人工膝関節置換術(ひざの人工関節の手術)
概要
人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)は、すり減ったり傷んだりした膝の関節の表面を、金属やプラスチックでできた人工の部品に置きかえる手術です。膝は、太ももの骨・すねの骨・お皿の骨が組み合わさってできていて、その表面は軟骨(骨の先を守るやわらかいクッション)でおおわれています。軟骨が減ると骨どうしがぶつかって痛みが出ます。手術では、この傷んだ表面を新しい部品でおおい、膝の曲げ伸ばしがなめらかにできるようにします。傷んだ部分だけを置きかえる「部分置換」と、膝全体を置きかえる「全置換」があります。
重要な事実
- 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう=膝の軟骨がすり減って痛みや変形が起こる病気)などで、運動や薬などの治療を続けても日常生活がつらいときに考えられる手術です。
- 手術は「急がなければならないもの」ではありません。痛みの強さ、生活の支障、体の状態をよく話し合ってから決めます。
- 手術のあとはリハビリがとても大切です。数か月かけて、歩く・曲げ伸ばし・階段などの動きを少しずつ取り戻していきます。
日本でも多く行われている手術で、決してめずらしいものではありません。膝の痛みで整形外科(骨や関節、筋肉をみる科)を受診する人のなかで、手術を考える方は少なくありません。
主に中高年から高齢の方で、膝の軟骨が長い時間をかけてすり減った方に多いです。膝のけがのあとや、関節リウマチ(免疫の異常で関節に炎症が起きる病気)などが原因のこともあります。体重が多い方、O脚(脚が外側に曲がった形)の方では、膝への負担が大きくなりやすいです。
症状
- 突然の息切れ、胸の痛み、呼吸の苦しさ(手術後しばらくの間に起こることがあり、肺の血管に血栓が詰まる重い状態の可能性があります)
- 手術した傷から、押さえても止まらない大量の出血
- 突然意識がもうろうとする、会話がかみ合わない
- 手術後に高熱とともに息苦しさや胸の痛みがある
- ⚠手術した傷のまわりが赤く腫れて熱を持ち、膿のようなものが出る
- ⚠38℃以上の発熱が続く
- ⚠ふくらはぎが片側だけ腫れて痛む(血栓ができている可能性)
- ⚠膝が急に大きく腫れて、曲げ伸ばしができない
- ⚠体重をかけると膝が急に崩れるようにぐらつく
- ⚠傷の痛みが急に強くなり、痛み止めが効かない
一般的な症状
- 歩きはじめや立ち上がるときに膝が痛む
- 階段の昇り降りがつらい
- 長く歩くと膝が痛くなり、休むと楽になる
- 膝が腫れる、熱を持つ、水がたまった感じがする
- 膝を深く曲げたり正座したりしにくい
- O脚が強くなってきた、脚の形が変わってきた
- 動きはじめに膝がこわばる、音がする
- 体重をかけると膝がぐらつく、不安定な感じがする
- 夜や安静にしているときにも痛むことがある
原因
主な原因
- 変形性膝関節症(加齢や使いすぎで軟骨がすり減る)
- 関節リウマチなどの炎症をともなう病気
- 膝のけが(骨折、靭帯や半月板の損傷)のあとに起こる関節の変化
- O脚やX脚など、脚の形による偏った負担
- 生まれつきの関節の形の特徴(まれ)
リスク要因
- 年齢(中高年以降)
- 体重が多いこと
- 膝に負担のかかる仕事やスポーツの経験
- 過去の膝のけがや手術の経験
- 家族に膝の病気の人がいる
- 筋力の低下、運動不足
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手術した傷のまわりが赤く腫れて熱を持ち、膿のようなものが出ている
- 38℃以上の発熱が続いている
- ふくらはぎが片側だけ腫れて痛む
- 膝が急に大きく腫れて曲げ伸ばしができない
- 体重をかけると膝が崩れるようにぐらつく
定期受診を予約すべき場合:
- 膝の痛みが2〜3週間以上続く
- 痛み止めをよく使うようになった
- 歩ける距離が短くなってきた
- 階段の昇り降りがつらい
- 正座ができなくなった
- 膝の腫れをくり返す
- O脚が進んできた
- 痛みで眠れないことがある
診断
問診と診察で、痛みの出方、いつからか、どこがどれくらい痛むか、日常生活で何がつらいかを聞きます。膝を動かして可動域やぐらつき、腫れ、O脚の程度をみます。そのうえでレントゲンなどの画像検査を行い、軟骨の減り具合や骨の形を確認します。手術をするかどうかは、痛みの強さ、日常生活の支障、画像の所見、年齢や体力、持病、本人の希望を合わせて総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- レントゲン検査(骨の形、軟骨が減ったすき間、O脚の程度をみる)
- MRI検査(軟骨、半月板、靭帯などやわらかい組織をみる)
- 血液検査(炎症の有無や持病の状態、手術前の全身の確認)
- CT検査(必要な場合。骨の詳しい形をみる)
- 心電図や胸部レントゲン(手術前の全身のチェック)
診察で予想されること
