虚血(きょけつ)とは — 体の組織に血液が届きにくくなる状態
概要
虚血(きょけつ)とは、体のどこかの組織に流れる血液が減ってしまい、酸素や栄養が十分に届かなくなる状態をいいます。血液は、酸素と栄養を運び、いらなくなったものを回収する「宅配便」のような役割をしています。その流れが細くなったり詰まったりすると、届け先の細胞が困ってしまう、というイメージです。虚血はそれ自体がひとつの病気というより、心臓・脳・足・腸など、さまざまな場所で起こりうる「血液の流れが悪くなる仕組み」です。どこで起きたかによって、出てくる症状はまったく違います。
重要な事実
- 虚血は「血液の流れが悪くなって、組織が酸素不足になること」で、心臓・脳・脚など体のどこにでも起こります。
- 原因でもっとも多いのは、血管の内側にコレステロールなどがたまって通り道が狭くなる動脈硬化(どうみゃくこうか)です。
- 早めに見つけて生活習慣を整え、適切な治療を受けることで、進行をゆるやかにできる場合が多くあります。
とてもよくある状態です。年齢を重ねるほど血管の変化は進みやすく、動脈硬化による虚血は国内でも多い病気のひとつです。ただし、程度や場所は人によって大きく異なります。
主に中高年以降の方に多くみられますが、若い方でも起こることがあります。たばこを吸う方、血圧が高い方、血糖値が高い方、コレステロールが高い方、腎臓の病気がある方、心臓の不整脈がある方などは、血管の変化が進みやすいとされています。家族に血管の病気が多い方も、意識しておきたいポイントです。
症状
- 胸の強い痛み・圧迫感が15分以上続く、または冷や汗や息苦しさをともなう(救急車を呼んでください)
- 突然の片側のまひ、口が回らない、言葉が出ない・意味不明になる、視界の一部が突然見えなくなる(脳卒中のサインの可能性)
- 突然の激しい痛みとともに、手足が白っぽく冷たくなり、感覚がにぶくなる
- 意識を失う、けいれんする、呼吸が苦しく話せない
- 突然の激しいお腹の痛みで、顔色が悪く冷汗が出ている
- ⚠歩ける距離が急に短くなった、安静にしていても脚が痛む
- ⚠足の傷がなかなか治らない、皮膚が黒ずんできた、じゅくじゅくしている
- ⚠胸の痛みが繰り返し起こる、以前より軽い動作で出るようになった
- ⚠一時的に手足の動きや言葉の異常が出て、数分〜数十分で戻った(一度戻っても早めの受診を)
一般的な症状
- 心臓の虚血:胸の中央が圧迫されるような痛みや重さ、締めつけ感。階段や坂道で出やすく、休むと軽くなることがあります。
- 脳の虚血:片側の手足が動きにくい、力が入らない、口が回らない、言葉が出にくい、視界の一部が見えにくいなど。
- 脚の虚血:歩くとふくらはぎや太ももが痛くなり、少し休むと治まる(間欠性跛行=かんけつせいはこう)。足が冷たい、爪が伸びにくい、色が白っぽい・紫色になることも。
- 腸の虚血:食後にお腹が痛くなる、食欲が落ちる、体重が減る、など。
- からだ全体の虚血:強いめまい、動悸、息切れ、だるさ、集中しにくさ。
子供の症状
- こどもでは比較的まれですが、起こらないわけではありません。
- 脱水(下痢・嘔吐・発熱のあとなど)や、生まれつきの心臓・血管の病気、川崎病のあとに血管が影響を受けた場合などに関連することがあります。
- こどもは症状を言葉で説明しにくいため、顔色が悪い、手足が冷たい、ぐったりしている、哺乳や食事の勢いが落ちた、といった様子の変化が手がかりになります。
高齢者の症状
- 高齢者では、はっきりした痛みが出ずに、なんとなく元気がない、疲れやすい、息切れがする、食欲が落ちる、といった形で現れることがあります。
- 脳の虚血では、一時的にボーッとする、会話がかみ合わない、物忘れが急に増えたように見える、といった変化として気づかれることもあります。
- 足の虚血では、痛みよりも「歩くのが遅くなった」「休み休みでないと歩けない」という変化が目立ちます。
原因
主な原因
- 動脈硬化:血管の内側にコレステロールなどの塊(プラーク)ができ、通り道が狭くなる。虚血でもっとも多い原因です。
- 血栓(けっせん)・塞栓(そくせん):血のかたまりや、体の他の場所から流れてきたものが血管をふさぐ。
- 血管のけいれん(攣縮=れんしゅく):血管が一時的に細く縮んで流れが悪くなる。
