ハンセン病(ハンセンびょう)
概要
ハンセン病は、らい菌(らいきん)という細菌によって起こる、ゆっくり進む感染症です。主に皮膚と、手足や顔の先にある末梢神経(まっしょうしんけい=体のすみずみまで広がる細い神経)がおかされます。皮膚の色の薄いしみや手足のしびれなどが現れますが、感染力はとても弱く、握手や同じ部屋で過ごすといった日常の接触でうつることはほとんどありません。早期に見つけて治療を始めれば、多くの人は後遺症を残さずに治ります。
重要な事実
- 感染力は非常に弱く、一緒に暮らす家族のような長く近い接触がなければ、うつることはほとんどありません。
- 治療は複数の抗菌薬(細菌をやっつける薬)を組み合わせて行い、期間は数か月から数年になることがあります。期間や内容は医師が判断します。
- 早期に治療を始めれば、手足の変形などの後遺症を防げます。治ったあとは、周りの人にうつす心配はありません。
- 世界では年間10万人台後半から約20万人の新しい患者が報告されていますが、日本では非常に少なく、年間数人程度です。
世界全体では、南アジア、東南アジア、ブラジルなどに多く、年間10万人台後半から約20万人の新しい患者が報告されています。一方、日本ではとても少なく、年間数人程度が新しく診断されています。日本国内で生まれる感染はほとんどなく、海外で感染して発症する例が中心です。
子どもから高齢者まで、どの年齢でも起こります。菌に接触しても、ほとんどの人は発症しません。発症しやすいのは、長い期間にわたって近くで暮らした家族などの濃い接触があった人です。体の免疫力が下がる状態(栄養不足や別の病気など)があると、発症しやすくなることがあります。
症状
- 意識がもうろうとしている、ぐったりして反応がにぶい
- 呼吸が苦しい、顔色が悪く冷汗が強い
- けいれんが起きた、急に動けなくなった
- ⚠皮膚の症状が数日のうちに急速に広がり、全身の調子も悪くなっている
- ⚠手足のしびれや神経の痛みが急に強くなった(神経の炎症=らい反応の可能性があります)
- ⚠目の充血と強い痛みがあり、急に見えにくくなった、まぶたが閉じない
- ⚠手足に赤い腫れや熱感が出てきた、足の裏の傷が急に悪化した
一般的な症状
- 皮膚に、色の薄いしみや赤みのある斑(まだら)が出る
- その部分の感覚がにぶくなる(触られても、熱くても、痛くても気づきにくい)
- 手足のしびれ、ピリピリした痛み
- 神経が腫れて痛む、押すと痛い場所がある
- まゆげが抜ける、汗が出にくくなる、皮膚が乾燥する
- 鼻づまりや鼻血が続く、鼻の形が変わる
- 手足の力が入りにくくなる、指が曲がりにくくなる
- 目の充血、まぶたが閉じにくい、まつげが抜ける
子供の症状
- 大人より症状がはっきりせず、皮膚のしみに気づきにくいことがあります
- しびれをうまく言葉で伝えられないことがあるため、保護者の観察が大切です
- 家族や同居する人に同じ病気と診断された人がいる場合は、早めに相談してください
- 成長期に手足の変形が進まないよう、早めの受診とリハビリが大切です
高齢者の症状
- 菌に感染してから症状が出るまで数年から20年程度かかることがあり、高齢になって初めて気づく場合があります
- 皮膚の変化を加齢や湿疹、水虫などと間違えやすいです
- 感覚がにぶいことで、やけどや靴ずれ、けがに気づきにくくなります
- 他の持病の症状と混ざり、診断が遅れることがあります
原因
主な原因
- らい菌という細菌に感染することが原因です
- 菌は主に鼻や口から入り、長い年月をかけてゆっくり症状が現れます
- 感染力はとても弱く、通常の生活での接触ではうつりません
- 治療を始めると菌は減り、周りの人にうつすことはなくなります
リスク要因
- 患者さんと長期間、近い距離で暮らしている(同居家族など)
- 免疫力が下がる状態(栄養不足、別の病気、高齢など)
- 衛生状態や住環境が整いにくい状況
- 海外の流行地域での長期間の滞在
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 手足のしびれや神経の痛みが急に強くなった
- 皮膚の症状が数日で急速に悪化している
- 目が充血して痛む、まぶたが閉じにくい、見えにくくなった
- 手足に赤み・腫れ・熱感が出てきた
定期受診を予約すべき場合:
- 数か月以上続く皮膚のしみや斑がある
- 触っても熱くても痛くても感じにくい場所がある
- まゆげが抜けてきた、汗が出にくくなった
- 鼻づまりや鼻血が長く続く
- 手足の力が入りにくい、指が曲がりにくくなった
- 家族や同居する人がハンセン病と診断された
診断
皮膚の見た目と感覚の検査、皮膚の一部を採って調べる検査などを組み合わせて診断します。皮膚科や内科、感染症を扱う医療機関で相談できます。診断がついた場合は、法律に基づいて保健所への届け出が行われ、ご家族など周りの方の健康確認も保健所がお手伝いします。
行われる可能性のある検査
- 皮膚の見た目と、触覚・温痛覚(熱さや痛みを感じる力)の検査
- 皮膚をこすって採った標本を顕微鏡で調べる検査
- 皮膚の一部を採って調べる生検(組織検査)
- 菌の遺伝子を調べるPCR検査
