ラクナ梗塞(小さな脳梗塞)
概要
ラクナ梗塞(らくなこうそく)は、脳梗塞のひとつで、脳の深いところにあるとても細い血管が詰まって、ごく小さな範囲の脳の細胞が傷つく病気です。「ラクナ」はラテン語で「小さな穴・くぼみ」という意味で、傷ついた場所が検査の画像で小さな点のように見えることからこの名前がつきました。脳の表面近くの太い血管ではなく、脳の奥へ向かう細い枝の血管(穿通枝<せんつうし>と呼びます)が詰まって起こります。詰まる範囲が小さいため、症状が軽かったり、ほとんど気づかないうちに起きていたりすることもあります。
重要な事実
- ラクナ梗塞は、脳の奥にある細い血管が詰まって、小さな範囲の脳の細胞が傷つくタイプの脳梗塞です。
- いちばん大きな原因は高血圧です。血圧をきちんと管理することが、予防にも再発を防ぐのにも中心になります。
- 症状が軽いことや、健康診断の脳の画像検査で初めて見つかることもありますが、繰り返すと歩き方や記憶に影響が出ることがあります。
日本ではよく見られるタイプの脳梗塞で、脳梗塞全体のおよそ4分の1前後を占めると言われています。高血圧のある方に多く、健康診断の脳ドックなどで「古い小さな脳梗塞の跡がある」と言われて見つかることも少なくありません。
主に中高年以降の方に多く、特に高血圧のある方に起こりやすいとされています。糖尿病や脂質異常症(コレステロールなどの異常)のある方、たばこを吸う方にも多い傾向があります。若い方ではまれですが、まったく起こらないわけではありません。
症状
- 突然、体の片側の手足が動かない、力が入らない
- 突然、顔の片側が下がる、口元がゆがむ、笑うと左右差がある
- 突然、ろれつが回らない、言葉が出ない、相手の言うことが理解できない
- 突然、片方の目が見えない、視野が欠ける、ものが二重に見える
- 突然、まっすぐ歩けない、強いめまいがする、立っていられない
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い、けいれんがある
- ⚠数分から数時間で消えてしまった片方の麻痺やしびれ、言葉の出にくさ(一過性脳虚血発作<TIA>の可能性があります)
- ⚠今までにない強い頭痛、今までと違う頭痛
- ⚠血圧が非常に高い状態が続き、頭痛やだるさをともなう
- ⚠急に飲み込みにくくなった、むせることが増えた
一般的な症状
- 体の片側の手や足が動かしにくい、力が入りにくい(軽い麻痺)
- 体の片側の手足や顔の感覚が鈍い、しびれる
- ろれつが回らない、言葉が出にくい、言い間違える
- 手先が不器用になる、物を持ちにくくなる
- 歩くと足がもつれる、ふらつく、まっすぐ歩きにくい
- 症状がほとんどなく、画像検査で初めて見つかる(無症候性ラクナ梗塞)
子供の症状
- 小児ではラクナ梗塞は非常にまれです。子どもの脳卒中が起きた場合は、血管の生まれつきの異常や心臓の病気など、別の原因を調べることが大切です。
- 子どもは症状をうまく言葉で伝えられないことがあります。顔の片側だけ動きが違う、片方の腕だけ使わない、急に歩き方がおかしくなった、などの変化に注意してください。
- 子どもの場合も、突然の麻痺や言葉の出にくさがあれば、ためらわずに119番へ連絡してください。
高齢者の症状
- 健康診断や脳ドックのMRIで「古い小さな脳梗塞の跡」や「白い点(白質病変)」が見つかることがあります。これは過去に気づかないうちに起きた小さな梗塞の跡のことがあります。
- 小さな梗塞がいくつも重なると、歩幅が狭くなる、小刻みに歩く、動作が遅くなる、もの忘れが増える、トイレが近い・尿が出にくい、といった症状が出ることがあります。
- ふらつきや歩きにくさから転んで骨折することを防ぐため、手すりの設置や靴の選び方など、住まいの工夫も大切です。
原因
主な原因
- 脳の奥へ向かう細い血管(穿通枝)が、長年の高血圧などによって傷み、内側が狭くなって詰まる
- 細い血管の壁が厚く硬くなる(細動脈硬化)ことで、血流が止まりやすくなる
- 血管の中に血のかたまり(血栓)ができて、細い血管をふさぐ
- 心臓でできた血のかたまりが飛んでくるタイプの脳梗塞(心原性脳塞栓症)とは、仕組みが異なります
