頭蓋内圧亢進症(ずがいないあつこうしんしょう)
概要
頭蓋内圧亢進症とは、頭の骨(頭蓋骨)の中で圧力が高くなった状態をいいます。頭蓋骨の中は、脳そのもの、血液、そして脳脊髄液(のうせきずいえき:脳と脊髄を包む透明な液体)が入っている狭い空間です。この空間の圧力はふだん一定に保たれていますが、何らかの理由で脳が腫れたり、液体が増えたり、血液の流れが滞ったりすると、圧力が上がってしまいます。圧力が高いままだと、脳の働きが乱れたり、目と脳をつなぐ視神経が圧迫されて視力に影響が出たりすることがあります。原因がはっきりしている場合と、検査をしても原因が見つからない「特発性(とくはつせい)」の場合があります。
重要な事実
- 頭蓋内圧亢進症は「病気そのものの名前」ではなく、いろいろな原因で起こる「状態」を指す言葉です。
- 圧力が高い状態が続くと視神経が押され、視野が狭くなるなどの視力の変化が起こることがあります。早めの受診が大切です。
- 頭痛や吐き気など、よくある症状で始まることが多く、症状だけでは判断が難しいため、画像検査などで確認します。
頻度は原因によって大きく異なり、まれな状態です。ただし、肥満のある若い女性に多いとされる「特発性頭蓋内圧亢進症」は、決して珍しいものではありません。脑の病気や頭のけがが原因の場合は、もとの病気の頻度に左右されます。
年齢を問わず起こります。特発性頭蓋内圧亢進症は、20〜40代の女性、とくに体重が増えている方に多くみられます。小児では思春期前後にも起こり、高齢者では症状の出方が若い方と違うことがあります。
症状
- 突然起こった、経験したことのない激しい頭痛(いわゆる「雷鳴頭痛」)
- 意識がぼんやりする、呼びかけに反応しない、会話がかみ合わない
- けいれん(ひきつけ)が起きた
- からだの片側が動かない、しびれる、ろれつが回らない、言葉が出てこない
- 呼吸がおかしい、呼吸が止まるように感じる
- 急に見えなくなった、視界がほとんどなくなった
- 頭を強く打ったあとの頭痛や嘔吐、意識の変化
- ⚠視界のかすみや二重に見える状態が続く、急に悪くなった
- ⚠嘔吐を何度も繰り返す
- ⚠新しいタイプの頭痛が続き、どんどん強くなる
- ⚠うつむいたり横になったりすると頭痛が強くなる状態が続く
- ⚠耳の奥の脈打つ音や、聞こえにくさが急に出た
一般的な症状
- 頭痛(とくに朝起きたとき、咳やいきんだとき、横になったときに強くなりやすい)
- 吐き気や嘔吐(おうと:はくこと)
- 一時的に視界がかすむ、ぼやける、光がまぶしく感じる
- ものが二重に見える(複視)
- 耳の奥で脈打つような音が聞こえる(拍動性耳鳴り)
- めまい、ふらつき
- 首や肩のこり、後頭部の重い感じ
- 物事に集中しにくい、ぼんやりする、疲れやすい
子供の症状
- 頭痛、繰り返す嘔吐
- 不機嫌、元気がない、泣き方がいつもと違う
- 母乳やミルクを飲みたがらない、食欲がない
- 赤ちゃんの場合、頭のてっぺんのやわらかい部分(大泉門)がふくらむ
- 目が下を向いたままになりやすい(いわゆる「落日眼」)
- 首がすわらない、歩き始めが遅いなど発達の遅れ
- 学校で集中できない、ぼんやりする
高齢者の症状
- 頭痛がはっきりしないことがあり、代わりに元気がない、ぼんやりする
- 歩き方が不安定になる、足が前に出にくい
- 尿が出しにくい、間に合わないことが増える
- 物忘れや判断の遅さなど、認知症のような変化が目立つ
- 食欲低下や傾眠(けいみん:うとうとして眠りがちになること)
原因
主な原因
- 脳腫瘍(のうしゅよう:脳の中にできるできもの)
- 頭を強く打ったときのけが(頭部外傷)や、脳の中の出血
- くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)など、脳の血管の病気
- 髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎など、脳を包む膜や脳そのものの炎症
- 脳から心臓へ血液を戻す血管(静脈)が詰まる、血流が悪くなる
- 水頭症(すいとうしょう:脳脊髄液がたまってしまう状態)
- 薬の影響や急に薬をやめたときに起こることがある
- 検査をしても原因が見つからない「特発性頭蓋内圧亢進症」
リスク要因
