糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)では水分とインスリン、どちらを先に治療するの?
概要
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は、糖尿病のある方に起こる緊急の状態です。インスリンが足りなくなると、体はブドウ糖(血糖)をうまくエネルギーに変えられません。すると体は脂肪を分解して代わりにエネルギーを作りますが、そのときに「ケトン体」という酸性の物質がたくさんできます。さらに高い血糖のせいで尿がたくさん出て、体は水分を失って脱水になります。つまりDKAは「血糖がとても高い」「体が酸性に傾く」「水分が足りない」という3つが同時に起きる状態で、早めの医療が必要です。
重要な事実
- DKAの治療は「水分か、インスリンか」という選び方ではありません。両方が必要で、多くの場合はまず点滴で水分を補い、そのうえでインスリンと電解質(カリウムなど)を調整します。
- 水分を補うことで脱水が改善し、血液の流れが良くなってからインスリンが効きやすくなります。順番と量のバランスは医療機関が判断します。
- DKAは自宅で様子を見て治せるものではありません。少しでも疑われる症状があれば、早めに医療機関や救急に連絡することが大切です。
糖尿病のある方なら誰にでも起こる可能性があり、決してめずらしいものではありません。インスリン治療中の1型糖尿病の方に多くみられますが、2型糖尿病の方でも起こります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけても反応が悪い
- 呼吸が速く深い、息苦しそうで会話が難しい
- けいれんが起きた
- フルーツのような甘いにおいの息があり、ぐったりしている
- 嘔吐が続いて水分がとれない、尿が出ない
- 血糖が高いまま、対応しても具合がどんどん悪くなる
- ⚠高血糖が続き、のどの渇きや頻尿が強い
- ⚠嘔吐や下痢で水分がとれない
- ⚠発熱やせきなど感染症の症状がある
- ⚠お腹の痛みが続いている
- ⚠市販の尿検査でケトン体が陽性になった(特に高血糖と一緒の場合)
- ⚠血糖測定ができず、体調の悪さが続く
一般的な症状
- のどがひどく渇く
- トイレの回数が増える、尿がたくさん出る
- 吐き気、嘔吐、お腹の痛み
- 強いだるさ、力が入らない
- 呼吸が速く深くなる、息苦しさ
- 呼気(はいた息)がフルーツのような甘いにおいがする
- 皮膚や口の中が乾いている、尿が少なくなる
- 集中できない、ぼんやりする
子供の症状
- お腹の痛みや嘔吐が目立つ(かぜや胃腸炎と間違われやすい)
- 息が速い、苦しそう
- 元気がない、ぐったりしている
- おむつの回数やトイレの回数が増える
- 体重が減る、水分を飲みたがる
高齢者の症状
- のどの渇きを感じにくく、脱水に気づきにくい
- 食欲がない、なんとなく元気がない
- 意識がぼんやりする、話がかみ合わない
- 発熱など感染症の症状がきっかけになりやすい
- ふらつき、転倒しやすさ
原因
主な原因
- インスリン注射の中断・打ち忘れ、量が足りない(体調不良時に自己判断で減らす・やめる場合も含む)
- 感染症(かぜ、肺炎、尿路感染、胃腸炎など)
- 心筋梗塞や脳卒中などの急な病気
- まだ診断されていない糖尿病
- 強いストレス、けが、手術などの体への負担
- ステロイドなど一部の薬の影響、過度の飲酒
リスク要因
- 1型糖尿病がある
- インスリン治療を自己判断で中断したことがある
- 10代〜30代
- 血糖測定の習慣がない、体調不良時の対応(シックデイの計画)を決めていない
- 感染症にかかりやすい、または感染症を放置している
- 医療機関へのアクセスが難しい、費用面の心配がある
- 過度の飲酒、摂食障害などの食行動の問題
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 高血糖が続き、のどの渇き・頻尿・だるさが強い
- 嘔吐や下痢で水分がとれない
- 発熱など感染症の症状と高血糖が同時にある
- 尿ケトン体が陽性になった
- インスリンが打てない、または打っても血糖が下がらない
定期受診を予約すべき場合:
- 血糖コントロールについて相談したい
- 体調不良のときのインスリンの扱い(シックデイの計画)を決めておきたい
- インスリンの注射手技や保管方法を確認したい
- 血糖測定やケトン体チェックの方法を教えてほしい
診断
DKAかどうかは、症状の聞き取りと血液検査・尿検査を組み合わせて、緊急で判断します。血糖が高いことに加えて、血液が酸性に傾いていること、ケトン体が増えていることを確認します。
行われる可能性のある検査
- 血糖値の測定
- 血液ガス検査(血液の酸性度と重炭酸という数値を調べる)
