原発性肝がん(肝細胞がん)を知る
概要
原発性肝がんとは、肝臓そのものの中に最初にできたがんだという意味です。体のほかの臓器にできたがんが肝臓に移ってきたもの(転移性肝がん)とは区別されます。原発性肝がんの中でいちばん多いのが「肝細胞がん」で、肝臓の働きを担う細胞(肝細胞)から発生します。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、少しくらい傷んでも症状が出にくく、がんができても初期にはほとんど自覚症状がないことが多いのが特徴です。ただし、慢性の肝炎や肝硬変がある方は、定期的な画像検査によって比較的早い段階で見つかることがあります。
重要な事実
- 原発性肝がんの多くは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの持続感染、肝硬変、脂肪肝などを背景に発症します。肝臓に慢性的な負担がかかり続けることが関係しています。
- 初期は無症状のことが多く、症状が出たときには進行している場合もあるため、慢性肝疾患のある方は症状がなくても定期的な検査を受けることが大切です。
- 治療の選び方は、がんの大きさ・数・位置、肝臓の働き(肝予備能)、体の状態を総合して決めます。手術、局所的な治療、薬物療法などを組み合わせることがあります。
日本では、肝炎ウイルスの感染対策や治療の進歩により、原発性肝がんにかかる人はここ数十年で減ってきています。一方で、脂肪肝やお酒の飲み過ぎ、肥満、糖尿病などを背景にした肝がんは世界的に増えており、決してめずらしい病気ではなくなっています。年代としては中高年以降に多い傾向があります。
主に関わるのは、B型またはC型肝炎ウイルスに持続的に感染している方、肝硬変と診断されている方、脂肪肝・肥満・糖尿病のある方、長期間にわたって多量のお酒を飲んでいる方、喫煙習慣のある方などです。ただし、こうした背景がはっきりしない方に発症することもあります。自分の肝臓の状態を知るために、肝炎ウイルス検査を受けておくことが勧められています。
症状
- 大量の吐血、またはコーヒー色のものを吐く
- 黒くてタール状の便が続く、または血の混じった便が大量に出る
- 意識がもうろうとしている、会話がかみ合わない、強い眠気が続く
- 激しい腹痛で動けない、お腹が板のように硬い
- 呼吸が苦しい、冷汗が出て顔色が真っ白になる
- ⚠皮膚や白目が急に黄色くなった
- ⚠お腹が急に大きく張って苦しい、尿の量が極端に減った
- ⚠数週間で明らかな体重減少がある
- ⚠発熱が続き、だるさで日常生活が難しい
- ⚠足が急にむくみ始めた
一般的な症状
- 初期はほとんど無症状で、健康診断や通院中の検査で見つかることが多い
- なんとなく疲れやすい、だるさが続く
- 食欲がわかない、食事の量が減る
- 体重が意図せず減っていく
- お腹の右上(右のみぞおち付近)の違和感や鈍い痛み
- お腹が張る、お腹が大きくなったように感じる
- 皮膚や白目が黄色っぽくなる(黄疸:おうだん)
- 皮膚のかゆみが続く
- 微熱がだらだら続く
子供の症状
- 小児で原発性肝がんが起こることは非常にまれで、小児では「肝芽腫(かんがしゅ)」という別の種類の腫瘍が多いとされています
- お腹が膨らんで見える、お腹にしこりが触れる
- 体重が増えない、食欲が落ちる、元気がない
- 小児の場合は専門の小児がん診療施設で検査と治療が行われます。気になる変化があれば小児科に相談してください
高齢者の症状
- 高齢の方では症状がはっきり出にくく、疲れやすさや食欲低下といった「年のせいかも」と思える変化として現れやすい
- もともとの持病や服薬の影響と混同され、発見が遅れることがある
- 症状がなくても、肝臓の病気を指摘されている方は定期的な通院と検査を続けることが大切
原因
主な原因
- B型肝炎ウイルス、またはC型肝炎ウイルスへの持続感染(長く体内にウイルスがいる状態)
- 肝硬変(肝臓が硬くなり、働きが落ちた状態)
- 長期間にわたる多量の飲酒
- 脂肪肝、肥満、2型糖尿病といった代謝に関わる状態
- ごく一部の地域では、カビの生えた穀物などに含まれる物質(アフラトキシン)が関係することもあります
リスク要因
- 肝炎ウイルスに感染していることに気づかず、治療や経過観察を受けていない
