下の血圧だけが高い「孤立性拡張期高血圧」について
概要
血圧は「上の血圧(収縮期血圧)」と「下の血圧(拡張期血圧)」の2つの数字で表されます。上の血圧は、心臓が血液を体中に送り出すときの圧力。下の血圧は、心臓が広がって次に送り出す血液をためているときの圧力です。孤立性拡張期高血圧(こりつせいかくちょうきこうけつあつ)は、このうち上の血圧はふつうの範囲なのに、下の血圧だけが高い状態をいいます。診察室での測定で、上の血圧がおおよそ140未満、下の血圧がおおよそ90以上の場合が目安になります。英語の頭文字をとって「IDH」と呼ばれることもあります。
重要な事実
- 上の血圧は正常範囲なのに、下の血圧だけが高いタイプの高血圧です。
- 自覚症状はほとんどなく、健康診断や家庭での血圧測定で初めて気づくことが多いです。
- 一度の測定で決めず、くり返し測ったうえで判断します。家庭での血圧記録がとても役立ちます。
高血圧の人の中では比較的よくみられるタイプです。報告によって割合は変わりますが、特に若い成人から中年の人に多く、男性に多いとされています。年を重ねると、下の血圧はむしろ下がり、上の血圧だけが高くなるタイプが増えるため、高齢者では孤立性拡張期高血圧は少なめです。
若い成人から中年までの人、とくに男性に多くみられます。体重が多い方、塩分の多い食事をとりがちな方、お酒をよく飲む方、運動不足の方、睡眠不足や強いストレスが続いている方、家族に高血圧の人がいる方などに起こりやすいとされています。小児や10代でも、肥満などがあると血圧が高くなることがあります。
症状
- 突然の激しい頭痛、意識がもうろうとする、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんが起きた
- 胸の強い痛み、息苦しさ、呼吸ができない感じ、冷や汗
- 顔の片側がゆがむ、片側の手足が動かない・しびれる、ろれつが回らない、突然ものが二重に見える(脳卒中のサインの可能性)
- 急に見えにくくなった、視野が欠けた
- 血圧が非常に高い値(例:上の血圧が180、下の血圧が120を大きく超える)で、かつ強い症状がある
- ⚠普段より明らかに高い血圧が何日も続いている
- ⚠強い頭痛、だるさ、動悸、息切れが続いて楽にならない
- ⚠家で測るたびに高い数値が出て、自分では判断できない
- ⚠妊娠中・産後で血圧が高いといわれた、頭痛やむくみがある
一般的な症状
- 多くの場合、まったく自覚症状がありません。
- 頭が重い、頭痛がする、肩がこる、めまいがする、疲れやすい、といった軽い不調を感じることがあります。
- ただし、これらの症状は血圧が高いことだけが原因とは限らず、血圧が高くても症状がないことも多いです。症状の有無だけで安心・心配を決めないことが大切です。
子供の症状
- 子どもでは血圧の正常範囲が年齢や身長によって変わるため、大人と同じ基準では判断できません。
- 肥満がある子どもでは血圧が高めになることがあります。
- 子どもの血圧が気になる場合は、自己判断せず小児科やかかりつけ医に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢者では下の血圧は自然に下がることが多く、孤立性拡張期高血圧は比較的少なめです。
- 高齢者では、上の血圧だけが高くなる「孤立性収縮期高血圧(こりつせいしゅうしゅくきこうけつあつ)」のほうがよくみられます。
- 高齢者で下の血圧が高い場合は、血管の状態や他の病気が関係していることもあるため、医師の評価を受けることが大切です。
原因
主な原因
- はっきりした原因がない「本態性(ほんたいせい)高血圧」が大多数です。体質と生活習慣が組み合わさって起こると考えられています。
- 若い人では、血管がまだ柔らかいため、心臓の拍動に合わせて下の血圧が上がりやすいことがあります。
- 塩分の多い食事、体重の増加、飲酒、運動不足、睡眠不足、強いストレスなどが関係します。
- まれに、腎臓やホルモン、血管の病気など、別の原因によって血圧が高くなる「二次性(にじせい)高血圧」のことがあります。
リスク要因
- 家族に高血圧の人がいる(体質的な傾向)
- 体重が多い、特に内臓脂肪が多い
- 塩分の多い食事、外食や加工食品のとりすぎ
- お酒をよく飲む、習慣的な喫煙