リスク要因
- 高血圧(最も重要な危険因子です)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)
- 飲酒の量が多い
- 加齢(年齢を重ねること)
- 家族に脳卒中の人がいる
- 肥満、運動不足
- 塩分の多い食事
- 睡眠時無呼吸症候群(いびきがひどい、昼間に強い眠気があるなど)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の麻痺、しびれ、言葉の出にくさ、視野の異常がある(この場合は119番へ連絡し、救急車を呼んでください)
- 症状が短時間で消えても、片麻痺や言葉の出にくさがあった(当日中に医療機関を受診してください)
- 急に歩きにくくなった、ふらついて立っていられない
- 急に飲み込みにくくなった、食事でよくむせる
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断で血圧が高いと言われた、または家で測ると高い日が多い
- 脳ドックやMRIで「小さな脳梗塞の跡」「白い点」を指摘された
- 糖尿病や脂質異常症と言われて治療中だが、最近は受診していない
- 最近、物忘れや歩き方の変化が気になる
- 脳梗塞の治療を受けた後で、薬を飲み忘れることが増えている
診断
まず問診と体の診察が行われ、いつからどんな症状があるのか、持病や内服、生活習慣について確認されます。そのうえで、頭の画像検査で脳の状態を調べます。MRIは小さな病変を見つけやすい検査です。同時に、なぜ梗塞が起きたのかを知るために、血圧・血糖・コレステロール・心臓の状態などを調べます。
行われる可能性のある検査
- 頭部MRI(拡散強調画像など、発症まもない小さな病変を見つけやすい検査)
- 頭部CT
- 血液検査(血糖、HbA1c、コレステロール、腎機能、凝固に関する項目など)
- 心電図、必要に応じて24時間心電図(不整脈がないか調べる)
- 頸動脈エコー(首の血管の超音波検査)
- 心エコー(心臓の中の様子を調べる超音波検査)
- 自宅での血圧測定の記録
診察で予想されること
検査の多くは痛みがほとんどありません。MRIはトンネル状の機械の中に入るため、閉じた場所が苦手な方は事前にスタッフに伝えてください。 CTは撮影中に放射線を使いますが、検査として必要な量に調整されています。結果の説明には時間がかかることがあり、症状によってはそのまま入院して検査と治療を進めることがあります。
治療
傷ついた脳の細胞そのものを元に戻す治療はありませんが、まわりの脳が働きを補おうとします。治療の中心は、①これ以上梗塞が起きないように再発を防ぐこと、②血圧や血糖などを良い状態に保つこと、③手足や言葉の機能をできるだけ取り戻すリハビリテーションです。発症後はできるだけ早くからリハビリを始めることが大切とされています。
自宅でのセルフケア
- 毎日決まった時間に血圧を測り、記録をつける
- 減塩を心がける(1日6g未満が目標とされています)
- 禁煙する。吸っている場合は禁煙外来などの支援を利用する
- 飲酒は量と頻度を控えめにする
- 処方された薬を、自己判断でやめたり量を変えたりしない
- 脱水を避けるため、こまめに水分をとる
- 十分な睡眠をとり、いびきや日中の眠気が強いときは相談する
- 無理のない範囲で体を動かす(始める前に主治医に相談する)
医療治療
再発を防ぐために、血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬と呼ばれる種類)が使われることがあります。また、血圧を下げる薬、コレステロールを整える薬、血糖を下げる薬など、その方の状態に合わせた治療が組み合わされます。薬の種類や量は、年齢や腎臓の働き、ほかの病気との関係を見ながら医師が決めます。リハビリテーションでは、理学療法(歩く・立つなどの運動)、作業療法(着替えや食事など日常生活の動作)、言語聴覚療法(話す・聞く・飲み込む練習)が行われます。
手術が検討される場合
