膀胱尿管逆流(VUR)と内視鏡下注入療法
概要
膀胱尿管逆流(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう、英語の頭文字でVUR)は、膀胱(おしっこをためておく袋)にたまったおしっこが、本来流れる向きとは逆に、尿管(おしっこの通り道の細い管)を通って腎臓の方へ戻ってしまう状態です。尿管と膀胱のつなぎ目には、おしっこの逆流を防ぐ「一方通行の弁」のような働きがあります。この弁の形や働きが未熟だったり弱かったりすると、おしっこが逆流してしまいます。逆流したおしっこに細菌が混ざっていると、腎臓で感染(腎盂腎炎=じんうじんえん)を起こし、腎臓に傷が残ることがあります。そのため、逆流の程度や腎臓の状態に合わせて、見守る治疗から内視鏡で弁を補強する治療まで、いくつかの選択肢があります。
重要な事実
- 膀胱尿管逆流は、おしっこが膀胱から尿管・腎臓へ逆流してしまう状態で、多くは生まれつきの弁の未熟さが原因です。
- 症状はほとんどないことが多く、「発熱をともなう尿路感染症」をきっかけに見つかることが少なくありません。
- 程度は5段階(グレードI〜V)に分けられ、軽いものは成長とともに自然に改善することが多いとされています。
- 内視鏡下注入療法は、おなかを切らずに膀胱の中から尿管の出口を補強する方法で、入院は日帰り〜数日程度のことが多い治療です。
膀胱尿管逆流は、こどもの尿路の病気の中では比較的よく見られます。発熱をともなう尿路感染症で検査をしたこどもの中に、一定の割合で見つかることが知られています。大人では頻度は低くなりますが、排尿の障害や神経の病気にともなって見られることがあります。
多くは乳幼児から小学生くらいのこどもで、女の子にやや多く見られます。きょうだいで見られることもあります。また、膀胱にたまったおしっこをうまく出せない状態(神経因性膀胱など)や、加齢にともなう排尿の変化がある大人にも起こることがあります。
症状
- ぐったりして反応が弱い、意識がぼんやりしている(特に乳幼児)。
- 呼吸が速い、顔色が青白い、手足が冷たい、唇の色が悪い(重症の感染症=敗血症の疑い)。
- けいれんを起こした。
- おしっこが全く出ない状態が続き、おなかが張って痛い。
- 高熱と激しい腰・背中の痛みで、水分もとれない。
- ⚠38度以上の発熱がある、または発熱を繰り返している。
- ⚠背中や脇腹を痛がる、たたくと響く感じがある。
- ⚠尿に血が混じる(血尿)。
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれず、おしっこの量が減っている。
- ⚠おしっこをするときに強い痛みがあり、トイレに行っても少ししか出ない。
一般的な症状
- 多くの場合、逆流そのものによる自覚症状はほとんどありません。
- 発熱をともなう尿路感染症(腎盂腎炎)を繰り返すことがあります。
- おしっこが濁る、においが強くなる、血が混じることがあります。
- おしっこをするときに痛みやしみる感じがあることがあります。
- トイレが近い、おしっこが一度に出し切れない感じがすることがあります。
子供の症状
- 乳児では、機嫌が悪い、母乳やミルクの飲みが悪い、吐く、体重が増えにくいなど、はっきりしない様子だけのことがあります。
- 発熱だけが続き、ほかにこれといった症状がないことがあります。
- おむつがいつもより強くにおう、おしっこの量や色がいつもと違う。
- おしっこをするときに泣く、おなかを痛がる。
- おねしょが長引く、トイレを我慢する癖がある、うんちが硬くて便秘がち。
高齢者の症状
- 繰り返す尿路感染症や、なんとなく続く発熱。
- 腰や脇腹の重だるさ、痛み。
- 排尿が始まりにくい、残った感じがある、夜中に何度もトイレに起きる。
- 便秘や前立腺の病気など、おしっこを出しにくくする要因があると気づかれやすくなります。
原因
主な原因
- 生まれつき、尿管と膀胱のつなぎ目の「弁」の形や筋肉の走りが未熟で、逆流を防ぎきれない。
- 尿管が膀胱の壁の中を十分に長く通っていないなど、つなぎ目の構造の問題。