- 血管が外から圧迫される、けがをした、などによる血流の低下。
- 血圧が大きく下がったときや、血液が酸素を運びにくい状態のときに、組織が酸素不足になる。
リスク要因
- 喫煙(受動喫煙も含む)
- 糖尿病、または血糖値が高めといわれた状態
- コレステロールや中性脂肪の値が高い状態(脂質異常症)
- 腎臓の病気
- 心臓の不整脈(心房細動など)
- 肥満、運動不足、睡眠不足、強いストレス
- お酒の飲みすぎ
- 年齢(中高年以降は血管の変化が進みやすい)
- 家族に心臓病・脳卒中・血管の病気が多い
- バランスの偏った食事(塩分・脂質のとりすぎ)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 安静にしていても脚が痛む、足の色が急に悪くなった、傷が治らず黒ずんできた
- 胸の痛みや息苦しさが繰り返し起こる、軽い動作で出るようになった
- 一時的な手足の動きにくさや言葉の出にくさがあった
- 食後のお腹の痛みが続き、体重が減っている
定期受診を予約すべき場合:
- 歩くとふくらはぎが痛くなるが、休むと治まる(間欠性跛行)
- 足がいつも冷たい、爪が伸びにくい、皮膚が乾燥してひび割れる
- 健診で血圧・血糖・コレステロールを指摘された
- 動悸や脈の乱れを感じる
- 家族に心臓病や脳卒中が多いので、一度相談しておきたい
診断
まず問診と診察で、どんな動作でどんな症状が出るか、いつからか、を確認します。そのうえで、どの場所の血流が悪くなっているかを調べる検査を組み合わせます。診断は「症状の話」と「検査の結果」をあわせて総合的に判断されます。
行われる可能性のある検査
- 血圧測定、脈の確認、足の皮膚の色・温度・毛の生え方などの観察
- 血液検査(血糖、コレステロール、腎機能、炎症の程度など)
- 心電図、必要に応じて心臓の超音波検査
- 血管の超音波検査(エコー)で、流れの速さや狭くなり方をみる
- ABI(足首と上腕の血圧の比)や、足の血流を測る検査
- CT・MRIによる血管の画像検査
- 血管造影(造影剤を使って血管の形を詳しく調べる検査)
- 運動負荷をかけて症状と心電図の変化をみる検査
診察で予想されること
検査の多くは痛みが少なく、外来で受けられるものが中心です。造影剤を使う検査では、事前にアレルギーや腎臓の状態を確認します。検査の前に「どの検査を、なぜ行うのか」を医師や看護師にたずねてください。結果の説明のときに、生活で気をつけることをあわせて聞いておくと安心です。
治療
治療の目的は、①血流を改善して症状をらくにすること、②細胞が傷つくのを防ぐこと、③将来の重大な出来事(心筋梗塞や脳卒中など)を予防すること、の3つです。原因や場所、症状の強さによって方針が変わります。生活習慣の見直しは、どの治療でも土台になります。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(むずかしいときは、禁煙外来や薬局の禁煙相談を利用する)
- 医師に相談しながら、無理のない範囲で歩く習慣をつくる(脚の症状がある場合は歩き方を指導してもらう)
- 足を清潔に保ち、傷を作らない。靴は足に合うものを選び、毎日足を観察する
- 寒さで血管が縮みやすいので、手足を冷やさない
- 決められた服薬を自分判断でやめない
- 睡眠をしっかりとり、ストレスをためこまない
- 飲酒はほどほどに、喫煙は完全に避ける
医療治療
治療は大きく分けて、生活習慣の改善、お薬による治療、血管の治療(カテーテル治療や手術)があります。お薬は、血のかたまりができにくくなるもの、コレステロールを下げるもの、血圧を下げるもの、血糖をコントロールするものなどが、状態に応じて使われます。どのお薬が必要か、副作用はどんなものかは、必ず医師・薬剤師に確認してください。虚血そのものだけでなく、背景にある動脈硬化を落ち着かせることが大切です。
手術が検討される場合
症状が強い、日常生活に大きく支障がある、お薬では改善しにくい、という場合に、血管を広げるカテーテル治療(風船やステントを使う方法)や、バイパス手術(別の血管で血液の通り道を作る方法)が検討されます。緊急の場面(急に血管が詰まった場合など)では、時間との勝負になることがあります。手術が向いているかどうかは、年齢や他の病気も含めて総合的に判断されます。
