言語障害(ことばの障害)について
概要
言語障害とは、話す・聞いて理解する・読む・書くといった「ことば」の働きに、何らかの困難が生じる状態の総称です。たとえば、言いたい言葉が出てこない、相手の話がうまく理解できない、文字を読むのが難しい、といった形で現れます。原因はひとつではなく、脳の病気(脳卒中など)のあとで起こるもの、子どもの発達の途中で見られるもの、耳の聞こえの問題が関係するものなど、さまざまです。ことばの問題は「知能が低い」とか「やる気がない」ということではありません。脳の中でことばを扱う部分の働きや、その発達のしかたの違いから起こるものです。
重要な事実
- 言語障害は「話す」「理解する」「読む」「書く」のどれか、またはいくつかが難しくなる状態で、程度や現れ方は人によって大きく違います。
- 成人では脳卒中などの脳の病気のあとに起こることが多く、子どもでは発達の途中で言葉の遅れや発音の難しさとして気づかれることがあります。
- 早めに気づいて、言語聴覚士(ことばの専門家)などの支援につながることで、生活のしやすさが大きく変わることがあります。
はい、決してめずらしいものではありません。子どもの言葉の発達の遅れは、就学前の子どもである程度の割合で見られるとされています。また、脳卒中のあとの失語症(言葉を扱う力が損なわれる状態)も、決して少ないものではありません。病院や地域の相談窓口には、ことばの悩みの相談が多く寄せられています。
赤ちゃんから高齢者まで、どの年齢でも起こりえます。子どもでは言葉の発達の遅れや発音の難しさ、吃音(どもる話し方)として、成人では脳の病気やけがのあとの失語症として、高齢者では脳卒中のあとや、認知機能の変化に伴うことばの変化として現れることがあります。男女どちらにも起こります。
症状
- 突然、言葉が出ない・ろれつが回らない・言っている意味がわからなくなった(脳卒中の可能性があります。すぐに119番)
- 言葉の異常に加えて、顔の片側が下がる、片方の腕や脚が動かしにくい、ものが二重に見える、歩けない
- 突然の意識がもうろうとした状態、けいれん、激しい頭痛
- 頭をぶつけたあとに、言葉が出にくくなった・様子がおかしい
- ⚠数日かけて、言葉が出にくくなる・聞き返しが増えるなど、変化が続いている
- ⚠吃音が急に強くなった、話すのがつらくなった
- ⚠発熱や耳の痛みとともに、聞こえが悪くなったように見える
- ⚠言葉の困難のために、食事やむせこみの問題が出てきた
一般的な症状
- 言いたい言葉が出てこない、名前が出てこない(「あれ」「それ」で済ませてしまう)
- 相手の言っていることが、ゆっくり話してもらっても理解しにくい
- 話すときに言葉の順番が入れ替わる、助詞(てにをは)が抜ける
- ろれつが回らない、発音がはっきりしない
- 読むのに時間がかかる、書くときに字や言葉が出てこない
- 会話の流れについていけず、話題からそれてしまう
- 電話や大人数の会話が特に苦手になる
子供の症状
- 1歳半を過ぎても意味のある単語がほとんど出ない
- 2歳を過ぎても二語文(「まんま ちょうだい」など)が出ない
- こちらの言葉は理解している様子があるのに、話す言葉が少ない
- 発音が不明瞭で、家族以外には伝わりにくい
- 「これなあに?」など質問のやりとりが続かない
- 遊びや集団の中で、友だちとの会話がかみ合いにくい
- 文字の読み書きでつまずく(就学後)
- 話し始めでつかえる、音を繰り返す(吃音)
高齢者の症状
- 脳卒中のあとで、言葉が出てこない・理解しにくい・読み書きが難しい
- 人の名前や物の名前が急に出てこなくなった
- 話が長くなり、要点がまとまりにくくなる
- 聞き返しが増える(聞こえの変化が関係していることもあります)
- 手紙や書類を読むのに時間がかかるようになる
- 会話を避ける、人と会うのを控えるようになる
原因
主な原因
- 脳の病気やけが:脳卒中、脳腫瘍、頭部のけが、脳の感染症など。ことばを扱う脳の部分が影響を受けると起こります。
- 発達の個人差:ことばを扱う脳の働きや発達のしかたの違いにより、言葉の遅れや読み書きの困難が生じることがあります。
- 聞こえの問題:難聴があると、ことばを聞いて覚える機会が減り、話す・理解する力に影響することがあります。
