鉛(なまり)への曝露と健康
概要
鉛(なまり)は、自然界にもともと存在する金属の一種です。昔の塗料や水道の配管、土やほこり、輸入された食器やおもちゃなどに含まれていることがあります。からだの中に鉛が入りこむと、血液や神経、腎臓(尿を作るところ)、骨などに少しずつ影響することがあります。量がごく少なくても、長いあいだ触れ続けることによって健康への影響が出ることがあり、とくに小さな子どものからだは影響を受けやすいと考えられています。
重要な事実
- 鉛は「触れないようにする・口に入れないようにする」ことが基本の対策です。ほとんどの場合、原因を取りのぞくことでからだへの負担は減っていきます。
- 鉛の曝露(ばくろ=からだが鉛にさらされること)は、多くの場合、はっきりした症状が出ません。だからこそ、暮らしの中の思いあたる場所を確認することが大切です。
- 日本では法律や基準によって鉛の使用はずいぶん減りましたが、古い建物の塗料や配管、輸入品など、身近に残っている場合があります。
日本では、水道水の基準や塗料・ガソリンなどの規制が進んだため、深刻な鉛の曝露は以前よりずっと少なくなっています。ただし、古い家の塗料や配管、輸入された食器・おもちゃ・化粧品、職業上の取り扱いなど、気をつけたい場面は今もあります。多くの人は日常生活で大きな問題なく過ごしていますが、思いあたる点があるときは相談することが大切です。
とくに注意が必要なのは、乳幼児と小学生くらいまでの子どもです。子どもは手についたほこりを口に入れやすく、からだが小さいため同じ量でも影響が出やすいと考えられています。また、妊娠中の人(おなかの赤ちゃんへの影響)、古い住宅に住んでいる人・リフォームを考えている人、塗装や解体、電池、はんだ付けなど鉛を扱う仕事をしている人とその家族も、注意が必要です。
症状
- けいれん(ひきつけ)が起きた
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が弱い
- 激しいおなかの痛みで動けない
- 何度もはげしく嘔吐(おうと)する
- 呼吸が苦しい、顔色が著しく悪い
- ⚠おなかの痛みや便秘が数日以上続く
- ⚠手足のしびれや力が入りにくい感じが新しく出てきた
- ⚠子どもの発達の面で、以前できていたことができなくなった
- ⚠強い疲れや息切れで日常生活がつらい
- ⚠妊娠中で、鉛を含むかもしれないものに触れた心あたりがある
一般的な症状
- 疲れやすい、だるさが続く
- 頭が重い、頭痛がする
- 食欲がない、体重が少しずつ減る
- おなかの痛みや便秘が続く
- 手や足の先がしびれる、力が入りにくい
- よく眠れない、集中しにくい
- 気分が落ちこむ、いらいらしやすい
子供の症状
- 言葉や読み書きなど、学びに関する発達の遅れ
- 落ち着きがない、集中が続きにくい
- 身長や体重の伸びがゆっくりになる
- 聞こえにくさや、耳の聞こえに関する変化
- 貧血(血が薄くなること)を指摘される
- おなかが痛い、便秘、食欲がないなどの体の不調
高齢者の症状
- 血圧が高めになる
- 腎臓のはたらきの数値が悪くなる
- 手足のしびれや力の入りにくさ
- もの忘れや集中力の変化
- 骨にたまった鉛が、閉経後などに少しずつ出てくることがある
- 貧血や疲れやすさ
原因
主な原因
- 古い建物の塗料(とくに1970年代ごろまでの塗料)がはがれたり粉になったりして、ほこりと一緒に口に入る
- 古い水道管やはんだ(金属をつなぐ素材)から、水に少しずつ溶け出す
- 庭の土や家の中のほこりに含まれる鉛を、子どもが手をなめたりして取りこむ
- 輸入された陶器・釉薬(うわぐすり)付きの食器や、輸入されたおもちゃ・アクセサリー・化粧品(とくに昔のものや出どころが不明なもの)
- 塗装、解体、電池のリサイクル、はんだ付け、金属加工など、鉛を扱う仕事での粉じんや煙の吸入。作業着についた鉛を家に持ち帰ることもあります
- 釣り用の鉛のおもりや、狩猟・射撃に関わる鉛を口に入れたり吸いこんだりする
- 水源(とくに古い井戸や古い配管を通る水)
- 伝統的な民間薬や健康食品の中に、意図せず鉛が含まれている場合
リスク要因
