尿もれ・便もれ(失禁)を防ぐためのヒント
概要
失禁(しっきん)とは、尿や便を「出したい」「止めたい」と自分でコントロールするのが難しくなり、漏れてしまう状態のことです。尿が漏れる「尿失禁(にょうしっきん)」と、便が漏れる「便失禁(べんしっきん)」があります。多くは、骨盤の底を支える筋肉(骨盤底筋・こつばんていきん)の弱りや、膀胱(ぼうこう=尿をためる袋)の働きの変化、便秘などが関係しています。体の仕組みを少し知って工夫するだけで、ずいぶん楽になることが多い症状です。
重要な事実
- 失禁は特別な人の問題ではなく、とても多くの人が経験する身近な症状です。年齢を重ねるほど経験する人は増えます。
- 恥ずかしさから誰にも言わずに我慢している人が多いですが、工夫や訓練で改善できることが少なくありません。
- 生活の見直し(骨盤底筋のトレーニング、体重管理、便秘の予防など)は、症状が出る前からでも役立ちます。
とてもよくある症状です。日本でも、成人女性の数人に1人が何らかの尿もれを経験するといわれ、高齢になるほど割合は高くなります。男性でも、前立腺(ぜんりつせん)の病気や加齢に伴って起こることがあります。「自分だけ」ではありません。
出産を経験した女性、閉経後の女性、高齢の方、前立腺の病気がある男性、肥満のある方、便秘がちな方、長く咳(せき)が続く方、糖尿病や神経の病気のある方、認知症や体の動きにくさのある方など、幅広い人が対象になります。
症状
- 尿がまったく出なくなり、下腹部が張って激しく痛む(尿閉・にょうへいの可能性)
- 突然の失禁に加えて、ろれつが回らない・手足の麻痺・顔のゆがみがある(脳卒中のサインかもしれないので、すぐ119番)
- 高熱とともに意識がもうろうとしている、ぐったりしている
- 大量の血が混じった尿が出た、出血が止まらない
- ⚠熱、排尿時の強い痛み、血尿がある(尿路感染・にょうろかんせんの可能性)
- ⚠腰や背中、脇腹の強い痛みを伴う
- ⚠いつもと違う急な変化で、自分では判断できない
一般的な症状
- 咳・くしゃみ・笑う・重いものを持つなど、お腹に力が入ったときに少し漏れる
- 急に強い尿意が来て、トイレに間に合わないことがある
- トイレに行く回数が多い、夜中に何度もトイレで起きる
- 排尿が終わったあとに、じわっと漏れてしまう
- おならと一緒に便が少し出てしまう、便を我慢できないことがある
- 下着がぬれる、においが気になって外出を控えたくなる
子供の症状
- おねしょ(夜尿)は、5〜6歳ごろまでは珍しいことではありません
- 昼間の尿もれが続く、トイレを我慢してから間に合わないことが多い
- 便秘が続き、そのために便が少しずつ漏れてしまう(遺糞・いふん)
- 学校生活で困っている、痛みや熱を伴うときは早めに受診を
高齢者の症状
- 加齢による筋力の低下で、尿を止める力が弱くなることがあります
- トイレまでの移動に時間がかかる、トイレが遠いといった環境の影響も大きいです
- 便秘や、服用している薬の影響で症状が出ることもあります
- 認知症があると、尿意の伝え方が難しくなることがあります
- 夜間に急いでトイレへ行くときは、転倒(ころんでけがをすること)に注意が必要です
原因
主な原因
- 骨盤底筋(骨盤の底を支える筋肉)が弱くなること。出産や加齢が関係します
- 膀胱の筋肉が自分の意思と関係なく縮んでしまうこと(過活動膀胱・かかつどうぼうこう)
- 男性では前立腺が大きくなり、尿の通り道が狭くなること
- 便秘により腸や膀胱が圧迫され、尿や便のコントロールが乱れること
- 糖尿病や脳卒中、脊髄(せきずい)の病気など、神経の働きの変化
- 尿路感染、薬の影響、女性ホルモンの変化など
リスク要因
- 女性であること、出産の経験があること
- 肥満(お腹の圧力が高まりやすい)
- 慢性的な便秘
- 長く続く咳、喫煙
- 重いものを持つ仕事や動作が多いこと
- 水分やカフェイン(コーヒー・お茶など)のとりすぎ
- 糖尿病、前立腺の病気、認知症、体の動きにくさ
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 尿がまったく出ない、下腹部が張って痛い
- 熱と排尿時の強い痛み、血尿がある
- 急に始まった失禁で、体の麻痺や話しにくさを伴う(すぐ救急へ)
定期受診を予約すべき場合:
- 週に何度も尿や便が漏れる
- 漏れるのが心配で外出や旅行を控えるようになった
- 夜中に何度もトイレで起きて眠りが浅い
- 便もれがある、または便を我慢できないことがある
- 薬を変えてから症状が出た、あるいは悪くなった
- 自分なりの工夫をしても改善しない
診断
まず問診で、どんなときに、どのくらい漏れるのか、回数や生活への影響を伺います。あわせて、飲んだ量と排尿の記録(排尿日誌・はいにょうにっし)をつけていただくと、原因の見当がつきやすくなります。必要に応じて尿検査や超音波検査を行い、膀胱に尿が残っていないかなどを確認します。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状の出方、回数、生活への影響、服用中の薬の確認)
- 排尿日誌(1〜3日間、飲んだ量・尿の回数と量・漏れた回数を記録)
- 尿検査(感染や血尿の有無を確認)
- 残尿測定(超音波で、排尿後に膀胱に残る尿の量を調べる)
- 身体診察(骨盤底の状態や、男性では前立腺の確認)
