抗生物質を正しく知る ― 効くとき・効かないとき・上手な使い方
概要
抗生物質(抗菌薬)は、細菌が原因で起きる感染症を治すための薬です。細菌を殺したり、増えるのを止めたりする働きがあります。一方で、かぜやインフルエンザなどウイルスが原因の病気には効きません。また、使い方によっては「薬が効きにくい菌(耐性菌)」が増えてしまうことがあるため、本当に必要なときに、決められたとおりに使うことが大切です。
重要な事実
- 抗生物質は細菌には効きますが、ウイルス(かぜ、インフルエンザ、ウイルス性ののどの痛みなど)には効きません。
- 処方されたら、症状が良くなっても決められた日数を飲み切ることが大切です。自己判断でやめると、菌が残ったり、効きにくい菌が増えたりすることがあります。
- 下痢や発疹などの副作用が出ることがあります。気になる症状があれば、自己判断で中止せず、医師や薬剤師に相談してください。
抗生物質は、とてもよく使われる薬です。日本の医療機関でも多くの人に処方されていますが、その中には必要のないケースも含まれていると考えられており、国をあげて使い方を見直す取り組みが進んでいます。
子どもから高齢者まで、誰でも使う可能性があります。とくに子ども、高齢者、手術の後や治療で免疫(体を守る力)が下がっている人は細菌感染症にかかりやすく、抗生物質が必要になることがあります。
症状
- 息が苦しい、のどや顔がはれる、声が出しにくい、全身にじんましんが広がる(重いアレルギー反応のサイン)― すぐに119番
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い、ぐったりしている
- 唇や爪の色が青白い、脈が速くて弱い、冷汗がひどい
- ⚠水のような下痢が1日に何度も続き、水分がとれない、尿が出ない
- ⚠血の混じった便、激しい腹痛、38℃以上の高熱
- ⚠皮膚がむける、口の中や目にもただれが出る発疹
- ⚠症状がどんどん悪くなっている、または数日たっても良くならない
一般的な症状
- 抗生物質が必要と考えられるサイン:38℃以上の熱が続く、黄色や緑色の膿(うみ)が出る、耳やのどの奥がひどく痛む、排尿時に痛む、など
- 飲み始めた後に出る副作用:下痢、おなかがゆるい、吐き気、軽い発疹
- 口の中や腟(ちつ)のかゆみ、白いおりものなど(体を守っている常在菌のバランスが崩れて起こることがあります)
- 日光にあたった部分の皮膚が赤くなる(薬によって起こることがあります)
子供の症状
- 下痢やおむつかぶれが増えることがあります
- 食欲が落ちる、機嫌が悪くなる、ぐったりする
- 発疹が出る(薬のアレルギーのことがあるので、写真を撮って医師に見せると役立ちます)
- 吐き戻しが増える、飲みにくそうにする
高齢者の症状
- 下痢が続くと脱水(体の水分が足りなくなること)になりやすい
- だるさ、元気がない、ぼんやりするなど、普段と違う様子
- 腎臓(尿をつくる臓器)の働きが弱っていると、薬の影響が出やすいことがあります
- 食欲低下や転倒の増加など、一見関係なさそうな変化として現れることがあります
原因
主な原因
- 細菌による感染症(肺炎、尿路感染症、皮膚の感染、扁桃炎(へんとうえん)など)を治すために処方されます
- ウイルスによるかぜやインフルエンザには効かないため、症状だけでは必要かどうかの判断が難しいことがあります
- 不必要に使ったり、飲みきらずに中途半端に使ったりすると、薬が効きにくい菌(耐性菌)が増えていきます
- 耐性菌は人から人へ広がることがあり、医療機関や入院施設、海外旅行などが関係することがあります
リスク要因
- かぜなどのウイルス感染に抗生物質を使ってしまう
- 症状が良くなったからと自己判断で途中でやめてしまう
- 処方された薬を残して、あとで別のときに飲む
- 家族や知人からもらった薬を飲む
- 高齢である、乳幼児である、免疫が下がる治療を受けている
- 入院や手術、長期の医療施設での生活
- 海外での医療機関受診や渡航
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息苦しさ、のどの腫れ、全身のじんましんなど重いアレルギーを疑う症状がある(119番を)
- 血便、激しい腹痛、水分がとれないほどの下痢がある
- 高熱が続く、症状が急に悪くなる、意識がぼんやりする
- 皮膚がむけたり、口や目にただれが出たりする
定期受診を予約すべき場合:
- 抗生物質を飲み始めてから下痢や発疹が出た(自己判断でやめずに相談を)
- 処方された薬を飲み忘れた、飲みきれなかった
- 症状が良くならない、または再び熱が出てきた
- この薬を飲んでも大丈夫かどうか、アレルギーの心配がある
診断
医師は問診と診察から、症状が細菌によるものか、ウイルスによるものかを総合的に判断します。実際には見分けが難しいことも多く、必要に応じて検査を追加します。検査は「念のため全部」ではなく、治療方針が変わるかどうかを考えて選ばれます。
行われる可能性のある検査
- のどや鼻のめん棒を使った迅速検査(ウイルスかどうかを数分で調べるもの)
- 尿検査(尿路感染症が疑われるとき)
- 血液検査(炎症の程度や体の状態を見る)
- 培養検査(痰、尿、傷の膿などを調べて、原因の菌と効きやすい薬を探る)
- 胸部レントゲンやCTなどの画像検査(肺炎などが疑われるとき)
診察で予想されること