- 1970年代ごろより前に建てられた家に住んでいる、またはそこでリフォームをする予定がある
- 塗装・解体・電池・金属・印刷・はんだ付けなど、鉛を扱う仕事に就いている、または家族が就いている
- 6歳以下の子どもがいる(手を口に入れる行動が多い時期)
- 妊娠中、または妊娠を考えている
- 鉄分やカルシウムが不足した食事が続いている(不足すると鉛を吸収しやすくなると考えられています)
- 輸入された食器・おもちゃ・化粧品・民間薬を使っている
- 古い井戸水や、古い配管を通った水を飲み水に使っている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれん、意識のもうろう、激しい腹痛、繰り返す嘔吐があるときは、ためらわず救急(119)を呼んでください
- 子どもが塗料のはがれや土、輸入されたおもちゃなどを口に入れた可能性があり、そのあと元気がない
- 手足のしびれや力の入りにくさが急に出てきた
- 妊娠中で、鉛を含むかもしれないものに触れた心あたりがあり、不安が強い
定期受診を予約すべき場合:
- 古い家に住んでいて、塗料のはがれやほこりが気になる
- リフォームを予定していて、古い塗料が使われているかもしれない
- 鉛を扱う仕事をしていて、健康チェックを受けたい
- 子どもの発達や落ち着き、学びの面で気になることが続いている
- 疲れやすさ、便秘、おなかの不調、しびれなどが長く続いている
- 輸入された食器やおもちゃ、民間薬の安全性が気になる
診断
診断は、症状の聞き取りと、暮らしや仕事の環境についての質問から始まります。そのうえで、必要に応じて血液検査で血中の鉛の量を調べます。医師は「どんな場所に住んでいるか」「どんな仕事をしているか」「どんな食器やおもちゃ、民間薬を使っているか」などを丁寧に聞きます。数字だけでなく、体の状態と暮らしの状況をあわせて判断します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(血中鉛濃度=血の中の鉛の量を調べる)
- 貧血などを確認するための一般的な血液検査
- 腎臓や肝臓のはたらきをみる血液検査・尿検査
- 症状に応じた神経や発達の評価(子どもの場合は発達の相談を含む)
- 必要に応じて、家のほこりや土、水、使っている製品の検査についての情報提供
診察で予想されること
診察では、症状だけでなく、住まい・仕事・食器・おもちゃ・水などについての質問があります。メモにまとめておくと話しやすくなります。検査結果が出るまでには数日かかることがあります。結果によっては、原因を取りのぞくための具体的なアドバイスや、専門の医療機関への紹介があります。心配なことがあれば、遠慮なく質問してください。
治療
治療の中心は「鉛にこれ以上さらされないようにすること」です。原因となっているほこりや塗料、製品、水などを取りのぞくことで、からだの中の鉛の量は時間をかけて少しずつ減っていきます。症状や血中鉛濃度の高さに応じて、医師が追加の対応を判断します。
自宅でのセルフケア
- 床や窓枠などを、水で湿らせた布でよくふき、乾いたほうきでほこりを舞い上げない
- 外から帰ったら手を洗い、子どもの爪を短く切る。食事の前と寝る前の手洗いを習慣に
- 作業着は家の中に持ちこまず、仕事のあとはシャワーを浴びて着替える
- 古い塗料のはがれは、自分で削ったりやすりをかけたりせず、専門の業者に相談する
- 古い配管が気になるときは、朝いちばんの水をしばらく流してから使う(飲み水としては沸かしても鉛は減りません。心配なときは自治体の水道担当窓口に相談を)
- 輸入された食器やおもちゃ、民間薬は、出どころと表示を確認する
- 栄養バランスのよい食事を心がける(鉄分・カルシウムが不足すると鉛を吸収しやすくなると考えられています)
医療治療
医師はまず、曝露の原因を取りのぞくための指導を行います。血中鉛濃度が高い場合や症状が強い場合には、からだの中の鉛を外に出しやすくする治療(キレート療法と呼ばれる、医師の管理のもとで行う治療)が検討されることがあります。これは必ず医療機関で、経過をみながら行われます。あわせて、貧血や栄養状態、腎臓のはたらきなどへの対応や、子どもであれば発達面の支援が行われることがあります。治療の内容や必要性は、検査の結果と体の状態をもとに医師が判断します。
