クレブシエラ・ニューモニエ(肺炎桿菌)による感染症
概要
クレブシエラ・ニューモニエは、日本語では「肺炎桿菌(はいえんかんきん)」と呼ばれる細菌です。名前には「肺炎」とついていますが、肺炎だけを起こすわけではありません。この細菌は、健康な人の腸やのどにもふつうに住んでいることがあり、多くの場合そのまま何も起こしません。ところが、体の抵抗力が落ちているときや、細菌が肺・尿の通り道・傷などから体の奥に入り込んだときに、肺炎や尿路(にょうろ=尿の通り道)の感染症、傷の感染などを引き起こすことがあります。ふだん元気な人がこの細菌に感染して重症になることはあまり多くなく、問題になりやすいのは、入院中や治療中の方など体が弱っているときです。
重要な事実
- クレブシエラ・ニューモニエは、腸やのどに住んでいるありふれた細菌で、保菌していても無症状のことが多いです。
- 感染症として問題になるのは、主に病院や介護施設などで抵抗力が落ちている方の場合です。
- 肺炎、尿路感染、傷の感染、血液に入って全身の炎症を起こすことなどがありますが、適切な治療で多くは回復します。
この細菌自体はとてもありふれていて、健康な人の便やのどから見つかることも少なくありません。そのため「保菌している=病気」ではありません。細菌による感染症として治療が必要になるのは、主に体の抵抗力が落ちている方や、医療器具を使っている方などに限られます。
影響を受けやすいのは、高齢の方、入院中・手術後・集中治療中の方、カテーテル(管)や人工呼吸器、点滴の管を使っている方、糖尿病などの持病がある方、免疫(体を守る力)が下がる病気や治療を受けている方、やけどや大きな傷がある方です。子どもや妊婦の方に多い細菌ではありませんが、新生児や乳幼児では注意が必要なことがあります。
症状
- 呼吸が苦しくて話せない、息ができない感じがする
- 唇や顔色が青白い、紫っぽい
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が弱い
- ぐったりして動けない、けいれんがある
- 冷汗が出て、血圧が下がったようにぐったりしている
- 尿がまったく出ない、または急に体がむくんで息苦しい
- これらがあるときは、ためらわずに119番へ連絡してください。
- ⚠38℃以上の熱が2日以上続く
- ⚠痰に血が混じる
- ⚠胸の痛みが強くなってきた
- ⚠息切れが進み、横になると息が苦しい
- ⚠水分がとれない、尿の量が目に見えて減っている
- ⚠排尿時の痛みと発熱が同時にある
- ⚠医療機関で治療中に症状が悪化した(同じ日のうちに連絡を)
一般的な症状
- 発熱、寒気、ふるえ(がくがくする震え)
- 咳(せき)と痰(たん)。痰に血が混じることもあります
- 息苦しさ、息切れ、胸の痛み
- 尿の通り道に感染した場合は、排尿時の痛み、尿の回数が増える、下腹部の違和感
- 傷に感染した場合は、傷の周りが赤く腫れる、痛む、膿(うみ)が出る
- おなかに感染した場合は、腹痛、下痢、吐き気
- 細菌が血液に入ると、高い熱が続く、ぐったりする、血圧が下がる
子供の症状
- 機嫌が悪い、泣き方がいつもと違う
- 母乳やミルクの飲みが悪い、食欲がない
- 発熱、ぐったりして元気がない
- 呼吸が速い、息が苦しそう、胸がへこんで呼吸する
- 新生児では、黄疸(おうだん=皮膚や白目が黄色くなる)が強い、体温が低い
高齢者の症状
- 熱が出ない、または微熱だけのことがある
- 元気がない、ぼんやりしている、声が小さくなった
- 食欲がない、水分をとらない
- いつもより転びやすい、立てない
- 尿の回数が増える、失禁(尿がもれてしまう)が急に始まる
- 家族から見て「いつもと違う」と感じる変化
原因
主な原因
- この細菌が、肺・尿の通り道・傷・血管など、ふだん細菌がいない場所に入り込むことで感染が起こります。
- 入院中のカテーテル(管)、人工呼吸器、点滴の管などを通じて細菌が入ることがあります。
- 抗菌薬(細菌を減らす薬)を長く使うと、腸などの細菌のバランスが変わり、この細菌が増えやすくなることがあります。
- 健康な人へのうつりやすさは高くありませんが、手を介して広がることがあるため、手洗いが大切です。
リスク要因
- 入院中、介護施設に入所中、または最近の手術・集中治療
- カテーテル、人工呼吸器、点滴の管などの医療器具の使用
- 糖尿病、腎臓の病気、肝臓の病気などの持病
- 免疫(体を守る力)が下がる病気や治療を受けている
- 高齢であること、やけどや大きな傷があること
- 抗菌薬の長期間の使用
- アルコールの飲みすぎ、喫煙
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 高い熱、咳、息苦しさが同時にあるとき(同じ日のうちに受診を)
- 尿の痛みと発熱があるとき
- 傷が赤く腫れて痛み、膿が出て熱もあるとき
- 高齢の方や持病のある方で「いつもと違う」変化があるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 咳や痰が長引く、熱が下がったり上がったりを繰り返す
- 抗生物質(抗菌薬)を飲み終えたあとも調子が戻らない
- 入院や手術のあとで、体調に不安がある
- 糖尿病などの持病があり、感染症を防ぐ方法を相談したい
診断
まず問診と診察で、症状の経過や持病、入院や手術の経験などを確認します。そのうえで、痰・尿・血液などの検体(検査のために採るもの)を調べて、原因の細菌がクレブシエラ・ニューモニエかどうか、どの治療が合いそうかを確かめます。画像検査で肺や感染している場所の状態を見ることもあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(炎症の程度や体の状態を調べる)
