心臓手術とマイコバクテリア感染のリスク
概要
心臓手術、とくに人工心肺装置(心臓の代わりに血液を送り出し、酸素を加える機械)を使う手術のあとに、ごくまれに「マイコバクテリア」という種類の菌に感染することがあります。マイコバクテリアの多くは、結核菌とはちがう「非結核性抗酸菌(ひけっかくせいこうさんきん)」と呼ばれる菌で、土や水、ほこりの中など、私たちの身のまわりにふつうにいる菌です。健康な人では体の防御力によって問題になりにくいのですが、手術で体内に人工弁や人工血管などの「人工物」が入った場合や、手術中に使った器具をとおして菌が入り込んだ場合に、感染が起こることがあります。海外では人工心肺装置の一部(血液を冷やしたり温めたりする部分)を介した感染の事例が報告され、日本でも医療機関による点検や対策が進められています。これは「手術を受けたから必ず感染する」というものではなく、起きた場合に知っておきたい知識として理解してください。
重要な事実
- 心臓手術後のマイコバクテリア感染は非常にまれです。ほとんどの方は感染しません。
- この菌は育つのがゆっくりなため、手術から数か月〜数年たってから、長引く発熱や体重減少などで気づくことがあります。
- 日本では厚生労働省や学会の指針により、医療機関で人工心肺装置の点検・管理と感染対策が行われています。
- 早期に見つかれば、治療で改善をめざせます。気になる症状が続くときは、手術を受けた病院に相談することが大切です。
非常にまれです。心臓手術を受けた方の大多数には起こりません。ただし、まれであるために見落とされやすく、症状が長引いたときに思い出していただきたいテーマでもあります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い
- 呼吸が苦しい、息ができない
- 胸の強い痛み
- 血圧が下がり、冷汗が出て顔色が青白い(ショックの可能性)
- 手術の傷あとから大量に出血している
- ⚠38℃以上の発熱が続く、または繰り返す
- ⚠傷あとが赤く腫れて痛む、膿のようなものが出る
- ⚠急に息切れが強くなった、横になると苦しい
- ⚠寒気をともなう高熱が出た
一般的な症状
- 38℃前後の発熱がだらだら続く、または繰り返す
- 夜中に汗をかく(寝汗)
- 食欲が落ち、体重が減っていく
- 強い疲労感、だるさが続く
- 手術の傷あとが赤くなる、腫れる、痛む、膿(うみ)が出る
- 息切れ、動悸
- 関節の痛み
- おなかの張り(肝臓や脾臓が大きくなることがあります)
子供の症状
- 発熱が続く
- 母乳やミルクの飲みが悪い、食欲がない
- 体重が増えない、成長曲線から外れる
- ぐずりが多く、機嫌が悪い
- 顔色が悪い、元気がない
- 手術の傷あとの赤みや腫れ
高齢者の症状
- 熱がはっきり出ないことがある(微熱のみ、または熱なし)
- 食欲低下と体重減少が目立つ
- なんとなく元気がない、疲れやすい
- いつもより物忘れが多い、ぼんやりする
- 傷あとの治りが悪い
原因
主な原因
- 非結核性抗酸菌(土・水・ほこりの中にいる、結核菌とは別の菌)が、手術中に使う器具や人工心肺装置の一部をとおして体内に入ることがある
- 体内に残った人工弁・人工血管などの人工物の表面に菌が付着し、そこでゆっくり増える
- 手術の傷(創部)から菌が入る
- ごくまれに、血流に乗って菌が全身に広がる
リスク要因
- 人工心肺装置を使う心臓手術を受けたこと
- 体内に人工弁・人工血管・ペースメーカーなどの人工物があること
- 免疫の働きを下げる治療(ステロイドなど)を受けている
- 糖尿病がある
- 手術時間が長かった、術後の傷の治りが悪かった
- 入院や通院で、長期間にわたり医療器具にふれる機会が多い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手術の傷あとが赤く腫れて痛む、膿が出ている
- 38℃以上の発熱が続く、または繰り返す
- 急な息切れ、胸の痛み、動悸が強い
- 寒気をともなう高熱、血圧が下がった感じがする
定期受診を予約すべき場合:
- 1か月以上続く微熱やだるさがある
- 体重が少しずつ減っている、食欲がない
- 寝汗が続く
- 関節の痛みが続く
- 手術から時間がたっているが、体調に不安がある
診断
問診(手術の時期、症状がいつから続いているか)、診察、血液検査、画像検査などを組み合わせて調べます。マイコバクテリアは増えるのが非常にゆっくりなため、通常の培養検査では見つかりにくく、専用の検査が必要になります。結果が出るまで数週間かかることもあります。確定診断は、手術を受けた病院の心臓外科・感染症科などが連携して行います。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(炎症の程度、貧血、肝臓の働きなど)
- 血液培養(菌を育てて調べる検査。マイコバクテリア用は時間がかかります)
- 創部(傷あと)の観察と、必要に応じた検査
- 画像検査(CT検査、心臓の超音波検査など)
- 遺伝子を使った検査(菌の種類を早く調べる方法)
- 必要に応じて、体内の人工物の状態を调べる検査
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに時間がかかることがあります。待っている間は不安になるかもしれませんが、その間に医師は症状に合わせた対応を進めます。気になる点は遠慮なく質問し、症状の経過をメモしておくと診察がスムーズになります。
治療
治療は、菌を抑えるためのお薬を長期間続けることと、必要に応じて体内の人工物を入れ替える手術を組み合わせることが基本になります。症状や菌の種類、体の状態に合わせて、担当の医師チームが治療方針を決めます。
