ジャーベル・ランゲ・ニールセン症候群(生まれつきの難聴と心臓の不整脈をともなう病気)
概要
ジャーベル・ランゲ・ニールセン症候群は、生まれつきの「聞こえにくさ(難聴)」と、心臓の電気の流れが乱れやすくなる体質(QT延長と呼ばれる心電図の変化)を、同じ人があわせ持つ、まれな遺伝性の病気です。心臓は電気の信号で脈を刻んでいますが、この病気ではその信号が元に戻るのに時間がかかり、ときどき心臓が速く不規則に打つことがあります。そのため、体に血がめぐりにくくなって、急に意識を失う(失神する)ことがあります。難聴は生まれたときからあることが多く、ふつう両方の耳にみられます。
重要な事実
- 生まれつきの高度な難聴と、心電図でわかる心臓の電気の乱れ(QT延長)をあわせ持つ、まれな病気です。
- 心臓が速く不規則に打つ発作が起きると、めまいや失神(急に意識を失うこと)が起こることがあります。
- 両親から遺伝子の変化を受けつぐことで発症する、遺伝性の病気です。
- 早い時期に見つけて、日常生活の工夫と医療的な管理を続けることが大切です。
とてもまれな病気です。日本にどのくらいいるかを示す正確な数字は分かっていませんが、心臓の QT 延長症候群の中でもごく一部をしめる、珍しいタイプです。
生まれつきの体質なので、赤ちゃんのときから難聴があります。失神などの症状は、幼児期から10代にかけて現れることが多いといわれます。男の子にも女の子にも起こり、大人になってから初めて気づかれる場合もあります。
症状
- 意識を失って、呼びかけても反応がない
- 呼吸がない、またはあえぐような息づかい
- 体がけいれんしている
- 突然倒れた、または倒れてけがをした
- 胸の強い痛みや、急な息苦しさがある
- ⚠意識が一瞬とんだ、または目の前が暗くなったことがある
- ⚠動悸が続いて落ち着かない
- ⚠めまいやふらつきが繰り返す
- ⚠耳元で大きな音を聞いたあとに気分が悪くなった
- ⚠発熱・下痢・嘔吐などで体の水分が減っているときに、動悸やふらつきがある
一般的な症状
- 急に意識を失う(失神する)ことがある。多くは数秒から数十秒で自然に戻ります。
- 立ちくらみ、めまい、ふらつき
- 動悸(心臓がドキドキする、脈が速いと感じる)
- 生まれつきの難聴(多くは両方の耳、高度な聞こえにくさ)
- 運動中や、驚いたとき、大きな音を聞いたときに意識を失うことがある
子供の症状
- 新生児聴覚スクリーニングで「聞こえにくい」と指摘される
- 大きな音や、驚いたとき、泣きさけんだときに倒れることがある
- 走る・遊ぶなど体を動かしているときの失神
- 難聴のため、ことばの発達がゆっくりになることがある
- 呼びかけても反応が弱い、後ろから声をかけても気づかないことが多い
高齢者の症状
- この病気は生まれつきのものですが、大人になってから診断されることもあります。
- 成人してからの動悸や、説明のつかない失神
- 若い頃から聞こえにくさを自覚していた場合
- 疲れやすい、階段の上り下りで息が苦しいと感じることは、ほかの心臓の病気の可能性もあるため、受診して相談してください。
原因
主な原因
- 遺伝子の変化(生まれつきの体質)が原因です。心臓の電気の通り道をつくる遺伝子に変化があり、その変化を両親から1つずつ受けつぐと発症します(常染色体劣性遺伝といいます)。
- 遺伝子の変化を片方だけもつ場合は、ふつう症状は出ませんが、心電図で軽い変化がみられることがあります(保因者)。
- 両親が保因者であっても、子どもが発症するかどうかは確率の問題で、必ずしも全員が発症するわけではありません。
リスク要因
- 家族の中に、この病気や若い頃の突然死、原因不明の失神があった人がいる
- 家族の中に、生まれつきの難聴の人がいる
- 血のつながった親族どうしの結婚がある家系では、遺伝性の病気がみつかりやすくなることがあります
- 心臓に負担をかける状況(激しい運動、脱水、発熱、極端な睡眠不足、大きな音や驚き)は、発作のきっかけになることがあります
- 医師の確認なく使った薬の中に、心臓の電気の流れに影響するものがあると、発作が起きやすくなることがあります
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 意識を失った、または意識が一瞬とんだことがある(すぐに医療機関へ。意識が戻らない・呼吸がない場合は119番)
- 動悸が続いて治まらない、胸が苦しい
- めまいやふらつきが繰り返し起こる
- 子どもが大きな音や運動のあとに倒れた、または倒れかけた
定期受診を予約すべき場合:
- 家族にこの病気の人がいる、または若い頃に突然亡くなった人がいる
- 子どもに聞こえにくさがある、新生児聴覚スクリーニングで指摘された
- 健康診断の心電図で「QT延長」や「不整脈」を指摘された
- 妊娠を考えている、または妊娠中で、家族に遺伝性の心臓の病気がある
- 学校の体育やスポーツの前に、心配なことがある
診断
まず、これまでの症状(失神の有無や起こったときの状況)、家族歴、聞こえの状態をくわしく聞きます。そのうえで、心臓の電気の流れを調べる心電図と、聞こえを調べる聴力検査を行います。必要に応じて遺伝子の検査を行い、遺伝カウンセリングとあわせて結果を説明します。小児科、循環器科、耳鼻咽喉科が協力して診断を進めることが多いです。
行われる可能性のある検査
- 安静時心電図(12誘導心電図):心臓の電気の流れとQT時間を調べます
- ホルター心電図:1日を通して心臓のリズムを記録します
- 聴力検査:聞こえの程度を調べます(赤ちゃんでは聴性脳幹反応などの検査を使うことがあります)
- 遺伝子検査:原因となる遺伝子の変化を調べます(結果が出るまで時間がかかることがあります)
- 血液検査:体のミネラル(電解質)のバランスなどを確認します
- 心エコー検査:ほかの心臓の病気がないかを確認します
診察で予想されること
