乳児ボツリヌス症(にゅうじボツリヌスしょう)
概要
乳児ボツリヌス症は、ふつう1歳未満の赤ちゃんに起こる、まれな病気です。土やほこり、そして一部の食品(代表例がはちみつ)にいる「ボツリヌス菌」の芽(胞子=菌が眠ったような状態のもの)を赤ちゃんが口にすると、その菌がまだ未熟な赤ちゃんの腸の中で増えて、毒素(体にはたらきかける物質)を作ることがあります。この毒素が筋肉を動かしにくくするため、飲みが悪くなったり、体がぐにゃっとしたりします。菌そのものがうつる病気ではなく、大人から赤ちゃんへ感染することもありません。
重要な事実
- 多くは生後1か月から6か月ごろの赤ちゃんに起こり、1歳を過ぎるとほとんどみられません。
- はちみつは1歳未満の赤ちゃんに与えないことが、厚生労働省などから呼びかけられています。加熱しても菌の芽は死ににくいため、加熱したはちみつでも避けます。
- 早く見つけて呼吸や栄養を支える治療をすれば、多くは数週間から数か月かけて元気に回復します。
とてもまれな病気です。日本でも報告数は多くありません。ただし珍しいからといって心配しすぎる必要はなく、知識を持っておくことが予防と早めの受診につながります。
主に生後1か月から6か月ごろの赤ちゃんです。1歳未満であればどの月齢でも起こる可能性があります。大人や大きい子どもは腸の環境が成熟しているため、ふつうは発症しません。
症状
- 呼吸が弱い、息が浅い、呼吸が止まったように見える
- 顔色が青白い、ぐったりして反応が乏しい
- 母乳やミルクをまったく飲めない、吸えない
- けいれんのような動きがある
- 意識がはっきりしない
- ⚠便秘が数日続き、そのあと飲みが悪くなってきた
- ⚠泣き声が弱くなった、元気がない
- ⚠体が柔らかく、首がぐらぐらする
- ⚠まぶたが下がってきた、よだれが増えた
- ⚠飲みこみがうまくいかず、むせることが増えた
一般的な症状
- 便秘が続く(元気そうに見えても、排便が数日ないことが最初のサインのことがあります)
- 母乳やミルクを飲む力が弱くなる、飲みが悪くなる
- 泣き声が弱くなる、元気がない
- 体がぐにゃっとした感じになり、首のすわりが悪くなる、手足を動かしにくくなる
- まぶたが下がる、よだれが多くなる、飲みこみがうまくいかない
- 表情が乏しくなる
子供の症状
- 便秘、飲みの悪さ、弱い泣き声、体のぐにゃっとした感じ、まぶたが下がる、よだれが多い、などがよくみられます。
- 症状は急にではなく、数日かけてゆっくり進むことが多いです。
- 呼吸が弱くなると危険なため、息が浅い、顔色が悪い、といった変化はすぐに救急要請が必要です。
高齢者の症状
- この病気は基本的に1歳未満の赤ちゃんの病気で、大人には通常みられません。
- 大人が同じような症状(まぶたが下がる、力が入らない、飲みこみにくいなど)を示すときは、別の原因を調べる必要があります。
- 自分や家族にそうした症状があるときは、早めにかかりつけ医に相談してください。
原因
主な原因
- ボツリヌス菌の芽(胞子)を赤ちゃんが口にし、まだ未熟な腸の中で菌が増えて毒素を作ることによって起こります。
- 主な原因として知られているのが、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えることです。はちみつには菌の芽が含まれていることがあります。
- 土ぼこりや粉っぽい環境から菌の芽を吸い込んだり口に入れたりすることが関係する場合もあります。
- 人から人へうつる病気ではありません。
リスク要因
- 1歳未満、とくに生後6か月ごろまでの月齢
- はちみつ、またははちみつを使った食品(パン、飲み物、お菓子など)を1歳未満で摂ること
- 家の周りや工事現場など、ほこりの多い環境
- 未熟児や腸の状態に配慮が必要な赤ちゃんは、とくに注意が必要といわれます
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 便秘が続いたあとに、飲みが悪い・泣き声が弱いなどの変化がみられるとき
- 体がぐにゃっとする、首がぐらぐらする、まぶたが下がるなどの症状があるとき
- 呼吸が浅い、むせることが増えた、顔色が悪いとき(この場合は119番への連絡も検討してください)
定期受診を予約すべき場合:
- はちみつを1歳未満の赤ちゃんに与えてしまった(症状がなくても、かかりつけの小児科に相談すると安心です)
- 便秘が続いているが、機嫌はよく飲みも良い
- 育児の中で気になることがあり、確認したい
診断
まず診察で、便秘が続いていないか、飲み方や泣き声、体の力の入り方、まぶたの様子などをていねいに確認します。そのうえで、便の中に菌や毒素があるかを調べる検査を行います。必要に応じて、呼吸の状態や血液の状態も確認します。
行われる可能性のある検査
- 便の検査(菌や毒素が含まれているかを調べます)
- 血液検査(体の状態や脱水の有無を確認します)