- 運動不足、長時間すわったまま過ごすことが多い
- 睡眠不足、いびきや睡眠時無呼吸(ねむっている間に呼吸が止まる)
- 強いストレスが続いている、仕事や家庭の負担が大きい
- 年齢(若年〜中年に多い)、男性であること
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 上の血圧が180、下の血圧が120を大きく超えるような高い値が続く
- 突然の激しい頭痛、胸の痛み、息苦しさ、意識の変化、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状がある(この場合は迷わず119番へ)
- 妊娠中・産後で血圧が高いといわれ、頭痛や目のかすみ、むくみがある
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断や特定健康診査で「下の血圧が高い」と指摘された
- 家庭で測ると下の血圧だけが高い日が何日も続く
- 家族に高血圧の人がいて、自分も気になっている
- 体重が増えた、お酒の量が増えた、運動する機会が減ったなど、生活の変化が気になる
- 血圧の数値を見て不安になり、どうしたらよいか知りたい
診断
診察室で血圧をくり返し測り、さらに家庭で測った血圧を合わせて判断します。診察室で上の血圧がおおよそ140未満、下の血圧がおおよそ90以上、家庭血圧で下の血圧がおおよそ85以上が目安になります。病院でだけ高くなる「白衣高血圧(はくいこうけつあつ)」と区別するために、家での測定がとても大切です。また、別の病気が原因でないか、体のほかの部分に影響が出ていないかを確認します。
行われる可能性のある検査
- 血圧測定:座った姿勢で、両腕で、間をあけて複数回測定します。
- 家庭血圧の記録:朝(起床後1時間以内、服薬前、朝食前)と夜(就寝前)に測り、血圧手帳やアプリに記録します。
- 問診:生活習慣、飲酒・喫煙、睡眠、ストレス、家族歴、飲んでいる薬やサプリメントを確認します。
- 血液検査:腎臓のはたらき、血糖、コレステロール、電解質などを調べます。
- 尿検査:腎臓の状態やたんぱく尿の有無を確認します。
- 心電図:心臓の負担や不整脈がないかを確認します。
- 必要に応じて:心臓の超音波検査、眼底検査、ホルモンの検査、睡眠時無呼吸を調べる検査など。
診察で予想されること
診察では、まず血圧を落ち着いて測るところから始まります。数日から2週間ほど家庭で血圧を記録してもらい、その記録をもとに話し合うことが多いです。必要に応じて血液検査や尿検査、心電図などを行い、結果を一緒に確認します。初回の診察だけで結論が出ないこともありますが、これはあせらず正確に判断するためです。
治療
孤立性拡張期高血圧の治療は、まず生活習慣の見直しが中心になります。特に若い方では、減塩や運動、体重管理などで数値が改善することが期待できます。血圧の高さだけでなく、糖尿病や腎臓病、喫煙、家族歴など、ほかのリスクを合わせて考えて治療方針を決めます。数値がどのくらい高いか、ほかに病気がないかによって、生活習慣だけで様子をみる場合と、お薬を併用する場合があります。
自宅でのセルフケア
- 塩分を控えめにする(1日6g未満が目標のひとつとされています)。汁物を少なめにし、加工食品や外食の回数を減らす工夫を。
- 野菜や果物、海藻、大豆製品などをとり入れる。ただし腎臓の病気がある方はカリウムについて医師に相談してください。
- 適正な体重を目指す。無理な減量ではなく、少しずつでも続けることが大切です。
- ウォーキングなど、息が少しはずむ程度の有酸素運動を習慣にする。
- お酒の量を減らし、休肝日をつくる。禁煙する。
- 睡眠時間を確保し、いびきや日中の強い眠気があれば医師に伝える。
- 家庭血圧を毎日決まった時間に測り、記録を続ける。
医療治療
生活習慣の見直しを続けても目標の血圧に届かない場合や、ほかの病気やリスクがある場合は、医師が血圧を下げるお薬(降圧薬)を検討することがあります。お薬は種類や量を医師が一人ひとりに合わせて決めるもので、自己判断で飲み始めたり中止したりせず、処方されたとおりに続けることが大切です。通院では血圧の記録を見ながら調整し、必要に応じて血液検査などで体の状態を確認します。お薬について気になることがあれば、医師や薬剤師に遠慮なく相談してください。
