病院でうつる感染症(院内感染)を減らすために
概要
病院や介護施設などで過ごしている間に、新しく起こる感染症のことを「医療関連感染」とか「院内感染」と呼びます。たとえば、手術の傷口、尿道に入れる細い管(カテーテル)、点滴の管、人工呼吸器など、体に一時的に入れている器具のまわりから菌が入ることがあります。入院している人は、もともと体が弱っていたり、免疫の働きが下がっていたりするため、ふだんは問題にならない菌でも感染症につながることがあります。ただし、手洗いや器具の管理などの対策で、起こる数をかなり減らせることも分かっています。
重要な事実
- 院内感染は、病院の不潔さだけが原因ではなく、治療のために体に管を入れること自体が関係しています。
- いちばん大切な予防は、患者さん自身も含めた「手を洗う」という基本の行動です。
- 発熱や傷の変化など、いつもと違うサインに早く気づくと、治療がスムーズになります。
めずらしいことではありません。世界保健機関(WHO)の推計では、先進国の入院患者さんのおよそ7%に医療関連感染が起きるとされています。日本でも決して特別なことではなく、どの病院でも起きうるものとして対策が進められています。
高齢の方、小さな子ども、免疫の働きが下がっている方(病気や治療の影響)、手術を受ける方、集中治療室で過ごす方、長く入院している方、糖尿病や栄養不足のある方が影響を受けやすいとされています。ただし、どの入院患者さんにも起こる可能性はあります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
- 息が苦しい、唇や顔色が青白い、呼吸が速い
- 高熱と強いぐったり感が一緒にある
- 血圧が大きく下がっていると言われた、顔色が土色で冷汗が出ている
- 手術の傷から大量に出血している、または強い痛みで動けない
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠傷口の赤みが広がっている、膿が出ている、痛みが増している
- ⚠排尿時の痛みや尿の濁りがある
- ⚠下痢が数日続く、水分がとれない
- ⚠咳や痰が悪化している、たんに血が混じる
一般的な症状
- 38度以上の発熱、寒気、ぞくぞくする感じ
- 手術の傷口が赤くなる、腫れる、痛みが強くなる、膿が出る
- 咳が増える、痰が出る、息苦しさや胸の痛み
- 尿をするときに痛む、尿が濁る、トイレが近い
- 下痢が続く、お腹の痛み、吐き気
- だるさ、食欲がない、なんとなく元気が出ない
子供の症状
- 不機嫌で泣き方がいつもと違う
- おっぱいやミルクを飲む量が減る
- 発熱、嘔吐、下痢
- いつもより眠ってばかり、反応が乏しい
- 皮膚や傷のまわりが赤くなる
高齢者の症状
- 熱がほとんど出ないのに、急に元気がなくなる
- 食事や水分をとらなくなる
- 急に混乱する、会話がかみ合わない、ぼんやりする
- 転びやすくなる、立てなくなる
- 尿もれが急に増える、トイレの失敗が増える
原因
主な原因
- 細菌・ウイルス・真菌(カビの仲間)が、手や医療器具をとおして体に入ること
- 点滴の管、尿道カテーテル、人工呼吸器など、体に入れた器具のまわりからの感染
- 手術の傷口から菌が入ること
- 抗菌薬(いわゆる抗生物質)を長く使うことで、薬が効きにくい菌(耐性菌)が増えること
- 病棟内での人の移動や、共有の物品をとおした広がり
リスク要因
- 高齢であること、または小さな子どもであること
- 手術や集中治療を受けること
- 長期間の入院
- 尿道カテーテル、点滴の管、人工呼吸器などの使用
- 免疫の働きを下げる治療を受けている
- 糖尿病、腎臓の病気、栄養不足
- 抗菌薬を長期間使っている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 入院中・退院後まもなくに38度以上の熱が出た
- 傷口の赤み・腫れ・痛みが広がっている、膿が出ている
- 息苦しさ、胸の痛み、咳や痰の悪化がある
- 排尿時の痛み、尿の濁り、腰の痛みがある
- 下痢が続いて水分がとれない
定期受診を予約すべき場合:
- なんとなくだるい、食欲がない状態が数日続く
- 傷口のかゆみや違和感が続く
- 退院後に受けた説明と違う症状が出てきた
- 薬について不安がある、副作用かもしれないと感じる
診断
まず診察で、熱の出方、傷の見た目、咳や尿の様子などを確認します。そのうえで、感染がどこで起きているか、どんな菌が関係しているかを調べるために検査を行います。入院中は検査がすぐに受けられることが多く、原因が分かれば治療の方針も決めやすくなります。
行われる可能性のある検査
- 体温測定と診察(傷口や皮膚の観察を含む)
- 血液検査(炎症の程度や体の状態を見る)
- 尿検査、痰の検査
- 細菌の培養検査(どこにどんな菌がいるかを調べる)
- レントゲンやCTなどの画像検査
- 場合によっては傷口や管のまわりから検体をとる検査
