脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)
概要
脳梁離断術は、てんかん(脳の電気的な乱れによって発作がくり返し起こる病気)の治療のために行う脳の手術です。脳には左右の半球があり、「脳梁(のうりょう)」という神経線維の束が橋のように両方をつないでいます。発作の電気がこの橋を通って左右に広がると、発作が大きくなったり、体全体に広がったりします。この手術では、その橋の一部、または全体を切ることで、発作が広がるのを防ぎます。てんかんそのものを根絶する治療ではなく、発作を減らして生活の安全を守ることを目的とした手術です。
重要な事実
- 脳梁離断術は、薬で発作が抑えにくい「難治(なんじ)てんかん」の方に行われる手術です。
- 特に、突然倒れて頭や顔をけがしやすい「転倒発作(てんとうはっさ)」を減らす効果が期待されています。
- 脳梁の一部だけを切る方法と、全体を切る方法があり、発作の様子や年齢などを考えて選ばれます。
- 手術を受けても多くの場合、発作を抑える薬は続けます。手術は治療の「代わり」ではなく「組み合わせ」です。
脳梁離断術は、てんかんの手術の中でも数の少ない、専門的な手術です。てんかんのある方の多くがこの手術を受けるわけではなく、薬での治療を十分に行っても発作が続き、転倒発作などで危険がある方に限って検討されます。そのため、手術を行える医療機関も限られています。
主な対象は、小児期に発症した難治てんかんの方、とくに「レノックス・ガストー症候群」という種類のてんかんや、突然倒れる転倒発作がある方です。子どもに多い手術ですが、成人になってから検討されることもあります。
症状
- けいれんが5分以上続いている、または止まってもすぐにまた始まる
- けいれんのあと意識が戻らず、呼びかけに反応しない
- 呼吸が苦しそう、顔色が青白い、唇が紫に見える
- 転倒して頭を強く打ち、出血や意識の変化がある
- 発作が次々に起こり、発作と発作の間に意識が戻らない
- ⚠ふだんと違うタイプの発作が新しく出てきた
- ⚠発作の回数が急に増えた
- ⚠発作で転倒し、痛みや腫れが続いている
- ⚠発作のあとの回復に、いつもより時間がかかるようになった
一般的な症状
- 突然意識を失って倒れる発作(転倒発作)があり、頭や顔をけがしやすい
- 体が一瞬ピクッと縮む発作や、力が抜けて崩れるように倒れる発作
- 薬を何種類か使っても、発作が月に何度も続く
- 発作が短時間に何度も繰り返されることがある
- 発作のあと、しばらくぼんやりしたり眠ったりする
子供の症状
- 発作が原因で転んでけがをすることが増え、学校生活で見守りが必要になる
- 発作が続くことで、言葉や運動、学習の力の伸びがゆっくりになることがある
- 夜中や眠っている間にも発作が出ることがある
- 発作のあとに強い疲れや眠気が出て、その日の活動が難しくなることがある
高齢者の症状
- 成人になってからも発作が続き、仕事や運転などの生活の制限が大きくなる
- 転倒による骨折や頭を打つけがの危険が高まる
- 長く発作と付き合うことで、疲れや気分の落ち込みが目立つことがある
原因
主な原因
- この手術が必要になる背景には、薬で発作が抑えにくい「難治てんかん」があります。
- てんかんの原因は、脳の形の生まれつきの違い、出産前後の脳への負担、遺伝的な要因、感染やけがの後遺症などさまざまです。
- 原因がはっきり分からない場合も少なくありません。
- 脳梁離断術は、原因そのものを取り除く手術ではなく、発作が脳の左右に広がるのを抑える手術です。
リスク要因
- 小児期に発症したてんかん
- レノックス・ガストー症候群などのてんかんの種類
- 転倒発作があり、けがの危険が高いこと
- 複数のてんかんの薬を十分に試しても発作が続いていること
- 発作の広がりが脳の左右両方に及んでいるとき
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発作が止まりにくい、または短い間に何度も繰り返す
- 転倒して頭を打った、けがをした
- 発作のあと意識や動きの戻りが悪い
- 発作の様子が今までと明らかに変わった
定期受診を予約すべき場合:
- 発作の回数や時間、起きたときの様子を記録して、診察時に伝えたい
- 薬の副作用と思われる眠気やふらつきがある
- 手術という選択肢について詳しく聞いてみたい
- 学校や仕事、日常生活での安全の工夫について相談したい
診断
脳梁離断術を受けるかどうかは、てんかんの専門医を中心に、時間をかけて話し合って決めます。まず「本当にてんかんの発作か」「薬での治療は十分に試したか」「発作は脳のどこから始まっているか」を確かめます。そのうえで、発作が左右に広がることが生活の危険につながっているかどうかを評価します。
行われる可能性のある検査
- 発作の記録(いつ、どんな様子で、どのくらい続いたかを家族や本人が記録したもの)
- 脳波検査(頭に電極をつけて脳の電気の動きを調べる検査)
- MRI(磁気を使って脳の形をくわしく見る画像検査)
- ビデオ脳波同時記録(入院して、発作の様子を映像と脳波で同時に記録する検査)
- 神経心理検査(記憶や言葉の力などを調べる検査)
- 発作の始まりが脳の片側だけかを確かめるための詳しい検査
診察で予想されること
