あごにできるがん(顎がん)について知っておきたいこと
概要
顎がん(がくがん)は、あごの骨(上あごの骨=上顎骨、下あごの骨=下顎骨)や、その周りの歯ぐき・口の中の粘膜にできるがんだと考えられています。実は、あごの骨そのものから最初に発生するがんはとてもまれで、多くは口の中の粘膜(歯ぐきや頬の内側、舌の下など)にできたがんが、あごの骨や周りの組織に広がっていく形で見つかります。口の中にできるがんをまとめて「口腔がん(こうくうがん)」と呼び、顎がんはその一部として扱われることが多い病気です。早期に見つかれば治療の選択肢も多く、治る可能性も十分にあります。
重要な事実
- あごの骨から直接できるがんは非常にまれで、多くは口の中の粘膜から始まったがんがあごに広がったものです。
- 口内炎が2週間以上たっても治らない、歯ぐきやあごの腫れが続く、といった「長引く変化」が代表的なサインです。
- 診断には、口の中の診察に加えて、画像検査(CT・MRIなど)と、組織を少し取って調べる検査(生検)が行われます。
- 治療は手術・放射線治療・薬物療法などを組み合わせて行われることが多く、担当の医師チームが状態に合わせて計画を立てます。
- 喫煙や飲酒、口の中の衛生状態などが関係すると言われており、日ごろの口腔ケアと禁煙が予防につながります。
顎がん(口の中のがん全体を含めても)は、日本人全体で見ると決して多い病気ではありません。口の中のがんは、日本では1年間に約1万人前後が診断されるとされる比較的まれながんです。ただし、決して珍しいからといって油断してよいわけではなく、口の中の変化が長引くときは早めに相談することが大切です。
口の中のがんは、50代から70代の方に多く見られ、男性のほうがやや多いとされています。喫煙習慣のある方、飲酒の量が多い方、合わない入れ歯や虫歯で口の中が慢性的に刺激されている方、口の中の衛生状態がよくない状態が続いている方などでリスクが高いと言われています。若い方や子どもにできることは非常にまれです。
症状
- 口やあごからの出血がひどく、押さえても止まらない
- 息が苦しい、呼吸のたびにヒューヒュー音がする、声が出しにくい
- 急激に首やのどが腫れて、飲み込むことや息をすることが難しい
- 意識がもうろうとしている、ぐったりしている
- ⚠口の中の傷や口内炎が2週間以上治らない、または大きくなっている
- ⚠あごや歯ぐきの腫れ・しこりが急速に大きくなっている
- ⚠強い痛みのため食べられない、眠れない
- ⚠口が急に開けにくくなった、飲み込みにくくなった
- ⚠原因のわからない口の中の出血が続く
- ⚠首のしこりが硬く、どんどん大きくなっている
一般的な症状
- 口内炎や口の中の傷が2週間以上たっても治らない、大きくなる
- 歯ぐき・ほっぺの内側・あごの周りに、触れるしこりや腫れがある
- あごや歯ぐきの痛みが続く、歯が浮いた感じがする
- 原因なく歯がぐらつく、または抜けた
- 口が開けにくくなった、飲み込みにくくなった、話しにくくなった
- 口の中から出血しやすい、嫌なにおいが続く
- 入れ歯が急に合わなくなった、はずれやすくなった
- あごや唇・舌の一部にしびれや感覚の鈍さがある
- 首のリンパ節が腫れて、押すと硬い感じがする
- 理由がはっきりしない体重減少や疲れやすさ
子供の症状
- 子どもにあごのがんができることは非常にまれです。
- ただし、あごの腫れ、痛み、歯の生え方の異常、口の中の傷が長引く場合は、小児科や歯科で相談してください。
- 子どもの場合、がんでない別の原因(感染症や嚢胞など)のほうがずっと多いですが、長引く症状は一度診てもらうことが安心につながります。
高齢者の症状
- 入れ歯が急に合わなくなる、はずれやすくなるといった変化は見落とされやすいサインです。
- 口の中の乾燥や虫歯、歯周病があると、変化に気づきにくくなることがあります。
- 飲み込みにくさや声のかすれを「年のせい」と決めつけず、続く場合は相談してください。
- 複数の病気で通院中の方は、かかりつけ医や歯科医に口の中の変化も伝えておくと安心です。
原因
主な原因
- 多くは、口の中の粘膜(歯ぐき、ほっぺの内側、舌の下など)にできた扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん=口の中の表面をおおう細胞からできるがん)が、あごの骨や周りの組織に広がったものです。
- まれに、あごの骨の中から直接できるがん(骨肉腫や、歯の元になる細胞からできるがんな ど)もあります。
- 歯や入れ歯による慢性的な刺激が続く場所に、がんができやすいという報告もあります。
- ほかの部位のがんが、あごの骨やリンパ節に転移して見つかることもあります。
リスク要因
- 喫煙(紙巻きタバコ、加熱式タバコ、噛みタバコを含む)
- 飲酒(量が多いほど、また飲酒と喫煙が重なるとリスクが高まると言われています)