- 膀胱にたまったおしっこをうまく出せず、膀胱の中の圧が高いままになる状態(神経因性膀胱、排尿の障害など)。
- おしっこの出口が狭くなる病気(男児の後部尿道弁など)や、高度の便秘によって膀胱が圧迫されること。
- 大人では、加齢や前立腺の病気、骨盤の中の手術の影響などが関わることがあります。
リスク要因
- 家族(きょうだいや親)に同じ状態の人がいる。
- 女の子であること(尿路感染症を起こしやすいため見つかりやすい)。
- 発熱をともなう尿路感染症を繰り返している。
- 便秘がち、トイレを長く我慢する習慣がある。
- 脊髄や神経の病気があり、排尿のコントロールが難しい。
- おしっこの流れを妨げる形の異常がある。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 38度以上の発熱がある、または発熱を繰り返している。
- 背中・脇腹の痛み、血尿、嘔吐がある。
- おしっこが出にくい、出ない。
- 乳幼児で機嫌が悪く、飲みが悪く、ぐったりしている。
定期受診を予約すべき場合:
- 健診や学校の尿検査で、たんぱくや血が混じると言われた。
- 尿路感染症を何度も繰り返している。
- おねしょが長引き、便秘や排尿の癖も気になる。
- おしっこをするときに、おなかに力を入れているように見える。
- きょうだいに膀胱尿管逆流の人がいて、検査を相談したい。
診断
診断は、症状の聞き取り、尿の検査、そして画像検査を組み合わせて行います。逆流があるかどうか、どのくらいの程度か、腎臓に傷がないかを確認します。「逆流がある=すぐ手術」ではなく、程度と経過を見ながら方針を決めていきます。
行われる可能性のある検査
- 尿検査・尿培養:細菌がいるか、血やたんぱくが混じっていないかを調べます。
- 腹部エコー(超音波)検査:腎臓や膀胱の形、大きさ、尿のたまり具合を見ます。痛みも放射線もありません。
- 排尿時膀胱尿道造影(VCUG):細い管から膀胱に造影剤を入れ、おしっこをするときの様子をレントゲンで撮影し、逆流の有無と程度(グレード)を調べます。
- 腎シンチグラフィ(DMSAなど):腎臓の働きと、傷んだ部分がないかを調べます。
- 血液検査:腎臓の働きや炎症の程度を確認します。
- 必要に応じて、排尿の勢いを調べる検査や、脊髄・神経の状態を調べる検査を行います。
診察で予想されること
検査は入院ではなく外来で行えることが多く、こどもの場合は不安をやわらげる工夫をしながら進めます。VCUGでは一時的に管を入れるため、痛みや怖さを感じることがあります。検査の前に、何をするのかをやさしく説明してもらい、付き添いができるかどうかも確認しておくと安心です。結果が出るまでに数日かかる検査もあります。
治療
治療の方針は、逆流の程度、年齢、尿路感染症を繰り返すかどうか、腎臓に傷があるかどうかで決まります。軽ければ定期的な観察と生活の工夫で様子を見ることが多く、感染症を繰り返す場合や程度が強い場合には、感染を予防する治療や、内視鏡で尿管の出口を補強する治療、場合によっては手術を検討します。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとり、おしっこを我慢しない習慣をつける。
- 便秘を防ぐ(食物繊維や水分、規則的な排便)。硬いうんちは膀胱を圧迫します。
- トイレに行く時間を決めて、出し切るまで座る。こどもには「もう一回」を声かけする。
- おしっこをするときは力を入れすぎず、リラックスして出す練習をする。
- 女の子は、おしっこのあと前から後ろへ拭くようにする。
- 発熱したときは早めに医療機関に相談し、自己判断で様子を見すぎない。
医療治療
治療には大きく分けて三つの柱があります。一つ目は、尿路感染症を繰り返さないための予防で、少量の抗菌薬を一定期間使うことがあります(薬の種類や量は医師が個別に判断します)。二つ目は排尿の管理で、膀胱にたまったおしっこを出し切る練習や、便秘の改善、必要に応じて導尿などの方法を用います。三つ目が内視鏡下注入療法です。膀胱の中に細い内視鏡を入れ、尿管の出口のすぐ下に、体内で少しずつ分解されるゲル状の材料を注入して小さな「壁」のようなふくらみを作り、おしっこが逆流しにくいようにします。おなかに傷が残らず、日帰り〜数日程度の入院で行われることが多い治療です。製品名から「デフラックス治療」と呼ばれることもあります。効果には個人差があり、一度で改善しない場合は追加の注入や別の方法を検討します。
