男性の不妊症(男性不妊)
概要
男性不妊とは、子どもを望んで避妊をせずに性生活を続けているのに妊娠に至らないとき、その原因が男性側にある状態を指します。妊娠は二人でつくるものなので、原因は男性だけ・女性だけにあるとは限らず、二人の要因が重なることも多くあります。男性不妊の多くは、精子の数が少ない・動きが悪い・形がいびつといった「精子の状态(質)の問題」や、精子が通りにくくなる「道のつまり」によって起こります。特別な症状がないことも多く、検査をして初めて分かることも少なくありません。
重要な事実
- 妊娠に至らないカップルのおよそ半数に、男性側の要因が関わっているといわれています。
- 自覚症状がないことが多く、体調や性生活に問題を感じていなくても検査で見つかることがあります。
- 原因が分かれば、治療や生活の見直しで妊娠をめざせる道が広がります。まずは気軽に相談することから始まります。
はい、めずらしいことではありません。妊娠を望むカップルのおよそ5組に1組が不妊に悩むといわれ、そのうち男性側に何らかの要因があるケースは約半数にのぼると報告されています。決してあなただけの問題ではなく、多くの人が同じ悩みを抱えています。
年齢や体格にかかわらず、どの男性にも起こりえます。精巣の病気や手術の経験がある人、思春期に精巣が腫れた経験がある人、がん治療を受けた人などは影響が起こりやすいとされますが、思い当たる理由がまったくない人にも起こります。年齢が上がるにつれて精子の質がゆるやかに低下することも知られています。
症状
- 精巣(玉)が突然、激しく痛む、または急に腫れた(精巣がねじれる病気の可能性があり、時間との勝負になります)
- 陰嚢や股間に強い衝撃を受けたけがで、激痛・腫れ・出血がある
- 高熱とともに陰嚢が赤く大きく腫れ、歩くのもつらい
- ⚠陰嚢の腫れと痛み、または発熱がある(感染症の可能性)
- ⚠尿が出にくい、排尿時に強い痛みがある
- ⚠血尿が出た、精液に血が混じった(多くは心配のないこともありますが、一度受診を)
- ⚠精巣の硬いしこりや、急な大きさの変化に気づいた
一般的な症状
- 自覚症状がほとんどない(検査で初めて分かることが多い)
- 避妊していないのに1年以上妊娠に至らない
- 精液の量が少ない、または射精しても精液が出ない感じがする
- 射精や勃起に関する悩み(性機能の変化)
- 精巣(玉)が小さい、やわらかい、左右差が大きいと感じる
- 精巣や陰嚢(ふくろ)の痛み・重い感じ・腫れ
- 性欲の低下、疲れやすさ、体毛の変化など(ホルモンの影響が疑われる場合)
子供の症状
- 子ども自身に「不妊」の症状はありませんが、将来の妊娠力に関わる要因がみつかることがあります。
- 精巣が陰嚢の中まで下りてこない(停留精巣)と言われたことがある
- 思春期になっても声変わりや体毛の成長など第二次性徴が進みにくい
- 陰嚢や精巣の腫れ・痛み(思春期以降は特に注意)
高齢者の症状
- 年齢とともに精子の数や動きがゆるやかに低下することがある
- 高血圧・糖尿病などの持病や、その治療薬が影響することがある(自己判断で薬をやめず、必ず医師に相談を)
- 前立腺の病気や手術の経験がある場合は、射精の変化が出ることがある
- 加齢による体力・睡眠・ストレスの変化が、生活全体に影響することがある
原因
主な原因
- 精子をつくる力の低下(精巣そのものの働きが弱い、ホルモンのバランスの乱れなど)
- 精子の通り道のつまり(精管がふさがる、射精の障害など)
- 精索静脈瘤(精巣の周りの静脈がこぶのようにふくらみ、精巣の温度が上がる状態)
- 過去の感染症の影響(思春期以降のおたふくかぜによる精巣の炎症など)
- 性感染症による炎症や、通り道の傷つき
- がん治療(抗がん剤・放射線)や、一部の薬の影響
- 遺伝や生まれつきの要因(染色体の特徴など)
- 原因がはっきり分からないケースも多い(約3〜4割程度といわれます)
リスク要因
- 過度の飲酒
- 肥満や運動不足
- 精巣を高温にさらす習慣(頻繁なサウナ、ひざの上にノートパソコンを長時間置く、長時間の座り仕事など)
- 強いストレスや慢性的な睡眠不足
- 年齢(加齢に伴う精子の質の変化)
- 精巣のけが・手術の経験、停留精巣の既往