- 口の中の衛生状態がよくない、歯周病や虫歯を放置している
- 合っていない入れ歯や、とがった歯による長期間の刺激
- 過去に頭頸部(とうけいぶ=頭と首の領域)のがんの治療を受けたことがある
- 免疫の力が低下する状態や、免疫を抑える治療を受けている
- 一部のウイルス(HPV=ヒトパピローマウイルス)との関連が指摘されているタイプのがんもある
- 年齢(50代以上で増える)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 口の中の傷・口内炎・腫れが2週間以上たっても治らない、または大きくなっている
- あごのしこりや腫れが急に大きくなった、硬く触れる
- 口が開けにくい、飲み込みにくい、声が出しにくい
- 口の中の出血が続く、痛みで食事がとれない
- 首のリンパ節の腫れが続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 入れ歯が合わなくなった、歯がぐらつくなど、口の中の変化が気になる
- 口の中の違和感やにおいが長く続いている
- 喫煙・飲酒習慣があり、口の中の健康チェックを受けたことがない
- 家族や友人に「口の中のできものが長引いている」と言われた
診断
まずは歯科口腔外科(しかくうくうげか=歯や口の中の病気を専門に扱う診療科)や耳鼻咽喉科、かかりつけ医で、口の中の様子をよく見て、触って確かめます。気になる場所があれば、画像検査で広がりを確認し、必要に応じて組織を少し取って調べる検査(生検)を行って、がんかどうか、どの種類かを確定します。診断がついたら、進行の程度(ステージ)を調べて治療方針を話し合います。
行われる可能性のある検査
- 問診と視診・触診(いつから、どのように変化したかを確認し、口の中を直接観察します)
- 内視鏡やファイバーによる観察(必要に応じて)
- CT検査・MRI検査(病変の大きさや骨への広がり、リンパ節の状態を調べます)
- PET検査や超音波検査(転移がないか調べるために行うことがあります)
- 生検(組織の一部を採って顕微鏡で調べる検査。診断を確定するために重要です)
- 血液検査(全身の状態や治療に耐えられるかを確認します)
- 歯科的な検査(治療前に虫歯や歯周病の状態を整えておくために行います)
診察で予想されること
検査は一度で終わらず、いくつかの段階を踏むことが一般的です。生検の結果が出るまでに1〜2週間ほどかかることがあり、待つ間は不安な気持ちになるかもしれません。担当医には「結果はいつごろわかりますか」「次は何をしますか」と遠慮なく尋ねてください。理解が追いつかないときは、家族や同伴者と一緒に説明を聞くこと、メモを取ること、あとでもう一度聞くことが助けになります。
治療
治療は、がんの種類・大きさ・広がり(ステージ)と、年齢や全身の状態、そして食べる・話すといった口の機能をどう保つかを考え合わせて決められます。手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせることが多く、歯科口腔外科・耳鼻咽喉科・腫瘍内科・放射線治療科・リハビリの専門職などがチームで関わります。治療の前に、歯の手入れや虫歯の治療をしておくことも大切です。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(治療中の合併症を減らし、回復を助けると言われています)
- 飲酒は控えめにする。治療中は主治医の指示に従う
- 毎日の歯みがきと入れ歯の手入れを丁寧に行い、口の中を清潔に保つ
- 口の中が乾燥するときは、こまめな水分補給やうがいでケアする
- 治療中は栄養が偏りやすいので、食べやすい形・やわらかい食事を工夫する
- 体調の変化(痛み、腫れ、出血、発熱、食べられない状態)は我慢せず、すぐに医療者に伝える
- 治療の副作用や不安は一人で抱え込まず、看護師や相談窓口に話す
医療治療
治療の中心は、がんだった部分を手術で取り除くことです。広がりに応じて、あごの骨の一部を切除し、体の別の場所の組織や骨を使って形を戻す再建手術を同時に、あるいは後に行うことがあります。放射線治療は、手術の代わりに、あるいは手術の前後や再発予防として行われることがあります。薬物療法(抗がん剤や分子標的薬、免疫の力を高める薬など)は、進行した場合や再発・転移がある場合などに、放射線治療と組み合わせて行われることがあります。薬の種類や量、スケジュールは、担当医が病状と全身状態に合わせて決めます。治療の前に、歯の治療や口腔ケアを済ませておくことが、副作用を減らすうえで大切です。
手術が検討される場合
がんが口の中やあごにとどまっている場合、手術で取り除くことが治療の中心になります。切除する範囲は画像検査をもとに計画され、できるだけ飲み込みや発音、見た目の機能を保てるように工夫されます。切除した部分には、腕や脚、胸などの組織や骨を移植して再建することがあります。手術後は、食べる・話す・飲み込むためのリハビリを早めに始めることが多いです。手術が難しい場合は、放射線治療や薬物療法が中心になります。
