埋伏歯(まいふくし)〜歯が歯ぐきの中に埋まったままの状態〜
概要
埋伏歯とは、歯が本来生えてくるはずの位置まで出てこず、あごの骨や歯ぐきの中に埋まったままになっている歯のことです。「歯が生えてこない」「生えかけで止まっている」という状態を指します。いちばん多いのは親知らず(おやしらず)で、上下左右の奥にできる第3大臼歯(だいさんだいきゅうし)が骨の中に埋まったままになることがよくあります。ほかにも、糸切り歯(犬歯)や、子どもの永久歯が埋まったままになることもあります。埋伏歯そのものは病気ではなく「歯の位置の状態」ですが、まわりの歯や歯ぐきにトラブルを起こすことがあります。
重要な事実
- 埋伏歯の多くは症状がなく、歯科のレントゲン写真で初めて見つかることが少なくありません。
- 親知らずの埋伏はとてもよくあることで、特別なことではありません。
- 症状がない場合は、すぐに治疗(ちりょう)をせずに定期的に経過を見ていくこともあります。
とてもよくある状態です。特に親知らず(第3大臼歯)が骨や歯ぐきの中に埋まっている人は多く、成人の歯科検診やレントゲンでしばしば見つかります。子どもの永久歯(とくに犬歯)が埋まったままになることもありますが、こちらは頻度は高くありません。
年齢を問わず起こります。親知らずの埋伏は10代後半から20代にかけてレントゲンで分かることが多く、子どもの場合は8〜12歳ごろ、永久歯が生えてこないことに気づいて見つかることがあります。あごの大きさや歯の生えるスペース、生まれつきの歯の位置などが関係すると考えられています。
症状
- 顔やあごが大きく腫れて、呼吸が苦しい、息がしにくい
- 飲み込みにくい、唾液(つば)が飲み込めない
- 声が出しにくい、話しにくい
- 高熱と顔の腫れが同時にあり、ぐったりしている
- ⚠強い痛みで眠れない、仕事や学校に行けない
- ⚠ほっぺたやあごの下が腫れている
- ⚠口が大きく開かない、開けると痛い
- ⚠歯ぐきから膿(うみ)のようなものが出ている
- ⚠発熱がある
一般的な症状
- まったく症状がなく、検診のレントゲンで見つかる
- 歯ぐきの一部が赤く腫れる、押すと痛い
- 奥のほうが痛む、ものが噛むと痛い
- 食べ物が奥の歯ぐきの間に挟まりやすい
- 口臭が気になる、口の中がすっきりしない
- 隣の歯が押されて痛む、歯並びがずれてきた気がする
子供の症状
- 乳歯がなかなか抜けない、永久歯が生えてこない
- 歯並びがずれてきた、歯と歯の間にすき間ができる
- 歯ぐきが腫れている、触ると痛がる
- とくに痛みはなく、歯科健診で指摘されることが多い
高齢者の症状
- 症状がないまま過ごしていることが多い
- 隣の歯の歯周病(歯ぐきの病気)が進みやすくなる
- 入れ歯(義歯)が当たって痛い、装着しにくい
- まれに、埋伏歯のまわりに袋状のできもの(嚢胞・のうほう)ができる
- 疲れたときや体調が悪いときに、奥の歯ぐきが腫れやすい
原因
主な原因
- あごの骨が小さく、歯が並ぶスペースが足りない
- 生まれつき歯の位置や向きがずれている
- 乳歯が予定どおりに抜けず、後ろの永久歯の生える道をふさいでいる
- 歯の生える力が弱い、まわりの組織にさまたげられている
- 遺伝的な要因(家族に同じような歯並びの人がいる)
リスク要因
- あごが小さい、歯が大きいなど、歯が並ぶスペースが不足している
- 親知らずが4本そろっている、または横向き・斜めに生えている
- 歯みがきが届きにくく、奥の歯ぐきが不潔になりやすい
- 喫煙(歯ぐきの健康に悪影響があります)
- 定期的な歯科検診を受ける機会が少ない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 奥の歯ぐきが急に腫れて、強い痛みがある
- 頬やあごの下が腫れてきた、熱っぽい
- 口が開きにくい、噛むと強く痛む
- 歯ぐきから膿が出ている、いやな味やにおいが続く
定期受診を予約すべき場合:
- 歯科健診やレントゲンで埋伏歯があると言われた
- 永久歯が生えてこない、乳歯が抜けないままになっている
- 奥に食べ物が挟まりやすい、みがきにくい
- 矯正(歯並びの治療)を考えている、入れ歯を作る予定がある
- ときどき奥の歯ぐきが腫れるのをくり返している
診断
歯科医院や歯科口腔外科(しかくうくうげか)で診てもらいます。まず口の中を見て、歯の生え方や歯ぐきの状態を確認し、レントゲン写真で歯が骨の中のどのあたりに、どの向きで埋まっているかを調べます。必要に応じて、より立体的に分かる画像検査を行うこともあります。
行われる可能性のある検査
- 問診(痛みや腫れの経過、気になっていることを伝えます)
- 口の中の診察(歯の生え方、歯ぐきの腫れ、みがき残しの確認)
- パノラマエックス線写真(口全体を写すレントゲン)
- デンタルエックス線写真(気になる部分を拡大して写すレントゲン)
- 必要に応じて歯科用CTなどの画像検査(歯や神経、骨との位置関係を立体的に見る)
診察で予想されること
診察もレントゲンも痛みはありません。レントゲンのときは機器が頭のまわりを回りますが、数秒から十数秒で終わります。妊娠中かもしれないとき、妊娠しているときは、撮影の前に必ず歯科医師やスタッフに伝えてください。画像を見ながら説明を受けると、自分の状態がよく分かります。分からないことは遠慮なく質問してよいですし、メモを持っていくと安心です。