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに数日かかることがあります。結果を待つ間に、症状をやわらげる処置が始まることもあります。検査の目的や結果の意味は、担当の医師や看護師に気軽にたずねてください。
治療
治療の中心は、原因になっている菌やウイルスを減らすことと、感染のもとになっている管や器具があれば取り除くことです。体の状態を保つための点滴や休息も大切になります。治療は医療スタッフが体の状態を見ながら組み立てるので、自分だけで判断せず、気になることは何でも相談してください。
自宅でのセルフケア
- こまめに手を洗う。自分自身の手も、感染を広げないために大切です
- 面会に来た人にも手洗いをお願いする
- 傷口は指示どおりに清潔に保ち、触る前後は手を洗う
- 水分と栄養をとり、できる範囲で体を休める
- 熱や痛み、傷の変化をメモしてスタッフに伝える
- 抗菌薬などを処方された場合は、自己判断で中止せず、飲み方の指示に従う
医療治療
原因の菌に合わせて、抗菌薬や抗ウイルス薬などの薬による治療が検討されます。どの薬をどれくらい使うかは、検査結果と体の状態をもとに医師が判断します。また、感染のもとになっている管やカテーテルを抜く・入れ替えることも重要な治療のひとつです。発熱や痛みをやわらげる処置が並行して行われることもあります。
手術が検討される場合
傷口に膿がたまっている場合などは、膿を出す小さな処置や、器具の入れ替えが必要になることがあります。手術が必要かどうかは、担当医が画像検査などの結果をふまえて判断します。
この病気と共に生きる
入院中は、スタッフの指示を守りながらできるだけいつもの生活リズムを保つと、体も心も落ち着きやすくなります。退院後は、傷の状態や体温をしばらく記録しておくと、変化に気づきやすくなります。生活の細かい制限は、退院時に受ける説明に従ってください。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と休息をとる
- たばこは感染のリスクを上げるため、禁煙を考えてみる
- 手指衛生を習慣にする(外出後、トイレの後、食事の前)
- 人混みや、風邪症状のある人との接触をできるだけ避ける
- 持病(糖尿病など)がある場合は、その管理を続ける
食事と運動
バランスのよい食事と十分な水分は、体の回復力を支えます。入院中は無理のない範囲で、ベッドの上でできる体操や、許可された範囲の歩行などから始めるとよいでしょう。退院後の運動は、体調と主治医の指示に合わせて少しずつ増やしていくのが安心です。
精神的健康と心の健康
入院中の感染症は、不安や孤独感、先が見えないつらさを伴うことがあります。それは自然な反応です。気持ちを一人で抱え込まず、看護師や医師、家族、かかりつけ医に話してみてください。眠れない、気分の落ち込みが続くといった場合も、遠慮なく相談を。つらさが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療スタッフに伝えるか、地域の相談窓口や救急(119番)を利用してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、起こる数を減らすことはできます。医療者側の手指衛生や器具の管理に加えて、患者さん自身の手洗い、面会者の協力、抗菌薬を必要以上に使わない取り組みが効果を上げています。日本でも厚生労働省や各病院が感染対策の指針を定め、取り組みを進めています。
ワクチン
インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹などのワクチンは、入院中や退院後の感染症のリスクを下げる助けになることがあります。受けるかどうかは年齢や持病によって変わるため、かかりつけ医や入院先の医師に相談してみてください。
検診プログラム
手術前や入院時に、薬が効きにくい菌(MRSAなど)を持っていないかを調べる検査を行うことがあります。これは、感染を広げないための大切な確認です。検査の意味が分からないときは、スタッフにたずねてみましょう。
合併症
治療しない場合
- 感染が血液に広がり、全身の状態が悪くなることがある
- 手術の傷の治りが遅くなる、傷が開く
- 肺炎や尿路感染が重くなり、入院が長引く
- 薬が効きにくい菌による感染が起き、治療の選択肢が狭まる
- 体力が落ち、退院後の生活に時間がかかる
長期的な見通し
多くの場合、早く見つけて適切な治療を始めれば、回復に向かいます。院内感染は決して珍しいものではありませんが、対策と早期発見によって防げる部分は確実に増えています。不安なときは、担当の医療スタッフに遠慮なく質問してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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