炎症性腸疾患(IBD)を知る
概要
炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん、IBD)は、腸の中に炎症(腫れやただれ)が長く続く病気のグループの総称です。代表的なものに「潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)」と「クローン病」があります。潰瘍性大腸炎は大腸の内側の粘膜に炎症が起き、クローン病は口からおしりまでの消化管のどこにでも炎症が起きるのが特徴です。症状が強く出る「再燃(さいねん)」の時期と、落ち着いている「寛解(かんかい)」の時期をくり返すことが多く、寛解を長く保つことが治療の目標になります。
重要な事実
- 腸の炎症が長く続く病気で、症状が落ち着く「寛解」と強くなる「再燃」をくり返すことが多いです。
- 日本では厚生労働省の「指定難病」に定められており、医療費の助成を受けられる場合があります。
- 根本的に治す治療はまだありませんが、薬や生活の工夫で寛解を保ち、ふだんどおりの生活を送っている人がたくさんいます。
日本でも決してめずらしい病気ではなく、ここ数十年で患者数は増えているといわれています。特にはっきりした原因が分かっていないため、誰にでも起こりうる病気として理解されています。
10代の後半から30代で発症することが多いといわれますが、子どもから高齢の方まで、どの年代でも発症します。男性にも女性にも起こります。
症状
- 大量の血便や、止まらない出血がある
- 意識がもうろうとしている、ぐったりして呼びかけへの反応が弱い
- お腹が板のように硬く、触ると激しく痛がる(腸に穴が開いた疑い)
- 嘔吐が続いて水分がとれず、尿がほとんど出ない
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠血便が数日続く、または量が増えてきた
- ⚠強い腹痛が続き、痛み止めで楽にならない
- ⚠水のような下痢が止まらず、立ちくらみやめまいがある(脱水の疑い)
- ⚠短期間に体重がはっきり減った
一般的な症状
- 下痢が続く、または軟便が長く続く
- 血が混じった便(血便)、粘液(ねばねばしたもの)が混じる便
- お腹の痛み(特に下腹部)、お腹が張る感じ
- 便意があるのにお通じが出ない、何度もトイレに行きたくなる(しぶり腹)
- 発熱、だるさ、疲れやすさ
- 食欲が落ちる、体重が減る
- 口内炎、関節の痛み、皮膚の赤い腫れなど、お腹の外の症状が出ることもある
子供の症状
- 身長や体重が増えにくい、成長曲線からはずれてくる
- 学校を休みがちになる、体育や行事に参加しにくい
- お腹の痛みをうまく言葉で説明できず、不機嫌やぐずりとして表れることがある
- 思春期の始まりが遅れることがある
- 貧血による顔色の悪さ、疲れやすさ
高齢者の症状
- 症状が典型的でなく、下痢や食欲低下だけで済むことがある
- 脱水や貧血が進みやすい
- もともと持っている病気の薬と治療薬の飲み合わせに注意が必要
- 感染症(胃腸炎など)との見分けがつきにくいことがある
原因
主な原因
- はっきりした原因はまだ分かっていません。遺伝的な体質、腸内細菌のバランス、免疫(体を守る仕組み)の行き過ぎた反応、食事や環境などが組み合わさって起こると考えられています。
- 「食べ物が原因で発症する」わけではありません。食事は症状に影響することがありますが、病気の直接の原因ではありません。
- ストレスは症状を悪くする引き金になることはありますが、ストレスが原因で発症するわけではありません。
リスク要因
- 家族に同じ病気の人がいる(遺伝的な体質が関係するといわれます)
- 10代後半から30代という若い年代
- 喫煙はクローン病のリスクを上げるといわれています
- 欧米型の食事や生活スタイルの変化(関連が指摘されています)
- 過去の腸の感染症
- 痛み止めの一部(NSAIDs)や抗菌薬の使用との関連が指摘されています
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血便が出た、または血が混じった便が続く
- 発熱と下痢が同時に続く
- 強い腹痛が続く
- 水分がとれず、尿が減ってぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 下痢や軟便が2週間以上続いている
- トイレに何度も行きたくなる、残便感が続く
- 原因が分からないまま体重が減っている
- 疲れやすさ、貧血を指摘された
- 家族に炎症性腸疾患の人がいて、お腹の不調が続く
診断
診断は、症状の聞き取り、血液検査や便の検査、そして大腸カメラ(大腸内視鏡)などの画像検査を組み合わせて行われます。腸の粘膜を一部とって顕微鏡で調べることで、炎症のタイプや広がりを確かめます。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状の経過、家族歴、服薬、生活習慣の確認)
- 血液検査(炎症の程度、貧血、栄養状態を調べる)
- 便の検査(炎症の目印を調べる、感染性の胃腸炎ではないことの確認)
- 大腸内視鏡(大腸カメラ)と組織検査(粘膜の一部をとって調べる)
- 小腸の画像検査(CT、MRI、小腸内視鏡など)
- 必要に応じて腹部の超音波検査
診察で予想されること
大腸カメラの前には、腸をきれいにするための下剤を飲み、食事の制限があります。検査中は鎮静剤を使って眠っている間に受けられることが多く、痛みはあまりありません。結果が出るまで数日かかることがあり、確定診断までにいくつかの検査を重ねることもあります。
