虚血性視神経症(きょけつせいししんけいしょう)
概要
虚血性視神経症は、目の情報を脳へ送る「視神経」に十分な血液が届かなくなり、視神経のはたらきが急に悪くなる病気です。視神経は、目で見たものを脳に伝えるケーブルのような存在です。血液の流れが悪くなると、このケーブルの一部が傷つき、突然、視野の一部または多くが見えにくくなることがあります。多くの場合、片方の目に起こります。大きく分けて、血管の炎症が関係しないタイプ(非動脈炎性)と、血管の炎症が関係するタイプ(動脈炎性)があります。
重要な事実
- 多くは片方の目に、痛みを伴わない突然の視力低下や視野の欠けとして現れます。
- 眼の血流が低下することが原因と考えられており、高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸などの影響が指摘されています。
- 血管の炎症が関係するタイプは、もう片方の目や脳にも影響が及ぶ可能性があるため、できるだけ早い診断と治療が大切です。
虚血性視神経症は、それほど多い病気ではありません。ただ、中高年の方に突然の視力低下が起こる原因のひとつとして重要で、眼科でよく調べられる病気です。
主に50歳以上の方に多く見られます。非動脈炎性のタイプは高血圧・糖尿病・高脂血症・睡眠時無呼吸などを持つ方に多いとされています。動脈炎性のタイプは、血管の炎症(巨細胞性動脈炎)を背景に起こり、頭痛・あごの痛み・発熱などを伴うことがあります。日本では動脈炎性のタイプは比較的まれですが、見逃せない病気です。子どもに起こることは非常にまれです。
症状
- 突然、片方または両方の目の視力がほとんど見えないほど急に失われた(夜間・休日など、すぐに眼科を受診できない場合は119番に連絡してください)
- 視力低下とともに、激しい頭痛、発熱、あごの痛み、体のだるさが急に現れた(血管の炎症が疑われる場合)
- 視力の変化に加えて、ろれつが回らない、手足に力が入らない、意識がぼんやりするなどの症状がある
- ⚠片方の目が見えにくい、視野が欠けたと感じる(できるだけその日のうちに眼科を受診してください)
- ⚠一瞬見えなくなる、視界が暗くなる発作が繰り返す
- ⚠色の見え方が急に変わった、まぶしさが強くなった
- ⚠こめかみの痛みやかむときのあごの痛みが続き、目にも変化を感じる
一般的な症状
- 片方の目の視力が、痛みなく急に低下する(朝起きたときに気づくことが多い)
- 視野の上半分または下半分など、見える範囲の一部が欠ける
- 色の見え方が薄くなる、ぼやける、まぶしく感じる
- 両目に起こる場合もあるが、多くは片方ずつ時期をずらして起こる
- 目の痛みはほとんどない(痛みがある場合は別の病気の可能性も考えられます)
子供の症状
- 子どもでは非常にまれです
- まれに起こる場合は、血液の病気や心臓・血管の病気など別の原因が調べられます
- 子どもの場合は自分で「見えにくい」と言い表せないことがあるため、物にぶつかる、目を細める、などの変化に気づくことが大切です
高齢者の症状
- 50歳以上、特に60〜70代で多く見られます
- 血管の炎症が関係するタイプでは、視力低下とともに、こめかみの痛み、髪をとかすと頭皮が痛い、かむとあごが痛い、発熱、体重減少、肩や腰のこわばりなどがみられることがあります
- すでに高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸などの病気がある方は、症状が出やすいことがあります
- 夜間の血圧低下や、手術後の血圧低下をきっかけに起こることがあります
原因
主な原因
- 視神経へ血液を送る血管の血流が低下し、視神経が十分な酸素と栄養を得られなくなること
- 夜間の血圧低下、睡眠時無呼吸、手術後の血圧低下など、血流が一時的に落ちる出来事
- 血管の炎症(巨細胞性動脈炎)によって血管が狭くなること(動脈炎性タイプ)
リスク要因
- 50歳以上であること
- 高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病
- 睡眠時無呼吸症候群
- 心臓や血管の病気の既往
- 夜間の血圧低下や立ちくらみ(起立性低血圧)
- 動脈炎性タイプでは、血管の炎症を背景とする要因(年齢、発熱や体重減少などの全身症状)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 片方の目が急に見えにくくなった、視野が欠けた
- 視界が一瞬暗くなる発作が繰り返す
- 視力の変化に、頭痛・あごの痛み・発熱・体のだるさが伴う
- すでに片方の目に虚血性視神経症を起こしたことがあり、もう片方の目に変化を感じた
定期受診を予約すべき場合:
- 高血圧・糖尿病・高脂血症などの治療中で、目の見え方に不安がある
- 睡眠時無呼吸を指摘されている、いびきや日中の眠気が強い
- 視野の欠けが残り、生活の中で不便を感じている(視覚リハビリの相談)
- 血管の炎症が疑われ、経過の確認が必要と言われた
診断
眼科で目の詳しい検査を行い、視神経の状態と視野の変化を確認します。あわせて、血管の炎症が関係しているかどうかを血液検査などで調べます。必要に応じて、脳や血管の画像検査が行われることもあります。
行われる可能性のある検査
- 視力検査と視野検査(見える範囲を調べる検査)
- 眼底検査(目の奥の視神経の腫れや色を観察します)
- 瞳孔の反応を調べる検査
- 光学的干渉断層計(OCT)などによる視神経の形の観察
