抗リン脂質抗体症候群(ハグス症候群)
概要
抗リン脂質抗体症候群は、体の免疫が誤って、細胞の膜の成分(リン脂質)に対する抗体を作る病気です。この抗体が血液を固まりやすくし、血栓(血の塊)や妊娠中のトラブルを起こすことがあります。ハグス症候群とも呼ばれます。
重要な事実
- 免疫の誤作動で、血液を固まりやすくする抗体ができる病気です。
- 血栓(血の塊)や、妊娠中のトラブル(流産など)の原因になります。
- 症状の出方は人によって大きく異なり、無症状の人もいます。
決して多い病気ではありません。日本では指定難病の一つで、女性に多く見られます。
20〜40代の女性に多いですが、子ども、高齢者、男性にも起こります。ループス(全身性エリテマトーデス)などの自己免疫疾患がある人に多く見られます。
症状
- 突然の顔のまひ、腕の脱力、言葉が出にくい・ろれつが回らない(脳卒中のサイン)
- 突然の息切れ、胸の強い痛み、血の混じった痰
- 突然の激しい頭痛、視力の急な低下、意識がもうろうとする
- 脚の強い腫れと痛みで歩けない、または息苦しさを伴う
- 妊娠中に激しいおなかの痛み、出血、胎動の急な減少がある
- ⚠片側の脚の新しく出た腫れ、痛み、赤み、熱感
- ⚠いつもと違う強い頭痛、めまい、視界のかすみ
- ⚠発熱と血栓の症状が一緒にある
- ⚠あざが増える、歯ぐきや鼻の出血が止まりにくい
- ⚠妊娠中に血圧が高い、むくみが強い、胎動が少ない
一般的な症状
- 脚の静脈に血栓ができると、片脚の腫れ、痛み、赤み、熱感が出ることがあります。
- 肺の血管に血栓が飛ぶと、突然の息切れ、胸の痛み、血の混じった痰などが出ることがあります。
- 脳の血管が詰まると、顔のまひ、腕の力が入らない、言葉が出にくいなどの症状が起こります。
- 妊娠中は、繰り返す流産、早産、妊娠高血圧などのトラブルが起こることがあります。
- 皮膚に網目状の赤みや紫の斑点が出ることがあります。
- 血小板(出血を止める細胞)が減り、あざができやすい、出血しやすいことがあります。
- 片頭痛、記憶や集中力の低下、疲れやすさを感じる人もいます。
- 症状がまったくない、またはとても軽い人もいます。
子供の症状
- 子どもでは少ない病気ですが、血栓、頭痛、皮膚の網目状の赤み、血小板が少ないことによるあざなどが見られることがあります。
- 子どもでは妊娠に関わる症状はありません。
高齢者の症状
- 高齢者では、脳梗塞や一過性脳虚血発作(一時的な脳の血流低下)、脚の血栓、肺塞栓が見られることがあります。
- 物忘れや集中力の低下が目立つこともあります。
原因
主な原因
- 免疫が誤って、細胞の膜の成分(リン脂質)に対する抗体を作ることが主な原因です。
- この抗体が血液を固まりやすくし、胎盤の血流にも影響します。
- なぜ抗体ができるのかは、人によって異なり、はっきりしないこともあります。
リスク要因
- 女性、特に妊娠可能年齢
- ループス(全身性エリテマトーデス)などの自己免疫疾患
- 以前の血栓、流産、死産の経験
- 妊娠・出産
- 喫煙、肥満、運動不足、長時間の臥床、手術、脱水
- エストロゲンを含む避妊薬やホルモン療法の使用
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 脳卒中のサイン(顔のまひ、腕の脱力、言葉が出にくい)がある
- 突然の胸の痛み、息切れ、血の混じった痰がある
- 脚の強い腫れや痛みが急に出た
- 妊娠中に出血、激しいおなかの痛み、胎動の減少がある
定期受診を予約すべき場合:
- 繰り返す流産や死産がある
- 若い年齢で、説明のつかない血栓ができた
- ループスなどの自己免疫疾患があり、新しい症状が出た
- 妊娠を考えている、または妊娠した
- あざが増える、出血しやすい
診断
症状、血栓や妊娠の履歴、診察、血液検査、画像検査を組み合わせて診断します。抗体の検査は一度だけでなく、時間をおいて繰り返すことが大切です。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体