- 体重の増加や肥満(とくに特発性頭蓋内圧亢進症との関連が知られています)
- 20〜40代の女性であること
- 睡眠中に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)」がある
- 血液が固まりやすい体質や、血液の病気
- 頭を打った経験、脳の手術を受けた経験
- 一部の薬を服用している、または急に中止した(心当たりは主治医や薬剤師に相談してください)
- ビタミンAを必要以上に多くとり続けている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に激しい頭痛が始まった、または頭痛がどんどん強くなっている
- 視界が急にかすむ、二重に見える、見える範囲が狭くなった気がする
- 嘔吐を繰り返す、水分がとれない
- 意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が鈍い
- けいれん、手足の動きにくさ、言葉の出にくさがある
定期受診を予約すべき場合:
- 朝方の頭痛や、咳・いきむと強くなる頭痛が続いている
- 頭痛と一緒に吐き気がしたり、光がまぶしく感じたりする
- 耳の奥で脈打つような音が続く
- 集中できない、疲れやすい状態が続いている
- 健診などで眼底(目の奥)の異常を指摘された
- 子どもが繰り返し頭痛や嘔吐を訴える、元気がない日が続く
診断
まず問診で、頭痛の起こり方や時間帯、視界の変化、吐き気の有無などをくわしく聞きます。次に神経の働きをみる診察と、目の奥の視神経をみる眼底検査を行います。頭蓋内圧があがると視神経の部分がふくらんで見えることがあるため、目の検査はとても大切です。必要に応じて頭の画像検査や、髄液(ずいえき)の圧力を調べる検査を行い、原因があるかどうかを確認します。
行われる可能性のある検査
- 問診と症状の記録の確認
- 神経診察(反射、手足の動き、目の動き、歩き方など)
- 眼底検査(目の奥の視神経の状態をみる)
- 視野検査(見える範囲を調べる)
- 頭部CT検査やMRI検査(脳の形や腫れ、出血、腫瘍などを調べる)
- 腰椎穿刺(ようついせんし:腰から細い針を入れて髄液を少しとり、圧力を測る検査)
- 血液検査(炎症や血液の状態を調べる)
- 眼の超音波検査など、視神経の状態をみる検査
診察で予想されること
検査は痛みが少ないものが多いですが、腰椎穿刺のときは局部の麻酔を使い、短時間で終わります。検査後はしばらく横になって休むことがあります。結果が出るまでに数日かかることもあります。診断がつくまでは不安な気持ちになると思いますが、医師は原因を一つずつ確認しながら進めます。気になることは遠慮なく質問してください。
治療
治療は「原因があればその原因を取り除くこと」と「頭蓋内圧を下げて、視力や脳の働きを守ること」の二つが柱になります。原因が見つからない特発性の場合は、生活面の工夫と薬による治療を組み合わせながら、視力の変化を定期的に確認していきます。治療の進め方は症状や検査の結果によって変わるため、主治医とよく相談しながら決めていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 体重が増えている場合は、無理のない範囲で体重管理に取り組む(医師や管理栄養士に相談すると安心です)
- 睡眠を十分にとり、寝不足や強いストレスをためない
- 頭痛の記録をつける(時間、強さ、きっかけ、視界の変化)
- 塩分のとりすぎに気をつけ、バランスのよい食事を心がける
- 急に薬をやめたり、自分で量を変えたりしない(必ず主治医・薬剤師に相談)
- 目の見え方の変化に気づいたら、その日のうちに医療機関へ連絡する
- アルコールはほどほどにし、喫煙している場合は禁煙を検討する
医療治療
頭蓋内圧を下げるための薬や、脳脊髄液の量を減らす働きのある薬を、医師の判断で使うことがあります。頭痛に対しては痛み止めが使われることもありますが、使いすぎるとかえって頭痛が悪化することがあるため、指示どおりに使うことが大切です。特発性頭蓋内圧亢進症では、体重管理が治療の一部として重要とされています。薬の名前や量は体調や検査結果に合わせて医師が決めるので、自己判断で変更しないでください。
手術が検討される場合