- 性感染症の既往
- 高血圧・糖尿病などの持病、およびその治療薬の影響
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 精巣が突然、激しく痛む、または急に腫れた(ためらわず救急へ)
- 陰嚢の腫れに発熱や赤みを伴い、どんどん悪化している
- 尿が出ない、排尿時に激痛がある
- 陰嚢や股間を強く打った後の激痛・腫れ
定期受診を予約すべき場合:
- 避妊していないのに1年以上(女性が35歳以上のカップルでは6か月ほど)妊娠に至らない
- 35歳以上で子どもを望んでいる、または年齢に関わらず早めに相談したい
- 精液の量が少ない、射精の違和感がある
- 勃起や性欲の変化が気になる
- 精巣の大きさ・硬さ・左右差が気になる、痛みや違和感が続く
- がん治療の予定がある、または受けたことがある(妊娠力の温存について相談できます)
- パートナーと一緒に検査を受けたい
診断
まず問診(生活習慣・既往歴・性生活の状況など)と身体の診察を行い、中心になるのが精液検査です。精液の中の精子の数・動き・形を調べます。結果にばらつきがあるため、間隔をあけて2回以上行うことが一般的です。必要に応じて血液検査でホルモンや体の状態を確認し、超音波で精巣や精索静脈瘤の有無をみます。多くの場合、パートナー側の検査も並行して進めます。
行われる可能性のある検査
- 問診(生活習慣、既往歴、服薬、家族歴などの確認)
- 身体診察(精巣の大きさ・硬さ、精索静脈瘤の有無などを確認)
- 精液検査(精子の数・運動率・形などを調べる。2回以上行うことが多い)
- 血液検査(男性ホルモンなどのホルモン値、必要に応じて染色体の検査)
- 超音波検査(精巣・精巣上体・精索静脈瘤の確認)
- 尿検査(感染症など他の原因の確認)
- 必要に応じて精巣の組織を調べる検査や、専門医による詳しい検査
診察で予想されること
精液検査は、決められた日数の禁欲期間(おおむね2〜7日程度)をあけて採取します。医療機関で採取する方法のほか、自宅で採取して決められた時間内に持参する方法が選べる場合もあります。結果は数日〜1〜2週間ほどで分かることが多く、説明の場にはパートナーと一緒に同席すると、選択肢を二人で考えやすくなります。原因によっては泌尿器科や生殖医療の専門医に紹介されます。
治療
治療の進め方は、原因によって変わります。生活習慣の見直しで改善が期待できる場合もあれば、原因となる病気の治療、ホルモンの調整、精子を直接取り出す方法、人工授精や体外受精といった生殖補助医療など、いくつかの選択肢を組み合わせます。大切なのは、二人の希望や気持ちの負担も含めて、専門医とじっくり相談しながら決めていくことです。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(自分だけでなく、パートナーの受動喫煙も避ける)
- 飲酒は適量を心がけ、浴びるほど飲む習慣を見直す
- 適正体重を保つ(極端なダイエットも避ける)
- 精巣を高温にさらさない(長時間のサウナ・熱い風呂、ひざの上のノートパソコン、きつい下着を避ける)
- 睡眠を十分にとり、ストレスをためない工夫をする
- バランスのよい食事を心がける(気になるサプリメントは自己判断で始めず、医師や薬剤師に相談)
- パートナーと気持ちを話し合う時間をつくる
医療治療
原因に応じて、次のような方向性が検討されます。ホルモンのバランスを整える治療、感染症や炎症に対する治療、射精や勃起の悩みへの対応、精子の通り道のつまりに対する治療、精巣から直接精子を取り出す方法、そして人工授精や体外受精などの生殖補助医療です。どの方法が合うかは、検査結果と二人の希望によって変わります。薬の種類や量、治療の順番については、必ず担当の医師の説明を受けてください(この記事では具体的な薬の名前や量はお伝えしません)。
手術が検討される場合
精索静脈瘤、精子の通り道のつまり、精巣の位置の異常など、原因となる病気がはっきりしている場合に手術が検討されます。ただし、手術がすべての人に必要というわけではなく、手術をしなくても他の方法で妊娠をめざせることもあります。専門医とメリット・デメリットをよく話し合って決めましょう。
