クーレン・デ・フリース症候群(KdVS)を知る
概要
クーレン・デ・フリース症候群(KdVS)は、生まれつきの遺伝子の変化が原因で起こる、比較的めずらしい病気です。原因は主に2つあり、17番染色体という遺伝子の設計図の一部が欠けている場合と、KANSL1(カンスルワン)という遺伝子に変化がある場合があります。この変化によって、体の成長や脳の発達の進み方に個人差の大きい特徴が現れます。発達の遅れ、赤ちゃんの頃の筋力の弱さ(筋緊張低下=体がぐにゃっと柔らかく感じること)、言葉の遅れ、特徴的な顔立ちなどがよく見られますが、症状の出方は一人ひとり大きく異なります。
重要な事実
- 生まれつきの遺伝子の変化が原因で、親の育て方や生活習慣が原因ではありません。
- 症状の重さは人によって大きく違い、軽い場合から手厚い支援が必要な場合まで幅があります。
- 根本的に治す治療はまだありませんが、発達の支援や合併症への対応によって、その子らしい生活を大きく支えることができます。
- 多くは両親のどちらにも同じ変化がなく、偶然起こった変化(新規変異)によるものです。
とてもめずらしい病気です。海外の報告では、およそ数万人に1人程度と考えられていますが、正確な人数はわかっていません。見た目や症状だけでは気づかれにくいこともあり、実際にはもっと多い可能性も指摘されています。日本国内の正確な患者数も明らかになっていません。
男の子にも女の子にも同じように起こります。多くは家族歴のない偶然の変化として生まれます。一方で、患者さんの子どもに受けつがれる可能性もある病気(常染色体優性=親から子へ伝わることがあるタイプ)なので、家族に患者さんがいる場合は遺伝カウンセリングが役立ちます。
症状
- 初めてのけいれん発作、または発作が5分以上続く、何度もくり返す
- 発作のあと意識が戻らない、呼吸が苦しそう
- 唇や顔色が青白い・紫色に見える
- ぐったりして反応が鈍い、呼びかけに答えない
- 頭を強く打ったあとの意識の変化やくり返す嘔吐
- 呼吸が止まる、いびきのような異常な呼吸が続く
- ⚠発熱が続き、元気がなく水分もとれない
- ⚠おしっこの量が目に見えて減っている、口の中が乾いている
- ⚠嘔吐や下痢が続いて水分がとれない
- ⚠発作の回数が増えた、発作の様子がいつもと違う
- ⚠急に歩きにくくなった、力が入らない
- ⚠強い腹痛、尿の痛み、血が混じった尿
一般的な症状
- 発達の遅れ(運動・言葉・理解の面で、同年齢の子よりゆっくり進むことが多い)
- 軽度から中等度の知的障害(学び方や理解の仕方に支援が必要なことがある)
- 赤ちゃんの頃の筋力の弱さ(筋緊張低下)で、抱っこすると体がやわらかく感じる
- 特徴的な顔立ち(鼻の付け根が広い、眉が太い、上くちびるが薄め など。個人差が大きい)
- てんかん(けいれん発作)を合併することがある
- 言葉の遅れや吃音(どもり)
- 睡眠の悩み(寝つきにくい、夜中に目が覚める など)
- 関節がやわらかい、側弯(背骨が曲がる)
- 中耳炎をくり返す、聞こえにくさ
- 心臓や腎臓(尿を作る臓器)の生まれつきの形態の違い
- 人なつこく社交的な性格、やさしい雰囲気(強みとして語られることが多い特徴)
子供の症状
- 授乳がうまくいかない、体重が増えにくい
- 首すわり・おすわり・歩きはじめが遅い
- 言葉が出るのが遅い、発音がはっきりしない
- 初めてのけいれん発作
- 中耳炎や滲出性中耳炎をくり返す
- 便秘が続く
- 夜泣きや眠りの浅さ、日中の眠気
- かんしゃく、不安が強い、分離不安(親と離れるのがつらい)
- 落ち着きがない、集中しにくい(ADHD=注意欠如・多動症のような特徴が見られることがある)
- こだわりの強さなど、自閉スペクトラム症(対人関係やこだわりに特徴のある発達のタイプ)に似た特徴
- 学校生活での学習面・友だち関係の支援が必要になることがある
高齢者の症状
- この病気が確認されている成人はまだ少なく、長期的な経過については研究が続いています。
- 成人後も知的障害の程度は人によってさまざまで、支援の必要量も異なります。
- てんかんが続く場合は、大人になってからも定期的な診察が必要です。
- 不安や気分の落ち込みなど、心の健康のケアが大切になります。
- 就労や生活の場についての支援、自立に向けた準備。
- 生活習慣病(高血圧・糖尿病など)の予防と健診。
- 妊娠を考える場合は、遺伝カウンセリングを受けて相談することをおすすめします。
