回腸嚢(回腸ポーチ)とともに暮らす — 大腸を切除したあとの排便
概要
回腸嚢(かいちょうのう)は、おなかの中で作られる「袋」のことです。英語では「ポーチ」と呼ばれます。大腸を全部取り除く手術をしたあと、小腸(回腸=しょうかん)の端を折りたたんで袋の形にし、肛門につなぎます。この袋が便をためる役割を、なくなった大腸のかわりに果たします。そのため、おなかの表面に便の出口(ストーマ)を作らずに、肛門から排便することができます。回腸嚢は「病気」ではなく、手術で作られた体の一部です。
重要な事実
- 回腸嚢は、大腸を全部取る必要があるときに、肛門から排便できるようにするために作られる袋です。
- 手術はふつう2〜3回に分けて行われ、最後に肛門とつなぐ日まで、一時的におなかのストーマを使うことがあります。
- 便はゆるく、回数が多くなりやすいなど、大腸があったときとは違う排便パターンになります。慣れるまで時間がかかりますが、多くの人は社会生活に戻っています。
大腸を全部取る手術が必要な人の一部に行われる、標準的な手術のひとつです。特に、薬でうまくコントロールできない潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)で手術を選ぶ場合、多くはこの方法が検討されます。
主に、潰瘍性大腸炎と診断された10〜40代の方、遺伝性の病気である家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)の方などです。子どもから高齢者まで、必要があれば年齢を問わず行われます。
症状
- 激しい腹痛が続き、おなかが板のように硬い
- 高熱とぐったりした様子が同時にある
- 大量の血便が出る、出血が止まらない
- 意識がもうろうとしている、会話がかみ合わない
- くり返す嘔吐で水分がとれない、尿が出ない
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠便の回数が急に増え、ほとんど水のような便になった
- ⚠肛門のまわりが強く腫れて痛む、膿のようなものが出る
- ⚠排尿しにくい、おなかが張って尿が出ない
- ⚠短期間で体重が減っている、ぐったりして元気がない
一般的な症状
- 便の回数が多い(1日4〜8回ほどが目安ですが、個人差が大きいです)
- 便がゆるい、水っぽいことが多い
- 夜中にトイレに起きることがある
- おならが出やすい、においが気になる
- 肛門のまわりがかぶれる、痛む、かゆい
- おなかが張る、ゴロゴロする
- 手術直後は、便意をもよおしても我慢できないことがある
子供の症状
- 大人と同じように手術を受けられますが、体が小さいぶん脱水になりやすいです
- 下痢が続くと体重が増えにくいことがあるので、身長・体重の記録が大切です
- 学校でトイレに行きやすくなるよう、先生や学校と相談しておくと安心です
- 成長に合わせて、フォローアップの内容が変わっていきます
高齢者の症状
- 回復に時間がかかることがあり、入院中のリハビリが大切になります
- 脱水や腎臓への負担が出やすいので、水分と電解質に注意が必要です
- 筋力が落ちるとトイレまでの移動が負担になるため、環境づくりが役立ちます
- 肛門の締める力が弱く、便もれが起こりやすいことがあります
原因
主な原因
- 回腸嚢は治療の結果として作られるもので、それ自体が病気の原因ではありません。
- 大腸を全部取る理由としては、薬でコントロールできない潰瘍性大腸炎、大腸がん、家族性大腸腺腫症(遺伝性のポリープの病気)、生まれつきの腸の病気などがあります。
- 回腸嚢に炎症が起きる「回腸嚢炎(ポーチ炎)」は、もともとの炎症性腸疾患があった人に起こりやすいことが知られています。
リスク要因
- もともと炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)がある
- 手術後の回復が遅い、栄養状態がよくない
- 脱水や電解質のバランスが崩れやすい
- 痛み止めの一部や、免疫を抑えるお薬をよく使う
- 喫煙、肥満、糖尿病など生活習慣に関わる要因
- ストレスや睡眠不足が続いている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱と腹痛が同時にあり、どんどん悪くなる
- 便の回数が急に増えて止まらない、血が混じる
- 嘔吐が続いて水分がとれない、尿がほとんど出ない
- 肛門のまわりが腫れて痛みが強い
定期受診を予約すべき場合:
- 便の回数やゆるさが以前と違ってきた
- 体重が少しずつ減っている
- だるさが続く、疲れやすい
- 肛門のまわりのかぶれや痛みが続く
- 食事や生活のことで相談したいことがある
診断
回腸嚢は手術で作られるものなので、ふつうの意味での「診断」はありません。代わりに、手術を受けるかどうかの判断と、手術後の働き具合を定期的に確認していきます。回腸嚢炎などの合併症が疑われるときは、症状の聞き取りと検査を組み合わせて判断します。
行われる可能性のある検査
- 問診:便の回数、量、痛み、発熱などの症状をくわしく聞きます
- 血液検査:炎症の程度、貧血、栄養状態、脱水の有無をみます
- 便の検査:感染による下痢でないかを確かめます
- 内視鏡検査(回腸嚢の中を直接見る検査):粘膜の炎症を確認します
