腸管寄生虫(おなかの寄生虫)
概要
腸管寄生虫とは、人の腸の中に住みついてしまう小さな生き物のことです。「寄生虫」と聞くと驚くかもしれませんが、目で見えるくらいの大きさのもの(回虫やサナダムシなど)から、顕微鏡でしか見えないほど小さなもの(ジアルジアやアメーバなど)まで、たくさんの種類があります。多くは、汚れた水や食べ物、土、手指などを通して口から入り、腸の中で育ちます。種類によって症状はさまざまで、まったく気づかないまま過ごしていることも少なくありません。
重要な事実
- 寄生虫の種類はとても多く、出る症状も治療の方法も種類によって変わります。
- 多くは口から入ります。手洗いと食べ物をよく加熱することが、いちばん大切な予防法です。
- 便の検査で見つけることができ、多くの場合は飲み薬などで治療できます。
- 日本では以前よりずっと少なくなりましたが、なくなったわけではありません。特に子どもの蟯虫(ぎょうちゅう)は今も見られます。
世界全体で見るととても多い病気で、世界保健機関(WHO)も大切な健康問題として取り上げています。日本では衛生環境が良くなり、以前より大きく減りました。それでも、子どもの間で見られる蟯虫(ぎょうちゅう)、海外渡航や輸入食品に関係するものなど、身近に起こる可能性は残っています。「自分には関係ない」と決めつけず、気になる症状があれば相談することが大切です。
子ども(特に保育園や学校など、集団で過ごす時期)、海外の衛生状態が整いにくい地域へ行った人、加熱が不十分な肉・魚・野菜をよく食べる人、井戸水や湧き水を飲む人、ペットや野生動物と接する機会が多い人、免疫力が下がっている人などが影響を受けやすいとされています。年齢や性別にかかわらず、誰にでも起こる可能性があります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い
- けいれんが起きた
- 呼吸が苦しい、息が荒い
- 顔面が真っ白で冷や汗をかき、ぐったりして立てない(ショックの疑い)
- 大量の血便が出た、血を吐いた
- 強い脱水で尿がほとんど出ない、口の中がひどく乾いている
- ⚠高い熱が続く
- ⚠激しい腹痛で動けない、おなかを触ると硬い
- ⚠何度も嘔吐して水分がとれない
- ⚠血が混じった便、粘液の多い便が続く
- ⚠下痢が1週間以上続いている
- ⚠ぐったりして元気がない(特に子どもと高齢者)
- ⚠肛門のかゆみが強くて眠れない、日常生活に支障が出ている
一般的な症状
- おなかの痛み(みぞおちや、へその周りが多い)
- 下痢(長く続くこともあります)や軟らかい便
- おなかが張る、ガスが多い
- 吐き気や、食欲がわかない
- 食べているのに体重が減る
- 肛門の周りのかゆみ(夜に強くなることが多い)
- 疲れやすい、顔色が悪い(貧血のことがあります)
- 便の中に白っぽい糸のようなものや、動くものが見える
- 眠りが浅い、いらいらしやすい
子供の症状
- 肛門のかゆみで夜中に目が覚める、寝つきが悪い
- おしりをよくかく、下着を触る
- 落ち着きがない、機嫌が悪い
- 食欲にむらがある、好き嫌いが急に増えたように見える
- 「おなかが痛い」と繰り返し訴える
- 体重が増えにくい、成長の曲線から外れていく
- おねしょが増えることがある
- 保育園や学校で、同じような症状の子がいる
高齢者の症状
- 症状が軽くて気づきにくく、見逃されやすい
- 下痢が続くことで脱水になりやすい
- だるさ、食欲の低下が「年齢のせい」と思われやすい
- 貧血(めまい、動悸、息切れ)が見つかることがある
- もともとの持病(心臓・腎臓・糖尿病など)が不安定になりやすい
- 便の中の虫に自分で気づかず、検査で初めて分かることもある
原因
主な原因
- 口から入る感染(経口感染):寄生虫の卵や幼虫が付いた食べ物や水を口にすることで起こります。
- 加熱が不十分な肉・魚・貝(生焼け、生の刺身、自家製の漬け物など)
