女性の不妊症(妊娠しにくい状態)を知る
概要
不妊症(ふにんしょう)とは、避妊をせずに性交を続けているのに、なかなか妊娠に至らない状態を指します。日本では一般的に「1年たっても妊娠しない」場合を目安にします。体のどこかに問題があって妊娠しにくくなっている、という意味で、あなた自身の「努力不足」ではありません。妊娠は女性と男性の両方の要素が関わるので、原因は女性側だけにあるとは限りません。
重要な事実
- 不妊は「1年妊娠に至らない状態」をひとつの目安にしますが、年齢によってはもっと早く相談したほうがよい場合もあります。
- 妊娠しやすさは年齢とともに自然に変わります。特に35歳を過ぎると変化が大きくなりやすいと言われています。
- 原因は女性側だけではなく、カップル双方に理由があることも多く、二人で検査を受けることが大切です。
- 治療には生活の見直しから手術、体外受精などの方法まで多くの選択肢があり、妊娠に至る方も少なくありません。
決して珍しいことではありません。日本でも、妊娠を望むカップルのおよそ5〜6組に1組が、不妊の検査や治療を経験したことがあると報告されています。一人で抱えているように感じても、同じ経験をしている人はたくさんいます。
妊娠を望む女性であれば、年齢を問わず起こりえます。20代でも起こることはありますが、年齢が上がるにつれて妊娠しにくさは増えていきます。月経が順調でも不妊の状態になることはあり、逆に月経が不順でも妊娠できることはあります。
症状
- 突然の片側の下腹部の激痛、冷や汗、ふらつき、意識が遠のく感じ(妊娠の可能性がある場合は特に注意してください)。
- 妊娠の可能性がある中での強い腹痛と性器出血。
- 1時間以内にナプキンが何度も必要になるほどの多量の出血、あるいは大きな血のかたまりが続く。
- 強い下腹部痛に加えて、息苦しさや意識の変化がある。
- ⚠38℃以上の発熱と下腹部痛、おりものの悪臭が一緒にある(骨盤内の感染症の可能性があります)。
- ⚠急に始まった強い下腹部痛。
- ⚠月経が長期間止まっている、または急に月経がめだって不順になった。
- ⚠気持ちの落ち込みや不安が強く、眠れない、日常が保てない日が続いている。
一般的な症状
- 避妊せずに1年以上性生活を続けているのに妊娠しない(これが一番の手がかりで、痛みなどの症状はないことが多いです)。
- 月経周期が不安定、35日以上あく、または3か月以上月経が来ない。
- 月経の量が極端に多い、または少ない。
- 生理痛が非常に強い、性交のときに痛みがある(子宮内膜症などの背景があることがあります)。
- にきびや体毛の増加、体重の急な変化など、ホルモンの乱れを思わせる変化。
- 乳房から白っぽい液が出る、頭痛や視野の変化がある(ホルモンに関わる病気が隠れていることがあります)。
子供の症状
- 子どもは妊娠を望む年齢ではないため、この話題は基本的にあてはまりません。
- 思春期に入っても月経が来ない、月経が極端に不順、強い下腹部痛が繰り返す場合は、将来の妊娠に関わることもあるため、小児科や婦人科に相談してください。
高齢者の症状
- 40代以降は、卵子の数と質が自然に低下するため、妊娠しにくさはさらに増します。
- 年齢が高いほど、妊娠した場合に高血圧や糖尿病などの合併症が起こりやすくなるため、妊娠前からの健康管理が大切です。
- 閉経が近づくと月経が不順になり、妊娠を望む場合は早めの相談が勧められます。
原因
主な原因
- 排卵のトラブル:卵子がうまく育たない、排卵されない状態。月経不順を伴うことが多く、ホルモンのバランスの乱れや、卵巣の中で卵子が育ちにくくなる病気などが背景にあります。
- 卵管(卵子と精子が通る管)の詰まりや癒着:過去の感染症や手術、子宮内膜症などで通り道が狭くなることがあります。
- 子宮内膜症(子宮の内側に似た組織が、子宮の外などにできる病気):炎症や癒着で妊娠しにくくなることがあります。
- 子宮の病気:子宮筋腫(子宮にできる良性のこぶ)や子宮内膜ポリープなどが、着床(受精卵が子宮に根づくこと)を妨げることがあります。
- 年齢による卵子の数の減少と質の変化:加齢に伴う自然な変化で、病気ではありません。
- 原因が見つからない場合(原因不明不妊):検査をしてもはっきりした理由が見つからないことも少なくありません。