診断にはいくつかの検査と、家族の情報が必要で、何回か通院することになります。遺伝子検査の結果を待つ間は不安な気持ちになるかもしれません。結果の伝え方や、ご家族への影響についても、遺伝カウンセリングの場でゆっくり相談できます。分からないことは遠慮なく医師や看護師に聞いてください。
治療
この病気の根本的な治し方はまだありませんが、失神や危険な不整脈が起きるのを防ぐための管理が中心になります。生活の工夫、必要な薬や医療機器、聞こえを助ける方法を組み合わせて、学校生活や仕事を含むふだんの暮らしを続けられるようにしていきます。治療の方針は、年齢や症状の出方、心電図の結果によって一人ひとり違います。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとり、脱水を避ける(発熱・下痢・嘔吐のときは特に注意)
- 睡眠を十分にとり、極端な疲れや寝不足を避ける
- 激しい運動や競技スポーツは、必ず主治医に相談してから決める
- 突然の大きな音や驚きに注意し、必要なら学校や職場にも伝えておく
- 市販薬を含め、新しい薬を使う前は医師か薬剤師に相談する(心臓の電気の流れに影響する薬があります)
- 決められた通院と検査を続け、心電図の変化を確認する
- 聞こえを助ける機器(補聴器など)は、耳鼻咽喉科と相談しながら調整する
医療治療
医師は、心臓の電気の流れを安定させて発作を防ぐための薬を使うことがあります。薬の種類や量は、年齢や体重、心電図の結果をもとに医師が決めますので、自己判断で飲み方を変えたり中止したりしないでください。また、危険な不整脈が起きたときに心臓に必要な電気ショックを自動で与える体内埋め込み型の機器(ICD)を使うこともあります。聞こえについては、補聴器や人工内耳などが検討されます。治療の内容は主治医の説明をよく聞いて、疑問点を確認しながら進めましょう。
手術が検討される場合
危険な不整脈による失神のリスクが高いと判断された場合には、体内埋め込み型除細動器(ICD)を植え込む手術が検討されます。聞こえについては、人工内耳の手術が選択肢になることがあります。また、薬で十分に抑えられない場合に、心臓の神経を切り離す手術が検討されることもあります。手術が必要かどうかは、専門の医療チームがご本人と家族と相談して決めます。
この病気と共に生きる
この病気とは長く付き合っていくことになるため、ふだんの体調の記録と、決まった通院が暮らしの中心になります。学校や職場には、倒れたときの対応や大きな音への配慮などを、あらかじめ伝えておくと安心です。家族が心肺蘇生法を学んでおくことも役に立ちます。発作はいつ起こるか分からない面があるので、一人で行動するときの連絡方法なども決めておくとよいでしょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がける
- 暑い日や運動の前後は水分を多めにとる
- たばこは心臓に負担をかけるため、吸わないようにする
- お酒は医師と相談し、過度に飲まない
- 入浴やサウナなどで急に体温が変わるときは、めまいに注意する
- 体調が悪いときは無理をせず、早めに医療機関に相談する
食事と運動
特別な食事制限は必要ないことが多いですが、脱水を防ぐために水分をこまめにとり、バランスのよい食事を心がけましょう。激しい運動や競技スポーツは発作のきっかけになることがあるため、必ず主治医に相談してから決めてください。散歩や軽い運動など、体に無理のない範囲で続けることは心身の健康に役立ちます。
精神的健康と心の健康
急に意識を失うかもしれないという不安は、ご本人にもご家族にも大きな負担になります。特に子どもの頃は、学校生活や友だちづきあいの中で心配が大きくなりがちです。きょうだいへの説明や気持ちのケアも大切です。遺伝カウンセリングや心理的なサポートを受けることで、気持ちを整理しやすくなります。つらいときは一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口に話してください。命に関わる緊急の状態のときは、ためらわず119番に連絡してください。
予防
遺伝性の病気のため、発症そのものを防ぐことは難しいといわれています。一方で、家族歴がある場合に早めに検査を受けること、遺伝カウンセリングを受けることで、見つける時期を早められます。また、脱水や睡眠不足、きっかけになる薬を避けるといった工夫で、発作を起こしにくくすることはできます。
ワクチン
特別に受けてはいけないワクチンはありません。感染症は心臓に負担をかけることがあるため、定期の予防接種は大切です。ただし発熱があるときや体調がすぐれないときは、接種の前に医師に相談してください。
検診プログラム
生まれたときの新生児聴覚スクリーニングは、難聴を早く見つける助けになります。家族にこの病気や若い頃の突然死、原因不明の失神がある場合は、心電図検査や遺伝カウンセリングについて医師に相談してみてください。妊娠を考えている方は、事前に相談しておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 意識を失う発作を繰り返し、転倒によるけがをすることがあります。
- 心臓が速く不規則に打つ危険な不整脈が起きる可能性があります。
- まれですが、危険な不整脈によって命に関わる状態になることがあり、治療でそのリスクを下げることが大切です。
- 聞こえにくさへの支援が遅れると、ことばの発達や学校生活、人との交流に影響することがあります。
長期的な見通し
この病気はまれで、注意が必要な面はありますが、早く見つけて定期的な通院と生活の工夫を続けることで、多くの方が学校や仕事を含むふだんの暮らしを送っています。治療の方法は年々工夫が重ねられています。不安なことがあれば、主治医や医療チームに遠慮なく相談しながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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