ホスピスケア(緩和ケア)— つらさを和らげ、その人らしく過ごすための支援
概要
ホスピスケア(緩和ケア)は、病気そのものを治すことを目指す治療とは別に、病気からくる痛み・息苦しさ・だるさ・不安などのつらさを和らげ、本人と家族が残りの時間をその人らしく穏やかに過ごせるよう支える医療とケアの仕組みです。日本では「緩和ケア」と「ホスピス」はほぼ同じ意味で使われ、ホスピスは主に人生の最終段階に重点を置いた場所やサービスを指すことが多い言葉です。ホスピスケアは「もう治療をあきらめる」という意味ではなく、必要な治療を受けながら同時に受けられる支援です。
重要な事実
- ホスピスケアは、命を縮めるものでも延ばすものでもなく、今あるつらさを軽くすることに重点を置きます。
- 日本では、がんで亡くなる方の多くが人生の最後の時期に何らかの緩和ケアを受けていますが、本来はもっと早い段階から始められます。
- 病院の緩和ケア病棟、一般病棟の緩和ケアチーム、自宅でのホスピスなど、状況に応じて場所を選べる場合があります。
珍しいものではありません。日本では、がんで亡くなる方の多くが人生の最後の時期に緩和ケアを受けています。近年は、がん以外の心臓病・呼吸器の病気・認知症などでも広く行われるようになっています。
命に関わる病気(進行したがん、心不全、呼吸器の病気、腎臓の病気、神経の難病、認知症など)とともに暮らす方と、その家族・介護をする方です。年齢を問わず、子どもや若い方も対象になります。
症状
- 息が苦しくて話せない、唇や顔色が青白い
- 意識がない、または呼びかけへの反応がとても乏しい
- けいれんが止まらない
- 大量の出血が続いている
- 急に状態が大きく変わったとき(迷ったら119番に相談してください)
- ⚠痛みが急に強くなり、いつもの対応ではおさまらない
- ⚠急な発熱や、尿が出ないなど新しい症状がある
- ⚠転倒してから痛みが続く、動けない
- ⚠介護している家族が疲れきって対応できない
一般的な症状
- 痛み(がまんしなくてよい症状の代表です)
- 息苦しさ、呼吸が浅くなる感じ
- だるさ、疲れやすさ
- 食欲が落ちる、飲み込みにくい
- 吐き気、便秘、おなかの張り
- 眠りにくい、昼夜のリズムが乱れる
- 不安、こわい気持ち、気分の落ち込み
- 口の中の渇きや痛み、皮膚のただれ
- 介護する家族の疲れや孤立感
子供の症状
- 子どもは痛みや息苦しさを言葉で伝えにくく、表情・体の動き・眠り方の変化として表れることがあります。
- 遊びや学校生活をできるだけ続けられるよう、遊びの時間や友だちとの関わりを支える工夫が大切です。
- 兄弟姉妹も不安を抱えやすいため、家族全体への支援が必要です。
高齢者の症状
- 高齢の方では、痛みや息苦しさが「なんとなく元気がない」「食欲がない」といった形で現れることがあります。
- 認知症があると、体の不快感を表情や落ち着かない様子で示すことがあります。
- 複数の病気を抱えていることが多く、薬の調整や介護体制の相談が特に重要になります。
原因
主な原因
- 進行したがん
- 心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器・循環器の病気
- 腎臓や肝臓の慢性的な病気
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経の難病
- 認知症の進行
- 高齢による体力の低下全般
リスク要因
- 命に関わる病気と診断されている
- 体力や食事量が落ちてきている
- 痛みや息苦しさが続いている
- 介護をする家族が少ない、または遠方に住んでいる
- 住まいが医療機関から遠い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 痛みが急に強くなり、いつもの方法ではおさまらない
- 息苦しさが増して横になれない
- 急な発熱、尿が出ない、けいれんなど新しい症状
- 転倒してから痛みが続く、動けない
- 介護する家族が疲れきって、家での対応が難しいと感じた
定期受診を予約すべき場合:
- 病気の診断を受けたとき、これからの見通しを一緒に考えたいとき
- 痛みや息苦しさ、不安が続いているとき
- 緩和ケアの紹介を希望するとき(本人からでも家族からでも相談できます)
- 自宅での療養を考え始めたとき
- 介護している家族が疲れていると感じたとき
診断
ホスピスケアには、病気のように「診断名をつける」という考え方はありません。かわりに、どんなつらさがどのくらいあるかを丁寧に聞き取り、本人と家族の希望や生活の状況をふまえて支援の計画を立てます。この見立てを「アセスメント」と呼びます。
行われる可能性のある検査
- 痛み・息苦しさ・気分などを点数で表す質問票(0〜10など)
- 血液検査や画像検査(症状の原因を確かめるため)
- 睡眠・食事・排泄の様子についての聞き取り
- 本人と家族の希望、大切にしたいことの確認
