高血圧性脳症(こうけつあつせいのうしょう)
概要
高血圧性脳症(こうけつあつせいのうしょう)は、血圧が非常に高い状態が続くことで、脳がむくんだり(脳浮腫=のうふしゅ)、脳の働きが一時的にうまくいかなくなる緊急の状態です。「脳の血管が耐えられないほどの高い血圧にさらされ、脳が悲鳴を上げている状態」と考えるとわかりやすいかもしれません。命にかかわることがあるため、できるだけ早く医療機関での処置が必要です。
重要な事実
- 血圧が非常に高いことが原因で起こる、脳の緊急事態です。放っておくと危険ですが、早く治療すれば改善が期待できます。
- 激しい頭痛、吐き気・おう吐、意識がぼんやりする、けいれんなどが主なサインです。
- 自己判断で血圧の薬を急にやめたり、治療を中断したりすることが引き金になることがあります。
高血圧の人がとても多い日本でも、高血圧性脳症そのものは比較的まれな緊急疾患です。ただし、治療を受けていない高血圧や、治療を中断した人の中では起こりうるため、注意が必要です。
もともと血圧が高い人、特に治療を受けていない人や治療を中断した人に多くみられます。腎臓の病気がある人、妊娠中や出産前後の人、内分泌(ないぶんぴつ)の病気がある人にも起こることがあります。子どもでは非常にまれですが、腎臓の病気による高血圧が背景にあることがあります。
症状
- 意識がない、呼びかけても反応がにぶい
- けいれんが起きた、または続いている
- ろれつが回らない、手足の片側が動かない、顔がゆがむ(脳卒中の可能性)
- 急に見えなくなった、視界が大きくおかしい
- 激しい頭痛とおう吐が同時にあり、本人がつらそうにしている
- ⚠家庭用血圧計で上の血圧が180mmHg以上、または下の血圧が120mmHg以上の高い状態が続く
- ⚠強い頭痛が続いて、市販の痛み止めでも楽にならない
- ⚠ものがちらつく、見えにくいといった目の症状がある
- ⚠強いめまい、ふらつき、吐き気がある
- ⚠いつもと比べて反応が遅い、話がとんちんかんになった気がする
一般的な症状
- わが裂けるような、激しく続く頭痛
- 吐き気やおう吐
- 意識がぼんやりする、反応がにぶい、話がかみ合わない
- 見えにくい、視界がちらつく、ものが二重に見える
- けいれん(手足がつっぱる、意識を失う)
- めまい、ふらつき、歩きにくい
- 眠気が強く、起こしてもすぐ眠ってしまう
子供の症状
- 子どもでは非常にまれですが、けいれん、強い頭痛、くり返すおう吐、元気がない・反応がにぶいといった形で現れることがあります。
- 子どもの高血圧は腎臓の病気など別の原因が隠れていることが多いため、小児科での詳しい検査が大切です。
高齢者の症状
- 高齢者では、頭痛よりも「なんとなく元気がない」「会話がかみ合わない」「急にぼんやりした」といった変化が目立つことがあります。
- 転倒や急な歩行のふらつきとして気づかれることもあります。家族の方が異変に気づくことが多いのも特徴です。
原因
主な原因
- 血圧が非常に高いレベルで持続し、脳の血管が血圧の調整を保てなくなること
- もともとの高血圧を治療していない、または治療を中断したこと
- 血圧の薬を自己判断で急にやめたこと
- 腎臓の病気による高血圧
- 妊娠中・出産前後に起こる高血圧(妊娠高血圧症候群など)
- 内分泌(ないぶんぴつ)の病気や、一部の薬の影響で血圧が急に上昇したこと
リスク要因
- 治療を受けていない高血圧、または治療の中断
- 塩分の多い食事、過度の飲酒、喫煙
- 腎臓の病気
- 糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病
- 強いストレス、睡眠不足
- 妊娠中・出産前後
- 家族に高血圧や脳卒中の人がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 激しい頭痛、おう吐、意識の変化、けいれん、視界の異常があるときは、ためらわず救急車(119)を呼んでください。
- 家庭用血圧計で上の血圧が180mmHg以上、または下が120mmHg以上の状態が続くときは、すぐに医療機関に連絡してください。
- 妊娠中・出産前後に強い頭痛や視界の異常、むくみがあるときは、すぐにかかっている産婦人科や救急外来に相談してください。
定期受診を予約すべき場合:
- 血圧が高いと言われたことがあるが、受診していない
- 血圧の薬を飲み忘れることが多い、または自己判断でやめたことがある
- 家庭で血圧を測ると高い日が続いている
- 健診(特定健診など)で血圧の再検査をすすめられた
診断
まず血圧を正確に測り、症状と合わせて判断します。そのうえで、脳梗塞(のうこうそく)や脳出血(のうしゅっけつ)など、よく似た他の緊急疾患ではないことを確かめるために検査が行われます。診断は医師が総合的に行うもので、患者さん自身が判断するものではありません。
行われる可能性のある検査
- 血圧の測定(くり返し測ることがあります)
- 問診と神経の診察(意識の状態、手足の動き、目の動きなど)
- 血液検査・尿検査(腎臓の働きや電解質を確認)
- 頭部CT・MRI(脳の画像検査で、出血やむくみ、梗塞がないかを確認)
- 眼底検査(目の奥の血管の状態を見る)
- 心電図や胸部レントゲン(心臓への負担を確認)