- 痰(たん)の検査と培養(細菌を育てて種類を調べる検査)
- 尿検査と尿の培養
- 血液培養(血液の中に細菌がいるかを調べる)
- 胸部レントゲン、必要に応じてCT検査
- 薬が効きにくい細菌(耐性菌)かどうかを調べる検査
診察で予想されること
培養検査は結果が出るまで数日かかることがあります。その間も、症状に合わせた治療が始まることが多いです。検査結果が出たら、医師から今後の治療の方針について説明があります。
治療
治療の中心は、細菌を減らす薬(抗菌薬)です。どの薬が合うかを検査で確かめながら、医師が選びます。同時に、水分と栄養を補い、休養をとることが回復を助けます。息苦しさがある場合は酸素を吸うなど、症状に合わせたケアが行われます。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとる(お茶やスープなど、飲みやすいもので)
- しっかり休み、体力が戻るまでは無理をしない
- 処方された薬は、医師・薬剤師の指示にしたがって最後まで使う
- 熱を測って記録し、症状の変化をメモしておく
- 痰はティッシュに包んで捨て、そのあと手を洗う
- 部屋を加湿し、換気をこまめに行う
- 喫煙している場合は、この機会に禁煙を相談する
医療治療
細菌を減らす薬(抗菌薬)を、検査結果に合わせて医師が選びます。薬が効きにくい細菌(耐性菌)の場合には、検査をもとに別の選択肢を検討します。また、点滴で水分や栄養を補う、酸素を吸う、痰を出しやすくするケアなど、体の状態に合わせた治療が行われます。重症の場合は集中治療が必要になることもあります。どの治療が合うかは体の状態によって変わるため、必ず医療者と相談してください。
手術が検討される場合
多くの場合は手術は必要ありません。ただし、肺や体のどこかに膿(うみ)がたまった場合には、管を入れて膿を出す処置などが行われることがあります。
この病気と共に生きる
回復には時間がかかることがあります。熱が下がっても体力はすぐには戻らないため、仕事や家事は少しずつ再開しましょう。手洗いを習慣にし、家族も一緒に気をつけると安心です。症状の経過をメモしておくと、受診のときに役立ちます。
生活習慣のアドバイス
- 手洗い・うがいを丁寧に行う
- 禁煙し、受動喫煙も避ける
- 睡眠をしっかりとる
- 糖尿病などの持病があれば、血糖値の管理を続ける
- 抗菌薬を自己判断で使ったり、途中でやめたりしない
- 入院中は医療スタッフの指示にしたがって管の管理などを任せる
- かかりつけ医と、肺炎を防ぐワクチンについて相談する
食事と運動
食事は、たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品など)と野菜をバランスよくとり、水分も一緒に補いましょう。食欲がないときは、おかゆやスープなど食べやすいものから少しずつで大丈夫です。回復してきたら、散歩など無理のない範囲で体を動かすと体力の回復を助けます。息苦しさがあるときは運動を控え、医師に相談してください。
精神的健康と心の健康
入院が長引いたり、思うように回復しなかったりすると、不安や眠れない、気分が落ち込むといったことが起こりえます。これは特別なことではなく、よくある反応です。一人で抱え込まず、看護師や医師、家族に気持ちを話してみてください。つらい状態が続くときは、かかりつけ医や地域の保健所などの相談窓口を利用しましょう。もし自分を傷つけたい気持ちが浮かぶなど、今すぐ助けが必要なときは、ためらわず119番に連絡するか、地域の救急窓口を頼ってください。
予防
この細菌による感染症を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを下げることはできます。手洗いを丁寧に行う、持病をきちんと管理する、抗菌薬を自己判断で使わない、といった日々の積み重ねが大切です。医療現場では、器具の管理や手指衛生などの対策が行われています。
ワクチン
クレブシエラ・ニューモニエそのものに対する一般的なワクチンはありません。ただし、肺炎球菌やインフルエンザなど、肺炎の原因になる他の感染症を防ぐワクチンは、全体として肺炎のリスクを下げるのに役立ちます。年齢や持病に応じて接種を検討できるため、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
症状がない人がこの細菌の検査を受けることは、通常はありません。保菌していても問題ないことが多いためです。入院時や症状があるときに、必要に応じて検査が行われます。
合併症
治療しない場合
- 肺炎が進み、呼吸が苦しくなって酸素が必要になることがあります
- 細菌が血液に入り、全身に炎症が広がる状態(敗血症)になることがあります
- 肺に膿(うみ)がたまる(肺膿瘍)ことがあります
- 尿の通り道の感染が腎臓にまで広がることがあります
- まれですが、髄膜炎(脳と脊髄を包む膜の炎症)を起こすことがあります
長期的な見通し
多くのかたは、適切な治療と休養によって回復します。高齢の方や持病のある方は回復に時間がかかることもありますが、早めに受診して治療を続けることが大切です。症状が気になるときは、一人で判断せず医療機関に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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