- 必要に応じて、認知症やうつ状態の評価
診察で予想されること
医師、看護師、薬剤師、リハビリの担当者、医療ソーシャルワーカー(生活の相談役)、心理の専門家などがチームで関わります。最初は「これまでのこと」「これからどう過ごしたいか」をゆっくり話す時間になります。答えは後から変わってもかまいません。
治療
ホスピスケアの中心は、つらさを一つずつ軽くしていくことと、本人と家族の生活を支えることです。治療を続けながら受けることも、治療の中心を穏やかに過ごすことに切り替えることもできます。
自宅でのセルフケア
- 痛み・息苦しさ・眠り・食事の量などを簡単なメモに残し、医療者に見せる
- 息苦しさがあるときは上体を少し起こす、窓を開けて風を感じる、うちわで顔をあおぐなどの工夫をする
- 口の中を湿らせ、唇を保湿する(口の渇きは大きなつらさになります)
- 体の向きを2〜3時間ごとに少し変える、クッションで楽な姿勢をつくる
- 会話や音楽、好きな香りなど、落ち着ける時間を意識してつくる
- 家族も休める時間を決めて交代する
医療治療
痛み・息苦しさ・吐き気・不安などに対して、症状に合わせた薬を使うことがあります。薬の種類や量は、状態を見ながらこまめに調整します。ほかに、痛みの原因に合わせた放射線治療、神経の痛みを和らげる処置、リハビリ、呼吸を楽にする工夫、栄養や水分のサポートなどが組み合わされます。具体的な薬や量については、担当の医師・薬剤師にご相談ください。
手術が検討される場合
手術が主な選択肢になることは多くありませんが、腸が詰まるなど強い症状を和らげるために、小さな手術や処置が行われることがあります。目的は病気を治すことではなく、つらさを軽くすることです。
この病気と共に生きる
朝起きてから寝るまでの「いつもの」をできるだけ保つことが目標になります。食事や入浴、トイレなど、できていたことが難しくなったときは、やり方を工夫したり、助けを借りたりします。「できなくなったこと」より「今できること」に目を向けると、気持ちが少し楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 訪問看護・訪問介護・在宅医など、家で過ごすためのサービスを早めに調べておく
- 緊急時の連絡先と、夜間に相談できる窓口を家族で共有しておく
- 本人が大切にしたいこと(食べたいもの、会いたい人、過ごしたい場所)を書き残しておく
- 家族だけで抱えず、親戚や地域の人、ボランティアなどにも助けを求める
- 介護をする人の睡眠時間を確保する
食事と運動
食べられる量が減っても、無理に食べさせる必要はありません。少量ずつ、食べたいものを、食べたいときに、が基本です。口の中を清潔に保つことは、食欲や心地よさにつながります。体を動かすことは、できる範囲で行います。ベッドの上で手足を動かす、椅子に座る、部屋の中を歩くなどでも十分です。疲れたら休むことを優先してください。
精神的健康と心の健康
「これからどうなるのだろう」という不安、怒り、悲しみ、家族への申し訳なさなど、さまざまな気持ちがわいてくるのは自然なことです。気持ちが落ち着かない日が続く、眠れない、何も感じない、といったときは医療者に話してください。気持ちがとてもつらく、自分を傷つけたい気持ちや「消えてしまいたい」という思いが浮かんだときは、一人で抱えず、すぐに担当の医療者や地域の緊急の相談窓口に連絡してください。助けを求めることは弱さではなく、自分と家族を大切にする行動です。
予防
ホスピスケアが必要になること自体を予防することはできません。ただ、早い段階から緩和ケアにつながること、そして元気なうちに「自分がどう過ごしたいか」を家族や医療者と話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング、通称「人生会議」)で、つらさが軽くなり、希望が尊重されやすくなることが分かっています。
検診プログラム
定期的な健康診断やがん検診は、病気を早く見つけ、早い段階から支援を始める助けになります。厚生労働省やお住まいの自治体が案内する検診の情報を参考にしてください。
合併症
治療しない場合
- 痛みや息苦しさが強くなり、眠れず、食事もとりにくくなる
- 不安や気分の落ち込みが深まり、孤立感が強くなる
- 介護している家族が疲れきってしまう
- 本人の希望が共有されないまま、望まない場所や方法で過ごすことになる
長期的な見通し
ホスピスケアは命の長さを変えるものではありませんが、残りの時間の「質」を大きく変えられます。痛みや不安が軽くなり、家族との時間や、その人らしい時間が増えたと感じる方は少なくありません。早めに相談することが、穏やかに過ごすための第一歩になります。
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最終更新: 2026年10月24日
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