鉄と葉酸は腸のどこで吸収される?
概要
食べ物に含まれる鉄と葉酸は、腸のどこからでも同じように吸収されるわけではありません。鉄は主に十二指腸(じゅうにしちょう:胃のすぐ下にある小腸の最初の部分)と、その次に続く空腸(くうちょう:小腸の真ん中の部分)の上のほうで吸収されます。葉酸は主に空腸で吸収され、十二指腸や回腸(かいちょう:小腸の最後の部分)でも一部が吸収されます。つまり、どちらも「小腸の上のほう」で吸収されるのが特徴です。この部分が病気や手術で傷ついたり、働きが悪くなったりすると、食事から十分にとっていても鉄や葉酸が足りなくなり、貧血(血のなかの赤血球が減ったり、小さくなったりする状態)になることがあります。
重要な事実
- 鉄は主に十二指腸と空腸の上部(小腸の上のほう)で吸収されます。
- 葉酸は主に空腸(小腸の中央部分)で吸収され、十二指腸や回腸でも一部が吸収されます。
- ビタミンB12は回腸の末端(小腸の最後の部分)で吸収され、鉄・葉酸とは吸収される場所が違います。
- 小腸の病気や手術のあと、胃酸が少ない状態などでは、吸収が悪くなることがあります。
- 吸収が悪いと、食事の量が足りていても鉄欠乏性貧血や葉酸不足になることがあります。
鉄が足りなくなる鉄欠乏性貧血はとてもよくみられる状態で、日本でも若い女性を中心に多く報告されています。葉酸が足りなくなることも少なくありません。ただし、ふつうに食事をしていれば吸収の場所が問題になることは多くなく、腸の病気や手術などがある場合に注目される点です。
食事の内容に偏りがある人、妊娠中・授乳中の人、成長期の子ども、月経の量が多い人、小腸の病気(クローン病やセリアック病など)や胃・小腸の手術を受けたことがある人、胃酸を抑える種類の薬を長く使っている人、大量のお酒を飲む人、高齢者などに多くみられます。
症状
- 安静にしていても息が苦しい、呼吸が荒い
- 胸の痛みや強い動悸があり、冷汗が出る
- 意識を失う、倒れる、もうろうとする
- 黒いタールのような便や血便が続き、ふらつきや冷汗を伴う
- 血を吐く、コーヒーの残りかすのようなものを吐く
- ⚠少し動いただけで息が切れる、動悸が止まらない
- ⚠日常生活が難しいほどの疲労が数日続く
- ⚠黒い便や血便に気づいた(量が少なくても)
- ⚠舌が赤くつるつるして強く痛む、口内炎が繰り返す
- ⚠手足のしびれや感覚の変化がある
一般的な症状
- 疲れやすい、だるさが続く
- 階段や坂道で息が切れる、動悸がする
- 顔色が悪い、唇やまぶたの裏が白っぽい
- めまい、立ちくらみ
- 頭痛、集中しにくい
- 手足の冷え
- 爪が割れやすい、抜け毛が増える
- 舌が赤くつるつるして痛む、口内炎ができやすい
子供の症状
- 機嫌が悪い、元気がない
- 食欲がない、食が細い
- 疲れやすい、走るとすぐ息が切れる
- 集中できない、学校でぼんやりしやすい
- 体重や身長の伸びが気になる
- 氷や土などを食べたくなる(異食症:食べ物でないものを食べたくなること)
高齢者の症状
- 動悸や息切れが心臓の病気と間違われやすい
- 強いだるさ、何をするにもおっくう
- ふらつき、転びやすくなる
- 物忘れや集中力の低下、ぼんやりする
- もともとの心臓病や呼吸器の病気が悪化する
- 舌の痛みで食事がとりにくくなる
原因
主な原因
- 食べ物からの鉄や葉酸の量が足りない(偏った食事、食事量の減少)
- 小腸(十二指腸・空腸)の病気や炎症で吸収が悪くなる
- 胃や小腸の手術のあとで吸収の通り道が変わった
- 胃酸が少ない状態が続き、鉄が吸収されにくくなる
- からだが必要とする量が増える(妊娠、授乳、成長期)
- 出血で鉄が失われる(月経量が多い、消化管からの出血など)
- 食事のときに緑茶・コーヒー・未精製の穀物などを多くとり、鉄の吸収が妨げられる
- 葉酸は加熱しすぎると壊れやすく、調理で減ってしまう
リスク要因
- 妊娠・授乳中、または妊娠を考えている
- 月経の量が多い、生理が長い
- 菜食中心で、吸収を助ける組み合わせが少ない
- 小腸の病気(クローン病、セリアック病など)の既往
- 胃や小腸の手術を受けたことがある
- 胃酸を抑える種類の薬を長期間使っている
- 大量の飲酒を続けている
- 高齢で食事量が少ない、噛む力が弱い
- 慢性の病気があり、食事や体調の管理が必要
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 黒い便、血便、血を吐くなど出血のサインがある
- 安静にしていても息苦しい、胸が痛い、動悸が強い
- ふらついて立っていられない、意識が遠のく
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすさや息切れが数週間続く
- 顔色が悪いと言われる、まぶたの裏が白っぽい
- 動悸、めまい、立ちくらみが繰り返す
- 抜け毛が増えた、爪が弱くなった
- 舌の痛みや口内炎が繰り返す
- 食事が偏っている自覚があり、妊娠を考えている
- 腸の病気や手術の経験があり、貧血を指摘されたことがある
診断
