ペッサリー(膣用リング)で骨盤臓器脱の症状をやわらげる
概要
ペッサリーは、腟(ちつ)の中に入れて、子宮・膀胱(ぼうこう)・直腸などを内側から支えるための器具です。骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ:腟の中に臓器が下がってくる状態)や、咳(せき)やくしゃみで尿がもれる症状をやわらげるために使われます。手術をしないで症状をコントロールする方法のひとつで、シリコーン製の柔らかいリング型やドーナツ型など、いくつかの形があります。英語では「ペサリー」と呼ばれ、避妊具のペッサリーとは別のものです。
重要な事実
- ペッサリーは腟の中に入れて臓器を支える、手術をしない治療の選択肢です。
- 大きさや形は一人ひとりの腟に合わせて選び、医師が診察しながら調整します。
- 自分で出し入れできるようになる方も多く、定期的な診察を受けながら長く使い続けられます。
骨盤臓器脱は、出産を経験した女性の多くに見られる身近な状態で、珍しいものではありません。ペッサリーは日本だけでなく世界各地で広く使われている治療法で、手術を避けたい方や、手術のリスクが高い方にも選ばれています。
症状
- 突然の激しい下腹部痛や腰の痛みがある
- 高熱(38度以上)と悪寒(さむけ)がある
- 腟から多量の出血がある、止まらない
- ペッサリーが腟に挟まって尿が出ない、排便ができない
- ⚠ペッサリーが腟の奥に入って自分では取り出せない
- ⚠悪臭のあるおりもの、腟のかゆみや強い痛みがある
- ⚠腟の粘膜がひりひりする、少量の出血が続く
- ⚠微熱が続く、腟が腫れている感じがする
一般的な症状
- 腟の入り口に何かが出てくるような感じ、下腹部の重い・張る感じ
- 立っていると悪化し、横になると軽くなる骨盤の圧迫感
- 尿がもれる、尿が出にくい、何度もトイレに行きたくなる
- 便秘や排便のときに力んでも出しにくい感じ
- 腟の乾燥、おりものの増加、腟の粘膜がすれて出血することがある
- 性生活のときの不快感
子供の症状
- 小児にペッサリーを使うことは通常ありません。
- 子どもの骨盤臓器脱は非常にまれで、症状がある場合は小児科や専門医による評価が必要です。
- 子どもが腟の違和感や出血を訴える場合は、自己判断せず早めに医療機関に相談してください。
高齢者の症状
- 閉経後の方は腟の粘膜が薄く乾きやすく、ペッサリーが当たって違和感や出血が出ることがあります。腟のケアについては医師に相談してください。
- 高齢の方では、手術の負担を避けたい場合にペッサリーがよく選ばれます。
- 自分で出し入れするのが難しい場合は、家族や訪問看護などの協力を得ながら定期交換を受ける方法があります。
- 認知症などで腟の状態を自分で伝えられない方は、周囲の方が定期的な診察を支えることが大切です。
原因
主な原因
- 骨盤の筋肉や靭帯(じんたい)が弱くなり、臓器を支えきれなくなること
- 妊娠・出産による骨盤の組織への負担
- 加齢や閉経による組織の弾力の低下
- 慢性的な咳や便秘など、お腹に力がかかる状態が続くこと
リスク要因
- 出産の経験(特に回数が多い方、大きいお子さんを出産した方)
- 閉経後の年齢
- 肥満、体重の増加
- 慢性の咳(喫煙や呼吸器の病気によるもの)
- 便秘、いきむ習慣
- 重いものを持ち上げる仕事や家事
- 骨盤の手術を受けたことがある
- 結合組織(体を支える組織)の病気
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- ペッサリーが腟の奥に入り、自分で取り出せない
- 腟の強い痛み、悪臭のあるおりもの、発熱がある
- 尿が出ない、または排便ができない
- 腟からの出血が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 腟の入り口に何か出てくる感じや重い感じが続く
- 尿もれやトイレの回数の変化が気になる
- ペッサリーがずれ落ちてくる、違和感が続く
- 定期的な交換・診察の時期が来た
- 性生活のときの不快感がある
診断
問診と内診(腟の診察)で、骨盤臓器脱の程度や腟の状態を確認します。そのうえで、腟の大きさや形に合うペッサリーを選び、診察室で実際に装着してみます(フィッティング)。装着したまま立ち上がったり咳をしたりして、ずれ落ちないか、痛みがないかを確認します。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状、出産歴、既往歴、服薬の確認)
- 内診(腟の診察)
- 尿検査(尿もれや感染の確認のため)
- 超音波検査(必要な場合)
- おりものの検査(感染が疑われる場合)
診察で予想されること