自宅でのセルフケア
- 処方されたお薬は、症状が良くなっても自己判断でやめず、決められた期間きちんと続ける
- 毎日、体温と体重を記録し、通院時に見せる
- 傷あとの赤み・腫れ・痛み・膿の有無を毎日チェックする
- 十分な睡眠と休息をとる
- 禁煙を心がける(喫煙は傷の治りや感染への抵抗力に影響します)
- 主治医・薬剤師に、飲み合わせや副作用について気軽に相談する
医療治療
菌の増殖を抑えるお薬を、複数組み合わせて長期間(数か月から年単位になることもあります)使うことがあります。お薬は副作用が出ることがあるため、定期的な血液検査などで体の状態を確認しながら進めます。体内の人工弁や人工血管などに感染が及んでいる場合は、人工物を入れ替える手術が必要になることがあります。具体的な薬の種類や量は、菌の検査結果と体の状態をもとに担当医が判断します。
手術が検討される場合
人工弁や人工血管などの人工物に感染が及んでいて、お薬だけでは抑えきれない場合には、感染した人工物を新しいものに入れ替える手術を検討します。手術が必要かどうかは、心臓外科医と感染症の専門医が一緒に判断します。
この病気と共に生きる
治療が長くなることがあるため、通院の予定を生活の中に組み込み、無理のないペースを保つことが大切です。体調の変化を記録しておくと、診察のときに役立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活と十分な睡眠をとる
- 体温・体重・症状の記録をつける
- ストレスをためないよう、自分に合った息抜きの時間を持つ
- 体調が良い日でも、医師から指示された活動の範囲を守る
- 家族や身近な人に治療のことを伝え、協力をお願いする
食事と運動
バランスの良い食事を心がけ、塩分を控えめにすると心臓への負担を減らせます。たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品など)は傷の治りや体力の維持に役立ちます。運動は、担当医の許可の範囲で、散歩などの軽い活動から始めましょう。息苦しさや強い疲れを感じたら無理をせず休み、主治医に相談してください。
精神的健康と心の健康
長い治療や通院が続くと、不安や落ち込み、いらいらを感じることは自然なことです。一人で抱え込まず、家族や友人、医療スタッフに気持ちを話してみてください。つらさが続くときは、医療機関の相談窓口や、地域のこころの相談サービスを利用することもできます。
予防
すべての感染を完全に防ぐことはできませんが、医療機関では人工心肺装置の点検・洗浄・管理の基準を守り、手術中の感染対策を徹底しています。患者さん側も、術後の傷を清潔に保つ、医師の指示どおりに通院する、気になる症状を早めに伝えることが予防と早期発見につながります。
ワクチン
現在、非結核性抗酸菌に対する一般的なワクチンはありません。結核の予防接種(BCG)は結核に対するもので、この菌への効果は期待できません。
検診プログラム
健康な方に対する一般的なスクリーニング検査はありません。心臓手術後に長引く発熱や体重減少がある場合は、症状をもとにした検査を行います。
合併症
治療しない場合
- 感染が人工弁や人工血管に広がり、その機能が損なわれることがある
- 心臓の内側に感染が及ぶ(感染性心内膜炎)
- 菌が血流に乗って全身に広がり、重い状態になることがある
- 膿(うみ)のたまりができる
- 治療が長期化し、入院が必要になることがある
長期的な見通し
心臓手術後のマイコバクテリア感染はまれであり、多くの方は感染しません。万一感染が起きた場合も、早期に気づいて治療を始めることで改善が期待できます。治療に時間がかかることはありますが、医療チームと一緒に一歩ずつ進めていくことができます。気になる症状があれば、早めに手術を受けた病院に相談してください。
サポートを探す
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康に関する案内は国や地域によって異なります。このページは一般的な教育情報であり、お住まいの地域の指針、薬、診療と一致しない場合があります。心配な点はご自身の医師または医療提供者に相談し、地域の案内がある場合はそれに従ってください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
関連する疾患
情報源とガイダンス
このトピックを名指しする指針はありません
このページには、このトピックそのものを名指しする健康ガイドラインや臨床の章は引用されていません。このページは一般的な教育と情報のみを目的としています。診断、治療計画、個人への医学的助言ではありません。ご自身の医師に確認し、その指示に従ってください。症状が重い、突然である、または心配な場合は速やかに受診し、緊急時は地域の緊急番号に電話してください。Ruqelo LLC は、この情報に基づく判断から生じる医学上または法律上の結果について責任を負いません。
最終更新: 2026年10月24日
教育上の注記: この情報は教育目的のみであり、診断ではありません。
免許を持つ医療者のアドバイスを補うために使い、代わりにはしないでください。
症状が重篤、悪化、または緊急の場合は、地域の救急番号に電話するか、緊急医療を受けてください。
Guidance may differ by country or region. Confirm local recommendations with a qualified healthcare provider.