手術が検討される場合
内視鏡下注入療法で十分な効果が得られない場合、逆流の程度が強い場合、発熱をともなう尿路感染症を繰り返す場合、腎臓の傷や働きの低下が進む心配がある場合には、尿管を膀胱につなぎ直す手術(尿管再吻合術)を検討することがあります。手術の必要性や方法は、小児科・泌尿器科の医師とよく相談して決めていきます。
この病気と共に生きる
逆流があること自体で日常生活が大きく制限されることは多くありません。通院の予定を把握しておき、発熱したときの連絡先を家族で共有しておくと安心です。こどもの場合、園や学校に「おしっこを我慢させないでほしい」「発熱時は早めに連絡してほしい」と伝えておくのも助けになります。
生活習慣のアドバイス
- トイレをがまんしない、行きたくなったら行く。
- 便秘をためない(毎日の排便を意識する)。
- おしっこをする時間を決めて、声かけをする。
- 陰部を清潔に保ち、下着をこまめに替える。
- 発熱や体調の変化を記録しておき、受診時に伝えられるようにする。
食事と運動
特別な食事制限が必要になることは多くありません。バランスのよい食事と十分な水分、食物繊維で便秘を防ぐことが、結果的に尿路感染症の予防につながります。運動はふだんどおりで問題ありません。汗をかいたら水分を補い、長時間トイレをがまんする状況(旅行や部活動など)では、事前にトイレの場所を確認しておくと安心です。
精神的健康と心の健康
「腎臓が傷ついたらどうしよう」「検査や治療が子どもに負担ではないか」と、保護者の方は強い不安を感じることがあります。こども自身も、検査や通院が続くことで不安や疲れを覚えることがあります。不安は自然な気持ちです。ひとりで抱え込まず、医療者に何度でも質問してよいことを覚えておいてください。気持ちのつらさが続くときは、地域の相談窓口や、かかりつけ医に相談してください。日本では「こころの健康相談統一ダイヤル」など、電話で相談できる窓口があります。つらい気持ちが強いとき、自分や子どもを傷つけたいと考えてしまうときは、すぐに医療機関や相談窓口に連絡してください。
予防
生まれつきの弁の未熟さによる逆流そのものを完全に防ぐことは難しいですが、尿路感染症を繰り返さない工夫をすることで、腎臓への負担を減らせます。水分をとる、便秘を防ぐ、トイレを我慢しない、阴部を清潔に保つ、といった日々の習慣が大切です。
ワクチン
尿路感染症の原因になる細菌に対する一般的なワクチンはありません。ただし、かかりつけ医と相談のうえで、年齢に応じた定期接種や任意接種をきちんと受けておくことは、感染症全般から身を守る助けになります。
検診プログラム
出生前のエコー検査や、乳幼児健診・学校健診の尿検査で異常が見つかることがあります。きょうだいに膀胱尿管逆流の人がいる場合は、症状がなくてもエコー検査を相談できます。健診の尿検査は、変化に早く気づくための大切な機会です。
合併症
治療しない場合
- 腎盂腎炎(腎臓の感染症)を繰り返す。
- 腎臓に傷あと(瘢痕)が残り、働きが落ちる。
- 高血圧をきたすことがある。
- 将来、腎臓の働きが低下する(慢性腎臓病)リスクが高まる。
- 妊娠したときに、尿路感染症や高血圧のリスクが高まることがある。
長期的な見通し
多くのこどもは、成長とともに逆流が自然に改善します。改善しない場合でも、内視鏡下注入療法や手術といった選択肢があり、腎臓を守るための方法はいくつもあります。定期的な通院と検査を続けることで、変化に早く気づき、適切に対応できます。心配なことがあれば、その都度かかりつけの医師に相談しながら、あわてず一歩ずつ進めていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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