高齢者の甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)の症状とサイン
概要
甲状腺機能低下症は、首の前に蝶(ちょう)のような形でひっついている「甲状腺(こうじょうせん)」という小さな臓器が、体の調子を整えるホルモン(甲状腺ホルモン)を十分につくれなくなる状態です。ホルモンは体のエンジンのような役割をしていて、これが足りなくなると、体の動きも心の動きも、ゆっくり・おだやかになりすぎてしまいます。高齢の方では「年のせいかな」と思えるような地味な症状が多く、気づかれにくいのが特徴です。
重要な事実
- 血液検査でわかる病気で、多くの場合は飲み薬でホルモンを補うことで症状が改善します。
- 高齢の方では、疲れやすさ・物忘れ・むくみ・便秘など、加齢(か龄)や認知症(にんちしょう)と間違えられやすい症状が出ます。
- 症状が少ない「かくれ甲状腺機能低下症」もあるため、気になることがあれば検査を受ける価値があります。
決して珍しい病気ではありません。特に女性に多く、年齢が上がるほど見つかりやすくなります。日本では、甲状腺の慢性的な炎症(橋本病・はしもとびょう)によるものが多いとされています。
女性、とくに中年以降の女性に多くみられます。年を重ねるほど増えるため、高齢の方では「よくある病気のひとつ」と考えられています。家族に甲状腺の病気の人がいる方、ほかの自己免疫(じこめんえき)の病気がある方にも多くみられます。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけても反応が鈍い
- 強い眠気が続き、起こしてもすぐに眠ってしまう
- 体がとても冷たい(低体温)、震えが止まらない
- 呼吸が浅い、遅い、息が苦しそう
- けいれんが起きた、体が硬直した
- これらの症状があるときは、すぐに119番へ連絡してください。
- ⚠急な息苦しさ、胸の痛み、強い動悸(どうき)
- ⚠数日で急に強くなるむくみ(顔・手足)
- ⚠1〜2週間で急激に体重が増えた
- ⚠強い便秘とお腹の張りが続き、吐き気もある
- ⚠気分の落ち込みが強く、日常生活が難しい
- ⚠このような場合は、当日中に医療機関へ連絡してください。
一般的な症状
- 疲れやすい、体がだるい、力が入らない
- 寒さに弱くなる、手足が冷たい
- 体重が増えやすい(食欲は変わらないのに太る)
- 便秘(べんぴ)が続く、お腹が張る
- 皮膚が乾燥する、かさつく、爪がもろくなる
- 顔やまぶた、手足がむくむ
- 声がかすれる、声が低くなる
- 脈が遅くなる(1分間に60回を下回ることがある)
- 寝ても寝ても眠い、日中もぼんやりする
- 髪が抜けやすい、眉毛の外側が薄くなる
- 筋肉が痛い、こむら返りが起きやすい
- 気分が落ち込む、やる気が出ない
- 月経(げっけい)の間隔が乱れる、量が増える(閉経前の女性の場合)
子供の症状
- 身長が伸びにくい、成長がゆっくりになる
- 学校の成績が下がる、集中しにくくなる
- 便秘が続く、お腹が張る
- 皮膚が乾燥する、髪が細く抜けやすい
- むくみや顔のむくみが目立つ
- 思春期(ししゅんき)の始まりが遅れる
高齢者の症状
- 「年のせい」と思われがちな強い疲労感や、一日中のだるさ
- 物忘れやぼんやりが目立ち、認知症(にんちしょう)と間違えられることがある
- うつ(気分の落ち込み、興味がわかない)のようにみえる症状
- 脈が速くならず、逆に遅くなる(動悸ではなく脈の遅さに注意)
- 食欲が落ちているのに体重が減らない、または増える
- 足やまぶたのむくみ、夜間のトイレの回数の変化
- 声がかすれる、話すのがゆっくりになる、ろれつが回りにくい
- 便秘が強く、便秘薬が手放せない
- 体が冷えやすい、低体温(ていたいおん)気味になる
- 転びやすくなる、歩くのが遅くなる、階段がつらい
- 症状がほとんど出ず、別の病気の検査で偶然見つかることも多い
原因
主な原因
- 橋本病(はしもとびょう)と呼ばれる、甲状腺の慢性的な炎症(自己免疫のしくみで自分の甲状腺を攻撃してしまう状態)がもっとも多い原因です。