- よく洗っていない生野菜や果物
- 汚染された水・氷、井戸水や湧き水
- 手指:トイレの後、おむつ替えの後、土いじりの後にしっかり洗わないとき
- 蟯虫(ぎょうちゅう)は、卵が下着・シーツ・ほこりに付き、手についたり、空気中に舞ったものを吸い込んだりして口に入ります。
- ペットや野生動物(キツネ、犬、猫など)との接触、動物のふんに触れること
- 海外の衛生状態が整いにくい地域での食事・水・土との接触
リスク要因
- 海外の衛生状態が整いにくい地域への渡航や長期滞在
- 生ものや加熱不足の食べ物を好んで食べる習慣
- 手洗いが十分でない(特に食事の前、トイレの後)
- 保育園・学校・介護施設など、人が集まる場所での生活
- 井戸水・湧き水を飲料や歯みがきに使っている
- ペットの世話や、動物のふんの処理をしている
- はだしや素手で土や畑仕事に触れることが多い
- 免疫力が下がる病気の治療中、または高齢・乳幼児
- 家族の中に同じ症状の人がいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 激しい腹痛、血の混じった便、何度も続く嘔吐がある
- 高い熱と下痢が同時に続く
- 水分がとれず、尿が少ない・口がひどく渇く(脱水のサイン)
- 子どもや高齢者がぐったりして元気がない
- 便の中に虫らしきものが見えた
定期受診を予約すべき場合:
- おなかの痛みや下痢、軟便が何度も繰り返す
- 理由が分からないまま体重が減っている
- 肛門のかゆみが続く、夜に眠れない
- だるさや息切れが続き、貧血を指摘されたことがある
- 海外から帰ってきてから、おなかの調子が良くない
- 家族や周りの人に同じような症状がいる
診断
まず、どんな症状があるか、いつからか、海外に行ったか、どんな食べ物や水を口にしたか、ペットがいるか、家族に同じ症状がいるかを医師に伝えます。そのうえで、便の中に寄生虫の卵や幼虫がいないかを調べる検査が中心になります。寄生虫は数が少ないと1回の検査では見つからないことがあるため、複数回の検査をお願いされることがあります。
行われる可能性のある検査
- 便の虫卵検査(顕微鏡で便の中の卵や幼虫を探します)
- セロファンテープ法(肛門の周りにテープを貼って、蟯虫の卵が付いているかを見る検査。朝、排便の前に採ります)
- 血液検査(貧血や、体の免疫反応の状態を調べます)
- 必要に応じて画像検査や内視鏡検査(症状が強いとき、他の病気との区別が必要なとき)
診察で予想されること
検査は基本的に痛みがなく、自宅で便を採って提出する形が多いです。結果が出るまで数日かかることがあります。1回で見つからないこともあるため、複数回の検査になることがあります。子どもに症状があるときは、家族みんなで検査をすることがすすめられることもあります(家族の間で広がりやすいためです)。
治療
治療の中心は、寄生虫の種類に合わせたお薬で寄生虫を減らすことと、下痢や脱水などの症状をやわらげることです。種類によって使うお薬が変わるため、自己判断で薬を使わず、検査で確認してから治療を始めることが大切です。多くの場合は通院での治療が可能で、入院が必要になるのは症状が強いときや合併症があるときになります。
自宅でのセルフケア
- 水分と塩分をこまめにとる(下痢のときは特に大切です)
- 食事の前、トイレの後、おむつ替えの後は、石鹸と流水でしっかり手を洗う
- 爪を短く切って清潔に保つ(卵が爪の下に入りやすいため)
- 下着やパジャマ、シーツをこまめに洗濯し、よく乾かす(熱と乾燥が卵に効きます)
- 家族全員で同じ対策を行う(一人だけ治療しても広がることがあります)
- 肉・魚・貝は中心までよく加熱して食べる
- 症状が続く間は、無理をせず休む
医療治療
