臓器提供と臓器移植
概要
臓器提供と臓器移植は、二つでひとつのつながった話です。臓器提供は、亡くなった方、または生きている方が、自分の臓器を誰かの治療のために提供することです。臓器移植は、病気やけがで働きが悪くなった臓器の代わりに、提供された臓器を手術でつないで、体の働きを助ける治療です。日本では「臓器移植法」という法律で、脳死(脳がまったく働かなくなった状態で、法律上は人の死とされる状態)の方が臓器を提供できることや、本人の意思表示とご家族の承諾が必要なことが決められています。生きている方から提供する「生体移植」は、主にご家族などの間で行われます。
重要な事実
- 日本では、亡くなった方からの臓器提供は、本人が生前に意思表示していても、ご家族の承諾がなければ行われません。日ごろから家族で話し合っておくことが大切です。
- 移植を待っている方は多く、提供される臓器の数は足りていません。そのため、待ち時間が長くなることがあります。
- 移植は腎臓・肝臓・心臓・肺・膵臓・小腸などの臓器のほか、角膜(目の表面の透明な部分)や骨などでも行われています。
移植が必要になる病気は、決してめずらしいものではありません。一方で、日本では臓器を提供してくださる方が少なく、移植を希望しても待つ期間が長くなることが多いのが現状です。
年齢を問わず関係のあるテーマです。移植を受ける側は、生まれつきの病気のある子どもから高齢の方まで幅広くいます。提供する側も、生きている方(生体移植)と亡くなった方(脳死・心停止後)の両方があり、どなたにとっても自分ごととして考えられる話題です。
症状
- 強い息切れで話すのもつらい、横になれない
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い、けいれん
- 胸の強い痛み、冷や汗、脈がとても速い・不規則
- 尿がまったく出ない、おなかが固く張って痛む
- 突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、力が入らない
- ⚠数日のうちにむくみが強い、体重が急に増えた
- ⚠発熱が続く、寒気がする
- ⚠吐き気・嘔吐が続き、水分がとれない
- ⚠だるさが強く、日常生活が難しい
- ⚠皮膚や目が黄色っぽくなってきた
一般的な症状
- 臓器移植そのものに「症状」はありませんが、移植が必要になる病気にはサインがあります。
- 疲れやすい、だるさが続く、集中しにくい
- 息切れ、動悸(心臓の鼓動が強く感じる)、坂道や階段がつらい
- 顔や足のむくみ、体重が急に増える
- 食欲がない、吐き気、おなかの張り
- 尿の量が減る、夜中に何度もトイレに起きる、尿の色の変化
- 皮膚や目の白い部分が黄色っぽく見える
- かぜが長引く、治りにくい
子供の症状
- 哺乳(飲み)が弱い、飲む量が少ない、体重が増えにくい
- ぐったりしている、機嫌が悪い、泣き方が弱い
- 成長や発達の遅れ、歩くのが遅い、疲れやすい
- 学校で息切れしやすい、体育の時間がつらい
- むくみ、おなかの張り、尿の量が少ない
高齢者の症状
- 階段や家事での息切れ、動悸
- 足のむくみ、靴がきつくなる、体重の急な増加
- 食欲低下、体重減少、体力が落ちた
- 夜間のトイレの回数が増えた、尿の出が悪い
- 物忘れや元気のなさが増したように見える(体の病気が隠れていることがあります)
原因
主な原因
- 腎臓の働きが長く低下した状態(慢性腎不全)
- 肝臓の病気(肝硬変、ウイルス性肝炎、生まれつきの肝臓の病気など)
- 心臓の病気(心不全、心筋症、生まれつきの心臓病など)
- 肺の病気(肺線維症、肺高血圧症など)
- 膵臓(すいぞう)の病気、1型糖尿病による膵臓の働きの低下
- 小腸の働きが保てない状態
- 角膜(目の表面)の病気で視力が保てない状態
リスク要因
- 糖尿病、高血圧、脂質異常症(コレステロールなどが多い状態)
- 喫煙、飲酒量が多い
- 肥満、運動不足
- ウイルス性肝炎(B型・C型)など感染症の既往
- 家族に腎臓・肝臓・心臓の病気の人がいる
- 一部の薬剤や漢方などによる臓器への負担(自己判断で中止せず、必ず医師・薬剤師に相談してください)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息切れや動悸が強く、横になれない
- 尿が極端に少ない、まったく出ない
- 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
- 胸の強い痛み、冷や汗
- 発熱と寒気が続き、水分がとれない
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすさやむくみが続いている
- 健診で腎臓・肝臓の数値や尿たんぱくを指摘された
- 移植を考えたい、待機の相談をしたい
- 自分や家族の臓器提供の意思表示について相談したい
- 移植後で、体調の変化や生活の不安がある
診断
「移植が必要かどうか」は、専門の医療機関で検査を重ねて総合的に判断します。臓器の働きがどのくらい残っているか、ほかの治療でどこまで支えられるか、体の状態や年齢、生活背景も含めて検討します。亡くなった方からの提供では、法律に沿って脳死の判定が医師たちによって慎重に行われ、ご家族の承諾を確認する手続きがあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査、尿検査(腎臓・肝臓の働き、栄養状態、感染症の有無を確認)
- 画像検査(超音波検査、CT、MRI)
- 心電図、心臓の超音波検査、必要に応じて心臓カテーテル検査
- 呼吸機能検査、胸部の画像検査
- 組織適合性検査(HLA検査:移植する臓器と体の相性をみる検査)
- 感染症の検査、腫瘍(しゅよう)がないかの確認
- 必要に応じて臓器の一部を採って調べる検査(生検)
診察で予想されること