この病気と共に生きる
不妊と向き合う期間は、検査の予定や結果待ちなどで気持ちが揺れやすいものです。自分のペースを大切にし、パートナーとは「今日は結果の話をしない日」をつくるなど、話す量を調整しながら進めるのもひとつの方法です。仕事と通院の両立については、職場の相談窓口や制度を確認しておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙・節酒を続ける(パートナーも一緒に取り組むと続きやすい)
- 精巣を冷やす工夫(通気性のよい下着、長時間座り続けない、こまめに立つ)
- 睡眠時間を確保し、夜更かしを減らす
- ストレスを発散する趣味や運動の時間をつくる
- パートナーと検査結果や気持ちを共有する機会をつくる
- 周囲に話しづらいときは、専門のカウンセラーや相談窓口を利用する
食事と運動
特別な「これを食べれば大丈夫」という食品はありませんが、偏りのない食事と適度な運動は、体全体の調子を整える助けになります。野菜・果物・魚・全粒穀物などをバランスよくとり、極端な糖質制限や過度なダイエットは避けましょう。運動は、息が少しはずむ程度の有酸素運動を週に数回、無理のない範囲で続けるのがおすすめです。自転車の長時間の乗車など、股間に強く圧力がかかる習慣がある場合は、サドルの調整なども検討してみてください。
精神的健康と心の健康
不妊は、男性にとって「自分は男としてどうなのか」といった孤独な悩みにつながりやすく、落ち込み、いらいら、パートナーとのすれ違い、性生活へのプレッシャーとして現れることがあります。これは弱さではなく、誰にでも起こる自然な反応です。気持ちが重い日が続くとき、眠れない、何も楽しめないと感じるときは、一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、専門のカウンセラーに話してください。もし自分を傷つけたい気持ちがわいたり、生きることがつらいと感じたりしたら、すぐに119番(救急)に連絡するか、救急外来を受診してください。あなたの命と気持ちが最優先です。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、生活習慣を見直すことでリスクを下げられる部分はあります。禁煙、節酒、適正体重の維持、精巣を高温にさらさない工夫、性感染症を予防するための安全な行動は、精子の健康を守る助けになります。思い当たる習慣がひとつでもあれば、できるところから変えていくだけで十分です。
ワクチン
思春期以降におたふくかぜ(ムンプス)にかかると、精巣の炎症を起こして将来の妊娠力に影響することがあります。ワクチンについては任意接種の扱いになるため、接種を希望する場合や迷う場合は、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
男性不妊に特化した決まった健診はありませんが、子どもを望む前や、妊娠を考え始めた段階で早めに相談することが大切です。性感染症が心配なときは検査を受けましょう。また、がん治療の前に妊娠力を温存する方法(精子の凍結保存など)について相談できる場合があるので、治療の予定がある人は早めに担当医に伝えてください。
合併症
治療しない場合
- 妊娠に至るまでの期間が長引くことがある
- カップル関係や精神面の負担が大きくなることがある
- 原因となっている病気(ホルモンの異常、精索静脈瘤、感染症など)が見逃されることがある
- 年齢を重ねるほど、治療の選択肢が限られてくる場合がある
- 性生活へのプレッシャーや自信の低下につながることがある
長期的な見通し
男性不妊は、原因が分かれば対処の道が広がる領域です。生活習慣の見直しだけで改善する場合もあり、原因に応じた治療や生殖補助医療によって妊娠をめざせるケースも多くあります。原因がはっきりしない場合でも、二人で相談を続けることで次の選択肢が見えてきます。あせらず、専門家と一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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