治療
治療の目標は、腸の炎症をしずめて症状のない「寛解」にし、その状態をできるだけ長く保つことです。薬物治療が中心になりますが、食事や生活の工夫、定期的な通院も大切です。治療は一人ひとりの症状や炎症の場所に合わせて組み立てられます。
自宅でのセルフケア
- 処方された薬は、症状が落ち着いても自己判断でやめずに続ける(やめると再燃しやすくなります)
- 症状と食事、便の回数や状態を簡単な日記に記録する(診察のときに役立ちます)
- 禁煙する(特にクローン病では大切です)
- 睡眠をしっかりとり、無理な働き方や生活リズムの乱れを避ける
- ストレスをためこまないよう、気分転換や相談の場を持つ
- 下痢がひどいときは、こまめに水分をとって脱水を防ぐ
- 感染症にかからないよう手洗いを心がけ、体調が悪いときは早めに受診する
医療治療
炎症をしずめる薬、免疫(体を守る仕組み)の働きを調整する薬、点滴や注射で使う薬などが、症状や炎症の程度に合わせて組み合わせて使われます。ステロイドは炎症を強くしずめる力がありますが、長く使い続けると副作用が出やすいため、通常は短期間で終えて他の薬に切り替える形がとられます。血液の成分を使って炎症を調整する治療が選ばれることもあります。どの治療を選ぶかは、主治医とよく相談して決めていきます。
手術が検討される場合
薬での治療で十分にコントロールできないとき、腸が狭くなって食べ物が通らない、腸に穴が開いた、出血が多い、がんの疑いがあるといった場合には手術が検討されます。手術で病気そのものがなくなるわけではありませんが、手術によって症状が大きく改善し、生活の質が上がる人も多くいます。
この病気と共に生きる
寛解の時期は、通院と服薬を続けながら、仕事や学校、旅行などふだんどおりの生活を送ることができます。トイレの場所を事前に確認しておく、予定に余裕を持たせる、といったちょっとした工夫が安心につながります。体調の波があることを自分でも理解しておくと、落ち着いて対処しやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
- 禁煙する(クローン病では特に重要です)
- 食事は少しずつ試しながら、自分に合うもの・合わないものを見つける
- 症状が悪いときは無理をせず、仕事や学校の理解者に状況を伝えておく
- 定期的に通院し、症状がなくても診察を受ける
- 市町村の難病相談窓口や医療費助成制度の情報を確認しておく
食事と運動
特定の食事が病気を治すわけではありませんが、症状に影響することはあります。下痢が多いときは脂っこいものや刺激の強いもの、食物繊維の多いものを控えめにし、消化のよいものを少量ずつとると楽になることがあります。寛解の時期は栄養バランスを意識しましょう。食事の内容は人によって違うので、記録をつけて主治医や管理栄養士に相談するとよいです。運動は、体調のよいときに散歩や軽い運動から始めると、体力づくりや気分転換になります。激しい運動は体調に合わせて調整しましょう。
精神的健康と心の健康
症状が続くと、不安や落ち込み、イライラを感じるのは自然なことです。トイレのことを気にして外出を控えてしまう、人に話しにくいと感じる、といった悩みもよくあります。つらい気持ちを一人で抱えこまず、家族や友人、主治医、同じ病気の人と話してみてください。気分の落ち込みが続くときは、医療機関に相談することが大切です。つらい気持ちが強いときは、地域の相談窓口や、日本では「いのちの電話」などの相談サービスも利用できます。緊急の場合は119番に連絡してください。
予防
炎症性腸疾患を確実に防ぐ方法は、今のところ分かっていません。ただし、禁煙やバランスのよい食事、十分な睡眠、ストレスをためない生活は、症状を落ち着かせたり再燃を減らしたりする助けになります。
ワクチン
免疫の働きを抑える治療をしていると、感染症にかかったときに重症化しやすくなることがあります。肺炎球菌、インフルエンザ、B型肝炎などのワクチンについて、主治医と相談しておくと安心です。生ワクチンは治療内容によって接種できないことがあるため、必ず事前に確認してください。
検診プログラム
長く病気が続く方では大腸がんのリスクが高まることがあるため、定期的な大腸カメラでのチェックが勧められます。また、栄養状態や貧血、骨の密度の検査も必要に応じて行われます。通院を続けることが、こうしたチェックの機会になります。
合併症
治療しない場合
- 腸が狭くなる(狭窄)、腸に穴が開く(穿孔)、トンネル状のつながりができる(瘻孔)
- 出血が続くことによる貧血
- 栄養が吸収しにくくなり、体重減少や成長の遅れにつながる
- 長期間の炎症による大腸がんのリスクの上昇
- 関節、皮膚、目、口の中など、腸の外の症状
- 治療を続けないことで再燃をくり返し、生活の質が下がる
長期的な見通し
炎症性腸疾患は、今は完全に治す治療がない病気です。ただし、治療の選択肢はこの数年で大きく増え、多くの人が寛解を長く保ちながら、仕事や学校、結婚や出産など、自分らしい生活を送っています。症状の波はあっても、主治医と一緒に治療を続けていくことで、先の見通しは明るくなっています。一人で抱えこまず、必要なサポートにつながることが大切です。
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最終更新: 2026年10月24日
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