- 12週間以上あけての再検査(一時的に陽性になることがあるため)
- 血栓を探す超音波検査、CT検査、MRI検査
- 血小板数、腎機能、尿検査
- 妊娠中は胎児の超音波検査や胎盤の血流チェック
診察で予想されること
診断には時間がかかることがあります。結果を待つ間に不安になるかもしれません。担当医に質問し、必要に応じて専門医に相談しましょう。
治療
この病気を完全に治す治療はありませんが、血栓と妊娠中の合併症を減らすための治療を行います。生活習慣の管理と、定期的な通院が大切です。
自宅でのセルフケア
- 水分をしっかりとる
- 長時間同じ姿勢を避け、足を動かす
- 禁煙し、適正体重を保つ
- 血圧や血糖、コレステロールを管理する
- 手術や歯科治療の前に、病名と使っている薬を医療者に伝える
- 妊娠を考えているときは、早めに医師に相談する
- 出血しやすい症状(あざ、鼻血、歯ぐきの出血)に注意する
医療治療
医師が血栓のリスクに応じて、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を処方することがあります。薬の種類や期間は、血栓の既往、抗体の種類、妊娠の有無などで変わります。出血の副作用に注意しながら、定期的に血液検査を行います。自己判断で薬を中止しないでください。妊娠中は産婦人科と連携して治療を進めます。血栓ができたときは、入院して治療することがあります。
手術が検討される場合
この病気そのものの手術は通常ありません。ただし、手術や出産、処置の前に、血液を固まりにくくする薬の調整が必要かどうかを医師に確認してください。
この病気と共に生きる
症状日誌をつけ、脚の腫れ、息切れ、頭痛などの変化に気づけるようにしましょう。薬を続け、旅行や長時間座るときは水分補給と足の運動を心がけてください。医療者には、必ず病名と薬の内容を伝えましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙する
- 適正体重を保つ
- 医師に相談したうえで、定期的に軽い運動をする
- 水分をこまめにとる
- 長時間の同じ姿勢を避ける
- 血圧・血糖・コレステロールを管理する
- 手術や歯科治療の前に病名と薬を伝える
- 出血しやすい症状に注意する
食事と運動
特別な食事療法はありません。バランスのよい食事、塩分を控えめにすること、十分な水分を心がけましょう。運動は、医師に相談しながら無理のない範囲で行います。
精神的健康と心の健康
血栓の再発や妊娠への不安、疲れ、気分の落ち込みを感じることがあります。つらい気持ちが続くときは、かかりつけ医や専門の相談窓口に相談してください。一人で抱え込まないことが大切です。緊急の場合は119番に連絡してください。
予防
自己免疫の異常そのものを予防することはできません。しかし、血栓のリスクを減らすことはできます。禁煙、適正体重、水分補給、長時間動かないことの回避、血圧や血糖の管理が大切です。
ワクチン
この病気を防ぐワクチンはありません。感染症が血栓のきっかけになることがあるため、必要なワクチンについては医師に相談してください。
検診プログラム
症状がない人への一般的な抗体検査は勧められていません。血栓の既往、繰り返す流産、自己免疫疾患がある人は、医師に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 血栓の再発
- 肺塞栓(肺の血管が詰まる)
- 脳梗塞や一過性脳虚血発作
- 妊娠中の流産、早産、妊娠高血圧
- 腎臓などの臓器障害
- まれに、複数の臓器に血栓ができる重い状態
長期的な見通し
完治しないことも多い病気ですが、多くの人は定期的な診療と血栓予防によって生活を続けられます。妊娠も、事前に相談して管理することで可能性があります。不安なときは、遠慮なく医療者に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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