原因
主な原因
- 17番染色体の特定の部分(17q21.31)が生まれつき欠けていること
- KANSL1(カンスルワン)という遺伝子の変化(働きが弱くなる変化)
- これらの変化は、多くの場合、両親のどちらにも見られない偶然の変化として起こります。
- 家族に患者さんがいる場合は、親から子へ受けつがれることがあります(常染色体優性遺伝)。
リスク要因
- 特定の生活習慣や食事が原因になる病気ではありません。
- 家族に同じ病気の人がいる場合は、受けつぐ可能性があります。
- 両親の年齢などが関係するという明確な証拠は、今のところ十分ではありません。
- 同じ変化をもつ親から子どもに伝わる場合、症状の重さは親子でも異なることがあります。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれんが初めて起きた、または発作が長引いている(救急要請が必要な場合もあります)
- 呼吸が苦しそう、顔色が悪い、ぐったりしている
- 水分がとれず、おしっこが極端に少ない
- 頭を打ったあとに様子がおかしい
定期受診を予約すべき場合:
- 首すわり・おすわり・歩きはじめ・言葉の発達など、成長の進みが気になるとき
- 母乳やミルクの飲みが少ない、体重が増えにくいと感じるとき
- 中耳炎をくり返す、テレビの音を大きくしたがるなど聞こえが気になるとき
- 便秘が続く、睡眠のリズムが整わない
- かんしゃくや不安が強く、生活がつらいと感じるとき
- 学校や保育園での困りごとについて相談したいとき
- 家族に同じ病気の人がいて、妊娠や遺伝について相談したいとき
診断
診断は、医師による診察と発達の様子の確認に加えて、遺伝子の検査で確定します。特徴的な顔立ちや発達の経過からこの病気が疑われ、血液などの検体を使った検査で17番染色体の欠けやKANSL1遺伝子の変化を調べます。診断がつくと同時に、心臓・腎臓・耳・目・脳など、合併症がないかを確認する検査が行われます。診断の前後には、遺伝カウンセリング(遺伝の仕組みや家族への影響を専門家と話す場)を受けることができます。
行われる可能性のある検査
- 染色体マイクロアレイ検査(染色体の細かい欠けや増えを調べる検査)
- KANSL1遺伝子の解析(遺伝子の配列を詳しく読む検査)
- 脳波検査(てんかんの有無や脳の電気活動を調べる)
- 心臓超音波検査(心臓の形や働きを調べる)
- 腹部超音波検査(腎臓や尿の通り道の形を調べる)
- 聴力検査
- 視力・眼科の検査
- 必要に応じて頭のMRI検査
- 発達検査(ことば・運動・理解の力を客観的に見る検査)
診察で予想されること
遺伝子検査の結果が出るまでには、数週間から数か月かかることがあります。結果を待つ間は不安な気持ちになるかもしれませんが、その間に発達の支援を始めることはできます。診断がついたあとは、小児科を中心に、小児神経科、心臓科、耳鼻科、眼科、リハビリ、心理、学校の先生などがチームになって、そのお子さんに合った支援の計画を一緒に考えていきます。
治療
この病気の根本的な原因を取り除く治療は、今のところありません。治療の中心は、そのお子さんの困りごと一つひとつに合わせた支援を、できるだけ早い時期から始めることです。発達の支援、合併症の定期的なチェック、学校や家庭での環境づくりを組み合わせることで、生活のしやすさと学びの力を伸ばしていきます。
自宅でのセルフケア
- 決まった時間に寝起きできるよう、睡眠のリズムを整える
- 便秘がちな場合は、水分と食物繊維を意識し、決まった時間にトイレに座る習慣をつける
- 関節がやわらかいため、転びやすい遊びや高い場所には注意し、安全な環境を整える
- 予防接種は、かかりつけ医と相談しながら予定どおり受ける
- 耳鼻科・眼科・歯科を含む定期的な健診を欠かさない
- 発作の様子(時間、体のどの部分が震えたか、意識の戻り方)をメモしておくと診察に役立つ
- 家族だけで抱え込まず、支援者や他の家族と情報を分かち合う
医療治療
治療は症状に合わせて組み立てられます。ことば・運動・手先の使い方を伸ばすリハビリテーション(理学療法・作業療法・言語聴覚療法)、てんかんがある場合の小児神経科での継続的な診療、心臓や腎臓の形態の違いに対する定期的なフォロー、聞こえや見えにくさへの支援(補聴器や眼鏡などが必要になることもあります)が中心です。睡眠や不安、落ち着きのなさ、かんしゃくなどについては、行動面の支援や環境調整が行われ、必要に応じて専門医が薬物療法を検討します。薬の種類や量は人によって異なるため、必ず担当医の指示に従ってください。