医師が検査結果から寄生虫の種類を判断し、それに合った駆虫薬(寄生虫を減らすお薬)を選びます。飲み薬が中心で、日数や回数は種類によって異なります。下痢が強いときは脱水を防ぐための水分・電解質の補充を行い、貧血があるときはその治療もあわせて行います。症状が治まっても、寄生虫が残っていないかを確認するためにもう一度検査をすることがあります。
手術が検討される場合
通常は手術は必要ありません。ごくまれに、寄生虫の塊や炎症で腸が詰まる(腸閉塞)など強い合併症が起きた場合に、外科的な治療が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
治療中は、手洗い・爪を短くする・下着や寝具を清潔に保つ、という3つを毎日の習慣にすると安心です。子どもがいる家庭では、家族みんなで同じ対策をすると広がりにくくなります。症状が良くなってきたら、少しずつ普段の生活に戻していって大丈夫です。
生活習慣のアドバイス
- 帰宅時・食事の前・トイレの後は必ず手を洗う
- 爪は短く切り、かみ癖がある子は特に気をつける
- 下着は毎日取り替え、洗濯後はよく乾かす(乾燥機やアイロンも役立ちます)
- タオルやコップは家族で分ける
- ペットの世話の後は手を洗い、動物のふんの処理は手袋を使って行う
- 畑仕事や土いじりの後は、手をよく洗う
- 海外では、水道水や氷、生野菜に気をつける
食事と運動
食事は、よく加熱したものを中心にすると安心です。下痢が続いているときは、消化にやさしい温かい食事(おかゆ、うどん、煮込んだ野菜、スープなど)を少しずつとり、水分と塩分をこまめに補いましょう。激しい運動はしばらく控え、体調が戻ってきたら散歩などの軽い運動から再開するとよいです。アルコールは下痢や脱水を悪化させることがあるので、治まるまでは控えめにしましょう。
精神的健康と心の健康
「体の中に虫がいるかもしれない」と思うと、気持ちが落ち着かなくなったり、恥ずかしいと感じたりすることがあります。寄生虫は決して珍しいことではなく、衛生環境や食べ物を通じて誰にでも起こりうるものなので、自分を責める必要はありません。眠れない、不安が強い、気持ちが沈む状態が続くときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や地域の保健所・相談窓口に話してみてください。気持ちがとてもつらいときは、ためらわず救急(119)や医療機関に連絡してください。
予防
はい、多くは予防できます。寄生虫の多くは口から入るため、「手を洗う」「食べ物をよく加熱する」「きれいな水を飲む」という基本がとても効果的です。厚生労働省も、日常の手洗いと食品の衛生管理を大切な対策として呼びかけています。
ワクチン
現在、一般的な腸管寄生虫に対するワクチンはありません。日々の衛生習慣が中心の予防法になります。
検診プログラム
症状がない場合の一般的な検査は、ふだんは行われません。ただし、海外の衛生状態が整いにくい地域に滞在した後、家族に同じ症状がいる、集団生活で広がっている可能性がある、といった場合には、医療機関で相談してみてください。必要に応じて便の検査が行われます。
合併症
治療しない場合
- 下痢が続くことで脱水になる
- 栄養がうまくとれず、体重減少や子どもの成長の遅れにつながることがある
- 貧血(めまい、動悸、息切れ)
- おなかの痛みが長引き、生活の質が下がる
- まれに腸が詰まるなど強い合併症を起こす
- 種類によっては、腸以外の臓器に影響が出ることがある
- 家族や周りの人に広がる
長期的な見通し
多くの場合、きちんと検査を受けて適切に治療すれば、しっかり良くなります。治療後の経過も良好なことがほとんどです。症状が長引いたときや、治療後に不安が残るときは、もう一度医療機関で相談してください。早めに気づいて対応することが、いちばんの近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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