- 呼吸の状態の観察やモニターによる確認
- 必要に応じて画像検査など、ほかの原因を確認する検査
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに数日かかることがあります。その間も、呼吸と栄養を支えるケアはすぐに始められます。確定診断のための検査は、地域の保健所や専門機関と連携して進められることが多く、ご家族は症状の経過や授乳の様子をメモしておくと役立ちます。
治療
治療の中心は、赤ちゃんの呼吸と栄養をしっかり支えながら、体が自分で回復するのを待つことです。多くの場合、入院して観察を受けます。症状の重さに応じて、医師が追加の治療を検討します。
自宅でのセルフケア
- 家庭でできる特別な治療はありません。気になる症状があるときは自己判断で様子を見続けず、受診してください。
- 入院中は、授乳や排便の記録、症状の変化をメモしておくと、医療者に伝えやすくなります。
- 退院後も、飲み方や便の様子、体の動きの変化をしばらく観察しましょう。
- 1歳未満の赤ちゃんには、はちみつとはちみつ入りの食品を与えないでください。加熱しても菌の芽は死ににくいため、加熱したものも避けます。
医療治療
入院して呼吸の状態を注意深く見守り、必要に応じて呼吸を助けるケアや、点滴などで水分と栄養を補う治療が行われます。症状や経過に応じて、毒素のはたらきを抑える治療が検討されることもあります。どの治療を行うかは、赤ちゃんの状態をよく知る医師が判断します。
手術が検討される場合
通常、手術が必要になる病気ではありません。
この病気と共に生きる
入院中は付き添いの負担が大きくなることがあります。退院後は、授乳や排便の記録をつけながら、少しずつこれまでの生活リズムに戻していきましょう。回復には数週間から数か月かかることがあり、焦らずに見守ることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 1歳を過ぎるまでは、はちみつとはちみつ入り食品を避け、食品の表示を確認する習慣をつけましょう。
- 家族や預ける先の大人にも、はちみつを与えないことをあらかじめ伝えておくと安心です。
- 家の中のほこりをこまめに拭き、赤ちゃんの口に入るものを清潔に保ちましょう。
- 予防接種など、ほかの健康管理もかかりつけ医と相談しながら進めましょう。
食事と運動
回復期は、赤ちゃんの飲める量とペースに合わせて授乳を続けます。離乳食は、かかりつけ医や管理栄養士の助言に沿って、体調を見ながら進めましょう。体を動かすことは回復を助けますが、無理は禁物です。赤ちゃんの機嫌がよいときに、やさしく触れたりあやしたりする時間を大切にしてください。
精神的健康と心の健康
赤ちゃんの入院は、ご家族にとって大きな不安と疲労を伴います。「自分が何かしてしまったのではないか」と責めてしまう方も少なくありませんが、これは珍しい病気であり、多くは防ぐ知識があれば十分に注意できるものです。眠れない、気持ちが落ち込む、不安が続くといった状態が続くときは、一人で抱えず、地域の保健センターやかかりつけの医療機関、信頼できる人に相談してください。つらい気持ちが強いときは、地域の相談窓口や医療者に早めに助けを求めることが大切です。
予防
できる予防があります。最も大切なのは、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えないことです。厚生労働省もこの点を呼びかけています。はちみつを使ったお菓子や飲み物、パンなども表示を確認して避けましょう。加熱しても菌の芽は死ににくいため、「加熱してあれば大丈夫」とは考えないでください。また、ほこりの多い場所を避け、口に入るものや手を清潔に保つことも心がけましょう。
ワクチン
乳児ボツリヌス症を防ぐワクチンは、現在一般に使われていません。
検診プログラム
症状がない赤ちゃんを対象にした決まった検査(スクリーニング)は行われていません。気になる症状があるときは、検査ではなく受診で相談することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 呼吸する力が弱くなり、呼吸がしづらくなることがあります
- 飲みこみがうまくいかず、誤って気管に入って肺炎を起こすことがあります
- 飲めない状態が続くことで、脱水や栄養不足になることがあります
- 症状が重い場合、集中治療が必要になることがあります
長期的な見通し
多くは、適切な観察と支援のもとで数週間から数か月かけて自然に回復し、後遺症なく元気に育つとされています。回復のスピードには個人差がありますが、医療チームと一緒に一歩ずつ進んでいけば大丈夫です。気になることは何でも遠慮なく医師や看護師に尋ねてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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