- 甲状腺の手術を受けたあと、または甲状腺の病気で放射線(ほうしゃせん)を使う治療を受けたあと。
- 一部の薬の影響(不整脈の薬など、甲状腺ホルモンに影響することがある薬があります)。
- 脳の下垂体(かすいたい)という部分の病気で、甲状腺への「指令」が届かなくなる場合(中枢性甲状腺機能低下症)。
- 食事からのヨウ素(ようそ)のとりすぎ(日本では昆布や海藻類の大量摂取など)。
- 生まれつき甲状腺の働きが弱い場合(先天性)。
リスク要因
- 女性であること、とくに中年以降
- 家族に甲状腺の病気の人がいる
- 自分の免疫が関係するほかの病気(関節リウマチ、1型糖尿病など)がある
- 甲状腺の手術や首への放射線治療を受けたことがある
- 妊娠・出産の前後(一時的に起こることもあります)
- ヨウ素を多く含む食品を極端に多くとっている
- 甲状腺に影響する可能性のある薬を長期に使っている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 意識がもうろうとしている、反応が鈍い、強い眠気が続く(すぐに119番)
- 息苦しさ、胸の痛み、強い動悸がある(当日中に受診)
- 急に強いむくみが出た、急に体重が増えた(当日中に受診)
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすさ、寒がり、便秘、むくみ、皮膚の乾燥が数週間以上続く
- 物忘れやぼんやりが増えた、気分の落ち込みが続く
- 声がかすれる、脈が遅いと言われた
- 体重が理由なく増え続けている
- 家族に甲状腺の病気の人がいて、自分も気になる症状がある
- ほかの病気で通院中に、新しい症状が出てきた
診断
まず問診(もんしん)で、症状・服薬・家族歴・これまでの治療歴を確認します。そのうえで血液検査を行い、甲状腺ホルモンの値と、脳からの指令ホルモン(TSH)の値を調べます。高齢の方では症状がはっきりしないことが多いため、採血の結果が決め手になることがよくあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:TSH(甲状腺刺激ホルモン)と遊離T4(甲状腺ホルモン)の値を調べます
- 自己抗体(じここうたい)の検査:橋本病かどうかの手がかりになります
- 甲状腺超音波(エコー)検査:甲状腺の大きさや形、しこりの有無をみます
- コレステロール値や貧血の検査:甲状腺機能低下で変化することがあるため確認します
- 心電図:脈の遅さや心臓への負担を確認します
- 必要に応じて、脳の下垂体の検査や、薬の見直しの相談
診察で予想されること
検査結果は通常数日でわかります。軽い場合(潜在性甲状腺機能低下症=検査の値だけが少しずれている状態)は、すぐに治療せず、数か月おきに採血して様子をみることもあります。治療を始めた場合も、値が落ち着くまでは定期的な採血が必要です。「すぐに答えを出す」というより、少しずつ調整していくイメージです。
治療
治療の中心は、足りない甲状腺ホルモンを飲み薬で補うことです。高齢の方では、体への負担を考えて少量から始め、採血の結果を見ながらゆっくり量を調整していくのが一般的です。自己判断で量を変えたり、飲むのをやめたりせず、医師・薬剤師の指示に従ってください。
自宅でのセルフケア
- 飲み忘れを防ぐため、決まった時間に飲む習慣をつける(飲み方は医師・薬剤師の指示に従う)
- 毎日同じくらいの時間に体重を測り、記録しておく
- 脈拍(1分間の回数)をときどき確認する
- 便通を記録し、便秘が続くときは医師に伝える
- 肌の乾燥には保湿を心がける
- 寒さ対策として、重ね着や温かい飲み物を活用する
- ほかの薬やサプリメントとの飲み合わせについて、薬剤師に確認する
医療治療