診察で予想されること
救急外来や集中治療室で、血圧を継続的にモニターしながら検査が進みます。検査は痛みが少ないものが多く、画像検査は数十秒から数十分で終わります。結果の説明と今後の見通しについては、必ず担当の医師に確認してください。
治療
高血圧性脳症の治療は、急いで、でも慎重に血圧を下げることが中心です。一気に下げすぎると脳や心臓、腎臓に負担がかかることがあるため、医師はモニターを見ながら少しずつ安全な範囲まで下げていきます。多くの場合、集中治療室や救急病棟での管理が必要です。
自宅でのセルフケア
- 退院後も、決められたとおりに血圧の薬を続ける(自己判断でやめたり減らしたりしない)
- 毎日、同じ時間に家庭で血圧を測り、記録をつける
- 記録した血圧のノートを、受診のたびに医師に見せる
- 塩分を控えめにし、汁物の汁は残すなどの小さな工夫をする
- 禁煙する。飲酒は控えめにする
- 睡眠を十分にとり、無理な減量や過激な運動を急に始めない
- 体調の変化(強い頭痛、視界の異常、意識がぼんやりする)があれば、すぐに受診する
医療治療
医療機関では、血圧を下げるための薬を点滴で投与しながら、血圧・心拍・意識状態を継続的にモニターします。下げる速さや目標は、脳や心臓、腎臓の状態に合わせて医師が細かく調整します。けいれんがある場合には、それを抑える処置も行われます。同時に、血圧が急に上がった原因(腎臓の病気、薬の中断、妊娠関連など)を調べ、その原因に対する治療も進めます。使われる薬の種類や量は医師が判断することであり、この記事ではお伝えしません。
手術が検討される場合
高血圧性脳症そのものに対する手術は通常ありません。ただし、脳出血や脳梗塞など他の病気が同時に見つかった場合には、その状態に応じて外科的な治療が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
退院後は、血圧を安定させることが毎日の中心になります。朝と夜の血圧を記録する習慣をつけ、体調の小さな変化に気づけるようにしましょう。疲れやすい、集中しにくいといった症状がしばらく続くこともありますが、多くは時間とともに落ち着いていきます。気になることは遠慮なくかかりつけ医に相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 家庭での血圧測定を日課にする
- 減塩を心がける(加工食品や外食の汁物に注意)
- 禁煙し、受動喫煙も避ける
- 飲酒は控えめにし、休肝日をつくる
- 睡眠をしっかりとる
- ストレスをためこまず、自分なりの息抜きを持つ
- 寒い時期は急な温度変化を避ける(急に血圧が上がることがあります)
- 薬は決められたとおりに続ける
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜・果物・魚・大豆製品をバランスよくとる和食スタイルがおすすめです。運動は、ウォーキングなど無理のない有酸素運動を、医師に相談したうえで少しずつ始めましょう。始める前と後に血圧を測ると安心です。急に激しい運動を始めるのは避けてください。
精神的健康と心の健康
「また血圧が上がったらどうしよう」という不安や、入院したことへの怖さを感じる方は少なくありません。そうした気持ちは自然なものです。ひとりで抱えこまず、かかりつけ医や看護師、家族に話してみてください。つらい気持ちが続いて眠れない、気分が沈んでばかりいるというときは、地域の保健センターやかかりつけ医に相談を。自分や大切な人が危ないと感じたときは、迷わず119番に連絡してください。
予防
多くの場合、防ぐことができます。カギは「血圧を高いままにしないこと」です。高血圧と言われたら放置せず、定期的に受診し、薬は自己判断でやめないこと。家庭で血圧を測る習慣を持つことも、とても大切な予防になります。
ワクチン
高血圧性脳症を防ぐワクチンはありません。ただし、インフルエンザなどの感染症は体に負担をかけ、血圧や心臓に影響することがあります。かかりつけ医と相談しながら、必要な予防接種を受けておくと安心です。
検診プログラム
日本では、40〜74歳の人が加入する健康保険で特定健診(メタボ健診)が行われており、血圧も測定されます。健診で血圧が高いと指摘されたら、そのままにせず医療機関を受診してください。家庭用の血圧計での毎日の測定も、立派な「日々のチェック」になります。
合併症
治療しない場合
- 脳のむくみが進み、意識障害やけいれんが悪化する
- 脳出血や脳梗塞(のうこうそく)を起こす
- 心臓や腎臓、目に負担がかかり、機能が低下する
- 治療が遅れると命にかかわることがある
長期的な見通し
高血圧性脳症は緊急の状態ですが、早く適切な治療を受ければ、多くは改善が期待できます。血圧をゆっくり安全な範囲に下げることで、意識や症状は少しずつ落ち着いていきます。退院後も血圧をきちんと管理し続けることが、再発を防ぎ、脳と体を守る近道です。心配なことは、ひとりで抱えずにかかりつけ医に相談しながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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