- 血中ケトン体の測定
- 尿ケトン体の検査
- 電解質の検査(カリウムなど)
- 腎機能の検査
- 原因を探す検査(尿検査、胸部レントゲン、心電図、血液培養など)
診察で予想されること
救急外来では、診断と同時に点滴が始まることが多く、何度も採血して数値を確認します。多くの場合は入院となり、集中治療室や病棟で数日かけて少しずつ状態を整えていきます。
治療
DKAの治療は「水分か、インスリンか」という二者択一ではありません。両方が必要で、多くの場合はまず点滴で水分と電解質を補い、そのうえでインスリンを補充しながら、血糖やカリウムの値をこまめに確認して調整します。水分を先に補うのは、脱水を改善して血液の流れを良くし、インスリンが安全に効きやすくするためです。
自宅でのセルフケア
- 症状が落ち着いてからも、指示されたインスリン治療を自己判断で中断しない
- 血糖測定を続け、体調が悪いときはケトン体もチェックする
- 発熱や嘔吐など体調不良時にどうするかを、あらかじめかかりつけ医と決めておく(水分のとり方、連絡先など)
- 体調が悪いときは早めに医療機関へ連絡する
- 飲酒を控えめにし、睡眠と食事のリズムを整える
医療治療
医療機関では、点滴で水分と電解質(カリウムなど)を補いながら、インスリンを少量ずつ持続的に投与して血糖をゆっくり下げていきます。血糖を急に下げすぎないこと、カリウムなどのバランスを保つことが大切で、血液検査を繰り返して調整します。DKAを引き起こした感染症などの原因があれば、その治療も同時に行います。状態によっては集中治療室で管理します。
手術が検討される場合
DKAそのものに対する手術はありません。ただし、DKAの原因が手術が必要な病気(重症の感染症など)である場合は、その治療が並行して検討されます。
この病気と共に生きる
DKAを一度経験した方は、同じことを繰り返さないための備えが大切です。インスリンを切らさない、血糖測定を習慣にする、体調不良時の対応を家族と共有しておく——この3つだけでも大きな安心になります。
生活習慣のアドバイス
- インスリンや血糖測定器が切れないよう、早めに処方を受ける
- 毎日の血糖記録をつけ、受診時に見せる
- 食事・睡眠・活動のリズムを整える
- 感染症が流行する時期は手洗い・うがいを心がけ、体調の変化に早く気づく
- 家族や周囲の人に、具合が悪いときの連絡先や対応を伝えておく
食事と運動
決まった食事を規則正しくとること、極端な糖質制限や食事抜きをしないことが大切です。運動は血糖コントロールに役立ちますが、血糖がとても高いときやケトン体が陽性のときは無理をせず、かかりつけ医に相談してください。食事や運動の内容は、体格や治療内容に合わせて個別に調整します。
精神的健康と心の健康
DKAを経験すると、「また起きたらどうしよう」という不安や、糖尿病の治療を続けることへの疲れを感じることがあります。これは自然な気持ちです。抱え込まずに、かかりつけ医や看護師、糖尿病療養指導に携わるスタッフに話してみてください。気分の落ち込みが続くときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番通報をためらわないでください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクは大きく下げられます。インスリン治療を自己判断で中断しないこと、体調不良時の対応をあらかじめ決めておくこと、感染症を早めに治療することが特に大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎などの感染症はDKAのきっかけになります。ワクチンを接種するかどうかは、年齢や持病の状況を含めてかかりつけ医と相談してください。
検診プログラム
定期的な受診と血糖測定(HbA1cを含む)を続けることが、変化に早く気づく助けになります。体調が悪いときは尿ケトン体を確認できる検査キットを備えておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 意識障害や昏睡
- 脳がむくむ状態(特に小児で注意が必要)
- 重い脱水と血圧の低下(ショック)
- カリウムの異常による不整脈
- 腎機能の悪化
- 血栓ができる
- 命に関わる危険
長期的な見通し
DKAは早く見つけて適切な治療を受ければ、多くは改善します。大切なのは「おかしい」と感じたときに迷わず連絡することです。一度経験した方が備えを整えることで、次のリスクは確実に減らせます。
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最終更新: 2026年10月24日
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