- 肝硬変と診断されている、または肝機能の数値が長年よくない
- お酒をたくさん飲む習慣が長く続いている
- 肥満、糖尿病、脂質異常症がある
- 喫煙習慣がある
- 家族に肝臓の病気の人がいる
- 血液を介する感染の機会があった(過去の輸血、医療行為、入れ墨など)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 皮膚や白目が黄色くなった、尿が濃い茶色になった
- 吐血や黒い便があった
- 意識がぼんやりする、わけのわからないことを言う
- お腹が急に張って息苦しい
- 激しい腹痛がある
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすさや食欲低下が数週間以上続いている
- 体重が意図せず減っている
- 右のみぞおち付近に違和感や鈍い痛みがある
- 肝臓の病気(肝炎・肝硬変・脂肪肝)を指摘されたことがある
- 肝炎ウイルス検査を受けたことがない
- 健康診断で肝機能の数値を指摘された
診断
まず問診と体の診察を行い、血液検査で肝臓の働きや腫瘍に関わる数値(腫瘍マーカー)を調べます。次に超音波検査・CT・MRIといった画像検査で、肝臓の中にできものがあるか、その大きさ・数・位置、血管との関係を確認します。画像だけで判断が難しい場合には、造影剤を使って詳しく調べたり、針を刺して組織の一部を採る検査(生検)を行うことがあります。診断では、がんの広がりと同時に「肝臓そのものがどれくらい働けるか」も大切にされます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(肝機能、腫瘍マーカー、肝炎ウイルスの有無など)
- 腹部超音波検査(エコー)
- 造影CT検査
- MRI検査
- 必要に応じて行う肝生検(針で組織を採る検査)
- 胸の画像検査(肺などへの広がりの確認)
- 肝臓の働きを数値で評価する検査(肝予備能の評価)
診察で予想されること
診断までに複数の検査が必要で、何度か通院することになります。検査の結果を待つ間は不安な時間が続きますが、これは「治療方針を正確に決めるための大切な工程」です。家族や信頼できる人に付き添ってもらう、聞きたいことをメモしておく、などの工夫が助けになります。結果の説明を受けるときは、遠慮せずに質問してください。
治療
原発性肝がんの治療は、がつの大きさ・数・位置、肝臓の残りの働き、体全体の状態を組み合わせて決めます。治療の目的は、根治をめざすこと、がんの進行を抑えること、症状を和らげて生活の質を保つことなど、状況によって異なります。複数の治療法を組み合わせることもあり、担当医とよく話し合って方針を決めていきます。
自宅でのセルフケア
- 禁酒または節酒を心がける(肝臓への負担を減らすため)
- 主治医の指示どおりに通院・検査を続ける
- 自己判断でサプリメントや健康食品を増やさない(肝臓に負担をかけるものもあります)
- バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動を続ける
- 体調の変化(体重、お腹の張り、黄疸、だるさ)を記録しておく
- 睡眠と休息を十分にとる
- 気になる症状や不安は、ためこまずに医療者に伝える
医療治療
治療には大きく分けて、肝臓のがん部分を手術で取り除く方法、針を使って熱で焼く・血管を詰めて栄養を届かなくするといった局所的な治療、肝臓を移植する治療、そして薬物療法があります。薬物療法は、点滴や飲み薬で、がんの増殖を抑えたり免疫の働きを利用したりする治療で、進行した場合や手術が難しい場合に検討されます。放射線を用いる治療が選ばれることもあります。どの治療が合うかは肝臓の働きによって大きく変わるため、必ず専門の医療者と相談して決めてください。具体的な薬の種類や量については、ここではお伝えしません。
手術が検討される場合
手術が検討されるのは、がんを取り切れる見込みがあり、かつ手術後に残る肝臓が十分に働けると判断される場合です。肝臓の働きが落ちている方や、がが複数・広範囲にある方では、手術以外の方法が選ばれることがあります。また、肝硬変のある方では肝移植が選択肢になる場合もあります。適応は専門の医療チームが総合的に判断します。