- 必要に応じて、尿の流れの検査や画像検査
診察で予想されること
診察はあっという間に終わることが多く、痛みを伴う検査ばかりではありません。恥ずかしいと感じるかもしれませんが、医師・看護師は慣れています。排尿日誌を持参すると話がスムーズに進みます。
治療
治療は、いきなり強い方法をとるのではなく、生活の工夫と骨盤底筋のトレーニングから始めるのが一般的です。それでも十分に改善しない場合に、薬による治療や器具、手術などを検討します。どの方法が合うかは人によって異なるため、医師と相談しながら段階的に進めていきます。
自宅でのセルフケア
- 骨盤底筋トレーニング:腟(ちつ)や肛門をギュッと締めて数秒キープし、ゆるめる。これを1日に数回、無理のない範囲で続ける
- 体重を適正に保つ(お腹の圧力を下げる効果が期待できます)
- 便秘を防ぐ(水分と食物繊維をとる、決まった時間にトイレへ行く)
- コーヒー・紅茶・アルコール・炭酸飲料などは控えめにする
- トイレを我慢しすぎない。一方で、予防のためといって頻繁に行きすぎない(膀胱訓練)
- 咳やくしゃみをする前に、骨盤底筋を締める習慣をつける
- トイレに行きやすい環境を整える(夜間の照明、通路の片づけ)
- 吸収パッドを上手に使う。こまめに交換し、皮膚のかぶれを防ぐ
医療治療
医師の指導のもとでの骨盤底筋トレーニングや膀胱訓練、生活指導に加えて、症状のタイプに応じて薬による治療が検討されることがあります。女性ではホルモンに関わる治療や、腟内に装着する器具が用いられることもあります。そのほか、電気刺激を用いた訓練や注射による治療、行動療法などが選ばれる場合もあります。薬の種類や量は医師が一人ひとりに合わせて判断するため、ここでは具体的な名前は挙げません。自己判断で市販薬を使ったり、中断したりせず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
生活の工夫やトレーニング、薬による治療でも十分に改善しない場合や、前立腺の肥大で尿の通りが悪い場合、骨盤内の臓器が下がってくる状態(臓器脱)を伴う場合などに、手術が選択肢となることがあります。専門医とよく相談して決めていきましょう。
この病気と共に生きる
「漏れたらどうしよう」と心配して外出を控えてしまうと、生活の範囲が狭くなってしまいます。トイレの場所を事前に確認しておく、替えの下着やパッドを持ち歩く、脱ぎ着しやすい服装を選ぶなど、工夫をしながら今までどおりの生活を続けることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 外出先のトイレの場所を確認しておく
- 替えの下着・パッド・におい対策の用品を携帯する
- きついベルトや体を締めつける服装を避ける
- 長時間の立ち仕事や重いものを持つときは、こまめに休む
- 禁煙し、長引く咳があれば治療する
- 規則正しい排便のリズムをつくる
食事と運動
水分は適量をとることが基本です。「もらさないために水分を減らす」のはかえって尿を濃くし、膀胱を刺激してしまうことがあるのでおすすめできません。食物繊維をしっかりとり、便秘を防ぎましょう。カフェインやアルコールは控えめに。運動は、ウォーキングなど無理のないものを続け、あわせて骨盤底筋トレーニングを毎日の習慣にするとよいでしょう。体重管理も症状の軽減に役立ちます。
精神的健康と心の健康
失禁は、恥ずかしさや不安、自己嫌悪につながりやすく、外出を控えるうちに気分が落ち込んだり、人と会うのがつらくなったりすることがあります。これは珍しいことではなく、誰にでも起こりうる気持ちの反応です。一人で抱え込まず、かかりつけ医や看護師、地域の相談窓口に話してみてください。気持ちがつらい状態が続くときは、医療機関への相談をためらわないでください。緊急の必要があるときは119番に電話してください。
予防
すべてを完全に防ぐことは難しいものの、リスクを下げる工夫はあります。若いうちから骨盤底筋を意識して鍛える、体重を適正に保つ、便秘を防ぐ、禁煙する、長引く咳を治療する、重いものを持つときは姿勢に気をつける、といったことが役立ちます。すでに症状がある人でも、これらの工夫は悪化を防ぐ助けになります。
検診プログラム
健康診断の尿検査で、症状がなくても異常が見つかることがあります。健診結果は大切に保管し、気になる所見があればかかりつけ医に相談しましょう。高齢の方は、地域の保健師や包括支援センターに生活面の相談をすることもできます。
合併症
治療しない場合
- 皮膚がぬれたままでかぶれ、かゆみや感染を起こす
- 尿路感染をくり返すことがある
- 夜間に急いでトイレに行くことで転倒・骨折のリスクが上がる
- 外出や人付き合いを控えるようになり、孤立しやすくなる
- 睡眠不足や気分の落ち込みにつながる
- 尿がまったく出ない状態(尿閉)を放置すると、腎臓に負担がかかる
長期的な見通し
失禁は「年だから仕方ない」とあきらめられがちですが、生活の工夫やトレーニング、必要な治療で改善する方は多くいます。症状が軽いうちに相談するほど、選択肢も広がります。まずは身近な医療機関に話してみることが、快適な毎日への一歩になります。
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最終更新: 2026年10月24日
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