- 吃音:話し始めで音がつかえる状態で、はっきりした原因はまだよくわかっていません。
- 言葉に触れる環境:まわりの人とのやりとりの機会がとても少ない場合、言葉の発達に影響することがあります。
- 認知機能の変化:加齢に伴う記憶や注意力の変化が、ことばの出にくさとして現れることがあります。
リスク要因
- 家族に言葉の発達の遅れや読み書きの困難がある人がいる
- 早産や低出生体重だった
- 生まれつき、または子どもの頃からの聞こえの問題がある
- 脳卒中のリスク(高血圧、糖尿病、脂質の異常、喫煙、不整脈など)がある
- 頭部のけがや脳の感染症の経験がある
- 高齢である(脳の病気のリスクが上がるため)
- 言葉でのやりとりが極端に少ない環境にいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の言葉の出にくさ、ろれつの回りにくさ、理解の困難(すぐに119番をためらわないでください)
- 言葉の変化が数日単位で進んでいると感じる
- 言葉の困難に、飲みこみにくさ(むせこみ)や食べこぼしが加わった
- 吃音が急にひどくなり、学校や仕事に行くのがつらくなった
定期受診を予約すべき場合:
- 子どもの言葉が、同じくらいの年の子と比べて明らかに少ない、または理解が難しいと感じる
- 発音が不明瞭で、家族以外の人に伝わりにくい状態が続いている
- 読み書きのつまずきが続き、勉強や生活に負担が出ている
- 大人で、言葉が出てこないことが増えた、会話が疲れると感じる
- 聞こえが悪くなったかもしれないと思ったとき(まず耳鼻咽喉科が目安です)
診断
まず、いつから、どのような場面で、どんなふうに困っているのかを、本人やご家族からていねいに聞きます(問診)。そのうえで、ことばの専門家である言語聴覚士による言葉の評価、聞こえの確認、必要に応じて脳の画像検査などを行い、原因や困りごとの内容を整理していきます。診断は「ことばの状態」と「背景にある原因」の両方から考えられます。
行われる可能性のある検査
- 問診と生活の聞き取り(学校・仕事・家庭での様子)
- 聴力検査(聞こえの問題がないかを確認します)
- 言語聴覚士による言葉の評価(話す・理解する・読む・書く・発音)
- 発達検査や知能検査(子どもの場合)
- 脳の画像検査(CTやMRI。脳の病気が疑われるとき)
- 血液検査など(原因となる病気を調べるため)
診察で予想されること
評価は一度で終わるとは限らず、何回かに分けて行われます。検査の内容は、年齢や状態に合わせて選ばれます。結果は「できる・できない」を決めるためではなく、どんな工夫や支援が役に立つかを見つけるために使われます。検査の結果が気になる場合は、遠慮なく質問してください。
治療
治療の中心は、ことばのリハビリテーション(言語聴覚療法)です。言語聴覚士と一緒に、話す・理解する・読む・書く力を、その人に合った方法で練習していきます。同時に、原因となっている病気があればその治療を行い、学校・職場・家族など、まわりの環境を整えることも大切な支援になります。
自宅でのセルフケア
- 伝えたいことを、あわてずゆっくり話せる場面を増やす(静かな場所、少人数の会話)
- 大事な用事はメモや絵、写真など、ことば以外の伝え方も使う
- 相手には「ゆっくり、短く話してほしい」と前もって伝えておく
- 子どもの場合は、絵本の読み聞かせや、遊びの中のやりとりを毎日の習慣にする
- テレビや動画を流しっぱなしにせず、顔を見て話す時間をつくる
- 疲れや緊張でことばが出にくくなることがあるので、休憩をこまめにとる
- 悩みを一人で抱えず、家族や専門家に分かち合う
医療治療
言語聴覚療法(ことばのリハビリ)が中心になります。内容は、発音の練習、言葉を思い出す練習、文章の理解や読み書きの練習、会話の練習など、困りごとに合わせて組み立てられます。子どもでは、遊びを通した関わりや、保護者への助言が行われることもあります。原因となる病気(脳卒中など)がある場合は、その治療が並行して進められます。薬の使用については、原因や状態によって判断が異なるため、主治医にご確認ください。吃音については、話し方の工夫や心理面のサポートを含めた支援が検討されます。
手術が検討される場合