この病気と共に生きる
治療中も治療後も、通院と検査が生活の一部になります。体調には波があるので、良い日と悪い日があることを前提に、予定を詰め込みすぎないことが大切です。体重・体温・お腹の張り・だるさなどを簡単に記録しておくと、受診時に医師へ伝えやすくなります。仕事や家事については、主治医や医療ソーシャルワーカーに相談しながら、無理のない形に調整していきましょう。
生活習慣のアドバイス
- お酒は控える、またはやめる
- たばこは吸わない(受動喫煙も避ける)
- 規則正しい生活と十分な睡眠をとる
- 塩分や脂質をとりすぎない、バランスのよい食事を心がける
- 感染症予防として手洗い・うがいを丁寧に行う
- 体力に合わせて、散歩など軽い運動を続ける
- 市販薬や健康食品を新しく始めるときは必ず主治医・薬剤師に相談する
食事と運動
食事は、主食・主菜・副菜をそろえたバランスのよい内容を、少量ずつ回数に分けて食べると負担が少ないことがあります。塩分を控えめにし、アルコールは避けましょう。むくみや腹水があるときは、医師から塩分や水分について指示が出ることがあります。運動は、息が上がらない程度の散歩や軽いストレッチから始め、体調が悪い日は休むという柔軟さが大切です。食事や運動の具体的な内容は、管理栄養士や理学療法士に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
「がまん」「不安」「怒り」「治療費への心配」など、気持ちが揺れるのは自然なことです。落ち込んだり眠れなくなったりする状態が続くときは、一人で抱え込まずに医療者に伝えてください。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに主治医・看護師・地域の相談窓口・がん相談支援センターなどに連絡してください。緊急を要すると感じたら迷わず119番に電話してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。いちばん大切なのは、肝炎ウイルスに感染しているかどうかを知ることです。日本では自治体の健診などで肝炎ウイルス検査を受けることができ、感染が分かれば経過観察や治療につながります。あわせて、節酒・禁煙、肥満や糖尿病の管理、脂肪肝の改善が役立ちます。慢性の肝臓病がある方は、症状がなくても定期的な画像検査を続けることが早期発見につながります。
ワクチン
B型肝炎にはワクチンがあり、感染予防に役立ちます。接種が必要かどうかは、年齢や生活環境、医療従事者かどうかなどによって異なるため、かかりつけ医や自治体の案内で確認してください。C型肝炎にはワクチンはありませんが、現在は治療でウイルスを排除できるようになってきています。
検診プログラム
肝臓の病気を指摘されている方では、超音波検査と腫瘍マーカーの血液検査を定期的に行うことが、早期発見のために勧められています。検査の間隔は肝臓の状態によって変わるため、主治医の指示に従ってください。肝炎ウイルス検査は、自治体によって公費で受けられる場合があります。詳しくはお住まいの自治体の案内をご確認ください。
合併症
治療しない場合
- がんが大きくなり、肝臓の働きが低下する(肝不全)
- 黄疸、腹水(お腹に水がたまる)、足のむくみが強くなる
- 食道や胃の静脈がふくらんで破裂し、吐血や下血を起こす
- 肝臓内の血管にがんが広がり、治療の選択肢が限られてくる
- 肺や骨、リンパ節など、ほかの場所へ広がる
- 体力が落ち、日常生活を送ることが難しくなる
長期的な見通し
原発性肝がんは、早期に見つかれば治療の選択肢が多く、根治をめざせる場合もあります。肝臓の状態によって治療の選び方が変わるため、一概に「こうなる」とは言えませんが、治療の進歩は続いており、進行した場合でも病気を抑えながら生活を続けるための方法が増えています。慢性の肝臓病がある方は、症状がなくても定期的な検査を続けることが、いちばん心強い備えになります。不安なときは、主治医に今の状態と見通しを遠慮なく尋ねてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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