診察は1回で結論が出るとは限りません。まずは運動や体重管理、必要に応じて薬や注射などの治療を試し、効果を見ながら手術を考えるのが一般的です。手術は予定して行うものなので、急いで決める必要はありません。医師に聞きたいことをメモして持っていくと、相談がしやすくなります。
治療
膝の痛みの治療は手術だけではありません。まずは運動で膝まわりの筋力を保つこと、体重を適正に保つこと、生活のなかで膝にやさしい動きをすることが基本になります。それでも日常生活がつらいときに、薬や注射、リハビリ、そして手術が選択肢になります。
自宅でのセルフケア
- 太ももの前の筋肉やおしりの筋肉を、無理のない範囲で鍛える
- 体重を適正に保ち、膝への負担を減らす
- ウォーキングや水中歩行、自転車など、膝にやさしい運動を続ける
- 痛みが強いときは冷やし、こわばるときは温める
- 杖や手すり、必要ならサポーターを使って膝の負担を減らす
- 正座や長時間の立ち仕事など、つらい動作を工夫して減らす
- クッション性があり、滑りにくい靴を選ぶ
医療治療
痛みに対しては、痛みをやわらげる薬(飲み薬や貼り薬)が使われることがあります。膝にたまった水を抜いたり、関節に注射をしたりすることもあります。理学療法士によるリハビリで筋力や動きを改善する治療も行われます。症状や体の状態によって適する方法は違うので、医師や薬剤師と相談しながら進めます。
手術が検討される場合
手術は、痛みが強く、運動や薬、注射などの治療を続けても日常生活(歩く、階段、着替え、買い物など)がつらいときに考えます。膝の変形が進んでいる、夜も眠れないほど痛む、転んでばかりいる、といった場合も相談の対象になります。年齢だけで決まるものではなく、体力や持病、本人の希望、手術後のリハビリに取り組めるかどうかも含めて総合的に判断します。
この病気と共に生きる
手術のあとは、入院中からリハビリが始まります。歩行器や杖を使って少しずつ歩き、膝の曲げ伸ばしを練習します。退院後も通院でのリハビリが続き、筋力や歩き方が安定するまで数か月かかることが多いです。日常生活では、階段や高い所のものを取る動作、長時間の正座などに気をつけ、無理をしない範囲で少しずつ活動を広げていきます。
生活習慣のアドバイス
- リハビリで教わった運動を、退院後も続ける
- 長時間同じ姿勢をとらず、こまめに動く
- 段差、風呂場、夜間のトイレなど、転びやすい場所を整える
- 杖や手すりを上手に使う
- 禁煙(傷の治りや感染のリスクに関わります)
- 手術後の通院や健診の予定を守る
食事と運動
食事は、体重を適正に保つことが膝への負担を減らす一番の近道です。野菜、たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品)、主食をバランスよくとると、筋肉を保ちやすくなります。手術後は、リハビリで教わった筋力トレーニングと、ウォーキングや水中歩行などを組み合わせるとよいです。痛みが強い日は無理をせず、翌日に響かない程度にとどめましょう。
精神的健康と心の健康
膝の痛みや手術は、気持ちにも大きく影響します。痛みで外出が減る、人に会うのがおっくうになる、手術が不安で眠れない、といったことはよくあります。手術後は、思ったより時間がかかることに落ち込むこともあります。つらさが続くときは、ひとりで抱えず、医師や看護師、家族、地域の相談窓口に話してください。「つらい」と伝えることは、治療を進めるうえでも大切なことです。気分の落ち込みが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談・救急の窓口を頼ってください。
予防
年齢による変化を完全に止めることはできませんが、膝の痛みや変形を進みにくくする工夫はできます。体重を適正に保つ、膝まわりの筋力を維持する、けがをしない、膝に負担の大きい動きを減らす、といったことが役立ちます。膝に違和感があるうちに整形外科へ相談するのも大切です。
ワクチン
人工膝関節そのものを防ぐワクチンはありません。手術を受ける場合は、かぜや感染症の予防が大切です。予防接種や体調について、担当医の指示に従ってください。
検診プログラム
決まった健診で見つかるものではありません。膝の痛みや動きにくさが続くときは、整形外科を受診して相談してください。
合併症
治療しない場合
- 痛みが続き、歩ける距離が短くなる
- 膝を曲げ伸ばしできる範囲が狭くなり、正座や階段が難しくなる
- 筋力が落ち、転びやすくなる
- O脚が強くなるなど、脚の形の変化が進む
- 外出や人づきあいが減り、気分の落ち込みにつながることがある
長期的な見通し
膝の痛みは、運動や体重管理、薬や注射などの治療で和らぐことも多く、手術はそのうえで考える選択肢です。手術を受けた多くの方は、痛みが軽くなり、歩くことが楽になったと感じています。回復には個人差があり、数か月かけてゆっくり進むのがふつうです。手術には感染や血栓、人工関節のゆるみなどの合併症の可能性もありますが、対策をしながら経過をみていきます。医師とよく相談し、自分に合った進め方を見つけていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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