- 画像検査(CT、MRI、造影検査):袋の形や、膿がたまっていないかをみます
- 肛門の機能を調べる検査:締める力などを測ります
診察で予想されること
検査は外来で行えるものが多く、内視鏡のときは事前の準備(食事の制限など)が必要なことがあります。結果によって治療方針が決まるので、わからないことは遠慮なく担当の医師や看護師に聞いてください。
治療
回腸嚢は手術で作られた体の一部なので、「治す」ものではなく、うまく付き合っていくものです。治療の中心は、回腸嚢炎などの合併症を早く見つけて対応すること、そして水分・栄養・生活リズムを整えて快適に過ごせるようにすることです。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとる(のどが渇く前に飲むのがコツです)
- 食事は一度にたくさんではなく、少量を回数多く分けてとる
- 食べるとおなかが張るもの、下痢になりやすいものを記録して把握する
- 肛門のまわりは、洗ってやさしく拭き、乾かしてから保護クリームなどで守る
- 外出先のトイレの場所をあらかじめ確認しておく
- 睡眠と休息をしっかりとる
- 自己判断で市販薬や痛み止めを飲まず、まず主治医や薬剤師に相談する
医療治療
回腸嚢炎が起きたときは、炎症をしずめるお薬や、腸内の細菌のバランスを整えるお薬が使われることがあります。脱水があるときは点滴で水分と電解質を補います。症状に応じて、腸の動きを整えるお薬が使われることもあります。どの治療が合うかは人によって違うため、主治医と相談しながら調整していきます。お薬の名前や量については、必ず処方した医師・薬剤師の説明に従ってください。
手術が検討される場合
回腸嚢そのものに問題が起きたとき(狭くなって便が通らない、穴が開いて膿がたまる、繰り返す炎症で日常生活が難しいなど)に、再び手術が検討されることがあります。多くの場合は小さな処置で対応できますが、状況によっては回腸嚢を残したまま別の方法に切り替える選択肢もあります。手術はあくまで一つの選択肢で、必ず主治医と十分に話し合って決めます。
この病気と共に生きる
回腸嚢のある生活では、トイレの回数が増えることが最大の変化です。最初は戸惑うかもしれませんが、食事のとり方や生活のリズムを工夫するうちに、自分なりのペースがつかめていきます。仕事や学校、旅行など、多くの人は工夫しながら続けています。
生活習慣のアドバイス
- 食事の内容と便の状態をメモしておくと、自分に合う食べ方が見えてきます
- 会議や移動の前にトイレに行く習慣をつける
- においが気になるときは、消臭の工夫や着替えの用意をしておくと安心です
- 適度な運動は体力づくりと気分転換に役立ちます
- 飲酒や刺激の強い食べものは、体調を見ながら加減する
- 体調がよい日と悪い日の波があって当たり前、と知っておく
食事と運動
食事は「これを必ず食べる/避ける」という決まりはなく、自分に合うものを見つけるのが基本です。少量をよくかんで、ゆっくり食べるのがおすすめです。水分は多めに。歩く・軽いジョギング・ストレッチなど、無理のない運動を続けると、体力と腸の動きの両方に良い影響が期待できます。激しい運動を始める前は主治医に相談してください。
精神的健康と心の健康
手術や排便の変化は、気持ちの面でも大きな出来事です。人に話しにくい、恥ずかしい、将来が不安、といった気持ちを持つのは自然なことです。落ち込む日があっても不思議ではありません。つらい気持ちが続くときや、眠れない、食べられない、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、ひとりで抱えずに、主治医・看護師・地域の相談窓口などに早めに連絡してください。緊急性があると感じたら、ためらわず救急(119)を呼んでください。
予防
回腸嚢が必要になる状況そのものを完全に防ぐことは難しいですが、回腸嚢炎などの合併症を減らすための工夫はできます。水分をとる、無理をしない、自己判断で薬を飲まない、定期的な受診を続けることが大切です。
ワクチン
手術や治療の内容によって、受けておいたほうがよいワクチンが変わることがあります。かかりつけ医や主治医に、今の自分に必要なワクチンがあるかどうかを確認してみてください。
検診プログラム
定期的な内視鏡検査や血液検査で、炎症や栄養状態を確認していきます。受診の間隔は人によって違うため、主治医の指示に従ってください。
合併症
治療しない場合
- 回腸嚢炎(ポーチ炎):袋の中に炎症が起き、下痢や腹痛、発熱が出ます
- 狭くなって便が通りにくくなる(狭窄)
- 袋に穴が開いたり、膿がたまったりする
- 脱水や電解質のバランスの崩れ
- ビタミンや鉄分の不足、骨がもろくなる
- 腎臓や胆のうの結石ができやすくなる
- 肛門の締める力が低下して、便もれが起こる
長期的な見通し
多くの人は、回腸嚢とともに長く生活しています。合併症が起きても、多くは治療で対応できます。便の回数が多いなどの悩みも、食事や生活の工夫、医療者のサポートで少しずつ整えていけます。心配なことがあれば早めに相談することが、安心して過ごす一番の近道です。
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最終更新: 2026年11月3日
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