検査は何日にもわたることがあり、入院が必要な場合もあります。検査の結果を聞くときは、手術で期待できることと、起こりうるリスクの両方の説明があります。家族と一緒に聞き、質問をメモしておくと安心です。手術を受けるかどうかは、すぐに決める必要はありません。
治療
脳梁離断術は、薬での治療を中心としたてんかん治療の中で、発作が続いてけがの危険が高い場合に選ばれる方法です。手術の目的は発作を完全になくすことではなく、転倒発作のように危険な発作を減らし、生活の安全を高めることです。手術後も、多くの方は発作を抑える薬を続けます。
自宅でのセルフケア
- 薬は自己判断で飲むのをやめたり量を変えたりせず、決められたとおりに続ける
- 発作の記録をつけ、回数や様子の変化を診察で伝える
- 睡眠不足や強い疲れ、熱が出たときは発作が起きやすくなることがあるので、無理をしない
- 入浴は発作の危険を考えて、家族が近くにいる時間に、ぬるめのお湯で短めにする
- 泳ぐときは必ず人と一緒にし、深いところや一人での入水は避ける
- 自転車や高い場所での作業など、転倒すると危険な場面では見守りや工夫をする
- 手術後は、医師から指示された範囲で少しずつ無理のない活動を再開する
医療治療
治療の中心は、発作を抑える薬(抗てんかん薬)を続けることです。薬の種類や組み合わせは、発作のタイプや年齢に合わせて医師が調整します。薬で十分な効果が得られない場合には、食事療法の一種であるケトン食療法、迷走神経刺激療法(胸の皮下に埋め込んだ装置で神経に刺激を送る方法)、そして脳の手術(脳梁離断術や、発作の起点となる部分を取り除く手術)などが検討されます。どの方法が合うかは一人ひとり異なるため、専門医とよく相談して決めます。
手術が検討される場合
薬を十分に試しても転倒発作が続き、けがの危険が高い場合や、発作が脳の左右に広がるために生活の制限が大きい場合に、手術が検討されます。脳梁の一部だけを切る方法は、効果と副作用のバランスを見ながら選ばれることが多く、必要に応じて二段階で行うこともあります。手術は全身麻酔で行われ、数時間かかります。年齢や体の状態、ご家族の希望も含めて総合的に判断します。
この病気と共に生きる
手術のあとは、発作が減っても薬を続けながら、徐々に日常生活に戻っていきます。脳梁を切ると左右の脳の連絡が減りますが、多くの方では日常生活に大きな支障はありません。ただ、まれに「右手に持った物の名前が言いにくい」「左手が思うように動かない」といった一時的な変化が見られることがあります。気になる変化があれば、遠慮せずに主治医へ伝えてください。
生活習慣のアドバイス
- 発作の記録を続け、生活のリズムの変化と発作の関係を把握する
- 規則正しい睡眠を心がけ、夜更かしや徹夜を避ける
- 学校や職場には、発作時の対応や見守りについてあらかじめ相談しておく
- 入浴・水泳・高所作業など、転倒や溺水の危険がある場面では安全の工夫をする
- 手術後の通院や検査の予定を、家族や支援者と共有しておく
食事と運動
食事は、バランスのよい普通の食事を心がけます。ケトン食療法を行っている場合は、医師や栄養士の指導に沿ってください。運動は、発作の様子を見ながら無理のない範囲で行います。水泳や登山など、発作が起きたときに危険が大きい活動は、必ず人と一緒に、主治医に相談してからにしましょう。
精神的健康と心の健康
発作が続くことや手術を決めることは、本人にもご家族にも大きな不安や疲れをもたらします。気分の落ち込みや眠れない日が続くときは、がまんせずに相談してください。てんかんのある方やご家族の気持ちに寄り添う相談窓口や患者会もあります。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。
予防
脳梁離断術は治療の方法であり、予防できるものではありません。背景にあるてんかんについても、すべてを予防できるわけではありません。ただし、睡眠を十分にとる、発熱や脱水を避ける、決められた薬を続けるといったことは、発作を起こりにくくする助けになります。
検診プログラム
特別なスクリーニング検査があるわけではありません。発作が続いている場合は、早い段階でてんかんの専門医に相談することが、治療の選択肢を広げることにつながります。
合併症
治療しない場合
- 転倒発作によって頭を打ったり、顔や口をけがしたりする危険が続く
- 発作が長く続く「発作重乞(はっさせいきゅう)」という危険な状態になることがある
- 発作がくり返されることで、子どもの発達や学習に影響が出ることがある
- 学校生活や仕事、運転など、日常生活の制限が大きくなる
- 本人もご家族も、発作への不安を抱えながら過ごす負担が続く
長期的な見通し
脳梁離断術は、転倒発作を大きく減らすことが期待できる手術です。発作が完全になくなる方もいれば、回数が減って安全に暮らしやすくなる方もいます。手術後に頭がむくんだり、出血や感染が起きたりするリスクはありますが、専門の医療チームが十分に注意して行います。手術を受けても薬は続けることが多く、定期的な通院が必要です。あせらず、主治医と一緒に一歩ずつ進んでいくことができます。
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最終更新: 2026年11月3日
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