この病気と共に生きる
治療中や治療後は、口の中の状態が変わることがあります。食べづらさ、話しづらさ、口の乾燥、味の感じ方の変化などがあっても、工夫次第で暮らしやすくなります。主治医や歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士(ことばや飲み込みのリハビリの専門家)、看護師に早めに相談することが近道です。通院の予定や体調の記録をつけておくと、診察のときに伝えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける。必要なら禁煙外来の利用も検討する
- 飲酒は控えめにする
- 毎日の口腔ケアを習慣にする(やわらかい歯ブラシや洗口液も活用)
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
- 無理のない範囲で体を動かし、体力を保つ
- 治療の記録(症状・食事・服薬・受診予定)を手元にまとめておく
- 周りの人に状況を伝え、頼れるところには頼る
食事と運動
食事は、口の状態に合わせて「やわらかく」「小さく」「つるんと」を意識すると食べやすくなります。おかゆ、煮込んだ野菜、豆腐、卵料理、ヨーグルト、スープ、とろみをつけた飲み物などが例です。一度にたくさん食べるのがつらいときは、少量を回数多くに分けましょう。味が変わったと感じるときは、だしや香味野菜、酸味を上手に使うと食べやすくなることがあります。体重が減り続ける、水分がとれないときは早めに相談してください。運動は、散歩や軽いストレッチなど無理のない範囲から。治療中は主治医に確認しながら進めましょう。
精神的健康と心の健康
がんと告げられたとき、あるいは治療が続く中で、不安・落ち込み・怒り・孤独感を感じるのは自然なことです。眠れない、食欲がない、何も楽しめないといった状態が2週間以上続くときは、がまんせずに医療者に話してください。気持ちを言葉にするだけで楽になることもあります。ひとりで抱え込まないことが何より大切です。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、すぐに医療者や地域の相談窓口、救急(119)に助けを求めてください。
予防
口の中のがんを100%防ぐ方法はありませんが、リスクを下げることはできます。いちばん効果が大きいのは禁煙です。飲酒は量と頻度を控えめにすることも大切です。毎日の歯みがきと定期的な歯科受診で口の中を清潔に保ち、合わない入れ歯やとがった歯を放置しないことも役立ちます。気になる変化を早めに相談することが、早期発見につながります。
ワクチン
HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは、HPVに関連するタイプの中咽頭がんなどのリスクを下げると報告されています。日本では公費で受けられる定期接種の制度がありますが、対象年齢や接種の時期は自治体によって案内が異なります。接種を検討するときは、自治体の案内やかかりつけ医・小児科に相談してください。
検診プログラム
口の中のがんを対象にした全国共通の検診はありませんが、自治体によっては口腔がん検診を実施しているところがあります。また、歯科を受診したときに口の中の粘膜も確認してもらうことが早期発見に役立ちます。特に喫煙・飲酒習慣のある方は、歯科の定期受診のときに「口の中の粘膜も見てほしい」と伝えてみてください。
合併症
治療しない場合
- がんが大きくなり、あごの骨や周りの組織を広く壊していくことがあります
- 食べる・飲み込む・話すといった口の機能が障害されることがあります
- 首のリンパ節や、肺などほかの臓器に転移する可能性が高まります
- 痛みや出血、口の中の感染が続き、生活の質が下がることがあります
- 治療の選択肢が限られ、体への負担が大きくなることがあります
長期的な見通し
口の中のがんは、早期に見つかれば治る可能性が十分にあります。実際、早期の段階で治療を受けた方の多くは良好な経過をたどると報告されています。治療の技術は進歩しており、切除後の再建やリハビリによって、食べる・話す機能を取り戻す工夫も行われています。病気の広がりや全身の状態によって見通しは変わるため、一般論だけで決めつけず、担当医にご自身の場合の見通しを具体的に尋ねてください。不安なときは、何度でも質問してよいのです。
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最終更新: 2026年10月24日
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