甲状腺ホルモンを補う飲み薬が中心です。高齢の方や心臓に持病がある方は、少量から始めて少しずつ増やし、動悸(どうき)や胸の不快感が出ないか確認しながら調整します。治療が合っていれば、疲れやすさ、むくみ、便秘、気分の落ち込みなどは数週間から数か月かけてゆっくり改善します。効果の確認と量の調整のため、定期的な血液検査を続けます。なお、飲み始めや量を変えたときは、体調の変化を医師に伝えることが大切です。
手術が検討される場合
甲状腺機能低下症そのものに対して手術が必要になることは通常ありません。ただし、甲状腺が大きく腫れて息が苦しい場合や、しこりががんの疑いがある場合などは、専門医と相談して手術を検討することがあります。
この病気と共に生きる
甲状腺機能低下症は、うまく付き合っていける病気です。飲み薬を続け、定期的に採血で確認しながら、体調の良い状態を保つことが目標になります。体調は日によっても揺れるので、自分の「ふだんの状態」を知っておくと、変化に気づきやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に薬を飲む習慣をつくる(飲み方は医師・薬剤師の指示に従う)
- 睡眠を十分にとり、無理のない範囲で日中の活動を続ける
- 毎日体重と体調を簡単に記録する
- 寒い季節は暖房や衣類で体を冷やさないようにする
- 便秘がちなときは、水分と食物繊維を意識し、軽い運動を取り入れる
- ほかの病気の薬を追加されたときは、薬剤師に飲み合わせを相談する
食事と運動
特別な食事制限は通常ありません。主食・たんぱく質・野菜をバランスよくとることが基本です。日本では昆布や海藻類を極端に多くとり続けるとヨウ素のとりすぎになることがあるため、毎日大量に食べる習慣がある場合は医師に相談してみてください。運動は、散歩や軽い体操など、無理なく続けられるものを少しずつ。筋力が落ちると転びやすくなるため、椅子からの立ち座りなどもおすすめです。
精神的健康と心の健康
甲状腺機能低下症では、気分の落ち込み、やる気が出ない、涙もろくなるといった症状が出ることがあります。これは「心が弱いから」ではなく、ホルモンの影響によることが少なくありません。治療で改善していくことも多いので、つらいときは一人で抱え込まず、医師や看護師に気持ちを伝えてください。物忘れが目立つときも、治療でよくなる可能性があります。つらい気持ちが長く続くときは、かかりつけ医やお住まいの地域の保健・福祉の相談窓口に相談してください。
予防
橋本病など自己免疫が関係する甲状腺機能低下症を、完全に防ぐ方法はわかっていません。ただし、甲状腺に影響する薬を使っている場合は定期的に検査をすること、ヨウ素を極端にとりすぎないこと、家族歴がある方は症状を意識して早めに相談することが大切です。首への放射線を避けるなど、できる範囲の配慮も役立ちます。
検診プログラム
決まった健診項目ではありませんが、疲れやすさやむくみが続くとき、家族に甲状腺の病気の人がいるときは、かかりつけ医に血液検査を相談してみてください。高齢の方では症状が目立たないことがあるため、「年のせい」と決めつけずに一度検査を受ける価値があります。
合併症
治療しない場合
- 心臓への負担が増え、心不全や狭心症のリスクが高まることがあります
- コレステロール値が上がりやすくなる
- 貧血(血が薄くなる状態)になることがある
- 便秘が強くなり、お腹の張りや食欲低下が続く
- 物忘れやぼんやりが進み、生活の質が下がることがある
- 気分の落ち込みが強くなる
- ごくまれですが、放置すると意識障害や低体温を伴う重い状態(粘液水腫性昏睡=ねんえきすいしゅせいこんすい)になることがあり、これは救急対応が必要です
長期的な見通し
多くの場合、きちんと治療を続ければ症状はおさまり、ふだんどおりの生活を送ることができます。高齢の方では量の調整に少し時間がかかることもありますが、定期的な検査と相談を続けることで安定していきます。心配しすぎず、かかりつけ医と一緒に少しずつ整えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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