- 血液検査(炎症の有無や生活習慣病の状態を確認します)
- 必要に応じた頭部の画像検査や、血管の一部を採って調べる検査(血管の炎症が疑われる場合)
診察で予想されること
検査は外来で行えるものがほとんどで、痛みはほとんどありません。視野検査では、片目ずつ画面の光を見てボタンを押す作業をします。血管の炎症が疑われる場合は、結果を待たずに治療を始めることがあるため、検査と並行して対応が進むことがあります。診断の流れや結果の意味について、わからないことは遠慮なく医師に尋ねてください。
治療
虚血性視神経症の治療は、原因のタイプによって方針が変わります。血管の炎症が関係するタイプでは、炎症を抑える治療をできるだけ早く始めることがとても重要です。炎症が関係しないタイプでは、はっきりとした有効な治療法は限られているため、血流を保つための体調管理と、もう片方の目を守るための対策が中心になります。どのタイプでも、早めの受診と継続的なフォローが大切です。
自宅でのセルフケア
- 血圧を安定させる(高すぎても低すぎてもよくないため、測定して記録しましょう)
- 睡眠時無呼吸を指摘されている場合は、その治療を続ける
- 禁煙する
- 水分をこまめにとり、極端な脱水を避ける
- 立ちくらみを防ぐため、急に立ち上がらない
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
医療治療
血管の炎症が関係するタイプでは、炎症を抑える治療をすぐに始めることがあります。炎症が関係しないタイプでは、血圧・血糖・脂質などの管理を整えること、睡眠時無呼吸への対応、血流を保つための一般的な体調管理が中心になります。加えて、残った視力を生かすための視覚リハビリや、生活の工夫(照明、文字の大きさ、補助具など)が役立ちます。治療方針は体の状態によって変わるため、主治医とよく相談してください。
手術が検討される場合
虚血性視神経症そのものに対する手術は、一般的ではありません。治療の中心は、原因に応じた内科的な対応と体調管理です。白内障など別の目の病気の手術については、状態をみながら主治医と相談することになります。
この病気と共に生きる
視野の一部が欠けたまま生活することになっても、工夫次第でできることは多くあります。欠けている場所を意識して首を動かし、見えにくい側をこまめに確認する習慣が役立ちます。段差や階段、交通量の多い場所では、ゆっくり行動し、必要なら同行者に頼りましょう。片方の目だけになることで距離感がつかみにくくなることがあるため、運転や刃物を使う作業は、かかりつけ医や眼科医に相談してから判断してください。
生活習慣のアドバイス
- 血圧を毎日測り、記録を主治医に見せる
- 禁煙を続ける
- 睡眠時無呼吸の治療を中断しない
- 照明を明るめにし、コントラストのつきやすい文字や表示を使う
- 定期的に眼科の診察を受ける
- 家族や周囲の人に、見えにくい場所を伝えておく
食事と運動
塩分を控えめにし、野菜や魚を取り入れたバランスのよい食事は、血圧や血糖の安定に役立ちます。運動は、無理のない範囲で散歩や軽い体操を続けるのがおすすめです。ただし、急に激しい運動を始めると血圧が大きく変動することがあるため、主治医に相談しながら進めてください。水分はこまめにとり、脱水を避けましょう。
精神的健康と心の健康
急に見えにくくなる体験は、強い不安や落ち込み、イライラにつながることがあります。「もう片方の目も見えなくなるのでは」という心配が続く方も少なくありません。こうした気持ちは自然なもので、一人で抱え込む必要はありません。眠れない、気分が晴れない状態が続くときは、かかりつけ医や自治体のこころの相談窓口、地域の相談支援機関に早めに相談してください。
予防
すべてを防ぐことは難しい病気ですが、血管の健康を保つことがリスクを下げる助けになります。血圧・血糖・脂質をよい状態に保ち、禁煙し、睡眠時無呼吸があれば治療を続けることが大切です。急な血圧低下を避けることも心がけましょう。血管の炎症が疑われる症状(頭痛、あごの痛み、発熱など)があるときは、早めに医療機関を受診することが、もう片方の目を守ることにつながります。
検診プログラム
高血圧・糖尿病・高脂血症などの治療中の方は、定期的な眼科の検査を受けておくと安心です。血管の炎症が疑われる場合は、血液検査などで確認することがあります。検診の必要性は体の状態によって異なるため、主治医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 視野の欠けや視力低下が残ることがある
- もう片方の目にも、数年以内に同じことが起こる可能性がある
- 血管の炎症が関係するタイプでは、治療が遅れると、もう片方の目や脳の血管にも影響が及ぶ危険がある
- 見えにくさから、転倒や交通事故などの生活上の危険が増えることがある
長期的な見通し
虚血性視神経症は、残念ながら視力が十分に戻らないことのある病気です。ただ、多くの方は残った視力と視野を生かして、工夫しながら日常生活を続けています。早めに受診して原因を確かめ、体調を整え、もう片方の目を守る対策をとることが、これからの生活を支えます。不安なときは、ひとりで抱えずに医療者や周りの人に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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