言語障害そのものを手術で治すことは、一般的にはありません。ただし、脳腫瘍や脳の血管の病気など、原因となっている病気によっては、外科的な治療が検討されることがあります。その場合は、主治医から目的とリスクについての説明があります。
この病気と共に生きる
ことばの困難は、その人の毎日の会話や学び、仕事に影響します。大切なのは、できないことを数えるより、伝わる方法を増やすことです。メモ、筆談、指さし、絵カード、スマートフォンの文字入力など、便利な道具はどんどん使ってかまいません。まわりの人が「待つ」「短く話す」「 yes/no で答えられる聞き方にする」といった工夫をするだけでも、会話はずっと楽になります。
生活習慣のアドバイス
- 生活のリズムを整え、睡眠をしっかりとる
- 会話の機会を毎日少しずつでもつくる(買い物、あいさつ、家族との雑談)
- 無理に長い会話を続けず、短い会話を何回かに分ける
- ことば以外の趣味(音楽、絵、散歩、手仕事)も大切にする
- 学校や職場には、早めに状況を伝えて、配慮を相談する
- 家族も含めて、休息の時間を意識してとる
食事と運動
ことばの障害そのものに特別な食事があるわけではありません。ただ、飲みこみにくさ(むせこみ)がある場合は、食事の形やとろみについて医師や管理栄養士、言語聴覚士に相談してください。体を動かすことは、脳や心の健康にとって役立ちます。散歩や軽い体操など、無理のない範囲で続けるのがおすすめです。脳卒中の予防のためには、塩分を控えめにした食事や、血圧を意識した生活が役立つとされています。
精神的健康と心の健康
言葉が伝わりにくいことは、大きなストレスになります。言いたいことが伝わらないもどかしさ、誤解されるつらさ、学校や仕事での不安、人と会うのを避けたくなる気持ちは、自然な反応です。子どもでは、かんしゃくや黙りこみという形で出ることもあります。こうした気持ちは我慢し続けず、話せる相手や専門家に打ち明けてください。気分の落ち込みが続く、眠れない、生きるのがつらいと感じるようなときは、かかりつけ医や地域の保健・福祉の相談窓口、精神保健に関する相談先に早めに連絡してください。緊急を要すると感じたら、ためらわず119番に電話してください。
予防
すべての言語障害を防ぐことはできませんが、できることはあります。脳卒中のリスク(血圧、血糖、脂質、喫煙、飲酒など)を管理することは、成人の失語症の予防につながります。頭部のけがを避ける工夫も大切です。子どもでは、聞こえの確認を早めに行い、言葉でのやりとりを日常にたくさん取り入れることが、発達を支えます。気になることがあれば、早めに相談することが何よりの「予防」になります。
ワクチン
一部の感染症は予防接種で防げ、それが脳の障害を防ぐことにつながる場合があります。予防接種の種類や時期については、かかりつけ医や自治体の案内に沿ってご相談ください。
検診プログラム
日本では、乳幼児健診などの場で、言葉の発達や聞こえの確認が行われています。健診で気になることを伝えるのはとても大切です。成人では、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の健診を受けることが、脳卒中の予防につながります。
合併症
治療しない場合
- 学習や仕事の場面で、理解や表現が難しく、つまずきが大きくなる
- 会話を避けるようになり、人とのつながりが減って孤立しやすくなる
- 誤解されたり、本人の努力不足と受け取られたりして、つらい思いをする
- 自信を失い、不安や気分の落ち込みが続くことがある
- 読み書きの困難が、日常生活の手続きや情報の理解に影響することがある
長期的な見通し
ことばの障害は、一度あるとそのまま変わらない、というものではありません。リハビリやまわりの工夫によって、話しやすさや伝わりやすさは少しずつ変わっていくことが多くあります。回復の早さや程度は人によって差がありますが、早く支援につながり、必要な工夫を重ねるほど、生活の質は保ちやすくなります。できていることを一緒に確認しながら、あせらず一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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