手術が検討される場合
鉛の曝露では、通常、手術が必要になることはありません。
この病気と共に生きる
原因がわかれば、暮らしの中でできる対策はたくさんあります。ほこりをためない、手を洗う、作業着を分ける、といった毎日の小さな習慣が、からだに入る鉛の量を減らすことにつながります。血中鉛濃度が気になる場合は、医師の指示にしたがって定期的に検査を受け、数値の変化を記録しておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 家の中はこまめに湿らせた布でふき、掃除機はしっかり排気されるものを使う
- 食事の前、外遊びのあと、寝る前の手洗いを家族で習慣にする
- 子どもの遊び場の土が気になるときは、自治体の環境担当窓口に相談する
- 古い家のリフォームは、塗料の調査を含めて専門業者と計画する
- 仕事と家庭の衣服を分けて洗濯する
- たばこは吸わない(たばこの煙はほこりの摂取を増やすことがあります)
- 定期的な健康チェックの機会を活用する
食事と運動
鉄分やカルシウム、ビタミンCを意識してとる食事は、からだが鉛を吸収しにくくする助けになると考えられています。肉・魚・豆類・緑黄色野菜・乳製品などをバランスよくとり、朝食を抜かないようにしましょう。適度な運動や水分をとる習慣は、便通を整え、体調を保つ助けになります。食事の内容に不安があるときは、医師や管理栄養士、薬剤師に相談してください。
精神的健康と心の健康
「知らないうちにからだに入っていたかもしれない」と思うと、不安や心配が大きくなることがあります。とくに子どものことを考えると、自分を責めてしまう方も少なくありません。これは自然な気持ちですが、あなたのせいではありません。気持ちがつらいときは、ひとりで抱えこまず、かかりつけ医や地域の保健所、相談窓口に話してください。眠れない、気分の落ちこみが続く、日常生活がつらいといった状態があるときは、早めに医療機関に相談しましょう。気持ちが追いつめられて自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわず救急(119)や地域の緊急相談窓口に連絡してください。
予防
はい、多くの鉛の曝露は防ぐことができます。ポイントは「口に入れない」「吸いこまない」「持ちこまない」の3つです。ほこりを湿らせてふき取る、手を洗う、作業着を分ける、古い塗料を自分で削らない、あやしい製品は使わない——こうした日々の工夫が効果的です。
検診プログラム
症状のない人に広く検査を行うことは、日本では一般的ではありません。ただし、古い家に住んでいる、鉛を扱う仕事をしている、妊娠中で心あたりがあるなど、リスクが高いと考えられる場合には、医師に相談することで血中鉛濃度の検査が検討されます。気になる場合は、かかりつけ医や地域の保健所に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 子どもの発達や学びへの長期的な影響
- 貧血(血が薄くなり、疲れやすくなる状態)
- 腎臓のはたらきが少しずつ低下する
- 血圧が高めになる
- 手足のしびれや神経の症状が続く
- 妊娠中の場合、おなかの赤ちゃんへの影響
- 骨に長くたまり、後になってから少しずつ出てくることがある
長期的な見通し
多くの場合、原因を取りのぞき、必要な検査とフォローを続けることで、からだへの負担は減っていきます。子どもの発達についても、早期に気づいて支援を受けることで、できることが増えていくケースは多くあります。心配なことがあっても、あきらめずに医療者と一緒に一歩ずつ進んでいくことが大切です。あなたとご家族が安心して暮らせるよう、地域のサポートをぜひ活用してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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