検査は一度で終わらず、通院しながら少しずつ進むことが多いです。移植が必要と判断された場合は待機リストへの登録となり、定期的な通院と体調管理を続けながら、提供の連絡を待つことになります。連絡は急に来ることがあるため、連絡先や持ち物を家族と共有しておくと安心です。
治療
臓器移植は、病気で働きが悪くなった臓器の働きを、提供された臓器で助ける治療です。提供を待つ間は、透析(血液をきれいにする治療)や薬による治療、食事や生活の工夫で体を支えます。移植がすべての方に適しているわけではなく、体の状態や希望をふまえて医療チームと一緒に決めていきます。
自宅でのセルフケア
- 主治医の指示どおりに通院し、決められた治療を続ける
- 毎日、体重・血圧・尿の量・むくみなどを記録して変化に気づく
- 禁煙する。飲酒は主治医と相談して控えめに
- 手洗い・うがいを丁寧に。人混みや感染症が流行する時期は注意する
- ワクチン接種は自己判断で決めず、主治医と時期を相談する
- 自分の臓器提供の意思を、家族と話して共有しておく(提供する側としても大切です)
医療治療
移植後は、体が新しい臓器を「自分のものではない」と攻撃しないように、免疫(体を守る力)の働きを抑える治療を長く続けることが一般的です。どのお薬をどのくらい使うかは臓器や体の状態で一人ひとり異なり、医師が調整します。あわせて感染症の予防、定期的な血液検査や画像検査、食事や生活の指導が行われます。お薬の名前や量、飲み方は必ず医療チームの指示に従い、自己判断で変えたり中止したりしないでください。
手術が検討される場合
移植の手術は臓器によって方法や時間が異なり、移植を行っている専門の医療機関で実施されます。生きている方からの生体移植は、提供者・受け取る方の両方の検査を終えてから計画的に行われます。亡くなった方からの移植は、提供の連絡が入ってから急に準備が始まることが多く、呼び出しに備えておくことが大切です。
この病気と共に生きる
移植を待つ間も、移植を受けた後も、通院と体調管理が毎日の中心になります。体調の記録を続けることは、変化に早く気づく助けになります。移植後は感染症を防ぐための工夫(手洗い、人混みを避ける、口や傷の清潔を保つ)と、決められた通院を欠かさないことが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける。受動喫煙も避ける
- 飲酒は主治医と相談し、控えめにする
- 睡眠を十分にとり、無理のない範囲で体を動かす
- ストレスをためこまず、話せる相手や相談先を持つ
- 感染症が流行する時期は、人多すぎる場所や衛生環境に注意する
- 予防接種の予定は、移植前後で考え方が変わるため必ず医療チームに確認する
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、主食・主菜・副菜のバランスを整えることが基本です。たんぱく質やカリウム、水分の量は臓器や治療の内容で変わるため、管理栄養士の指導を受けてください。運動は、散歩や軽いストレッチなど、息が切れすぎない程度から始め、体調に合わせて少しずつ増やします。移植後は特に、医師の許可を得てから運動の強さを上げましょう。
精神的健康と心の健康
移植を待つ間は、いつ連絡が来るかわからない不安、待ち続ける疲れ、提供してくださった方やご家族への感謝と申し訳なさ、喪失感など、複雑な気持ちがわいてくることがあります。それは自然なことです。気持ちが落ち着かない日が続くとき、眠れないとき、涙が止まらないときは、一人で抱えずに医療チームや公認心理師などの専門家に話してください。つらい気持ちが強いときは、お住まいの自治体のこころの相談窓口やかかりつけ医に相談を。緊急の場合は119番に連絡してください。
予防
すべての臓器移植を防ぐことはできませんが、生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)を早めに見つけて管理することで、腎臓・心臓・肝臓の病気のリスクを下げられます。禁煙、節酒、バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠が土台になります。感染症を予防することも、臓器を守る意味で大切です。
ワクチン
感染症が臓器の働きを損なうことがあります。ワクチンは年齢や体の状態に合わせて主治医と相談してください。移植前後は接種の時期や種類に注意が必要なことがあるため、自己判断で受けずに医療チームに確認しましょう。
検診プログラム
健診での尿検査・血液検査・血圧測定は、腎臓や肝臓の変化に気づく大切な機会です。肝炎ウイルス検査も、自治体の公的な検査事業などで受けられます。健診結果で指摘があったときは、症状がなくても早めに医療機関に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 臓器の働きが低下し続けると、入院での治療が必要になることがあります
- 息切れやむくみが強くなり、日常生活を送るのが難しくなることがあります
- 透析などの治療を続ける必要が出てくることがあります
- 移植を待つ間に体の状態が変化することがあります
- 移植後は、感染症や拒絶反応(体が新しい臓器を攻撃してしまう反応)のリスクがあり、定期的な検査と治療の継続が大切です
長期的な見通し
臓器移植は、多くの方にとって生活の質を取り戻す助けになっています。移植を受けた後、仕事や学校、家族との時間を楽しんでいる方はたくさんいます。日本では提供してくださる方がまだ少ないのが課題ですが、一人ひとりが意思表示をし、家族で話し合うことが、未来の誰かの命と暮らしを支える一歩になります。
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最終更新: 2026年11月3日
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