ちます。
治療
治療は、手術・放射線治療・薬物療法(ホルモンの働きを抑える治療、化学療法、分子標的薬など)を組み合わせて進めます。がんの大きさや広がり、タイプ、年齢や体力、そして何より本人の希望をふまえて、主治医と相談しながら方針を決めていきます。ホルモン受容体陽性タイプは、ホルモンの働きを抑える治療が治療の中心のひとつになることが多いです。
自宅でのセルフケア
- 体調の変化(痛み、発熱、だるさ、気分の落ち込み)を日記やアプリに記録し、受診時に伝える
- 治療の副作用は我慢せず、早めに医療者に相談する(多くの副作用には対処法があります)
- 手洗い・うがい・人混みを避けるなど、感染症予防を心がける
- 処方された薬は自己判断で中断せず、飲み忘れや飲みにくさがあれば相談する
- 乳房の手術後は、医師や看護師、リハビリ担当者に教わった肩や腕の運動を無理のない範囲で続ける
- 睡眠と休息をしっかりとり、予定を詰め込みすぎない
医療治療
薬物療法には、女性ホルモンの働きを抑えてがんの成長を妨げる治療(内分泌療法)があり、ホルモン受容体陽性タイプでは中心的な役割を担います。手術の前後に数年間続けることが多く、閉経の有無によって選ぶ治療の種類が変わります。ほかに、細胞の分裂を抑える化学療法、特定の性質をもつがん細胞を狙う分子標的薬、手術後の再発を減らす放射線治療、骨の健康を守る治療などを、病状に応じて組み合わせます。具体的な薬の種類や量、期間は、病期・タイプ・体調・希望によって一人ひとり異なるため、主治医から詳しい説明を受けてください。
手術が検討される場合
手術は、がんを乳房から取り除く治療で、多くの場合に治療の中心となります。がんの大きさや位置に応じて、乳房を残す手術(乳房温存術)か、乳房を全部取り除く手術(乳房全摘術)かを選びます。わきの下のリンパ節に転移がないかを調べる検査も同時に行うことが多く、乳房の再建を希望する場合は事前に相談しておくと選択肢が広がります。手術の前に薬物療法を行って、がんを小さくしてから手術をする場合もあります。
この病気と共に生きる
治療は長く続くことが多いため、通院日をカレンダーにまとめる、家族や職場と予定を共有するなど、生活のリズムを整える工夫が役立ちます。体調の良い日と悪い日の波があって当然です。無理をしない日をつくることも治療の一部だと考えてください。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙する。飲酒は控えめにする
- 適正体重を保つ(閉経後の肥満は再発リスクに関係するといわれます)
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- ストレスをためず、話せる相手や相談の場を持つ
- 治療中は感染予防を心がけ、発熱時はすぐ連絡する
- 乳房の自己チェックの習慣をつけ、変化に気づいたら受診する
食事と運動
特別な食事法で乳がんが治るという確実な方法はありません。バランスのよい食事(野菜・果物・魚・大豆製品・全粒穀物をとり、塩分と加工肉・脂っこい食事を控えめに)を心がけましょう。運動は、ウォーキングなどの中程度の活動を週に数回、無理のない範囲で行うと、体力維持や気分の安定、リンパ浮腫の予防に役立つといわれています。治療中は主治医やリハビリ担当者に相談してから始めてください。
精神的健康と心の健康
「再発しないだろうか」「仕事や家族に迷惑をかけた」といった不安や、落ち込み、怒り、体の変化への悲しみを感じるのは自然なことです。これは弱さではなく、誰にでも起こる反応です。つらい気持ちが2週間以上続く、眠れない、何も楽しめない、日常生活が回らないと感じるときは、主治医・看護師・がん相談支援センター・心理の専門家に必ず相談してください。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、ためらわず地域の救急窓口(119)や医療機関、信頼できる人に連絡してください。一人で抱えないでください。
予防
乳がんを完全に防ぐ方法はまだ分かっていません。ただ、禁煙、飲酒を控える、適正体重を保つ、運動の習慣を持つといった生活習慣の見直しや、定期的な検診で早期に見つけることが、リスクを下げる・安心につながります。家族歴が強い場合などは、遺伝カウンセリングを含めた相談が選択肢になります。
ワクチン
乳がんを予防するワクチンは現在ありません。
検診プログラム
日本では、40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィによる乳がん検診が推奨されています(厚生労働省の指針)。自治体の検診案内を確認し、かかりつけ医やお住まいの自治体の保健窓口に相談してみてください。しこりなど気になる症状がある場合は、検診を待たずに医療機関を受診してください。
合併症
治療しない場合
- がんが乳房の中で大きくなり、皮膚や筋肉に広がることがあります
- わきの下や鎖骨の上のリンパ節に転移することがあります
- 血液の流れに乗って、骨・肺・肝臓・脳などに転移し、痛みや息苦しさ、だるさなどの症状が出ることがあります
- 乳房の皮膚が破れたり出血したりして、日常生活がつらくなることがあります
長期的な見通し
ホルモン受容体陽性タイプは、ホルモンの働きを抑える治療が効きやすく、再発を防ぐための治療を続けられることが多いタイプです。早期に見つかれば、多くの方が長く元気に生活されています。乳がんの治療は年々進歩しており、進行した場合でも、病状をコントロールしながら生活を続けるための治療の選択肢が増えています。不安なことは主治医に遠慮なく尋ね、ご自身のペースで治療と向き合ってください。
サポートを探す
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康に関する案内は国や地域によって異なります。このページは一般的な教育情報であり、お住まいの地域の指針、薬、診療と一致しない場合があります。心配な点はご自身の医師または医療提供者に相談し、地域の案内がある場合はそれに従ってください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
関連する疾患
情報源とガイダンス
このトピックを名指しする指針はありません
このページには、このトピックそのものを名指しする健康ガイドラインや臨床の章は引用されていません。このページは一般的な教育と情報のみを目的としています。診断、治療計画、個人への医学的助言ではありません。ご自身の医師に確認し、その指示に従ってください。症状が重い、突然である、または心配な場合は速やかに受診し、緊急時は地域の緊急番号に電話してください。Ruqelo LLC は、この情報に基づく判断から生じる医学上または法律上の結果について責任を負いません。
最終更新: 2026年10月24日
教育上の注記: この情報は教育目的のみであり、診断ではありません。
免許を持つ医療者のアドバイスを補うために使い、代わりにはしないでください。
症状が重篤、悪化、または緊急の場合は、地域の救急番号に電話するか、緊急医療を受けてください。
Guidance may differ by country or region. Confirm local recommendations with a qualified healthcare provider.