肝吸虫症(かんきゅうちゅうしょう)
概要
肝吸虫症は、肝吸虫(かんきゅうちゅう)という小さな寄生虫が、肝臓の中の胆管(たんかん:肝臓で作られた消化液「胆汁」が通る管)にすみつく病気です。人が感染するのは、寄生虫の幼虫がついた川や湖の淡水魚を、生や生焼けのまま食べたときです。虫が胆管に住みつくと、炎症を起こしたり、胆汁の流れを悪くしたりすることがあります。多くの人は症状がほとんどなく、検査で偶然見つかることも少なくありません。人から人へうつることはありません。
重要な事実
- 原因のほとんどは「淡水魚を生で食べること」。コイ、フナ、モツゴ、ワカサギなどの川・湖の魚が関係します。
- 酢、塩、酒、しょうゆ、わさびなどは虫を殺せません。しっかり加熱することが大切です。
- 症状がなくても感染していることがあります。便の検査などで確認でき、適切な治療で多くは良くなります。
日本では以前、琵琶湖や児島湖などの周辺で多く報告されていました。現在は報告数がかなり少なくなりましたが、なくなったわけではなく、淡水魚の生食を通じて今も感染することがあります。世界では東南アジアなどに多い地域があります。
川や湖の魚を刺身や「洗い」など生で食べる習慣のある人、釣りや漁業をする人、湖や川の近くに住む人に多く見られます。海外(東南アジアなど)で生の淡水魚を食べた人も注意が必要です。子どもから高齢者まで、年齢を問わず起こります。
症状
- 意識がもうろうとしている、ぐったりして反応が弱い
- 高熱と激しい腹痛が同時にあり、動けない
- 皮膚や白目が急に黄色くなり、息苦しさや強い痛みがある
- 強い痛みで呼吸が苦しい、顔色が悪い
- ⚠38℃以上の発熱が続く
- ⚠右上腹部の痛みが強い、または何日も続く
- ⚠皮膚や白目が黄色くなってきた
- ⚠下痢や嘔吐が続き、水分がとれない
- ⚠生の淡水魚を食べたあと、数週間以内に体調が悪くなった
一般的な症状
- 多くの場合、感染しても症状はほとんどありません。
- なんとなくだるい、疲れやすい。
- 食欲がない、おなかの調子が悪い。
- 右上腹部(みぞおちの右側)の重い感じや、軽い痛み。
- 下痢が続く。
- 感染が長く続くと、皮膚や白目が黄色くなる黄疸(おうだん)が出ることがあります。
- 虫が胆管をつまらせると、胆管炎(たんかんえん:胆管の炎症)を起こし、発熱や強い痛みが出ることがあります。
子供の症状
- 子どもでは症状がさらに軽く、気づかれにくいことがあります。
- 食欲が落ちる、元気がない、おなかを痛がるなど、はっきりしない不調として現れることがあります。
- 大人と同じように便検査で調べられます。家族が生の淡水魚を食べる習慣があるなら、気になる症状を医師に伝えてください。
高齢者の症状
- 長年の感染に気づかないまま過ごしていることがあります。
- 胆管の炎症や胆石など、別の病気の検査中に見つかることもあります。
- 持病がある方は、診察のときに「生の淡水魚をよく食べる」と伝えると、診断の助けになります。
原因
主な原因
- 肝吸虫の幼虫(メタセルカリア)がついた淡水魚を、生または加熱不足のまま食べること。
- 関係する魚はコイ、フナ、モツゴ、ワカサギ、シラウオ、ハスなど。刺身、洗い、酢漬け、塩漬け、燻製なども注意が必要です。
- 肝蛭(かんてつ)という別の吸虫では、生のセリやクレソン、汚染された水を口にすることで感染することがあります。
- 人から人へはうつりません。感染した人がいても、それが直接うつることはありません。
リスク要因
- 川や湖の魚を生で食べる習慣がある
- 釣り、漁業、水辺での作業をする
- 湖沼や河川の近くに住んでいる
- 海外(東南アジアなど)で生の淡水魚を食べたことがある
- 家庭で魚をさばくとき、加熱が不十分になりやすい
- 野生の水生植物を生で食べる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 高熱と右上腹部の強い痛みがある
- 皮膚や白目が黄色くなってきた
- 下痢や嘔吐が続いて水分がとれない
- 生の淡水魚を食べたあと、数週間以内に強い体調不良が出た
定期受診を予約すべき場合:
- 生の淡水魚をよく食べる、または最近食べたことがあり、だるさや食欲不振が続いている
- 健康診断で肝機能の異常を指摘された
- 好酸球(こうさんきゅう:アレルギーや寄生虫のときに増える白血球)が増えていると言われた
- 海外渡航後、なんとなく体調がすぐれない日が続く
診断