治療
治療の方針は、埋伏歯の種類・位置・向き、症状の有無、まわりの歯への影響、そして本人の希望を合わせて決めていきます。痛みや腫れがなく、まわりに悪さをしていない場合は「何もせずに定期的に経過を見る」という選択がよくとられます。一方、感染をくり返す、隣の歯を押している、歯並びや入れ歯のさまたげになっているといった場合は、抜歯や歯並びの治療などが検討されます。
自宅でのセルフケア
- 奥まで届く小さめの歯ブラシを使い、ていねいにみがく
- デンタルフロスや歯間ブラシで、歯と歯の間の汚れを落とす
- 痛みや腫れがあるときは、患部を強く押さえず、やわらかい食べ物をとる
- 腫れが強いときは、頬の外側を冷たいタオルなどで冷やすと楽になることがある
- 痛み止めなど市販薬を使う場合は、かかりつけの薬剤師や歯科医院に相談してからにする
- 禁煙する(歯ぐきの健康を保つために役立ちます)
医療治療
治療は大きく分けて「経過観察」と「処置」があります。症状がない場合は、定期的に口の中とレントゲンを確認しながら様子を見ます。歯ぐきが腫れて痛むときは、歯と歯ぐきの間の汚れを洗い流す処置や、かみ合わせの調整などが行われます。感染があると判断された場合は、歯科医師の判断で薬が使われることがあります。埋伏歯を引っ張り出して歯並びの中に導く治療(矯正)が適している場合は、歯科矯正を専門とする歯科医師と相談しながら進めます。治療の内容や薬の使用は、必ず歯科医師の説明を受けてから決めてください。
手術が検討される場合
次のような場合は抜歯などの手術が検討されます。感染(腫れや痛み)をくり返している、隣の歯を押してむし歯や歯ぐきの病気の原因になっている、歯並びの治療や入れ歯のじゃまになっている、まわりに袋状のできもの(嚢胞)がある、といったケースです。親知らずの抜歯は日帰りで行われることが多く、所要時間や術後の注意点は歯科医師から説明があります。手術には腫れや痛みなど一時的な負担もあるため、メリットとリスクの両方を聞いたうえで決めるとよいでしょう。
この病気と共に生きる
症状がない埋伏歯は、ふだんの生活で特別な制限はありません。いちばん大切なのは、奥のほうまで届くみがき方と、定期的な歯科検診です。奥歯はみがき残しがたまりやすく、そこから歯ぐきの腫れが始まることが多いため、毎日のケアがトラブル予防につながります。
生活習慣のアドバイス
- 1日1回は、時間をかけて奥の歯までみがく習慣をつくる
- 歯間ブラシやフロスを、歯ブラシとセットで使う
- 定期的に歯科検診を受け、クリーニングを受ける
- たばこを吸う人は、減らす・やめることを検討する
- 睡眠不足や体調不良のときは、歯ぐきが腫れやすいことを知っておく
食事と運動
ふだんの食事はバランスよく、よく噛んで食べれば問題ありません。腫れや痛みがあるときは、刺激の強い食べ物や硬い食べ物を控え、おかゆやスープ、やわらかく煮た野菜などにすると楽です。運動はいつもどおりでかまいませんが、抜歯などの処置を受けた直後は、歯科医師の指示に従ってください。
精神的健康と心の健康
「骨の中に歯が埋まっている」と聞くと、不安になる人は少なくありません。とくに手術を控えているときは、痛みや術後の腫れが心配になりがちです。ただ、埋伏歯の多くは急を要するものではなく、方針を相談しながら決められます。不安が強いときや、考えすぎて眠れないときは、その気持ちを歯科医師や家族に話してみてください。
予防
埋伏歯そのものは、生まれつきの歯の位置やあごの大きさによるもので、完全に防ぐことはできません。ただし、埋伏歯が原因で起こる腫れ・痛み・むし歯・歯ぐきの病気といったトラブルは、毎日のケアと定期的な検診で減らすことができます。
検診プログラム
学校の歯科健診や、自治体が行う歯科健診、かかりつけ歯科医院での定期検診は、埋伏歯やそのトラブルを早く見つける助けになります。とくに「永久歯が生えてこない」「乳歯が抜けない」と感じたら、早めに歯科医院で相談してください。妊娠を考えている人、妊娠中の人は、母子の健康のために歯科検診を受けておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 歯ぐきの腫れや痛みをくり返す(智歯周囲炎・ちししゅういえん)
- 隣の歯が押されて動く、歯並びが乱れる
- 隣の歯の根が吸収されて弱くなる(まれ)
- 埋伏歯のまわりに袋状のできもの(嚢胞)ができる
- 奥の汚れがたまり、むし歯や歯周病(歯ぐきの病気)が進む
- 入れ歯や矯正治療のじゃまになる
長期的な見通し
埋伏歯があるからといって、必ずトラブルが起きるわけではありません。多くの人は症状なく過ごしており、定期的に経過を見ていくだけで十分なことも多いです。気になる症状が出たときは早めに歯科医院へ相談することで、状態を落ち着かせながら付き合っていけます。
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最終更新: 2026年10月24日
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