検査の結果が出るまでに数日かかることがあります。症状が軽い場合は、結果を待つあいだ様子を見ることもあります。診察のときに「いつから」「どんな症状が」「どのくらい続いているか」をメモして伝えると、判断がしやすくなります。
治療
治療の中心は「本当に必要かどうかを見極めること」と「必要な場合に正しく使い切ること」です。ウイルス感染が疑われる場合は、抗生物質ではなく、休養や水分補給、症状を和らげる対処が中心になります。
自宅でのセルフケア
- 処方された場合は、指示された回数と日数を守り、症状が良くなっても最後まで飲み切る
- 飲み忘れたときの対応は自己判断せず、薬剤師か医師に確認する
- 下痢があるときは、こまめに水分をとる(少量ずつ何回にも分けて)
- 残った薬はとっておかず、人にあげたりもらったりしない。不要な薬は薬局に相談して処分する
- 発疹など気になる症状が出たら、飲み続ける前に医療機関へ相談する
- 手洗い・うがい・十分な睡眠で、体の回復を助ける
医療治療
細菌による感染症と判断されたときに抗生物質が使われます。薬の種類や飲む期間は、感染している場所、考えられる菌の種類、年齢、腎臓や肝臓の働き、アレルギーの有無などをもとに医師が決めます。症状が良くなっても決められた期間を飲み切ることが、再発や耐性菌を防ぐうえで大切です。ウイルス感染には使われません。重症の場合や飲み薬が難しい場合は、入院して点滴で治療することもあります。医療者側も、必要最小限の期間・範囲で使うことを心がけています。
手術が検討される場合
抗生物質だけでは治まりにくい場合に、処置や手術が必要になることがあります。たとえば、体の中に膿(うみ)がたまった膿瘍(のうよう)は切開して膿を出す処置が必要なことがあり、胆のうや虫垂の炎症では手術を検討することがあります。
この病気と共に生きる
抗生物質を飲んでいるあいだは、体の変化に少し気を配ってみてください。下痢や発疹などがあれば早めに相談しましょう。仕事や学校は、熱やだるさなど全身の具合で判断します。感染力のある感染症の場合は、医師の指示に従って休んでください。
生活習慣のアドバイス
- 手洗いとうがいを習慣にする(石けんで20秒ほどが目安)
- せきやくしゃみが出るときはマスクやひじで口を覆う
- 睡眠と食事を整えて、体の抵抗力を保つ
- 薬は自己判断で量を増減したり、途中でやめたりしない
- 旅行先などで薬をもらったときは、飲み方の説明を必ず確認する
食事と運動
特別な食事制限はありませんが、下痢があるときは脂っこいものや刺激の強いものを控えめにして、おかゆやスープなど消化にやさしいものを少量ずつとると楽になります。水分と塩分をこまめに補いましょう。具合が良い範囲で軽く体を動かすのは構いませんが、発熱やだるさがあるときは無理をせず休んでください。
精神的健康と心の健康
「薬を出してもらえなかった」「途中でやめてしまった」と不安になることもあるかもしれません。抗生物質を出さない判断は、あなたの症状を軽く見ているのではなく、副作用や耐性菌のリスクを考えてのことです。心配なことは診察のときに質問して、納得してから決めましょう。気持ちの落ち込みや不安が続くときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医やお住まいの地域の保健相談窓口に相談してください。
予防
すべての感染症を防ぐことはできませんが、感染症にかかりにくくする工夫と、耐性菌を増やさない工夫の両方が大切です。手洗い、咳エチケット、ワクチン、そして抗生物質を必要以上に使わないことが柱になります。
ワクチン
ワクチンは、細菌やウイルスによる感染症にかかる人を減らし、結果として抗生物質が必要になる場面を減らします。インフルエンザ、肺炎球菌、百日咳(ひゃくにちぜき)などを含む定期接種や任意接種について、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
抗生物質そのものを調べるスクリーニング検査はありません。ただし、妊婦さんに対する一部の細菌検査のように、特定の場面では保菌を調べて予防的に治療する検査が行われます。健診などで気になる点があれば医療機関に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 細菌感染症を放っておくと、肺炎や敗血症(はいけつしょう:菌が血液の中に広がる状態)などに進むことがあります
- 抗生物質の不適切な使用は、薬が効きにくい耐性菌を増やし、いざというときに治療が難しくなることがあります
- 下痢が長引くと脱水や電解質(体のミネラル)の乱れが起きることがあります
- 重いアレルギー反応は、まれですが命に関わることがあります
- 口や腟の常在菌のバランスが崩れて、かゆみやおりものの変化が起きることがあります
長期的な見通し
ほとんどの細菌感染症は、適切に診断され、必要に応じて抗生物質を正しく使うことで改善します。副作用が出ても、早めに相談すれば対応できることがほとんどです。抗生物質を「とっておきの切り札」として大切に使うことは、あなた自身と、周りの人の未来の治療を守ることにつながります。
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最終更新: 2026年11月3日
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