ラクナ梗塞そのものに対して手術を行うことは通常ありません。ただし、首の太い血管が狭くなっている場合や、心臓に血栓ができやすい異常が見つかった場合などは、専門医と相談のうえで手術やカテーテル治療が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
退院後は、通院とリハビリを続けながら、少しずつ以前の生活に戻していきます。疲れやすい、片方の手が使いにくい、声が出しにくいなどが残ることがあります。できることとできないことを見きわめ、道具や家の中の配置を工夫すると過ごしやすくなります。自動車の運転を再開できるかどうかは、必ず主治医に相談してください。入浴や階段の昇り降りでは、転倒しないよう手すりを使いましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける
- お酒は量と回数を控える
- 塩分を控え、加工食品や外食の頻度を見直す
- 体重を適正な範囲に保つ
- 睡眠を十分にとり、生活のリズムを整える
- ストレスをためこまず、誰かに話す時間をつくる
- 薬を毎日決まった時間に飲む(飲み忘れ防止の工夫をする)
- 定期的に通院し、血圧や血液検査の結果を確認する
食事と運動
食事は、野菜・果物・魚・大豆製品を中心に、塩分を控えめにするとよいとされています。汁物の汁を残す、醤油やソースはかけずにつける、などの小さな工夫が役立ちます。運動は、ウォーキングなど息が少しはずむ程度のものを、無理のない範囲で定期的に行うことが勧められます。ただし、麻痺やふらつきがある方、心臓の病気がある方は、始める前に必ず主治医やリハビリのスタッフに相談してください。
精神的健康と心の健康
脳梗塞のあとは、気分が落ち込む、不安が強い、涙もろくなる、怒りっぽくなる、やる気が出ない、といった変化が起こることがあります。これは脳が傷ついた影響によるもので、本人の性格や心の弱さの問題ではありません。家族や周囲の人が「わがままになった」と誤解してしまうこともありますが、病気の一部として理解することが大切です。つらい気持ちが長く続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口(保健センター、精神保健福祉センターなど)に相談してください。気持ちが追い詰められている、自分を傷つけたい気持ちがある、といった緊急の状態では、ためらわずに119番へ連絡するか、救急の医療機関を受診してください。
予防
リスクの多くは減らすことができます。とくに大切なのは血圧を良い状態に保つことです。高血圧を指摘されたら、症状がなくても治療と生活習慣の見直しを続けてください。禁煙、減塩、適正体重の維持、適度な運動、節酒は、どれも腦梗塞の予防につながります。
検診プログラム
健康診断での血圧測定、血糖値・HbA1c、コレステロールの検査は大切です。脳ドックで脳の血管の状態を調べることもできます。高血圧や糖尿病を指摘された場合は、放置せずに定期的に受診し、治療を続けることが最大の予防になります。
合併症
治療しない場合
- 再発:繰り返すたびに脳の傷つく範囲が増えていきます
- 血管性認知症:もの忘れや判断力の低下が進むことがあります
- 歩行障害:小刻み歩行やふらつきが出て、転倒しやすくなることがあります
- 排尿障害:トイレが近い、尿が出にくい、間に合わないなどの困りごと
- 感情の変化:怒りっぽくなる、涙もろくなる、気分が落ち込みやすくなる
- 飲み込みにくさ(嚥下障害):むせや誤嚥性肺炎の原因になることがあります
- 手足の麻痺やしびれが残る
長期的な見通し
ラクナ梗塞は範囲が小さい梗塞で、症状が軽く、多くの方はリハビリを経て日常生活に戻れるとされています。一度に大きな後遺症を残すことは比較的少ない病気です。ただし、再発を繰り返すと影響が積み重なるため、血圧管理と生活習慣の見直しを続けることが何より大切です。あせらず、できることから一つずつ続けていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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