この病気と共に生きる
虚血は「付き合いながら整えていく」状態です。症状の出方には波があるので、どんな動作でどんな症状が出たかを簡単にメモしておくと、受診のときに役立ちます。寒い日、食事のあと、階段の上り下りなど、出やすい場面を自分で知っておくと、無理を避けやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を最優先にする(受動喫煙も避ける)
- 毎日の血圧・体重を記録し、変化に気づけるようにする
- 足の観察を日課にする(色、傷、爪の変化、むくみ)
- 靴ずれややけどを避ける。湯たんぽやこたつで足を温めすぎない
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 医師の指示どおりに通院・服薬を続ける
- 旅先や外出時は、無理な予定を詰めこまない
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜・豆類・魚・全粒穀物を多くとり、脂身や加工肉、甘い飲み物を控える和食中心の形がすすめられます。運動は、医師に相談したうえで、ウォーキングなど息が少し上がる程度の有酸素運動を、無理のない範囲で続けるのが基本です。脚の症状がある方は、痛みが出たら休む、を繰り返す「休み休み歩く」方法が指導されることがあります。急に激しい運動を始めず、体調の悪い日は無理をしないでください。
精神的健康と心の健康
「また胸が痛くなったらどうしよう」「足が悪くなったら…」という不安は、とても自然な気持ちです。不安や落ち込みが続くと、体の調子にも影響することがあります。ひとりで抱えこまず、家族や友人、かかりつけ医、看護師、医療ソーシャルワーカーに話してみてください。気持ちがつらくて眠れない、何も楽しめない、といった状態が2週間以上続くときは、こころの相談窓口や医療機関に早めに相談を。もし自分を傷つけたい気持ちが浮かんだら、その場でひとりにならず、地域の救急・相談窓口や医療機関にすぐ連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを大きく下げることは可能です。とくに禁煙は効果が大きいとされています。血圧・血糖・コレステロールを適切に保ち、体重と運動習慣を整えることが、血管を守る近道です。
ワクチン
心臓や血管に病気のある方は、かぜや肺炎などの感染症にかかると重症化しやすいといわれています。インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンについて、かかりつけ医に相談してみてください。接種の時期や可否は、体調や治療内容によって変わるため、自己判断は避けましょう。
検診プログラム
日本では、特定健診(メタボ健診)や自治体のがん検診などで血圧・血糖・脂質を測る機会があります。健診の結果を「毎年同じだから」と流さず、前年との違いに目を向けてください。脈の乱れが気になるときは、健診の場でも伝えてみましょう。
合併症
治療しない場合
- 心臓の虚血が進むと、心筋梗塞(しんきんこうそく)や心不全につながることがあります。
- 脳の虚血が進むと、脳卒中や、血管性の認知機能の低下につながることがあります。
- 脚の虚血が進むと、皮膚の潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)ができ、最悪の場合、足を切断せざるをえないことがあります。
- 腸の虚血が進むと、腸が傷んで緊急の治療が必要になることがあります。
- 腎臓の血流が悪くなると、腎機能の低下が進むことがあります。
長期的な見通し
虚血は、早く気づいて生活を整え、必要な治療を続けることで、症状をらくにし、進行をゆるやかにできる状態です。たばこをやめた方、血圧や血糖を整えた方では、その後の経過がよいことが多く報告されています。今日からできる小さな一歩(禁煙、毎日の血圧記録、10分の散歩)が、数年先の血管の状態を変えていきます。不安なときは、ひとりで判断せず、かかりつけ医に相談しながら進めてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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