手術が検討される場合
心臓や腎臓・尿の通り道の生まれつきの形態の違い、側弯(背骨の曲がり)、股関節の脱臼などに対しては、状態に応じて手術が検討されることがあります。手術が必要かどうかは、それぞれの専門医とよく相談したうえで決めていきます。
この病気と共に生きる
日々の生活では、できるだけ見通しが立ち、安心できるリズムを作ることが助けになります。絵や写真を使った予定表、短くわかりやすい言葉がけ、静かに落ち着ける場所の確保など、その子に合った工夫を少しずつ試してみてください。できたことを一緒に喜ぶ経験を重ねることが、お子さんの自信とご家族の力になります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムと、十分な睡眠時間を確保する
- ことばのやりとりを増やす遊び(絵本の読み聞かせ、歌、ごっこ遊び)を毎日の習慣にする
- 学校・保育園・療育機関とこまめに情報を共有する
- 家族が休息をとる時間を意識してつくる(レスパイト=一時的にケアを離れて休む支援も活用する)
- きょうだいへの説明と、きょうだい自身の気持ちのケアも大切にする
- 必要に応じて、障害者手帳や療育手帳、医療費助成などの制度について地域の窓口に相談する
食事と運動
特別な食事制限が全員に必要なわけではありませんが、便秘や体重の増え方についてはかかりつけ医に相談しながら調整します。むせやすい場合は、食べ物の形やとろみを工夫することがあります。運動は、無理のない範囲で毎日体を動かすことが大切です。水遊びや散歩、バランス遊びなど、楽しく続けられるものがおすすめです。関節がやわらかい場合は、転倒しにくい場所や靴を選び、必要に応じてリハビリの担当者に相談してください。
精神的健康と心の健康
診断を受けたとき、また成長の過程で、ご家族が不安や悲しみ、疲れを感じることは自然なことです。それは弱さではなく、大切なお子さんを思う気持ちの表れです。お子さん自身も、うまく伝えられないもどかしさや不安を抱えることがあります。一人で抱え込まず、小児科医、心理の専門家、地域の相談窓口、同じ悩みをもつ家族の集まりなどに話してみてください。話すこと自体が、心の負担を軽くする第一歩になります。つらい気持ちが続くときは、医療機関や地域の相談窓口に相談してください。
予防
この病気を生活習慣で防ぐことはできません。原因は生まれつきの遺伝子の変化であり、ご家族の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。家族に患者さんがいる場合や、次の妊娠を考えている場合は、遺伝カウンセリングを受けて、可能性や選択肢について専門家と話しておくことが助けになります。
検診プログラム
この病気は、通常の妊娠中の検査や新生儿(新生児)スクリーニングで見つかることを目的としたものではありません。家族に患者さんがいる場合など、必要性が高いときには遺伝カウンセリングを通じて検査について相談できます。
合併症
治療しない場合
- ことばや運動、学びの面での困難が大きくなり、自信を失いやすくなることがあります。
- てんかんの発作が続くと、日常生活や安全に影響することがあります。
- 聞こえにくさや視力の問題が見逃されると、ことばの発達や学習に影響します。
- 側弯(背骨の曲がり)が進むことがあります。
- 心臓や腎臓の形態の違いに気づかれないまま負担がかかることがあります。
- 便秘や睡眠の問題が長引き、体調や機嫌に影響することがあります。
- 不安や孤立など、心の面の負担が大きくなることがあります。
長期的な見通し
この病気は個人差が非常に大きく、症状の重さも成長の道すじも一人ひとり違います。今のところ根本的な治療はありませんが、早期からの発達支援、合併症の定期的なチェック、家庭と学校が連携した環境づくりによって、多くのお子さんが自分らしく生活し、学び、人とのつながりを深めています。成人してからの生活の場や仕事についても、支援の仕組みを活用しながら前向きに準備していくことができます。心配なことは、遠慮なく担当医に何度でも相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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