リスク要因
- 年齢(特に35歳以降は妊娠しにくさが増します)。
- 喫煙(ご本人だけでなく、パートナーの喫煙も影響します)。
- やせすぎ、または肥満(ホルモンのバランスに影響します)。
- 性感染症の既往(クラミジアなどは卵管の通りを悪くすることがあります)。
- 子宮内膜症や子宮筋腫の診断を受けたことがある。
- 骨盤内の手術や、抗がん治療(化学療法・放射線治療)の経験。
- 過度の飲酒、強いストレス、睡眠不足など生活リズムの乱れ。
- 甲状腺の病気など、ホルモンに関わる病気がある。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 妊娠の可能性がある中で、強い腹痛や出血がある(早めに、場合によっては救急へ)。
- 発熱と下腹部痛、悪臭のあるおりものが同時にある。
- 急激に強くなった下腹部痛がある。
- つらさが強く、生活が保てない、自分を傷つけたい気持ちがわいた(すぐに医療機関や相談窓口、救急に連絡してください)。
定期受診を予約すべき場合:
- 35歳未満で、避妊せずに1年以上妊娠しない。
- 35歳以上で、6か月妊娠しない(年齢が上がるほど、早めの相談が勧められます)。
- 月経周期が35日以上あく、3か月以上月経がない、生理痛が強いなど、月経に気になることがある。
- 子宮内膜症や子宮筋腫、性感染症の既往がある。
- 妊娠を考え始めた段階で、体の状態を確認しておきたい(プレコンセプションケア=妊娠前からの健康づくり)。
診断
問診と、月経周期の記録から始まります。そのうえで、ホルモンの状態や卵巣・子宮の様子を調べる検査を組み合わせます。不妊の検査は女性だけのものではなく、パートナーの精液検査も同時に進めることが大切です。検査は一度で終わらず、何回かの通院が必要になることがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診と基礎体温・月経周期の記録(いつ排卵しているかの目安になります)。
- 血液検査:ホルモンの値、甲状腺の働き、卵巣に残っている卵子の量の目安などを調べます。
- 経腟超音波検査:子宮や卵巣の形、卵子のもとになる卵胞の育ち方、子宮内膜の厚さを見ます。
- 卵管の通りを確かめる検査(子宮卵管造影検査など):卵管が詰まっていないかを調べます。
- パートナーの精液検査:精子の数や動きを確認します。
- 必要に応じて、子宮の中を直接見る検査や、お腹の中を小さなカメラで見る検査を行うことがあります。
診察で予想されること
検査の多くは外来で行え、痛みは軽いことが一般的ですが、卵管の検査では生理痛のような痛みを感じることがあります。検査の内容や費用、保険が使えるかどうかは施設によって違うため、事前に確認しておくと安心です。結果は二人で一緒に聞くと、次の選択を話し合いやすくなります。
治療
不妊の治療は「一気に最後まで進める」ものではなく、体への負担や生活、希望に合わせて段階的に選んでいきます。まずは生活の見直しとタイミングの指導から始め、必要に応じて排卵を促す治療、人工授精、体外受精へと進みます。治療を続けるか、休むか、別の道を考えるかも、あなたとパートナーが決めてよいことです。
自宅でのセルフケア
- 基礎体温や月経周期を記録し、体のリズムを知る。
- 禁煙する(パートナーも一緒に)。
- 適正な体重を保つ(やせすぎも肥満もホルモンに影響します)。
- お酒は控えめにし、睡眠と休養をしっかりとる。
- 過度な運動や極端な食事制限を避ける。
- パートナーと気持ちを話す時間をつくる。
- 風しんなどの感染症の免疫を、妊娠前に確認しておく。
医療治療
治療には、排卵のタイミングを合わせる指導、排卵を促す治療、精液を子宮の中に注入する人工授精、卵子を取り出して体外で受精させてから子宮に戻す体外受精・顕微授精などがあります。背景にホルモンの病気や甲状腺の病気がある場合は、その治療を優先することもあります。日本では、一般不妊治療に加えて、2022年度から生殖補助医療(体外受精など)の多くが公的医療保険の対象になっています。具体的な方法や薬の内容は、施設の体制やあなたの体の状態によって変わるため、担当医とよく相談して決めてください。
手術が検討される場合