- 末梢神経の働きを調べる検査、血液検査
診察で予想されること
診断が確定するまでに数日から数週間かかることがあります。検査の結果を待つ間は不安な気持ちになるかもしれません。保健所は、ご家族や周囲の方の健康確認を無料で行い、プライバシーにも配慮して支援します。わからないことは遠慮なく医療者や保健所に聞いてください。
治療
治療の中心は、複数の抗菌薬を組み合わせて長期間(数か月から数年)続けることです。治療を続けるうちに菌は少しずつ減り、周りの人にうつす心配はなくなります。神経の腫れや痛み(らい反応)には炎症を抑える治療を行い、手足の変形を防ぐためのリハビリや装具を並行して進めることもあります。
自宅でのセルフケア
- 治療は医師と相談しながら、決められた期間きちんと続ける(自己判断でやめない)
- 感覚がにぶい手足をやけどやけがから守る(熱いものに注意し、鍋つかみや手袋を使う)
- 靴ずれを防ぐため、足に合った靴を選び、毎日足の裏を観察する
- 皮膚の乾燥を防ぐために保湿を心がける
- 禁煙する(血流や神経の回復に影響します)
- 目や手足の定期的なチェックを欠かさない
- つらい気持ちをひとりで抱えず、医療者や家族に話す
医療治療
複数の抗菌薬を組み合わせた治療(多剤併用療法)を、医師の判断で数か月から数年続けます。薬の種類や量、期間は医師が決めるので、ここでは具体的な薬名はお伝えしません。神経の腫れや痛み(らい反応)が出たときは、炎症を抑える治療を行うことがあります。手足の変形を防ぐリハビリ、装具、目のケアも組み合わせて行います。治療中は定期的に通院し、状態を確認します。
手術が検討される場合
指の曲がりや手足の変形、足の裏の傷が治りにくい場合に、整形外科的な手術や再建の相談をすることがあります。手術は治療の一部であり、すべての人に必要というわけではありません。
この病気と共に生きる
治療を続けながら、ふだんの生活をできるだけ普段どおりに保つことが大切です。感覚がにぶい部分は、気づかないうちにやけどや傷を作りやすいので、毎日の観察と工夫が助けになります。仕事や学校、家事は、体の状態に合わせて無理のない範囲で続けられます。
生活習慣のアドバイス
- 毎日、手足の傷・赤み・腫れをチェックする習慣をつける
- 熱いもの、とがったもの、きつい靴などから手足を守る
- 保湿で皮膚を守り、乾燥によるひび割れを防ぐ
- 十分な睡眠と休息をとる
- 禁煙し、飲みすぎに注意する
- 決まった通院を続け、薬は自己判断でやめない
- 困ったときに相談できる人や窓口を決めておく
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動が、体力づくりと気分の安定に役立ちます。ただし感覚がにぶい足では、靴ずれや小さな傷に気づきにくいので、運動の前後に足を観察し、クッション性のある靴を選んでください。
精神的健康と心の健康
ハンセン病には長い偏見と差別の歴史があり、診断を受けたときの不安や、人に話しにくいと感じる気持ちは自然なものです。気分の落ち込みや眠れない日が続くときは、医療者や保健所の相談窓口、信頼できる人に話してみてください。もし自分を傷つけたい気持ちが強くなったり、生きるのがつらいと感じたりしたときは、ひとりで抱えず、すぐに119番や地域の救急・相談窓口、医療機関に連絡してください。
予防
完全に防ぐ方法はありませんが、感染力は非常に弱いため、日常の生活で過度に心配する必要はありません。患者さんの家族や同居人には、保健所が健康確認を行い、必要に応じて早期発見のための検査を行います。何より大切なのは、早く見つけて早く治療を始めることです。それが後遺症を防ぐ最大の方法になります。
ワクチン
ハンセン病だけを防ぐワクチンはありません。結核の予防接種が発症のリスクを下げる可能性があると報告されていますが、効果は限定的です。接種についてはかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本では、患者さんの同居家族など濃い接触があった人に対して、保健所が定期的な健康確認を行います。症状がなくても、家族や同居人に患者が出た場合は、保健所に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 手足の変形や指の曲がり、関節が固まって動かしにくくなる
- 感覚がにぶいことで、やけどやけが、足の裏の傷(潰瘍)をくり返す
- 目の障害や視力低下、失明に至ることもある
- 鼻の形の変化、声のかすれ
- 筋肉のこわばりや筋力の低下
- 偏見や差別による孤立、こころの不調
長期的な見通し
ハンセン病は、今では治せる病気です。早期に治療を始めれば、多くの人は後遺症を残さずに治ります。治療を続けている人は、周りの人にうつす心配はありません。治療が遅れた場合でも、リハビリや手術、生活の工夫でできることを増やしていけます。あきらめずに、医療者と一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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