薬での治療を続けても視力の低下が進む場合や、視神経が強く圧迫されている場合には、手術が検討されることがあります。視神経のまわりを包んでいる膜に小さな切れ目を入れて圧を逃がす方法や、脳脊髄液を体内の別の場所に流すための細い管(シャント)を入れる方法などがあります。手術が必要かどうかは、目の検査の結果や症状の変化をみながら、主治医とじっくり相談して決めます。
この病気と共に生きる
頭蓋内圧亢進症は、治療を続けながら日常生活を送ることができる方が多い状態です。頭痛や目の疲れなど、体調に波があることもあります。無理をしすぎず、休むときはしっかり休むなど、自分のペースを作っていくことが大切です。目の見え方の変化は見逃さないようにし、気になるときは早めに連絡しましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムを保ち、睡眠をしっかりとる
- 体重管理を無理なく続ける(急な減量は避け、医師と相談しながら)
- ストレスをためないよう、自分に合った息抜きの時間をつくる
- 長時間のスクリーン作業のあとは目を休める
- 頭を強く打つような場面(コンタクトスポーツなど)は主治医に相談する
- 定期的な受診と目の検査を欠かさない
食事と運動
食事は、野菜やたんぱく質をバランスよくとり、塩分や糖分のとりすぎに気をつけることが基本です。体重管理が必要な場合は、極端な食事制限ではなく、続けられる範囲で少しずつ見直していきましょう。運動は、散歩や軽いストレッチなど体に負担の少ないものから始めるのがおすすめです。頭を強く揺らす運動や、いきむ必要がある激しい運動は、主治医に確認してから行いましょう。
精神的健康と心の健康
頭痛や視界の変化が続くと、不安になったり、気分が落ち込んだりすることがあります。これは自然な気持ちです。一人で抱え込まず、家族や友人、医療スタッフに話してみてください。つらい気持ちが強いときや、眠れない日が続くときは、医療機関の相談窓口や地域の相談支援センターに連絡してください。もし自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに地域の救急窓口や医療機関に連絡し、緊急時は119番に電話してください。
予防
原因がはっきりしている頭蓋内圧亢進症は、もとの病気やけがを予防することが大切です。たとえば、頭を守ること、血圧や生活習慣を整えること、気になる症状を早めに受診することが役立ちます。特発性頭蓋内圧亢進症については、体重の増加を防ぐことが発症や再発のリスクを下げる可能性があると報告されています。すべてを防げるわけではありませんが、できることから取り組む価値はあります。
ワクチン
この状態に直接関係するワクチンはありません。ただし、髄膜炎などの感染症が原因になることがあるため、年齢や体調に応じた予防接種についてかかりつけ医に相談するのはよい方法です。
検診プログラム
この状態のための決まった検診はありません。頭痛が続く、目の見え方が気になるといった症状があるときは、我慢せずに受診してください。すでに診断を受けている方は、視野検査や眼底検査を含む定期的な通院が、視力低下を防ぐうえで大切です。
合併症
治療しない場合
- 視神経が圧迫され続けることで、視野が狭くなる、視力が低下する(元に戻りにくいことがあります)
- 慢性的な頭痛や、日常生活に影響するだるさが続く
- 集中力や記憶力の低下など、考えたり覚えたりする力への影響
- 耳鳴りや聞こえにくさが残る
- 圧力が非常に高くなった場合、意識がぼんやりする、けいれんが起きるなど緊急の状態になる
- 原因となっている病気(腫瘍や出血など)が進行する
長期的な見通し
原因がわかって適切に対応できれば、症状は改善し、日常生活に戻れる方が多くいます。特発性頭蓋内圧亢進症も、治療と生活面の工夫を続けることで落ち着くことが多い状態です。視力への影響だけは早めの対応が大切なので、定期検査を続け、気になる変化があればすぐに相談してください。一人で抱え込まず、医療スタッフと一緒に進めていくことが心強い支えになります。
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最終更新: 2026年10月24日
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