子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、卵管の詰まりなど、取り除くことで妊娠しやすさが上がると考えられる病気がある場合に、手術を検討することがあります。手術で改善が見込める場合もあれば、手術をせずに別の方法を選ぶほうがよい場合もあります。体への負担と期待できる効果を比べて、担当医と一緒に判断します。
この病気と共に生きる
通院の予定に合わせて仕事や家事を調整する必要があり、待ち時間や結果を待つ時間は心がざわつくものです。周期ごとに一喜一憂してしまうのは自然なことです。治療を「続ける期間」と「休む期間」をあらかじめ決めておくと、気持ちの負担が軽くなることがあります。
生活習慣のアドバイス
- 通院日をあらかじめカレンダーに入れ、仕事の調整は早めに相談する。
- 治療について話せる相手を一人でもつくる(パートナー、友人、カウンセラーなど)。
- 不妊の話題から離れる時間を意識してつくる(趣味、散歩、好きな映像など)。
- SNSの情報は、自分を追い詰めるものからは距離を置く。
- 治療の情報は、厚生労働省や自治体の公式の窓口など、信頼できる出どころで確認する。
食事と運動
特別な食事法よりも、主食・主菜・副菜がそろうバランスのよい食事を、規則正しくとることが基本です。極端な糖質制限や過度なダイエットは、月経を止めてしまうことがあります。運動は、ウォーキングや軽い筋トレなど、息が少し上がる程度を無理なく続けるのがおすすめです。サプリメントや健康食品は、妊娠中の安全性がわかっていないものもあるため、始める前に医師や薬剤師に相談してください。
精神的健康と心の健康
不妊のつらさは、周囲から見えにくく、一人で抱え込みやすいものです。月経が来るたびの落ち込み、友人や親戚の妊娠の知らせへの複雑な気持ち、パートナーとのすれ違いは、決してわがままではありません。眠れない、涙が止まらない、何も楽しめない日が2週間以上続くときは、医療機関に相談してください。つらい気持ちが強いときは、地域の精神保健福祉センターや自治体の相談窓口、かかりつけ医を頼ってください。自分を傷つけたい気持ちがわいたとき、命に関わるほど追い詰められたときは、ためらわず救急(119)や医療機関、身近な人に連絡してください。
予防
すべての不妊を防ぐことはできません。特に年齢による変化は避けられない自然なものです。ただ、喫煙をしない、適正な体重を保つ、性感染症を早めに治療する、生理痛や月経不順を放っておかないといったことは、妊娠しやすい体づくりにつながります。妊娠を考え始める前に、体の状態を確認しておく「プレコンセプションケア(妊娠前からの健康づくり)」も役立ちます。
ワクチン
風しんは妊娠中にかかるとおなかの赤ちゃんに影響することがあるため、妊娠前に免疫があるかを確認しておくことが勧められています。風しんの予防接種は妊娠中には受けられないため、接種を考えている場合は、その後の避妊期間について医師に確認してください。
検診プログラム
子宮頸がん検診、性感染症の検査、月経の状態の確認など、自治体や職場の健診を定期的に受けておくと、気になる変化に早く気づけます。妊娠を考え始めたら、不妊の検査をひととおり受けられる「不妊ドック」のような検査を行っている施設もあります。
合併症
治療しない場合
- 不妊の背景にある子宮内膜症や甲状腺の病気、性感染症などが見逃されてしまうことがあります。
- 年齢とともに妊娠しやすさは自然に下がっていくため、迷っている間に選べる方法が狭まることがあります。
- 不安や落ち込みが長引き、パートナーとの関係や仕事に負担がかかることがあります。
- 年齢が高い場合、妊娠したときに高血圧や糖尿病などの合併症が起こりやすくなります。
長期的な見通し
不妊は「治す・治さない」というより、妊娠という目標に向けて方法を選んでいくもの、と考えると少し楽になります。治療を経て妊娠する方も多く、治療を休むこと、治療をしないことを選ぶこともできます。養子縁組や里親、子どもを持たない生き方など、人生の選択肢はいくつもあります。焦らず、あなたとパートナーのペースで進めてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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