まず、生の淡水魚を食べたかどうかなどのお話(問診)を聞きます。そのうえで、便の中に虫の卵が出ていないかを調べる検査が基本になります。血液検査や腹部の画像検査を組み合わせて、胆管の状態も確認します。
行われる可能性のある検査
- 便の検査(虫卵検査)— 卵が出てくる量が少ないと、何回か調べることがあります
- 血液検査(好酸球の数、肝機能、寄生虫に対する抗体など)
- 腹部超音波検査(エコー)
- CT検査・MRI検査
- 必要に応じて、内視鏡で胆管を調べる検査や胆管の造影検査
診察で予想されること
診察では、生の魚をいつ・どこで・どのように食べたかを聞かれます。恥ずかしいことではないので、正直に伝えることが診断の近道です。検査の多くは体の負担が少なく、日帰りでできます。結果が出るまで数日から1週間ほどかかることがあります。
治療
肝吸虫は、医師が処方する薬で退治できます。治療の前に、便検査などで感染を確認することが大切です。胆管に炎症があるときは、炎症をしずめる治療を並行して行います。治療後も、虫が残っていないかを確認する検査をします。
自宅でのセルフケア
- 水分をしっかりとり、無理をせず休む
- 市販薬や自己流の「虫下し」を勝手に使わない
- 検査が終わるまでは、新しい生の淡水魚を食べるのは控える
- 一緒に同じ魚を食べた家族や友人にも知らせ、必要なら一緒に相談する
- 症状の経過をメモしておくと、診察のときに役立つ
医療治療
医師の判断で、寄生虫を殺す飲み薬(駆虫薬)を使う治療が中心になります。薬の種類や飲む期間は、感染の程度や体の状態に合わせて医師が決めます。胆管に強い炎症があるときは、炎症をしずめる治療を行うこともあります。治療後は、便検査で虫がいなくなったかを確認します。
手術が検討される場合
通常は薬での治療が中心です。ただし、胆管が詰まっている場合や、胆管に強い炎症、別の病気が疑われる場合には、内視鏡を使って胆管を調べたり、詰まりを取り除いたりする処置を行うことがあります。
この病気と共に生きる
治療中は無理をせず、体調の変化を記録しながら過ごしましょう。多くの人は治療が終わればふだんの生活に戻れます。不安なことは、次の診察でまとめて医師に聞くとよいでしょう。
生活習慣のアドバイス
- 魚は中心部まで十分に加熱して食べる
- 生の魚を扱ったまな板・包丁・手はよく洗い、ほかの食品と分ける
- 釣った魚を家で調理するときは、加熱を徹底する
- 海外では、生の淡水魚や生の水生植物を避ける
- 手洗いを習慣にする
食事と運動
特別な食事制限はありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動を続けましょう。アルコールの飲みすぎは肝臓に負担をかけるので、控えめにすると安心です。
精神的健康と心の健康
「自分や家族が寄生虫に感染したのでは」と不安になるのは自然なことです。多くは治療で改善しますが、不安で眠れない、気持ちが落ち着かない日が続くときは、一人で抱え込まずにかかりつけ医や保健所、地域の相談窓口に話してください。
予防
はい、防げる病気です。いちばん大切なのは、川や湖の淡水魚を生で食べないこと。中心部まで十分に加熱する(身の色が変わり、中まで火が通ったと確認できるまで)ようにしましょう。酢・塩・酒・しょうゆ・わさびなどは虫を殺せないので、味付けでの「下ごしらえ」は対策になりません。
ワクチン
肝吸虫症を防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
決まったスクリーニング(集団検診)はありません。生の淡水魚をよく食べる人や、肝機能の異常を指摘された人は、医師や保健所に相談してみてください。
合併症
治療しない場合
- 胆管の慢性的な炎症(胆管炎)が続く
- 胆石ができやすくなる
- 黄疸や肝機能の低下
- 長期間の感染で、胆管の壁が厚くなるなどの変化が起こる
- ごくまれに、長年の感染が胆管のがんと関連することが知られています(主に東南アジアのタイ肝吸虫で報告されています)
長期的な見通し
多く人は、適切に診断され治療を受けることで改善します。症状がなく見つかる場合も少なくなく、早期にわかれば心配は少なくてすみます。気になる症状や生魚を食べた心当たりがあるときは、早めに相談することが安心につながります。
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最終更新: 2026年10月24日
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