手術が検討される場合
通常、孤立性拡張期高血圧そのものに対して手術が必要になることはありません。ただし、検査の結果、血圧が高くなる別の原因(腎臓やホルモンに関わる病気など)が見つかった場合は、専門医が治療の選択肢を検討することがあります。
この病気と共に生きる
血圧は毎日少しずつ変わります。朝と夜の決まった時間に測り、記録を続けることが、自分と医師の両方にとって一番の味方になります。数値が高い日があっても一喜一憂しすぎず、1〜2週間の傾向を見るようにしましょう。通院のときは血圧手帳を持っていくと話がスムーズです。
生活習慣のアドバイス
- 測る前に5分ほど座って安静にする。寒い場所や、会話・コーヒーの直後の測定は避ける。
- 朝は起床後1時間以内、トイレを済ませてから測る。夜は就寝前に測る。
- 減塩を意識し、だしや香辛料、酢や柑橘を使って味に工夫する。
- 歩く時間を少しずつ増やす。階段を使う、買い物は歩くなど、日常の中で動く。
- お酒は量と頻度を決めて楽しむ。たばこは卒業を目指す。
- 睡眠をしっかりとり、休む時間を意識してつくる。
- 定期的に健診を受け、数値の変化を確認する。
食事と運動
食事は、減塩を軸に、野菜・果物・海藻・大豆製品・魚などをバランスよくとり入れるのが基本です。揚げ物や加工肉、濃い味の汁物は回数を控えめに。運動は、早歩きや軽いジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を、無理のない範囲で定期的に行うのがおすすめです。持病や痛みがある方は、始める前に医師に相談してください。
精神的健康と心の健康
血圧の数値は気になりやすいものです。測るたびに緊張して上がってしまったり、数字を見て落ち込んだりすることはよくあります。ストレスや不安はそれ自体が血圧に影響することもあるため、がんばりすぎず、息抜きの時間を大切にしてください。気持ちの落ち込みや不安が続くときは、ひとりで抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、信頼できる人に話してみてください。つらい気持ちが強いときは、早めに専門の相談先につながることが大切です。
予防
生活習慣を整えることで、血圧が高くなるのを防いだり、高くなりすぎるのを抑えたりすることが期待できます。特に若い頃からの減塩、体重管理、運動、節酒、禁煙、睡眠は、将来の血管の健康につながります。すでに数値が高めの方でも、今から始めれば変化は期待できます。
ワクチン
血圧の高さそのものを防ぐワクチンはありません。季節の感染症などに対するワクチンについては、体の状態に合わせてかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本では、健康診断や特定健康診査(40〜74歳などを対象とした健診)で血圧を測る機会があります。健診の数値が気になったら、そのままにせず受診しましょう。家庭用の血圧計で日常的に測っておくと、変化に早く気づけます。
合併症
治療しない場合
- 血管が少しずつ傷み、動脈硬化(どうみゃくこうか:血管が硬く狭くなること)が進むことがあります。
- 心臓に負担がかかり、心肥大や心不全、狭心症・心筋梗塞などのリスクが高まります。
- 脳の血管の病気(脳卒中)のリスクが高まります。
- 腎臓のはたらきが低下することがあります。
- 目の細い血管が傷つき、見え方に影響が出ることがあります。
- 長い目でみると、認知症のリスクにも関わるとされています。
長期的な見通し
孤立性拡張期高血圧は、生活習慣の見直しで改善が期待できるタイプです。特に若い方では、早めに気づいて丁寧に向き合うことで、将来の血管の健康を守れる可能性が大きく広がります。数値が高い日が続いて不安なときは、ひとりで判断せず、記録を持ってかかりつけ医に相談してください。あせらず、続けられることを少しずつ重ねていくことが何より大切です。
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最終更新: 2026年10月24日
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