まず問診で、食事の内容、月経の量、これまでの病気や手術、飲んでいる薬、妊娠の予定などをうかがいます。そのうえで血液検査を行い、貧血の程度や鉄・葉酸が足りているかを確認します。必要に応じて、吸収が悪くなる原因がないかを調べるために便の検査や内視鏡検査などが行われます。
行われる可能性のある検査
- 血算(ヘモグロビンや赤血球の大きさを調べる検査)
- フェリチン(体内に蓄えられている鉄の量を見る検査)
- 血清鉄や血液中の鉄の運び手の数値
- 葉酸とビタミンB12の値
- 便潜血検査(便に血が混じっていないか)
- 胃カメラ・大腸カメラ(出血源や炎症がないか)
- 必要に応じて小腸の画像検査や病理検査
診察で予想されること
検査は採血が中心で、短時間で終わります。内視鏡を行う場合は事前の食事の制限や説明があります。結果が出るまでに数日かかることがあり、原因が腸の吸収にあるのか、食事や出血にあるのかをあわせて判断していきます。
治療
治療は大きく二つです。ひとつは不足している鉄や葉酸を補うこと、もうひとつは吸収を悪くしている原因(腸の病気や出血など)を見つけて対処することです。原因が分かれば、食事の工夫とあわせて改善が期待できます。
自宅でのセルフケア
- 鉄の多い食品を毎日の食事に取り入れる(赤身の肉や魚、大豆製品、卵、緑の濃い野菜など)
- 鉄の吸収を助けるビタミンC(野菜、果物)を一緒にとる
- 食事の直前・直後の緑茶やコーヒーは控えめにし、時間をずらす
- 葉酸は緑黄色野菜、豆類、卵などに多く含まれ、加熱しすぎない調理がおすすめ
- 3食を規則正しくとり、極端な食事制限を避ける
- 飲酒はほどほどにする
- サプリメントは自己判断で大量にとらず、医師や薬剤師に相談する
医療治療
医師の判断で、不足している鉄や葉酸を補う治療が行われます。飲み薬で補うことが多いですが、腸からの吸収が悪い場合や急いで補う必要がある場合には、点滴で補うこともあります。あわせて、吸収を悪くしている腸の病気や出血源などに対する治療が進められます。治療の内容や期間は検査結果と体調に合わせて決まるため、自己判断で中断せず、指示に沿って通院してください。
手術が検討される場合
手術が必要になるのは、腸の病気や出血源などが原因で、薬や食事の見直しでは改善しない場合などに限られます。多くの場合は手術をせずに治療できます。
この病気と共に生きる
鉄や葉酸が足りない状態は、治療を始めてから体感が良くなるまでに少し時間がかかることがあります。疲れやすい日は無理をせず休み、通院で数値を確認しながら少しずつ体調を整えていきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 食事の記録を簡単につけ、鉄や葉酸が多い食品を意識して取り入れる
- 十分な睡眠と休養をとる
- 無理のない範囲で軽い運動を続ける(散歩など)
- 月経の量や便の色の変化に気を配る
- 市販の薬やサプリを始める前に医師・薬剤師に相談する
- 妊娠を考えている人は早めに相談する
食事と運動
鉄は、赤身の肉や魚、大豆製品、卵、緑の濃い野菜などに含まれます。ビタミンCと一緒にとると吸収が助けられます。葉酸は緑黄色野菜、豆類、卵などに多く、加熱しすぎないほうがよいとされています。食事だけで足りないときは医療機関で相談しましょう。運動は激しすぎない散歩や軽い体操など、続けられるものを選ぶと体調の維持につながります。
精神的健康と心の健康
疲れが続くと、気分が落ち込んだり、イライラしたり、物事に集中しにくくなることがあります。これは体調の影響によるもので、治療で改善していくことも多いものです。つらい気持ちが続くときは一人で抱えず、かかりつけ医やお住まいの地域の保健センターなどの相談窓口、電話相談サービスを利用してください。気持ちが追い詰められていると感じたら、ためらわずに医療機関や緊急の相談先に連絡してください。
予防
食事の偏りが原因の場合は、日々の食事を見直すことで予防できます。腸の病気や手術などが背景にある場合は完全には防げませんが、定期的な検査と早めの相談で悪化を防げます。
検診プログラム
健康診断の血液検査で貧血を指摘されたら、そのままにせず相談してください。妊娠を考えている人は、妊娠前から葉酸について医師に相談することが勧められています。腸の病気がある人は、主治医の指示に沿って定期的に数値を確認しましょう。
合併症
治療しない場合
- 貧血が進み、疲れやすさや息切れが強くなる
- 心臓に負担がかかり、動悸や息苦しさが出る
- 集中力や記憶力の低下、仕事や学業への影響
- 妊娠前・妊娠中の葉酸不足は、赤ちゃんの神経の形成に影響するリスクがある
- 子どもの成長や発達への影響
- 免疫力が落ち、感染症にかかりやすくなる
- 舌の痛みや口内炎で食事がとりにくくなる
長期的な見通し
多くのかたは、原因を確かめて必要な補充と食事の見直しを続けることで、体調が少しずつ良くなっていきます。腸の病気が背景にある場合も、主治医と一緒に管理していくことで安定を目指せます。気になる症状は早めに相談することが、安心への近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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