診察は数分から十数分程度で、痛みはほとんどありません。最初は装着時の違和感があることが多く、数日から1〜2週間ほど試してから再受診し、サイズや形を調整することが一般的です。合わないと感じたら、我慢せずに相談してください。
治療
ペッサリー治療は、腟の中に器具を入れて臓器を支え、症状をやわらげる方法です。手術のように体を切る必要がなく、外来で始められます。ペッサリーを装着したまま生活する方と、必要なときだけ自分で出し入れする方がいます。骨盤底筋体操や生活習慣の見直しと組み合わせることもあります。
自宅でのセルフケア
- 医師や看護師から教わった方法で、清潔な手で出し入れする
- 取り出したときはぬるま湯でやさしく洗い、医師の指示に従って保管する
- 腟の乾燥や違和感があるときは、自己判断で軟膏(なんこう)などを買わずに医師・薬剤師に相談する
- 便秘を避けるため、水分と食物繊維をとる
- 重いものを持ち上げる動作や、お腹に力がかかる動作を控えめにする
- 定期的な診察・交換の予定を守る
医療治療
医師が腟の状態に合わせてペッサリーのサイズと形を選び、装着の練習を支援します。使っていくうちに腟の状態が変わることもあるため、定期的に診察してサイズの見直しや腟の粘膜の観察を行います。閉経後の腟の乾燥や薄くなった粘膜については、医師が適切な対処を提案します。骨盤底筋体操の指導や、生活習慣(体重、咳、便秘)への働きかけもあわせて行われることがあります。症状の程度や生活スタイルに応じて、手術以外の選択肢も含めて医師と相談しながら決めていきます。
手術が検討される場合
手術は、ペッサリーで症状が十分に改善しない場合、何度調整しても外れてしまう場合、腟の粘膜のトラブルがくり返す場合、あるいはご本人が手術を希望する場合に検討されます。年齢や全身の健康状態、生活の希望をふまえて、医師とよく相談して決めます。
この病気と共に生きる
ペッサリーを入れたままでも、多くの方は普段どおり生活できます。トイレや入浴、旅行なども工夫次第で続けられます。性生活については、種類によって装着したままで可能な場合と、取り外してから行う場合があります。羞恥心から言い出しにくいことでも、医師や看護師に相談すると具体的な方法を一緒に考えてもらえます。
生活習慣のアドバイス
- 体重を適正に保つ
- 便秘を防ぐ(水分・食物繊維・規則的な排便)
- 慢性的な咳があれば治療する、禁煙を考える
- 重い荷物を持ち上げる回数を減らす、持ち上げるときは息を吐きながら
- 骨盤底筋体操を毎日の習慣にする
- 長時間の立ち仕事の後は、横になって休む時間をつくる
食事と運動
食物繊維の多い野菜や海藻、豆類をとり、水分をこまめに飲んで便秘を防ぐことが助けになります。運動はウォーキングなど無理のないものを続け、骨盤底筋体操は仰向けや座った姿勢から始めると取り組みやすくなります。腹圧が強くかかる激しい運動や重いウエイトトレーニングは、医師や理学療法士に相談してから行いましょう。
精神的健康と心の健康
腟の症状は人に話しにくく、恥ずかしさや不安、気分の落ち込みにつながることがあります。「年だから仕方ない」と我慢する必要はありません。気持ちがつらい日が続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口、専門の医療機関に相談してください。つらい気持ちが強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療機関や地域の緊急の相談窓口を頼ってください。
予防
骨盤臓器脱を完全に防ぐことは難しいですが、お腹に力がかかる生活を減らし、骨盤底の筋肉を保つことでリスクを下げられる可能性があります。ペッサリーは予防のためのものではなく、すでにある症状をやわらげるためのものです。
検診プログラム
症状がなくても、出産を経験した方や閉経後の方は、婦人科検診の機会に骨盤の状態について相談してみましょう。日本では自治体による婦人科検診が行われています。詳しくはお住まいの自治体の案内をご確認ください。
合併症
治療しない場合
- 腟から出てくる感じや重い感じが強くなり、日常生活がつらくなる
- 腟の粘膜がすれて、びらん(ただれ)や出血が起こる
- 尿もれや排尿困難、便秘が悪化する
- ペッサリーを長期間ケアせずに放置すると、腟の粘膜の傷や感染、まれに癒着(ゆちゃく)の原因になる
長期的な見通し
ペッサリーは多くの方の症状をやわらげ、手術をせずに生活の質を保つ助けになります。腟の状態は年齢や体調で変わるため、定期的な診察を受けながら調整していくことが大切です。合わないと感じたら別の形やサイズ、他の治療法も選べます。あきらめずに医師と相談を続けてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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